【インタビュー】

Sendmail社CEO、mailの未来を語る
~今後はPCと携帯のメールボックスの使い分けはいらない~

■URL
http://www.sendmail.com/

 現在、SMTPサーバーとして圧倒的なシェアを誇っているのが「sendmail」だ。「sendmail」は、オープンソースコードとしてインターネット上で配布され、爆発的に普及した。その「sendmail」の開発者などが1998年に設立したのが米Sendmail社だ。同社は、オープンソース版「sendmail」をベースとしたトータル・インターネット・メッセージング・ソリューションを提供している。今回、来日中のSendmail社CEO Dave Anderson氏にメール業界の動向などについて話を伺った。

 お話を伺ったのは、Anderson氏に加え、Sendmail社日本オフィス代表の小島 國照氏だ。Sendmail社日本オフィスは今年の前半には、日本法人の設立を目指しているという。

●これからは、「Mail」ではなく「Messaging」の時代になる
~Sendmail社CEO Dave Anderson氏


(左)小島 國照氏
(右)Dave Anderson氏

INTERNET Watch編集部(以下、IW):まず、Sendmail社の現状をお聞かせください。

Dave Anderson氏(以下、Dave):昨年米国でもIT不況が囁かれている中、Sendmail社は50%以上の成長を遂げました。売上では1,400万ドルほどです。対象としては、米国、ヨーロッパ、アジアをメインの対象としており、更に新しいソリューションの提供などを考えています。

IW:「sendmail」というとSMTPサーバーとして相当のシェアを持っていますが、更にシェアを拡大させることはできるのでしょうか?また、現在はメール業界に特化していますが、今後は専門分野を広げていくのでしょうか?

Dave:最初の質問に関しては、「Yes」です。但し、「Mail」ではなく「Messaging」分野に特化していくつもりです。なぜ「Mail」でなく「Messaging」というのかというと、「Mail」ではPCや携帯向けというイメージがありますが、それだけではなく、デバイスに依存しないで利用できる「Mail」など、益々多様化する場合を考えて、それらにも対応できるのが「Messaging」分野と考えています。そして、現在の「sendmail」のシステムを土台として、色々な「アプリケーション」の提供なども行なっていきたいと考えています。

 現在、「Mail」においてはPC、PDA、携帯などの複数のデバイスで利用されていますが、これに関して二つの問題点があると考えています。1つ目は、メールボックスがデバイス毎に必要で、分割されてしまっていること。現状においてこれらは、それぞれのメールアドレス単位でメールが配送されてきているので、これらを転送する以外に共有することができない。2つ目は、これらの分かれてくる大量のメールの中から「欲しいメール」を探さないといけなく、これらを統合的に管理できる集中管理システムがないことです。

IW:それらの管理はSMTPサーバーが持つ機能というより、アプリケーションソフトが持つ機能というイメージがあるのですが、そのような「アプリケーションソフトが持つ機能」を「sendmail」に搭載するという事でしょうか?

Dave:確かに、現在の価値観から考えると、先述のような統合的な機能というのは、「アプリケーションソフトが持つ機能」もしくは「アプリケーションソフトが行なう機能」として存在していますが、今後は「これらも併せ持ったシステム」というのが、インフラとして当然の機能となっていくと思います。従って、「sendmail」がその役割を持つべきだと考えています。

IW:現在、メールに関しての問題として、「スパム」、「ウィルス」、「踏み台にされてしまう」などが大きいと考えられます。これに対する姿勢として、Sendmail側がシステム的な改善等によって対策を行なっていくのか?、もしくはユーザーを啓蒙することによって、ユーザー自身での対策を強化していくのか?という選択肢があると思いますが、どのようにお考えでしょうか?

Dave:結論から言うと両方「Yes」です。まずこれに関して、Sendmailが声を大にして言いたいのは、「オープンリレーはやめましょう」という事です。これの原因は一概には言えないのですが、一番大きい理由は、「正しくない設定などがされている」という事です。これが原因となってセキュリティー的な問題、例えばスパム、ウィルスの蔓延を発生させていると考えています。

 これらに対応する方法として考えているのは、「送り手を選別しよう」ということです。POPサーバーでメールを受け取る際に、SMTPサーバーの判別を行ない、「信頼できるSMTPサーバーからしか受け取らない」もしくは「怪しいSMTPサーバーを指定して、そこからは受け取らない」などの処置を取ることです。これらを実現する事によって、セキュリティー的な問題の多くは解決できるでしょう。

 しかし、ここで難しいのは、スパムの中でも受け取りたいと思うものがあることや、「このメールはPCでは受け取りたいが、PDAでは受け取りたくない」などの希望があることです。このことを考えると、ただフィルタリングをすればいいのではなくて、「何をフィルタリングすればいいのか?」、「どのデバイスに対してはフィルタリングをしてはいけないのか?」などが重要となってきます。このようなことに対応した機能を、Sendmailでは提供しています。

IW:フィルタリング機能などは、既に「アプリケーションソフト」として多くのソフトウェアベンダーから提供されていますが、これを「sendmail」に標準搭載する事との違いはなんでしょうか?

Dave:アプリケーションソフトとして、フィルタリングを行なう事と、「sendmail」がフィルタリングも行なうことの最大の差は「スループット」です。アプリケーションレベルでこのような処理を行なうのと、「sendmail」が処理を行なうのでは、スループットが大きく異なってきます。これらは、大量のメールの処理を行なわなければならない企業やISPにとっては、死活問題と言えるでしょう。このようなスケーラビリティーでの有利性だけではなく、これは結果的にコスト面でも有利に働くはずです。

IW:では、「ウィルス」に対する対策としては、どのようなものを考えているのでしょうか?

Dave:現在、米国ではTrendmicro社と提携して「ウィルス対策を施したsendmail」の発売を行なっています。しかし、この製品ではISPなどで要求されるスループットには十分と言えるものではないようです。従ってSendmailでは、もっとスループットをチューニングしたものを制作していこうと考えています。勿論、Trendmicroとの提携商品の販売も継続して行なっていくつもりです。また、ウィルス定義ファイルなどを提供していくつもりはないので、そのような部分に関してはTrendmicroなどのものを流用できるように、協力して行なっていきたいと思っています。

IW:日本では、携帯メールが非常に普及していますが、世界的にみて「携帯メール」の需要はどうなるとお考えでしょうか?また、携帯メールに対する戦略は考えているのでしょうか?

Dave:携帯メールは、世界で普及していくと思います。「日本は一番早いだけ」と言えるでしょう。今後は、ヨーロッパや米国でも広がっていくはずです。また、携帯メールに対する戦略としては、携帯メールに対応し、且つ携帯に即したスループットを実現するシステムを構築することで対応していきたいと考えています。

IW:Sendmailは、「sendmail.com」と「sendmail.org」の2つのサイトがありますが、これらはどのような関係なのでしょうか?

sendmail.orgのサイト

Dave:まず、「sendmail.com」は企業サイト、「sendmail.org」はオープンソースのコミュニティーという位置付けとなっています。また、「sendmail.org」には2名のオープンソース専用の開発者もいます。なぜオープンソースのコミュニティーも持ち続けているのかというと、2つの理由があります。1つ目は、オープンソースコミュニティーでの意見等をすぐ製品版へフィードバックすることが可能だということ。2つ目の理由は、テスト環境としてです。他のソフトと比べても、これほど大規模なテスト環境を持ち合わせている企業はないだろうということ。これらの理由から、よりよい製品版「sendmail」が作られているといえるのです。

IW:先ほどの質問で、「Mail」ではなく今のメール機能に付加価値のついた「Messaging」が定着して、インフラになっていくと仰っていましたが、それはメール全般の未来像として言えることだと考えているのでしょうか?

Dave:現在「Mail」というものは、インターネットの世界に根深く存在しており、「あって当たり前のもの」となっています。しかし、使用頻度が高い割には、重要文書を暗号化もしないで送信するなど、殆どの人が「Messaging」の重要性にまだ気付いていないのが現状です。「sendmail」では、今の「Mail」にセキュアな環境やメールボックスの統合機能などなどを含めた機能が標準になるはずだと考えているし、なるべきだとも考えています。現状では、まだまだその事に気が付きつつある状況です。これからは、これらの機能が当然の機能として、社内メールサーバーに搭載されていなければならないし、ISPも対応していなければならない状況がくるはずだと考えています。そのような状況に「sendmail」はいち早く対応していきたい。


●「sendmailの責任は、Sendmailが取る」ことが当たり前なのです
~Sendmail社日本オフィス代表 小島 國照氏


IW:Sendmail社の日本での展開等についてお話を聞かせてください。

小島 國照氏(以下、小島):現在Sendmail社では、オープンソース版「sendmail」にさまざまな付加価値を追加した製品版「sendmail」の販売を行なっています。また、携帯電話向けメールサーバーや、メールサーバー向けフィルタリングソリューションなども手がけているところです。

IW:現在、「sendmail」のシェアはどの位でしょうか?また、製品版とオープンソース版の違いは?

小島:現在、SMTPサーバーにおける「sendmail」のシェアは、65%を超えています。世の中で流通しているメールの送信総数の85%は「sendmail」で行なわれているものです。米国のいわゆるフォーチュン100社のうち84社が、オープンソース版か製品版の「sendmail」を利用しています。

 製品版「sendmail」では、オープンソース版「sendmail」の基本的な部分は使っていますが、それは全体の20%程度です。その他の80%の部分はクローズドな技術を使って、スケーラビリティーや安定性の向上、メール向けファイアウォールの搭載など、単純にいうと付加価値がついたものとなってます。また、製品版での特徴としては、コンテンツフィルタリング機能や機密文書の社外漏洩防止機能、スパムブロックなどの機能を搭載しているほか、何台ものメールサーバーを扱う企業の場合は、それらを集中管理することが可能となっています。この集中管理機能では、ウィルスやスパムなどを「subject」欄等で判断して、フィルタリングで止める事などが可能となっています。これらを管理することにより、不必要なメールの送信を止めることや、社内トラフィックの改善等が図れます。

IW:では、基本的に製品版「sendmail」は企業向け製品という位置付けなんでしょうか?個人ユーザーで、オープンソース版「sendmail」を利用しているユーザーが製品版に乗り換えるメリットはなんでしょうか?

小島:現状では、日本でも大手ISPなど大規模なメールシステムを運用している企業は製品版「sendmail」を利用しています。これは、先述の付加機能に加えて製品版の安定性やスループットなどを考えての選択といえます。また、製品版の集中管理システムはISPなどでは必須の機能と言えるでしょう。そのような意味では、製品版「sendmail」は大規模メールサーバーシステムに適しています。ですが、個人向けユーザーが導入するメリットとしては、導入や管理の容易性が挙げられると思います。オープンソース版「sendmail」では、インストールや設定・管理等が煩雑だと言えるでしょう。「踏み台にされない為」の設定等も必要です。ですが、製品版「sendmail」では、これらの煩雑さから開放されます。イメージでは、「Linux」の「Red Hat」や「Turbo Linux」を連想して頂ければよいと思います。これらも、製品版を利用することにより、比較的簡単に導入・導入が可能になると思います。これらのことから、大規模システムを扱う企業では、安定性やスループット、集中管理機能など、個人ユーザーでは、導入・管理の容易性という点から製品版「sendmail」を導入するメリットがあります。

IW:日本では、携帯メールの需要が高いですが、携帯メールに関しての戦略はどのように考えているのでしょうか?

小島:携帯メールの送受信サーバーや機能については、各ベンダーが自社開発で制作・運用していて、独自のプロトコルを利用しているとの事ですので、残念ながらSendmail社は、アプリケーションを提供していこうと考えています。2月にSendmail社が発売したソフトなどでは、iモードのWebブラウズ機能を利用したWebメールアプリケーションで、携帯向けメールの集中管理などが可能となっています。今後は、既存の「sendmail」に加えて、これらのアプリケーションの提供なども含めて行なっていきたいと思っています。さらに、「sendmail」が携帯メールへの送信を容易にする機能などを搭載することで、「sendmail」を利用しているISPなどがこれらの機能に対応し、ハードウェアを超えて「PC⇔携帯間のメールのやり取り」が非常に容易になるようになっていくと思います。

IW:今後の日本でのSendmail社の展開を教えてください。

小島:まず、製品版「sendmail」の認知度を増やしていくことです。現状「sendmail」自体は非常に認知度等が高いですが、それらはオープンソース版「sendmail」を指していると思います。できれば、今後半年位で「製品版『sendmail』って何?」という質問がでない位にしたいと思っています。また、製品版「sendmail」を導入することにより、「安心・安定・サポート」などが得られます。

 よく「オープンソースの責任は誰が取るのか?」という議論がされていますが、「sendmailの責任は、Sendmailが取る」のです。これらによって、「インターネット上であって当然のもの」と認識されているメールを支えていきたいと思っています。


●まとめ



 今回、Sendmail社のCEOと日本オフィス代表に話を伺ったが、二人とも共通した意識として、「セキュアな環境を実現した『メールシステム』への移行をするべき」というものだった。現在メールは当たり前の産物として、インターネット最大のキラーコンテンツといっても過言ではないが、「スパム」や「ウィルス」などの扱いに比べて、「情報漏洩の危機」などの話題が少ないように感じる。普及し過ぎてしまって、「暗号化しないで重要文書を送信するのも当たり前」のような意識になってしまっているのが現実だ。かといって、無くてはならないものでもある。ここでも、個人レベルで「セキュアなメール環境を作る」という意識を持って、少しずつ環境改善を進めていくのが、現実的かつ必要な展開だ。

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[Reported by otsu-j@impress.co.jp]


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