【イベントレポート】

オブジェクト指向の生みの親であるAlan Kay博士、教育を語る

■URL
http://www.squeak.org/

 財団法人C&C振興財団は30日、東京・国際連合大学で、Alan Kay博士を招きシンポジウム「アラン・ケイ博士と語る『教育とデジタル・デバイド』」を開催した。

 博士は、パーソナルコンピュータや、オブジェクト指向プログラムの概念の生みの親として知られ、現在では子供向けのプログラム言語「Squeak」の開発を中心に教育分野に力を入れている。博士は、教育において創造性を持った科学的視座の獲得に重点を置いている。「Squeak」は、「Smalltalk」を祖先にもつ言語で、VMを使うことでほとんど全てのOS上で動作する。

 博士は、まず「コンピューターが紙や本と同じように扱えるようになるべき」と語り、印刷技術の歴史においてグーテンベルクの活版印刷がもたらした革命と同様なインパクトが、コンピュータの歴史に未だに起こっていないことを指摘した。さらに、「そのような未来を考えるためには、子供達を念頭に置かなければならない。我々は、どんな子供達を育てるのかということで、将来に手を貸しているのだ」と続けた。

 次に、博士は米国の学生の現状を指摘し、我々はサイエンス(科学)というものを十分に理解していないと述べた。その例として、ハーバード大学の卒業式場で、卒業生に「なぜ、夏と冬の違いがあるのか」という質問をし、23名中21名が何かしら間違った解答をしたということを挙げた。また、同様の質問をUCLAの学生にしたところ、やはり多くの学生が正解を答えることができなかったという。

 これは、米国の学習指導方法に問題があるという。米国の学校では、生徒は教科書の暗記をするように教えられている。これでは、理解したとはいえない。先述の大学生達は、すでに忘れてしまっているのだと指摘する。そこで博士は、「教育の目標とは、子供達が自分達の住んでいる世界のことを理解するための手助けをすることだ」と定義した。

 博士は続けて、科学以上に面白いものはないと語った。「我々は、ある日突然、とんでもないインスピレーションを得ることがある。発明とか発見というものは、かなり変わったものだ。それには、創造性が必要だ。たとえ、ジョークであっても、それは創造性の一つである」という。このような創造性を教育現場に取り入れていかなければならないのだ。

 以上の点を踏まえて目指すべき教育を考えると、博士は、科学と数学と芸術が重要だと述べる。しかも、これは独立に学ぶべきではなく、融合した形で提供されなくてはならない。現状では、数学や科学の各教科は、それぞれがもつある閾値を超えて芸術と融合するまでに達していない。芸術とは、人間が何かを作り出すことである。言葉や、文化や、人間そのものを創造する。そして、自分の気分が重くならない程度に自己批判をすることにも通じる。それゆえ、芸術と数学や科学は密接に関わってくることが重要だとコメントした。

 例えば、小学校3年生に割り算の概念を教えても仕方がない。教師は、割り算という数学が、実際の生活において使えるという状況を作り出すことが重要だという。そのような状況で、生徒が試行錯誤を繰り返すことによって、理解を得ることができる。しかし、米国の大学では未だに時代遅れの微分積分を暗記させている。博士は、「試行錯誤によって全ての生徒が理解を得られるとは限らないが、5%でも理解することができれば、テストの点数が倍になることよりも重要だ」と自説を展開した。

インターネット経由でデスクトップを共有して学習

 博士は、「Squeak」を使って児童達が作ったプログラムを紹介しながら、子供達が与えられた命題に対して、試行錯誤したり、時には友達とコラボレーションしたりしながら問題を解決していくことを指摘した。この思考過程こそが、理解につながるものだという。「Squeak」は、インターネットを通じてデスクトップを共有することができる。また、例え教師が専門家でなかったとしても、子供達がインターネットを使って専門家を見つけてくることができればいいともいう。博士の描く児童は、大人たちさえも、教育の資源として使える子供なのだ。

 最後に、日本について簡単な感想をとして、「日本人個人個人は創造性がある。しかし、システムがそうじゃない。日本人の創造性は、ユーモアの精神があることが証明している。しかし、日本で見る創造性は、アンダーグラウンドなものだ。それは、日本を動かしている人達が高齢な人達だからだ」と語った。

(2001/10/31)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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