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【レポート】

父島の“日本一早い初日の出ライブ”計画のその後<その2>
回線もない山頂からの中継を可能にした無線LAN


 ウェブカメラが設置される傘山は、標高271メートル。島内の最高峰ではないものの、周囲が約52キロメートルという小さな父島では、ここに登れば、朝日が昇る東側の水平線も、夕日が沈む西側の海も一望できる。ただし、電話回線はもちろん、電源コンセントもないため、今回のシステム構成の特徴となっている無線ルーターと風力発電機が威力を発揮するわけだ。

機材一式を詰めたリュックを背負って傘山山頂に向かう三澤さん(写真奧)と小谷野雪美さん(写真手前)。小谷野さんはカフェをたまり場としている常連客の一人だが、ちょうど正月休みだっということで手伝いにかり出された。ライブ当日は、山頂側の見張り番を任される予定 山頂にあるこの鉄塔は、ライブ中継のために建てられたものではなく、民間企業の既存施設。今回、その一画を借りている。写真上方に、すでに取り付け済みの風力発電機「AIR405」が見える。塩害にも強い製品で、潮風の吹き抜けるこのような場所での利用も可能だという

 12月31日の夕方、山頂側の機器設置テストに同行すると、すでに風力発電機だけは取り付け済みとなっており、三澤さんはウェブカメラや無線ルーター、アンテナなどの設置作業にとりかかった。まずは発電機から出ている電源ケーブルを携帯型バッテリーに接続、さらにそこから先は分配器を経由してウェブカメラと無線ルーターにつながれた。特に難しいことはないように見えた作業だが、三澤さんによると、実はこの分配器が今回のライブ中継のために開発された“秘密兵器”なのだという。

 バッテリーから供給される電源は直流12Vなのに対して、ウェブカメラや無線ルーターは、家庭用のコンセントである交流100Vから電源を得る仕様となっている。しかし、出力の小さな風力発電を利用するような場合は、直流から交流へ変換していては大きなロスが発生する。一方、ウェブカメラや無線ルーターは、仕様上では電源が交流100Vとなっているが、最終的には電源アダプターを介して直流電源で稼働する製品だ。それならば、直流のまま供給すればいいということになる。

 そこで、「12Vのウェブカメラと5Vの無線ルーターに変則的に2分配させるという、通常では販売していない製品」が必要になったわけだが、このような問題が判明したのは12月も下旬のこと。急きょ、その方面に詳しい島内の協力者に自作してもうらうことになった。

 とはいえ、自作しようにも島内にパーツショップがあるわけではない。なんと、「父島のゴミ焼却施設から、それに見合った部品を探し出して作ってしまった」という。「近くに秋葉原があればすぐに調達できるかもしれませんが、この何もない父島で作り上げることができるという奇跡に私は感激しました」と三澤さんは振り返る。

“秘密兵器”を制作したのは、父島にある宇宙開発事業団小笠原追跡所の施設管理会社で電気主任をしている吉山さん。廃棄物のリサイクルで作ってしまうことに驚くが、「もともと宇宙開発の技術者で、無線機すら自分で作る人」というから、このくらいは朝飯前か? 見ての通り、分配器にはヒートシンクまで付いている。三澤さん曰く、「吉山さんがいなければ、機材はすべて揃っていても、山の中で電源がなく何もできないというマヌケな状態になるところだった」。コネクター部分がゴミ消却施設で調達したもの

 三澤さんは、接続テストはもちろんのこと、初日の出の映像に合わせたカメラの画質調整を行なうため、これまで何度か登頂しているだけあって作業は手慣れたものだ。山頂での機器設置のほうは、ものの数分で終了した。

 次は、無線区間が接続されているかどうかを確認するが、ここでトラブルが発生。三澤さんが持参したノートパソコンを無線ルーターに接続して確認したところ、pingが通らないという。アンテナの方向がずれているらしく、無線ルーターの「LINK」ランプも点灯していない。

 山頂側のアンテナを調整しても一向にランプが点灯しないところを見ると、どうやら問題はカフェ側のアンテナにあるようだ。それを修正するとなれば、誰かに向こうで作業してもらうしかないわけだが、カフェのスタッフは三澤さん一人。前回も述べたように、今は誰も残っていない。もう一度カフェに戻るのかと思ったところ、三澤さんは携帯電話を取り出し、会社にいる香川社長に連絡。カフェに急行してもらい、携帯電話で話しながら、アンテナの調整を済ませてしまった。

 通信回線や電源の確保にさんざん苦労する山の上で、いとも簡単に通じてしまう携帯電話は偉大である。それはさておき、やや手間取ったものの、設置作業は30分ほどで終了した。

ノートパソコンを操作しながら「無線ルーターもウェブカメラも、すべてウェブブラウザー上から設定できるのが便利」と指摘するが、岩山の上で設定作業を行なう光景はシチュエーション的にちょっと異様 機材一式を設置したところ。ウェブカメラは、コンパクトカメラ用の三脚を使って固定されている。その奧に無線ルーター、手前にはバッテリーと分配器が見える

 ウェブカメラのレンズがとらえる東の水平線を見ると、かなり雲がかかっており、天気予報でも1月1日は「曇り」とのこと。しかも、「冬の間は相対的に水温が高くなるため、水平線付近にもやがかかっているのが普通。去年は台風並みの荒れようだった。そもそも初日の出を見るにはあまり向いていないかもしれない(笑)」と見も蓋もないことを言う。

 さらに、もし雨天ともなれば、屋内用の機材では山頂からの中継には対応できず、カフェ屋内から中継する予定だという。カフェのある大村地区は島の北西部に位置しており、そこからの日の出は山越えに眺めることになる。その分、太陽が見える時刻も7時から8時頃にずれこんでしまうことになり、これでは“日本一早い”が実現できない。三澤さんらの取り組みが成功するかどうかは、あとは天候しだいという状況になってきた。(以下、その3へ)

傘山山頂から、カフェのある大村地区を臨む。写真中央から右よりの、建物が密集しているあたりにカフェがある。なお、湾内に見える2隻の船は、お正月のパックツアー向けに就航しているフェリー。大型船のため、定期船「おがさわら丸」が発着する父島の岸壁には接岸できず、沖に停泊している 初日の出が昇るであろう東の水平線を眺める。機器設置テストに同行した12月31日の夕方は、ご覧の通り雲が立ちこめていた。こんな自然の中で無線LANを構築することが理屈上は可能だとわかっているが、実際にその場に立つと驚きを感じないではいられない

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(2002/1/21)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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