【イベントレポート】

DIGITAL CONTENT JAPAN 2002

プロバイダー責任法が導入されると、何が変わるのか?~DCJシンポジウム

■URL
http://www.dcaj.or.jp/
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/jyoubun.pdf

 3月12日、東京都・青山にある機械産業記念館「TEPIA」で、財団法人デジタルコンテンツ協会(DCAj)、財団法人電源地域振興センター、およびデジタルアーカイブ協議会の3団体主催によるイベント「DIGITAL CONTENT JAPAN 2002」の2日目が開催された。

 2日目のシンポジウムでは、「インターネット上の法的環境のあり方~プロバイダーの責任とは」と題して、富士通株式会社常務理事法務・知的財産権本部長の山地克郎氏、凸版印刷株式会社法務部長の荻原恒昭氏、総務省総合通信基盤局電気通信利用環境整備室課長補佐の大村真一氏、およびニフティ株式会社法務・海外部課長の松沢栄一氏の4名が講演を行なった。

●プロバイダー責任法とデジタルコンテンツ協会の関わり


山地克郎氏

 まず最初に、富士通の山地氏がプロバイダー責任法の成立を含めてDCAjの法的環境整備委員会が果たした役割を紹介した。平成13年度の活動は、ドメイン名の不正競争防止法一部改正や電子消費者契約、電子署名認証法などの研究・政策提言などを行なった。同氏は、「問題になり得るのは、もう少し幅を広くして『有害情報』と呼ばれるものまで入る」と語る。主な対象は、ネット上の誹謗中傷発言(名誉毀損)や個人情報の暴露(プライバシーの侵害)、違法コピー(著作権などの知的財産権侵害)や猥褻/児童ポルノなどで、これらは異なる法律、異なる所轄に分散しており、「プロバイダー責任法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は、分野横断的な立法(ホリゾンタルアプローチ)に意義がある」という。

 また、プロバイダー責任法の別の意義として名誉毀損の例をあげ、「どのくらいの文言があれば名誉毀損に当たるのかなど、法律に素人のプロバイダーには判断できない」ことから、加害者と被害者の見極めが難しかったと分析する。そのため、プロバイダーの本音としては当事者間で問題を解決してほしいのだが、通信の秘密保持という観点から発信者情報開示ができなかった。この結果、「被害者は、相手が匿名のままでは裁判に持ち込むこともできない」という問題も残されていた。

荻原恒昭

 次に、凸版印刷の荻原氏がDCAjの法制問題分科会の活動を紹介した。2001年1月19日に、総務省の「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」に対して意見書を提出するところから活動を開始し、同年8月30日には「プロバイダの責任法案」に対する意見書を提出、また2002年2月14日には「プロバイダ責任法ガイドライン等検討協議会」に参加している。

 8月30日に提出した意見書では、違法コンテンツの削除を行なった後で、情報発信者が反論をした場合の免責ルールの明確化(一定の手続きを踏めば必ず免責になるようなセーフティーバー規定)などを求めた。プロバイダー責任法では、開示請求を拒否した場合に請求者(被害者)に損害が生じても、故意または重大な過失が認められなければ賠償責任は免責されているが、その逆は規定されていない。また、送信者情報の開示については、開示するかどうかの判断は裁判所に委ねるべきだと意見したという。

●プロバイダー責任法成立までの道のり


大村真一氏

 三番目に登場した総務省の大村氏は、プロバイダー責任法成立に関して実務を担当した人物だ。まず同氏は、プロバイダー責任法成立以前の環境に言及した。プロバイダー側が最初に施した自主的対応は、1998年2月に社団法人テレコムサービス協会(テレサ協)が策定した「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」だ。これによると、プロバイダーが違法・有害情報の流通を感知した場合、発信者に情報発信を停止するように要求し、それでも停止しないようなら該当情報を削除、繰り返し情報発信が続けられるようなら該当ユーザーの契約解除、などを盛り込んでいた。

 一方、総務省(旧郵政省)でも1996年からインターネット上の有害情報対策を研究していた。同年には「電気通信における利用環境整備に関する研究会」、1997年には「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」を立ち上げ、2000年から活動を開始した「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」の報告を踏まえて法制化へと踏み切った。政府も、2001年3月29日の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定(e-Japan重点計画)で、「インターネット上の情報流通に関して、ウェブページ等への情報掲載による他人への権利利益の侵害に、プロバイダー等が迅速かつ適切な対応が行なえるよう責任を明確化する」として「特定電気通信による情報の流通の適正化及び円滑化に関する法律案」を2001年中に国家に提出することを決定した。3月30日には、「規制改革推進3か年計画」が閣議決定により平成13年度の法案提出が確認された。

 プロバイダー責任法は、2001年11月22日に公布され、大村氏は「施行は公布日から半年以内と定められているので、遅くとも5月からは効力を発効する」と語った。この法律だが、大きく二つの柱から構成されている。一つ目は、損害賠償責任の制限(第三条)で、被害者から違法情報の削除の申し立てがあった場合、プロバイダーは該当情報を削除するかどうか判断することができる。判断の結果、削除しなかった場合、プロバイダーが他人の権利が侵害されていることを知らなかった場合や、知っていたが権利侵害だと認めるに足る理由がなかった場合、申立人への責任は免責される。一方、該当情報を削除した場合、他人の権利が侵害されていることを認めるに足る理由があった場合や、被害者の申立てを発信者に連絡し、7日以内に反論がなかった場合は情報発信者に対する責任が免責される。

 もう一つの柱は、発信者情報の開示請求(第四条)だ。これは、被害者が違法情報の発信者の情報(氏名、住所など個人を特定できるもの)をプロバイダーに公開するように要求するものだ。従来、通信の秘密は保持されるものとして、捜査令状などがない場合に発信者情報が開示されることはなかった。この法律により、プロバイダーは、請求者の権利侵害が明らかな場合、もしくは被害者が損害賠償請求を行なう必要がある場合などに個人情報を開示しても責任を問われなくなった(ただし、開示を行なう前に情報発信者の意見を聞かなくてはならない)。

損害賠償責任の制限 発信者情報の開示請求

●プロバイダー責任法と@nifty


松沢栄一氏

 最後に、実際にインターネット接続事業を行なっているニフティーの松沢氏がプレゼンテーションを行なった。同社が運営するISP「@nifty」では平均して、被害者からの情報削除要請が60件/1ヶ月、発信者情報開示要求が30件/1ヶ月程度寄せられているという。前者は、無断で個人情報や写真などをWebに公開されたり、中傷を受けた場合が多く、後者は、「掲示板荒らし(連続書き込みによる嫌がらせ)」やウィルスメールが送りつけられたので直接交渉したいというものだという。松沢氏は「@niftyでは、これまで会員規約に従って対応しており、情報の削除に関してはテレサ協のガイドラインに従って処理している」という。一方、新たに制定された発信者情報の開示については、「これまでも開示しないスタンスであり、プロバイダー責任法発効後も、裁判所に開示請求が提起されない限り公開に応じない」という。

 プロバイダー責任法に関して同氏は、「プロバイダーが合理的に判断した結果に対する免責ルールは、合理的行動への動機付けとして評価できる」という。ただし、この法律では、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害された時」としか記述されていないので、「この法律が、どこまでを射程に捕らえているのかという判断ができない」という問題が残されていることを指摘した。「例えば、クレームしてくる人は、あらゆる法律の枠組を使って攻めてくる」ので、権利侵害の範囲がはっきりしていないと困るというのだ。この点について同氏は、「オンライン詐欺の被害者が主張する財産権侵害が含まれるのか。特定電気通信の中に、オークションサービスや一斉同報メールなどのサービスも含まれるのか」といった例を挙げていた。

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(2002/3/12)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]


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