【イベント】

ネット上での著作権権利問題はどうなるのか?~CCDシンポジウム

■URL
http://www.ccd.gr.jp/

 6日、デジタル時代の著作権協議会(CCD)主催のシンポジウムが、東京・永田町の全国町村会館で開催された。シンポジウムでは、「J-CISの現状と権利問題の今」と銘打ち、社団法人コンピュータソフトウエア著作権協会(ACCS)の専務理事も務める久保田裕権利問題研究会主査がWinMXなどファイル交換サービスへの取り組みについて報告、J-CIS研究会の斎藤満雄主査が著作権データベースのメタサーチエンジン「J-CIS」の解説、文化庁長官官房著作権課長の岡本薫氏が講演を行なった。

久保田裕氏 斎藤満雄氏 J-CIS概念モデル
岡本薫氏

 特別講演に登場した岡本氏は、文化庁の著作権への取組み姿勢を紹介し、今後の方向性を語った。文化庁では、プロ・アマ問わず国民全てが著作権者になり得る昨今のインターネット事情を踏まえ、“1億人の著作権”をテーマにさまざまな改革を行なっている。まず、「著作権思想」「著作権ルール」という単語を使わないようにしたほか、「権利処理」と呼ばれていたものをシンプルに「契約」と呼ぶようにした。この改定によって、「著作権において従来混同されていた法律の部分と、契約の部分を切り分けることを目指している」という。岡本氏は、「“契約ルール作り”という言葉があるが、これも間違った使い方だ。二者間で結ばれた契約そのものがルールであり、さまざまな形があり得るものだ」という。この背景について、「社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の音楽著作物利用許諾規定が意識されている」と分析した。

 岡本氏は続けて、「文部科学省が嫌な顔をするので『著作権思想の啓蒙』と表現してきたものも、シンプルに『著作権教育』に変える」という。そして、「従来行なっていた一般向けセミナーを、全てWeb上で行なう方針に切り替える」という。また、2002年から中学校・高校で必須科目となる「情報」の学習指導要領では、著作権問題を“モラル”として教える文部科学省の方針についても、「著作権法は、モラルではなく決まりごとだという点を強調して行きたい」と語った。

 教育のほかにも、「著作物のインターネット上での流通を促進するために、『ITの活用』と『契約システムの改善』を進める」という。「ITの活用」については、すでに1999年の著作権法改定で「コピープロテクション」の回避や、「電子透かし」の改ざんを禁止している。さらに「ユーザーが著作物利用料金を払っていることを意識せずに、それを徴収できる自動課金システム」などの研究を行なうという。ここで岡本氏は、18ヶ月で500億円市場に成長した着信メロディーを例に出して、「着メロサービスの音源はCDではないので、利用料をJASRACにだけ支払えば商用化できる。シンプルに契約先と契約方法が示されている。また、対象が携帯電話なのでコピーガードなども考えなくてもいい。ユーザーの著作物利用料もサービス利用料として自動的に課金される。この枠組をベースに、著作物のインターネット流通に必要な仕組みを、地道に一段階ずつ積み上げていくべきだ。いきなり、サーバーに溜めた映像コンテンツを一気に流通させるシステムを構築するようなやり方は無理だ」と分析する。

 契約システムについては、現在、総務省が映像コンテンツの、経済産業省がデジタルコンテンツの利用に関わるシステム研究を行なっている。文化庁では、J-CISを発展させてインターネット上で、著作物の利用契約、支払いができる「バーチャル著作物マーケット」の研究開発をスタートさせるという。岡本氏はこれを「著作権出会い系サービスだ」と述べた。

 「映画に比べて、テレビドラマの再放送が難しいのは、著作権法のせいだといわれるが、これも間違っている」と岡本氏は指摘する。「これは、映画業界に比べて、放送業界では二次利用を意識した契約ができないからだ。なぜできないのかと言えば、二次利用をするために誰と契約を結べばいいかが、わからないからだ」という。そこで、テレビ番組などの“編集コンテンツ”で使われている、音楽、映像などの“素材コンテンツ”の権利者リストを明確にし、「権利者リストのマトリクスを作成し、コンテンツIDなどから著作権者が一発でわかるようになるといい」と語った。二次利用の仕組みを簡単にすることで、インターネットでの流通も活発になりそうだ。

 ファイル交換サービスを使った著作権違反については、「日本ではすでに『送信可能化権』を定めているので、対応は簡単だ。ISP法によって接続者情報が開示されれば違法状態にある個人を特定しやすくなる。Webサイトへの違法アップロードを検索するよりも、一網打尽にできるので対応しやすいと言える」という。送信可能化権は、先進国の中でも日本とオーストラリアしか定めておらず、日本政府は米国政府に対し外交ルートを通して、送信可能化権の明記などを正式に要望しているという。

 しかし一方で、著作物を公衆に対して送信可能な状態にすることを禁じる法律が、教育分野などで影響を及ぼしている。例えば、授業の教材として新聞の切り抜きを許可無く複製、配布することは認められているが、インターネットや衛星を使った授業で、新聞を画面に出すと送信可能化権に抵触してしまう。試験問題などに著作物を利用した場合、学校内の試験ならば問題ないが、オンライン試験に使うと、やはり抵触してしまう。岡本氏は、「法律が作られた時には、このような利用方法を想定できなかっただけだと思う。学校や公民館、図書館などでのITの活用については、例外規定の拡大を国会に提案する予定だ」と語った。

 文化庁では、「基本的に各団体から上がってきた改善要望は成立させるつもりだ。しかし、著作権とは誰も満足できない法律で、必ず対立意見をもつ団体が存在する。そこで、文化庁主導で協議会を開催し、合意したものから随時国会に改正を提案する」という。すでに、社団法人日本民間放送連盟と日本放送協会(NHK)が提案していた「番組をインターネットで放送する権利の拡大(送信可能化権の付与)」などは、関係団体と合意が行なわれ、1年数ヶ月という早いスピードで法改正準備中に漕ぎ着けたという。

(2002/2/6)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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