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総務省の「高度情報通信ネットワーク社会の形成に向けた宇宙通信の在り方に関する研究会」(座長:NTTデータ相談役 藤田史郎氏)は13日、研究の最終報告を公表した。この研究会では、通信衛星を用いたインターネット接続に関する研究を行なっており、衛星を2005年に打ち上げ、2010年の実用化を目標に開発を進めるとしている。
報告書ではまず、日本における宇宙通信(人工衛星を用いた通信)の現状に触れている。国内の宇宙通信サービスは1983年に打ち上げられた通信衛星「さくら2号」により始まり、利用形態としては災害対策、離島通信、CATV局への番組供給、企業内通信などで、主な利用者は国と地方自治体や通信・放送事業者であった。しかし、技術革新の結果、ネットワークの構築が容易になり、金融や物販などの業種にも利用が拡がったという。さらに1992年には通信衛星を用いた放送(CS放送)が始まっており、利用者は個人にまで拡がっている。また、衛星を用いた接続サービスを提供している業者については、主要な業者としてNTTサテライトコミュニケーションズなど6社を挙げ、既に合計4万契約があると報告した。
宇宙通信が果たすべき役割については、まず、「コンテンツのマルチキャスト配信」が挙げられている。ここでは、BSやCS放送との組み合わせた、通信と放送の融合サービスを想定しているという。2つ目は「面積100%の移動通信サービス」の提供だ。携帯電話からのインターネット接続の増加やITS(高度道路情報交通システム)の発展から推測すると、今後も移動体通信の需要が伸びていくとしている。また、離島や山間地域など通信網の大容量化が困難な地域にも宇宙通信を利用して「デジタルデバイド」をなくす狙いもある。ほかに、近隣国への接続サービスの提供やGPSの補完としての利用、地上通信網のバックアップなどが挙げられるという。
今後の技術的課題も挙げられている。2010年頃のインターネット接続は、100Mbps程度が一般化すると考えられる事から、宇宙通信においても一般ユーザー向けの小型地球局(パラボラアンテナ)を用いて同等の通信速度を目指すという。さらに、企業向けは1Gbpsの通信速度を必要とするという。また、高速化に伴い、周波数帯域の有効利用に関する研究も進められている。通信衛星が受け持つエリアを複数に分けて、それぞれに違う周波数帯域を使う「マルチビーム化」により、周波数の有効利用とアンテナの利得を向上できるという。ほかには、IPルーターを搭載して通信衛星でルーティングを行なったり、伝送遅延を短くするための技術などの開発も進められるという。
ほかの技術的課題としては、自動車などの移動体に利用する場合は、ビルなどが問題となり静止衛星が見えなくなるという。日本では経度の関係で低い位置(地平線から40~60度)に静止衛星が見えるため、都市部ではビル、山間部では山によって通信が遮られることが多いという。それを補うため、天頂付近(天頂から20度以内)の軌道に衛星を打ち上げる「準天頂衛星」の採用が検討されている。準天頂衛星の場合、複数の通信衛星を用意して、少なくとも1機をサービスエリアの天頂付近に配置できるように軌道を設定する。
宇宙通信によるビジネス展開についても触れられており、ここでは宇宙通信により通信網の大容量化が困難な離島や山間部にもブロードバンドサービスの提供が可能となるとしている。このようなケースでは、収容局に地球局を設置して、収容局から各ユーザー宅まではADSLや無線などで接続することが考えられており、仮に1つの拠点(収容局など)で50世帯の加入がある場合は月額4,000円程度でサービスが提供できるという。また、航空機や船舶への接続サービスの提供や遠隔医療、BSやCS放送との連携などさまざまな構想がある。
これらの技術については、ロケットの打ち上げなど、非常にリスクの高い事業となるため、国の機関(総務省と文部科学省)が中心になり研究や開発を進めていくとしている。今後は、2005年には衛星の打ち上げ、2007年には軌道上での実証実験を経て、2010年の実用化を目指す予定だ。
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(2002/2/14)
[Reported by adachi@impress.co.jp]