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【特集】

ブロードバンドユーザーが住みたくなる地方自治体
[関東編]

 自治体が行なうIT推進策といえば、行政機関や公共施設などを結ぶ、いわゆる“自治体イントラネット”のような、閉じられたものという印象が強い。総務省のウェブサイトを見ると、全国各地で“地域インターネット導入促進事業”なるものに国から補助金が出されているようだが、果たしてそれが“インターネット”なのか、そして本当に住民のもとまで届くサービスになるのかというと疑問だ。

 ところがここにきて、そういった段階から一歩先を行く施策に取り組む自治体が、少ないながらも見られるようになった。行政内部のIT化に止まらず、住民レベルのブロードバンド環境の構築や普及を推進しようというものである。今回は、その中から東京都荒川区と群馬県太田市の事例を紹介する。

●FTTH加入時の工事費用が無料になる東京都荒川区
■荒川区ホームページ
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/
■光ファイバーによるインターネット接続補助制度
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/topic/ftth/1.htm

荒川区はいわゆる東京の“下町”エリア。usenが最初にサービスを投入した世田谷区や渋谷区に比べて、(失礼ながら)FTTHのイメージとはほど遠い。しかし、区役所の正面玄関を入るとそこには・・・(以下次の写真)
 東京都荒川区では2001年11月、平成13年度の補正予算で「荒川区ブロードバンドネットワークの構築」として、住民のFTTH加入工事費用を区が負担するという制度を開始した。個人世帯で最高3万円、事業所で最高5万円の補助金が支給されるというもので、実質的に工事費用は無料となる。

 個人のインターネット導入費用を自治体が直接補助するというパターンも珍しいが、ブロードバンドに限定しなければ、インターネットの新規加入費用を補助するという自治体は実はこれまでにも存在した。荒川区が注目されるのは、ADSL全盛のこの時期に一足飛びにFTTHを対象にした点であり、同時にそこが疑問点でもあった。なぜなら、荒川区は東京都内ではブロードバンドのサービス開始が比較的“後回し”にされている地域である。そもそもFTTHサービスが提供されていなければ、意味のない制度になってしまうのだ。

 なぜ、FTTHなのかという点はやはり区議会でも指摘された模様で、2001年10月、補正予算案の審議が行なわれた際には、「時期尚早だ」「ADSLのほうが普及している」「これからは無線になるのではないか」といった意見が噴出したという。その結果、「まずは効果を調査する必要がある」として、予算は当初予定していた半分以下の3,630万円に縮小。試行という位置づけで3月末まで実施し、その実績を見たうえで、来年度の本格導入を検討することになった。

 しかしこれだけでも個人世帯860件(2,580万円)、事業所210件(1,050万円)の補助金に相当する額である。現在の各社のFTTHサービス提供実績から見れば、1つのエリアとしては(実際に申し込みがあればの話だが)かなり大きな数字である。

 申請の受付開始から2カ月あまり経った1月22日現在で、申請件数は115件(個人が93件、事業所が22件)に達した。荒川区地域振興部区民課の山形実・事業調整主査は、「効果はおおいにあると見ている」と話す。

●ブロードバンド後進地帯が一気にFTTH激戦区へ

区役所の1階エレベーターホールには、usenのデモンストレーションコーナーが設置されていた。実際に光ファイバー回線が区役所内まで引かれ、高画質動画のストリーム再生などが体験できる。負けていられないNTT東日本も、光アクセス回線と高速無線LANを組み合わせた「Biportable」のデモンストレーション機器を持ち込む予定だという
 115件という申請数、すなわち荒川区におけるFTTHの加入申込者数それ自体も比較的大きい数字と言えるが、「効果がある」と言っているのは、単純に申請件数のことではない。

 そもそも荒川区は、各社のエリア展開では“後回し”になっていた地域である。しかし現実に申請者が現われているということは、FTTHサービスが提供されるようになったということである。2001年11月、補助金制度開始とほぼ同時にNTT東日本と有線ブロードネットワークス(usen)のFTTHサービスが荒川区へ進出し、受付を開始したのだ。

 「通信事業者にとっては優先度の高いところからサービスを開始するため、荒川区は最後になってしまい、近隣よりもブロードバンド環境の普及が遅れてしまう。補助金制度により加入者が増えれば、通信事業者にとって参入しやすいエリアになるのではないか」(山形主査)という荒川区の目論見がまんまと功を奏した。

 事実、11月にFTTHサービスを投入したusenでは、「荒川区は当初、サービス提供が“未定”のエリアだったが、補助制度ができたために前倒しで展開することになった」(広報室)としている。

 ADSLの初期費用がほとんど無料に近くなる一方で、FTTHは回線を一から敷設するということでどうしても初期費用が高くなってしまう。個人向けで3万円、事業所向けで5万円もする工事費は「営業するうえでもネックとなっている」という。

 しかし荒川区ではこれが全額補助となるのだから、初期費用のハンデは解消される。「せっかくFTTH加入を後押しするような制度があるのだから、当社としてもこの制度に乗ったほうがよい」と判断したのはごく自然の流れだ。荒川区は現在、usenの他のエリアと比較しても問い合わせや加入申し込みの多いエリアに成長しているという。

 しかも、FTTHサービス加入加速の流れは、NTT東日本やusenのコンシューマー向けサービスだけではなく、集合住宅向けソリューションにも及んでいる(荒川区の補助金制度は、マンション内のMDFまで光ファイバーで接続され、建物内回線が10Mbps以上であれば対象となる)。

 既存の集合住宅では、光ファイバーなど工事を必要とする高速回線を導入するにあたって管理組合の承認が必要となるため、ごく一部の世帯しか興味を示さないようなFTTHサービスでは、なかなか導入に漕ぎ着けるのが難しかった。しかも都市部では集合住宅の比率が高いため、これがFTTH普及へのネックとなっていた。

 ところが荒川区では、補助金制度の開始とともに長谷工コーポレーションや三井不動産グループのビットキャット、リクルートコスモスなどが集合住宅向けの光ファイバー接続サービスが進出してきた。その結果、「区内のマンションに対する営業が活発になり、管理組合の理事会の案件に挙がることが多くなってきている」(山形主査)という。 しかも、「区分所有法」によりこれまでは入居者の4分の3以上の賛成が必要だった共用部分の工事について、「大きな形状変更をともなわないブロードバンド回線の導入は、過半数の賛成で可能」という趣旨の見解(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji37.pdf)を法務省が示したこともあり、「HomePNAなどを使うソリューションは格段に導入しやすくなる。世帯が管理組合に提案しやすい環境になった」(山形主査)。

 現時点で100件あまりに止まっている申請も、「申請の締切に向けて、今後続々と管理組合の理事会や総会で議題になる」と見ており、3月には一気に増える可能性が大きいという。実際、長谷工コーポレーションでは、自社で管理する区内の7棟について導入の方針で進めており、その他の6棟についても調査に入っているという。集合住宅向けソリューションでは1棟あたり最低30~50世帯が最低ラインとなるため、もしこれらのマンションで導入に踏み切ることになれば、それだけでも数百世帯規模に達する。

●行政がPRすることで底上げされた区民のIT意識

デモコーナーには、「荒川区の皆様“だけ”が受けられるサービスです」とアピールするusenの特製リーフレットも用意されていた(右下)。このほか、マンション向けサービス各社もパンフレットを設置。荒川区の制作した申請書類一式や初心者向けの説明資料とともに配布されている
 FTTH事業者の進出が促進されたということが目に見える大きな効果であると同時に補助金制度の第一の目的であったとすれば、もう一つ、徐々に効果を発揮しはじめているのが区民のIT意識の向上である。

 荒川区では今回の補助金制度の概要を2001年10月27日号の「あらかわ区報」で紹介しているが、さらに詳しい説明資料も用意し、区民への周知を図っている。申請に関わるFAQをまとめた資料を申請書類一式に添付しているほか、インターネットについての初歩的な知識を教えるチラシも作成した。例えば、比較的高齢の人が多い町会長らに説明するには、「インターネットって何?」「FTTHって何?」というレベルから説明する必要があり、これからパソコンを買う人からの問い合わせも多いためである。

 その結果、これまでインターネットもよくわからなかったような町会長が、実際に自宅でFTTHを導入し、さらに周囲に宣伝してくれる例も出てきているという。区民のIT意識の底上げにもつながっているわけだ。

 一方、事業所向けは、今後力を入れていかなければならない分野である。特に個人事業主による小さな企業が多い荒川区では、「企業にとって何に使えるのか、見本を見せないとFTTHのメリットがわかりにくい」(山形主査)。

 例えば、印刷業の多い荒川区では印刷データのやりとりをブロードバンドで効率化が図れるほか、CADデータの交換や複数事業所によるコラボレーション作業にも効果を発揮するとしている。商工振興課が実施する企業のIT化実態調査とともに、補助金制度についてPRしていく予定だという。

●行政が取り組むゆえに必要な“大儀名分”

お話をうかがった、荒川区地域振興部区民課の山形実・事業調整主査。撮影中も、デモコーナーにはひっきりなしに来庁者が関心を示しており、FTTHの特徴を熱心に説明していた
 冒頭でも述べたように、自治体が行なうIT推進策といえば、行政内部レベルのネットワーク化に止まっている例が多いなか、荒川区が先進的なのは、本当に住民につながる、ラストワンマイル部分のブロードバンド化を後押ししている点である。

 その反面、行政が取り組むゆえの課題も残されている。個人に対する直接的な補助ということで、この制度に不公平感を感じる人もあるだろう。ブロードバンド接続のようなサービスは、その必要性を感じた人から先に導入していけばいいと思われるかもしれないが、行政が行なう以上、“わかる人だけ”が恩恵を授かるような施策は実現しにくい。実際、「個人に対する補助は予算化しにくい」(山形主査)としており、やはり区の予算を使うからには、FTTHを通じて区が住民に何を提供するのかという“大儀名分”が必要だ。

 荒川区では、「いつでも、どこでも、だれでも、必要なサービスを受けられるまち」「いつでも、どこでも、だれでも、必要な情報を受発信できるまち」をスローガンに、「荒川区ブロードバンド・ネットワーク(AB-Net)」の構築を目指している。区役所や図書館、小中学校、保健所などの施設を結ぶ行政ネットワークを構築し、区民がインターネットを通じて行政サービスを利用できるようにするものである。

 しかし、荒川区がかつて2000年度の補正予算に盛り込む予定だったAB-Net構想は、2001~2002年度内に行政ネットワーク部分を構築することになっていたが、結局これは議会の承認を得られずペンディング状態となっている。今のところ、「ここ3~5年のうちに区民の多くが利用できるようにできれば……」(山形主査)と、言葉を濁すしかない状況なのである。

 我々インターネットユーザーにとっては、ブロードバンド接続を使えるようにしたという点だけでも荒川区の補助金制度は拍手喝采モノだが、来年度以降、この制度を本格的に導入できるかどうかは、“大儀名分”をいかに区民や議会に理解してもらえるかにかかっている。今回の補助金制度導入は、巷のブロードバンド普及の波に乗り、まずはインターネット接続のニーズを感じている住民レベルの施策を推進することで、これを突破口にボトムアップで行政内部のIT化を狙ったものとも言えそうだ。

●第三セクターでブロードバンド事業を開始した群馬県太田市
■太田市ホームページ
http://www.city.ota.gunma.jp/
■ブロードバンドシティ太田
http://www.bbco.ne.jp/

平成10年に完成した真新しい庁舎。この2階にある「太田市情報センター」の一画、市のIT推進課とともにBBCOのオフィスがある。市民向けのネット端末が開放されているほか、21日からは庁舎内で無線LANによるホットスポット実験も開始した(本誌1月24日号参照)
 「まるごとITタウン」の実現を目指す群馬県太田市は2001年4月、自ら出資して第三セクターのプロバイダー「ブロードバンドシティ太田(BBCO)」を設立。8月にADSL常時接続サービスを開始した。現在、太田市とその隣町である大泉町のNTT収容局全6局でサービスを展開している。
 さらに太田市では、加入者のモデム購入費用について最高1万円の補助金を支給する制度も開始。インフラの構築と住民向けの加入支援という両面から、ブロードバンドの普及を後押ししている。

 BBCO(「ぶぶこ」と発音する)のADSL接続は最大1.5Mbps、ISP料金込みで月額料金3,500円(電話と回線を共用する場合、回線使用料の187円が別途必要)。現在のADSL相場からいうとそれほど魅力的なサービスには見えないが、太田市では今のところ、Yahoo! BBは一部の局でしか開局しておらず、フレッツ・ADSLも1.5Mbpsのみだ。モデム購入費の補助金があることをふまえれば、インターネット接続のためのブロードバンドサービスとして十分に利用価値はある。

 ところが、BBCOの紙谷郁雄取締役は、「BBCOはけっして“ISP”ではない」と強調する。「行政サービス/コンテンツのIT化推進、IT化推進による地元企業の活性化、地域に根ざした住民サービス」の3分野を同時に手がけるのが同社の役割だとして、ADSL接続サービスは、それらを提供するための「道路」に過ぎないという。

●地域密着型ならではの住民サービスを充実化

「BBCOスクエア」には、三洋電機ソフトウエアの開発した「はぴねす」のシステムが使われている
 「“ISP”ではない」という言葉の意味は、加入者向けに提供されているサービスを見るとよく理解できる。BBCOでは、インターネット接続以外の付加サービスに特徴があるのだ。

 加入者にはまず、ウェブブラウザー上からログインできる「BBCOスクエア」というページがユーザーごとに用意される。書斎を模したインターフェイスとなっており、そこに置かれたアイテムをクリックすることで、スケジュール管理や掲示板、メール、ネットワークストレージなどの機能が利用できるというものだ。このあたりまでは他のISPでも見られるものだが、テレビ電話の機能が標準で提供されている点が珍しい。

 実はBBCOでは、加入者全員にパソコン用のカメラとマイクを配布しており、加入者同士が無料でコミュニケーションを行なえるようにしている。“書斎”に置かれたテレビをクリックすると、友人や知人のリストが表示され、その中から話したい相手をクリックすれば簡単に接続できる。

 さらに“書斎”の窓をクリックすると、地域ポータルサイトが表示され、地域密着型のサービスを利用できる。個人医院を含む太田市内の病院の一部が対応する「診療予約サービス」、特売のチラシなどをファックスするとそのままウェブページに掲載される「ウェブファックス」などが稼働中で、今後はリサイクル品のマーケットやビデオオンデマンドなども予定しているという。

 いずれも一見すると地味なサービスで、果たしてニーズがあるのかと疑問に思われるが、太田市の地域性を考えると、ビジネスになる可能性も大きいという。例えば、公共交通機関が充実していない太田市では、住民の移動手段は自家用車に頼っている。その結果、運転ができない高齢者や子供は、買い物に出かけることさえままならないのだという。このような地域では、ウェブファックスをデリバリーサービスと連動させるビジネスも十分に成り立つかもしれない。さらに、現在提供を検討しているというレシピのデータベースに、かかりつけの病院のカルテやスーパーの宅配を連携させることで、その人の健康状態や病気に合わせた献立サービスも考えられる。

 このように、地域密着型のサービスがBBCOのセールスポイントであり、同時にビジネスチャンスとなっている。実際のところ診療予約サービスについては、利用者がBBCOの会員の太田市民であることが保障されているため、予約を受け付ける病院側にとっても安心感があるという。現在は病院側に無料でシステムが提供されているが、将来的には高機能な有料システムの提供も検討していく予定だ。

●自治体がバックアップするプロバイダーの限界と強み

東武伊勢崎線の太田駅周辺、旧市街地の商店街はシャッター下ろされたままの店舗も多い(上)。一方、国道沿いには駐車場を備えた大型店舗が連なっており(下)、地方都市でよく見かける空洞化現象が太田市でも進んでいる。今後ますます「クルマがなければ生活できない」ようになる中、BBCOはこれをビジネスに結びつけられるかどうか?
 「これらのサービス内容を見れば、BBCOの月額料金3,500円が“ISP代金”ではないことがおわかりいただけるはずだ」(紙谷取締役)という言葉にも十分にうなずけるものがある一方、裏を返せばこれは、単なるブロードバンドの“ISP”としては生き残れないことを示している。

 実はBBCOはサービス発表当初、月額料金を4,980円に設定していた。当時としては全国的に見ても最低水準だったが、Yahoo! BBなどの低料金プロバイダーの影響により、実際に課金が開始された9月の段階から3,500円に値下げした経緯がある。今後、フレッツ・ADSLの8Mbps版対応や他のADSLプロバイダーの進出を考えれば、「単にブロードバンド接続を提供するサービスでは、価格破壊が進む中で、料金では勝負できない」(紙谷取締役)。必然的に、地域密着型の付加サービスを充実させざるを得なくなる。

 また、市の関わっているサービスということで、設置工事や初期設定作業を無料でやってくれるものと思っている加入者も多いらしい。その場合は代理店の電気店などに出向いてもらっているが、費用はBBCOが肩代わりすることになり、市民からの信頼がかえって経営を圧迫してしまう結果につながっている。

 その一方で、自治体がバックアップするサービスだからこそ、商用ベースのサービスでは太刀打ちできない強みも持っている。

 まず、新しいインターネットユーザー層へアピールしやすいという点が挙げられるだろう。太田市によると、非公式的な調査によるものだが、同市のインターネット利用世帯比率は15~20%弱だと見ているという。約5万6,000世帯のうち仮に1万世帯がすでにインターネットを利用しているとすると、BBCO、フレッツ・ADSL、Yahoo! BBのADSLサービス3社のほか、CATVインターネットを合わせた4社でこの限られたパイを取り合うのが現状だ。単純に4等分すれば、1社あたりわずか2,500世帯だ。

 これに対して当初のBBCOの加入者層を見ると、ヘビーユーザーもいるものの、40~50代の加入者が比較的目立っていたという。これは、盛んに行なわれるようになったパソコン講習会などの参加者が加入してきたためらしく、同社のポスターに書かれた「パソコン買ったらBBCOがおすすめ!」というキャッチフレーズの戦略が成功している裏付けとなっている。インターネットの初心者層を開拓できるポテンシャルが、BBCOにはありそうだ。

 前述のように、導入時のサポート面で初心者ならではの負担はあるものの、ボランティアでサポートを行なうグループも立ち上がる見込みだとしており、こういった面でも市民の協力が得られることは大きい。

 さらに、カバーエリアにも商用サービスとは相違点がある。BBCOが開局している6局のうち、今のところYahoo! BBが開局しているのは、市の中心部をカバーする太田九合局と大泉町の群馬大泉局の2局のみだ。フレッツ・ADSLは6局すべてで開局しているものの、距離やすでに光収容されているといった理由でどうしてもカバーできない地域が残る。もちろん、これはBBCOでも同様で、サービスエリアマップには提供不可能地域があることが示されている。

 このように商用サービスでは“不公平”な状況であるのに対してBBCOでは、光収容の地域についてはラストワンマイルを無線で接続する方法を、距離が遠い地域についてはReachDSL方式の導入を検討しているという。第三セクターの“定め”として、商用サービスのように儲かるところだけやサービス可能なところだけ提供するというスタンスが許されない一方で、他の商用サービスよりも広い市全域をカバーするという特徴があるのだ。

 ただし、第三セクターとはいえ、BBCOはあくまでも株式会社であり、太田市の出資比率も十数%に過ぎない。ほとんど加入者が見込めない地域まで強引にサービスを開始するわけにはいかないとしており、公平なエリア展開は、あくまでも市民の利用があってはじめて成り立つものである。

●第三セクターの事業を支えている出資会社の体力

お話をうかがったBBCOの紙谷郁雄取締役(右)と、五十嵐一二三・開発部担当部長(左)。紙谷取締役は、「はぴねす」を推進する三洋電機ソフトウエアの常務取締役でもあり、“バーチャル&リアリティ”の思想を実現化するBBCOの事業に情熱を注いでいる。一方、五十嵐担当部長は、太田市IT推進課の職員でもある
 行政サービス部分の取り組みが停滞している感のある荒川区に対して、太田市では、ブロードバンドを通じて利用できる各種行政手続きの24時間受付サービスや、日本語と英語/ポルトガル語(太田市と大泉町はブラジル人住民が多い)の同時通訳サービス、電子投票サービスなどを4月以降提供していくことが決まっている。これは国からの補助により「先進的情報通信システムモデル都市構築事業」として太田市が実施するもので、そのシステム構築をBBCOが市からの委託事業として担当するかたちだ。

 “大儀名分”という点ではすでに理解は得られやすい状況になっているわけで、太田市の課題はむしろ、第三セクターという“民間企業”であるBBCOが、今後どのようにして利益を出し、サービスを継続していくかという部分にありそうだ。

 前述のように、BBCOでは食品デリバリーなどの地域密着型の付加サービスを提供しようとしているが、ニーズのあるところでなければ業者は参入して来ない。一方、住民にとっては、魅力あるサービスやコンテンツが提供されていなければ加入したくない。加入者が伸び悩んでいるのは、Yahoo! BBなどとの競合にもよるだろうが、「ニワトリが先か、タマゴが先か」(紙谷取締役)という致命的な問題を、地域密着型をうたうBBCOは抱えているのも一因だ。

 また、加入者数を順調に伸ばし、その地域の実状に沿った地域密着型のサービスを提供したとしても、逆に利用者が限定されるサービスが採算ベースに乗るのかどうかも未知の部分は大きい。

 太田市は、「まるごとITタウン」の実現に向け、情報通信ネットワークを道路や上下水道ど同じようなインフラと位置づけている。この部分を行政が整備し、その運営をBBCOが“民間主導”で行なうという考えだ。

 しかし、BBCOのような第三セクターによるブロードバンド事業は、どこの自治体でも実現できるものではないということは認識しておいたほうがよさそうだ。BBCOに対する出資額を見ると、太田市の出資は、2億3,000万円のうち2,500万円に過ぎない。大部分は、三洋電機および三洋電機ソフトウエア(合計9,000万円)、両毛システムズ(9,000万円)といった民間企業によるものだ。収容局のDSLAMなどの設備も、とりあえず出資会社である三洋電機ソフトウエアが提供しているのが実状だという。

 一方で、価格破壊の流れの中では、インフラ構築コストの償却も当初の計画通りにいくのか、現実には厳しいところだろう。また、前述のように付加サービスによる利益も、この先どの程度見込めるかはわからない。第三セクターのブロードバンド事業の実現と継続には、出資会社の理解と体力が問われることになる。太田市のIT化構想にとって、三洋電機(大泉町に大規模事業所)や両毛システムズ(お隣の桐生市に本社)というバックアップ企業が存在したことが、重要な要素であったと言えそうだ。

●地方自治体がデジタルデバイドを加速する?

 総務省が2001年10月にまとめた「全国ブロードバンド構想」(http://www.soumu.go.jp/s-news/2001/011016_2.html)によると、光ファイバーなどの「超高速ネットワークインフラ」については、「民間事業者による整備が進まない条件不利地域については、デジタルデバイドの発生を防止する観点から、国・地方公共団体による公的整備が必要」との考えが示されている。

 一方、今回とり上げた荒川区は、(自らインフラを構築したわけではないが)大都市圏にもかかわらず、ブロードバンド環境整備のために補助金制度を開始した。また、だまっていればフレッツやYahoo! BBも進出する規模の地方都市である太田市でも、光ファイバーを待たずにADSLの段階で手を打ってきている。

 現在、都市と地方とのデジタルデバイドが問題となっているが、これを「公的整備」により「防止」しようという方法は、取り組む自治体の施策しだいで、一歩間違えば、さらに大きな格差を生み出す可能性がある。これまで民間事業者に委ねられていたアクセスサービスの構築や普及に自治体が関わることについて賛否両論あるだろうが、ブロードバンドユーザーが住みたくなるような施策とはいったい何なのかということを、地方自治体は考えるべき時に来ている。

(2002/1/28)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp / Watchers]


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