【イベントレポート】

DIGITAL CONTENT JAPAN 2002

経産省のコンテンツ産業に対する舵取り~不正コピー対策と流通の最適化

■URL
http://www.dcaj.or.jp/business/index.html

岸本周平氏

 3月11日、東京都・青山にある機械産業記念館「TEPIA」で、財団法人デジタルコンテンツ協会、財団法人電源地域振興センター、およびデジタルアーカイブ協議会の3団体主催によるイベント「DIGITAL CONTENT JAPAN 2002」が開催された。

 基調講演「ブロードバンド時代におけるコンテンツ政策の現状と今後の方向性」では、経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課長の岸本周平氏が、経産省のコンテンツ産業に対する舵取りを語った。

 岸本氏はまず、経産省内の再編成について言及した。同氏が長を務める文化情報関連産業課は、2001年の省庁再編時に新しく生まれた課だ。「以前は、アニメ、音楽、出版、コンテンツ産業をそれぞれバラバラの課が対応していたが、これを一元的に扱うようにした」という。今後、これらのコンテンツはデジタル化していくと予想されているが、「これらのジャンルは、今まで国の援助を受けなかったから発展してきたもので、今後も同様だ。そこで、政府は不正コピー対策を、バーチャル(インターネット)、リアル(海賊版)を含めて対応しなくてはならない」と語った。

 具体的には、コンテンツIDの実証実験や、電子透かしの導入などを研究しているほか、著作権者以外が不正にコンテンツを扱った場合に、ネットポリスが出動するような仕組みを考えているという。「権利処理情報や課金システムも必要だ。これらは、民間に任せておくよりも、政府が少し手伝いをしたほうがいいと思う」と語り、総務省や文化庁と協力体制を敷くことをコメントした。「昔は、省庁独立でやっていても、競争しあういい文化があったのだが、今の時代に独立でやっていたら、米国、韓国のスピードについていけない」とのことだった。なお、著作権の保護に対する姿勢として、「著作権は、あくまでも民間のもので、個別の対策は民間のお金を使って実施すべきだ。そのためにも、政府はインフラの整備を担当したい」と語り、政府間のモニタリングの構築などに注力する予定だという。

 すでに韓国、中国とは、関係課長級の交流の場を作ったという。予算の名目は、「コンテンツ産業の交流としている」といい、これは「海賊版対策という名目は相手国に対して失礼だから」とのことだ。また、「ブロードバンド分野に関しては、韓国の方が進んでいるので、『交流』することで得るものが多いのではないか」ともコメントした。例えば、吉本興業が韓国企業と一緒に、ブロードバンドサービスを行なう企業「ファンダンゴ・コリア」を設立して、韓国側のノウハウをもとに、中国に進出する例を挙げた。「韓国が進んでいるのは、IMFショックで古い財閥が崩壊し、生きのいい新しい企業が多くなったから。彼らの経営判断は非常に早い」といい、「韓国の強みは、CG部門やネットワークゲームなど、ピンポイントでの技術力の高さ。日本企業は積極的に、韓国企業とアライアンスを組むべきだ」とアドバイスもした。

 岸本氏は、「ブロードバンドのキラーコンテンツの一つは、教育だろう」と予測する。かつては、米国で流行したものが、数年後に日本でも流行していたが、「ブロードバンドの時代では、韓国で流行ったものがしばらくして日本で流行する。日本で主力のエンターテイメントコンテンツでは、500~3,000円しか課金できないが、教育コンテンツは2万円以上の課金ができる」と分析する。また、その次にくるものは医療・介護・福祉情報ではないかと予想した。

 一方、日本のコンテンツ産業が行き詰まっている点についても言及した。コンテンツ産業の売上が、毎年激減していることの理由として、「この産業に、良い人材が集まっていないから、良いコンテンツが生まれない。メガヒットがあっても、ミドルのコンテンツがないので、全体としては売れていない」と分析した。

 人材が集まらないのは業界の構造にも問題があるようだ。岸本氏は、アニメーションの制作現場を例に、「放送局は、ほぼ独占状態にあり力を持っている。また、流通業者も資金があるので強い。しかし、制作プロダクションは非常に弱い立場にある」と語った。例えば、毎週多くの30分アニメが放映されているのに、アニメの制作プロダクションの一部は、制作費をほとんど貰っていないという。また、CSやBSへの配信権も与えられていないので、コストを回収するところがないという。「ゲーム業界が成功したのは、資金調達と制作を同じ会社がリスクを負ってやっているからだ。だから、ゲームがヒットすれば、制作者はフェラーリに乗ることができる」と語り、コンテンツ産業の流通基盤の改革が重要だと語った。

 放送と通信のアンバンドル(機能別の再編成)には、岸本氏は興味がないという。つまり、ユーザーが楽しめればバンドルでもアンバンドルでも構わないということだ。ただし、「流通業界に独占禁止法に引っかかるような不正が存在しているならば、公正取引委員会と協力して正していかなくてはならない」という。もし公正取引委員会が動かないようなケースがあれば、「そういうことは滅多にないと思うが、中小企業庁の伝家の宝刀(中小企業庁設置法:中小企業庁職員が不正を調査し、公取委に適切な措置を求めることができる)をいつでも抜く」覚悟があるようだ。

 最後に岸本氏は、「税制を見直していく必要がある」といい、「法人税、所得税を下げていくことで、能力があって、ビジネスが成功した人が良い暮らしをできるようにする」という。こうすることで、国民の意識が変わっていくことを望んでいるようだった。

(2002/3/11)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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