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【特集】

多様化する無線アクセスの行方
<固定網編>

 本来の“LAN”ではない用途で2.4GHz帯の無線LANシステムを活用する動きが拡大している。インターネット常時接続のアクセス回線(ラストワンマイル)として利用しようというもので、スピードネットやWIS-netなどがその代表だ。

 さらに最近では、ホテルや空港のロビー、ファーストフードなどの“ホットスポット”で無線アクセス環境を提供するサービスも続々と登場しており、“無線LAN”の利用形帯の多様化が進んでいる。

 今回はその中から、固定アクセス網としてのサービスの現状を整理しながら、無線LANアクセスの今後の方向性を考えてみたい。なお、この記事では、固定網としての無線アクセスサービスを便宜上、“広域展開型”“地域密着型”の2つに分類している。まずは、それぞれのサービスについて概況をまとめてみよう。

●“広域展開型”の無線アクセスプロバイダー

 冒頭にも挙げたスピードネットや、ワイヤレスインターネットサービスの「WIS-net」などがこれにあたる。無線アクセスとしては比較的広域にわたりサービスを展開しているプロバイダーである。

 スピードネットは、東京電力グループということで電柱沿いに敷設されている光ファイバー網を利用できるのが強みである。これを中継回線としており、提供エリアは関東の1都3県に及ぶ(予定含む)。関西電力グループのケイ・オプティコム(サービス名「eoメガエア」)や、沖縄電力グループのファーストライディングテクノロジー(サービス名「FirstBB」)も同様のサービスを発表しているほか、中国電力や九州電力も無線アクセスの実験に取り組んでいる。いずれも自前の光ファイバー網を持つアドバンテージを生かして、広域展開型のサービスが展開できるわけだ。

 一方、ワイヤレスインターネットは、無線機器メーカーが出資するベンチャーだ。最近ではNTT-MEやISPとの提携により、サービスエリアを東京都から神奈川県、愛知県、福岡県へと拡大中である。

■スピードネット
http://www.speednet.co.jp/

■ケイ・オプティコム
http://www.k-opti.com/

■FirstBB
http://www.frt.ne.jp/

■WIS-net
http://www.wis.ne.jp/

 なお、上記各社のサービスとはやや性格が異なるが、三井不動産の出資するビットキャットが提供している「bitcat」も、広域展開型のサービスの一つと言えるだろう。もともとは集合住宅内のブロードバンド化ソリューションとして有線/無線アクセス環境を入居世帯に提供するものだったが、現在では周辺住宅に対してもサービスを提供するようになった。大京の出資するファミリーネット・ジャパンの「CYBERHOME」や、NTT-MEの「WAKWAKピアル」も同様だ。導入するマンションが増えるのにともない、そこを基地局とした無線アクセスのサービスエリアが徐々に拡大している。

■bitcat
http://www.bitcat.com/

■CYBERHOME
http://www.cyberhome.ne.jp/

■WAKWAKピアル
http://www.pial.jp/index.html

■ワイヤレスインターネット
http://www.bban.co.jp/

●“地域密着型”の無線アクセスプロバイダー

 需要の多い大都市周辺から展開している広域展開型に対し、地域密着型は地方に多く見られるタイプである。運営しているのは、主に地域ISPや地元企業など(IT関連とは限らないようだ)で、中には仲間内で運営しているような草の根プロバイダーやNPOなどもある。かならずしも無線アクセス専門のプロバイダーというわけではなく、自社ビルの屋上に基地局を設置し、その範囲だけで小じんまりとサービスを提供しているところも多い。いずれにせよ、無線基地局は1カ所~数カ所程度であり、その地域に根ざす企業/団体がその地域を対象にサービスを提供するかたちとなる。したがって一つの市や町など、比較的狭いエリアに限定されるのが特徴だ。

 こういった性格のため、全国にどれだけの地域密着型の無線アクセスプロバイダーがあるのか把握するのは難しい。インターネット上で検索しただけでも、30社以上が現在サービスを提供中または試験中ということを確認できた。その中から一部を以下にリストアップした。

北ねっとクラブ北海道北見市/網走市/端野町
PHOENIX CLUB Internet Service北海道札幌市
アイキュー北海道札幌市ほか
WebPort北海道函館市
tst-net.com青森県青森市
R-NAC Internet Service岩手県盛岡市
アルターネット山梨県都留市
無線インターネット山梨山梨県甲府市ほか
静鉄情報センター静岡県静岡市
リフレインターネットサービス和歌山県新宮市
WCSネット和歌山県和歌山市
しんとみネット宮崎県新富町

 注目されるプロバイダーについて少し説明しておこう。まずは北海道北見市の地域ISP「北ねっとクラブ」だ。同社は“アクセスポイント会員”という制度を用意し、基地局スペースと電源を提供してくれる協力者を募集している。一定数以上の加入者が見込まれるエリアであるのが条件だが、自分の町に無線アクセスを呼びたい人にとっても、エリアを拡大しようとするプロバイダー側にと有効な手段と言える。すでに2つの町においてこの制度による基地局が準備に入っているという。このように、基地局設置のための“スポンサー”を募集するという手法は、細かい条件等は異なるがアイキューなど他の事業者でも行なわれている。

 函館市の「WebPort」では、「無線接続の会」というものを発足させ、“会員制”による無線アクセス環境の整備に取り組んでいる。利用したい人が会費としてコストを負担し、この資金によって無線アクセスインフラが構築・運営される。同社はインターネット接続の商用サービスを営んでいる地域ISPだが、この取り組みについては、利益を追求するのとは別のスタンスで行なっているという点が興味深い。

●無線アクセスは地方ユーザーにブロードバンドをもたらすのか?

 以上、固定網としての無線アクセスサービスの2つのタイプについて説明したが、今後より注目されるのは地域密着型ではないだろうか?

 東京などの大都市圏では、無線アクセスといってもブロードバンドの一つの選択肢に過ぎない。むしろ、低価格化とエリア拡大が急激に進んでいるADSLと比較すると、現段階ではスループットの面でやや見劣りがしてしまう。無線アクセスの多くは1Mbps~3Mbpsで、ごく一部に11Mbps(スループットは最大3Mbps程度)というところが出ている(もしくは提供予定)に過ぎない。アンテナ取付工事などにかかる初期コストも、ADSLに比べてまだまだ高い。

 そういったハンデもあり、大御所のスピードネットですら無線アクセスのサービスでは「ADSLが提供されにくいエリア」から攻めていくことを認める発言をしている。一方でWIS-netは、ADSLに真っ正面から対抗するために月額1,980円という低料金(機器レンタル料が別途月額770円)を打ち出したと言える。

 こういった都市部の状況に対して、地方ではまだまだ無線アクセスのアドバンテージが大きいはずだ。この見方は、すでに本誌記事でもお伝えしたように北海道総合通信局も報告書としてまとめている。

 また、地方における無線アクセスの普及に向けて期待できる材料として、総務省は10月から無線アクセス用の新たな周波数利用に向けて検討を開始した。検討にあたる「5GHz帯無線アクセスシステム委員会」の主査を務める安藤真東京工業大学教授は、委員会の席上「地方への展開を考えると、(検討を)タイムリーにやるべき」と述べている。地方で無線アクセスを実現するにあたっての制度整備がさらに一歩進みそうな気配となっている。

■「北海道における高速アクセス網の整備に関する研究会」報告書まとまる
http://www.hokkaido-bt.go.jp/C/C13/c130424.htm

■無線アクセスシステムの動向
http://www.hokkaido-bt.go.jp/C/C13/c130820a.htm

■高速インターネット接続用無線アクセスシステムの導入に向けて
http://www.soumu.go.jp/s-news/2001/011022_2.html

 しかし、地方での展開を考えた際に、いくら“技術的に”もしくは“効率の面で”有線より無線が優れていると言うことができても、“ビジネスとして”難しいのは明らかだろう。実際のところ、東北地方のある無線アクセスプロバイダーによると、バックーボーンの調達コストを考えると、今のところ郡部まで展開するのは不可能だという。比較的安価に調達できるバックボーンが県庁所在地の一部に止まっているため、結局は都市部と同様、“ブロードバンドの一つの選択肢”として無線アクセスサービスを提供しているのが現状なのである。

 とはいえ、厳しい状況の中で実際に各地でたくさんの地域密着型無線アクセスプロバイダーが登場しているのは事実だ。ここではごく一部しか紹介しなかったが、その数は広域展開型よりはるかに多い。地方で無線アクセスを導入するあたって、ケーススタディとなる事例には事欠かないのだ。今回は固定網としての無線アクセスのサービス状況を簡単にまとめたわけが、INTERNET Watchでは今後、地域密着型の無線アクセスプロバイダーについてより詳しくとり上げる連載レポートを開始する予定だ。

(2001/11/19)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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