【イベントレポート】

「2005年にはIPv6への全面移行を完了する」実行委員長 山本氏

IPv6国際会議「Global IPv6 Summit in Japan」開催

■URL
http://internetweek.jp/(Internet Week 2001)
http://www.jp.ipv6forum.com/top/top-j.html(Global IPv6 Summit in Japan)

 社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC)が主催する、イベント「Internet Week2001」がパシフィコ横浜にて3日開幕した。Internet Weekは、研究・開発、構築・運用やサービス提供者などインターネットに関わる人々が一堂に会して、特定テーマに関する議論や、セミナー、チュートリアルなどが催されるイベントだ。1997年に第1回が開催されて以来、今回で5回目となる。会期は7日までの5日間。

 3日にはInternet Weekの一環として「Global IPv6 Summit in Japan」(以下IPv6 Summit)が開催された。IPv6 SummitはIPv6に関する国際会議で、日本での開催は今年で2回目。会期は4日までの2日間となる。今回はこのIPv6 Summitについてレポートをお送りする。

 

●2005年にはIPv6への全面移行を完了する


 最初にIPv6 Summit実行委員長である株式会社インターネットイニシアティブの山本和彦氏が挨拶を行ない「いろいろな説があるが、日本のIPv4アドレスが枯れるであろう『2005年』までにはIPv6への全面移行を完了する」と明確に目標を定めた。その上で「アドレスが不足していたり、P2P通信が保たれなくなった今、IPv6がいらないなんて議論はもうしないで欲しい」とIPv6の推進を強調した。また、前回のIPv6 Summitからの1年間を振り返り、「この1年間は、IPv6ビジネスが立ち上がった年となった」と具体的な成果を挙げた。

 

 

 

●IPv6がもたらすP2P通信により、新しいビジネスが立ち上がる


 次に米国MicrosoftでのIPv6推進者であるJawad Khaki氏による基調講演が行なわれた。Jawad Khaki氏は、「5億人とも言われている世界中のインターネットユーザーは何かしらの形でNATを経由している」と現状を報告して上で「NATは少しの救済策にはなるが、大きな問題を発生させている」として、さらに「NATにより、P2Pの通信が阻害され、新しいアプリケーションを開発しにくいため、新しいビジネスが生まれにくくなっている」と警告した。

 また、「IPv6はすばらしい未来をもたらす技術」であるにも関わらず発展しない理由としてネットワーク業者は」アプリケーションがあればサービスを提供する」と言う一方で、アプリケーションベンダーは「ネットワークサービスの提供が進めば開発する」とお互いが言っているため「卵が先か、鶏が先か」という状態に陥っていることが挙げられるという。Jawad Khaki氏によれば同じような現象は過去にもあったという。MS-DOS時代のアプリケーションだ。開発者は「本来作りたいアプリケーションではなくメモリーを節約することばかりに気を取られていた。限られたIPv4アドレスを節約することばかりに気を取られている現状とよく似ている」という。

 また「Y2K対策時」は「明確なタイムリミットが決まっていたため、開発者などは必死になっていたため作業が進んが、IPv6にはこのようなリミットが見えないため、重要性が理解されにくい」と訴えた。

 Microsoftとしてはソフトウェアからのアプローチを試みているという。Windows 2000へのTechnical Preview提供やWindows XPへの標準搭載がそれだ。最後に「IPv6ネットワークを構築すれば必ずユーザーはやってくる」とISPに対してネットワーク基盤を整えて欲しいとメッセージを送った。

 

●個人ユーザー向けIPv6接続サービスを来春開始 ~NTTコム


NTTコミュニケーションズ
山崎俊之氏

 続いて「日本のIPv6に関するビジネス・レポート(1)」が行なわれた。このレポートでは、ISPとソフトウェアベンダーの双方からの現状の報告がなされた。

 始めにNTTコミュニケーションズ(以下NTTコム)の山崎俊之氏によるレポートが行なわれた。山崎氏はNTTコムにおけるIPv6サービスの今後について説明した。現在、モスバーガーと共同で進めているIEEE802.11bによるホットスポット接続実験において、神田店にてIPv6接続を提供することを発表。ADSLをアクセスラインとしたIPv6接続の提供を来年春から開始する計画もあると述べた。その際、一般ユーザーを対象とするため、IPv6対応機器をつなげるだけで使えるように「自動設定」機能を追加させることも併せて発表された。

 また、KDDIは個人向けにダイアルアップを用いたIPv6接続サービスを2002年度の早期に提供することを発表した。

 次にソフトウェアベンダーの動向として、オムニサイソフトウエアの坂下秀氏から報告が行なわれた。オムニサイソフトウエアは、主にISPなどの大規模なネットワークを対象にメールサーバーや大量のメール配信システム、ネットワーク監視のシステムを提供している。IPv6対応のアプリケーションについて坂下氏は「Web、telnet、ftpについては製品が出荷されている」としたが「メールなど、ほかのアプリケーションについては、やっと規格が整った」と説明した。また、同社の製品については「積極的に開発を進めており、各ISPが本格的にIPv6サービスを始めたときに備えている」と述べた。

 

●「とにかくIPアドレスがほしい」 ~中国


 休憩を挟んで、「世界各国のIPv6に関するレポート」として5地域の代表から報告が行なわれた。

6WINDの
Patrick Cocquet氏

 始めに、ソフトウェアベンダー6WINDのPatrick Cocquet氏からヨーロッパの現状として、「各国の政府からの後押しなどはないが、EUとして一体となって研究機関などを設立して積極的に進めている」と報告した。しかし、日本のように具体的な移行ストーリーが描かれていないのが現状だ。

 米国の現状として、Wasabi SystemsのPerry Metzger氏からから報告された。アメリカに限らず、MacOS、Windows、UNIXへのIPv6スタックの実装は済んでおり、CiscoやNortelなどのルーターメーカーも対応製品を出荷しているため、「ハードとソフトウェアの対応はほぼ完了している」と報告した。また、IPv6利用ユーザー層について「サポートなしで技術的なことならすべて解決できる、『ハッカー』やコンピューターに詳しい個人がトンネリング型を利用している」と個人での利用が進んでいると述べた。しかし、「ISP側の接続実験は実施されているものの、具体的な計画は進んでいない」とISPは積極的でないことも報告した。だが、個人利用におけるトンネリング型接続は特に大きな問題も起きておらず、「長期的にはトンネリング接続が有効だろう。導入は長期的にゆっくりと進む」と米国はさほどIPv6への完全移行は急いでいない様子が伺える。

 興味深いのは予想以上のインターネットユーザーが増大している中国だ。2005年におけるインターネットユーザーは携帯電話からのアクセスも合わせて2億人に達すると予測される。中国にはIPv4アドレスが1,000万個程度しか割り当てられておらず、根本的なIPアドレス不足が心配される。ほかの地域や国が考えるIPv6から受ける恩恵として、IPsecやP2Pが挙げられるのだが、中国がIPv6の導入を急ぐ理由は「広大なアドレス空間」これだけにつきるようだ。

 

●既存の枠にとらわれない「情報家電」を開発してほしい


 1日目最後のプログラムとして「IPv6によるユーザーアプリケーションとサービス」として各社から報告があった。

NTTコミュニケーションズ
貞田洋明氏

 NTTコミュニケーションズの貞田洋明氏は国家プロジェクトとして進めている「情報家電インターネット」の実証実験について報告を行なった。IPv6普及に対して、「技術はある程度確立した」と言う。しかし普及を阻害する要因として「技術とマーケットの問題」が挙げられ「技術にあまり詳しくない人にとってインターネットとは、Webとメールをパソコンで使うもの」という先入観が強いという。そこで、「情報家電インターネット」の話をすると「インターネット冷蔵庫」といったような既存の家電を思い浮かべてしまうという。例えば「扉のノブに開閉センサーが付いて、IPで監視できればこれは『情報家電インターネット』だ」と貞田氏が考える“情報家電インターネット”を説明。「従来の家電の枠を越えたもの」を開発してほしいと訴えた。

 また、12月15日、16日に同じくパシフィコ横浜で行われるイベント「Net.Liferium 2001」にて、これらの情報家電インターネットを展示することを発表。技術者やサービス提供者など仕事でインターネットに関わっている人を対象としたイベントは多く開催されているが、Net.Liferiumは日常生活でインターネットを使っている人が対象となり、技術的なことに詳しくない人たちもターゲットだ。そのため「技術的なことを知らない人が『情報家電インターネット』を見たときにどういった反応を示すのかを観察してほしい」とアプリケーション開発者に提案した。

 次に、横河電機の岡部宣夫氏より「低コストネットワーク機器向けIPv6最小要求仕様」について報告が行なわれた。岡部氏は「情報家電にインターネット接続機能を組み込むためには、ネットワークモジュールをなるべく低いコストに押さえる必要がある」と考え開発を始めたという。開発状況として、「プロトタイプとしてIPv6対応のモジュールを作ったもののプログラムがIPv4の4倍程度となり、現在はどこを削ってスリム化させるか検討中」だという。「機能を削らなければならないが、将来性を失ってはならない」「情報家電にIPsecは必要なのか」などの議論が日々交わされているという。

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(2001/12/4)

[Reported by adachi@impress.co.jp]


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