既存の集合住宅におけるブロードバンド導入を遅らせている原因としてよく指摘されるのが、管理組合や住民総会での承認が必要になるという点である。建物内の改修工事をともなう方式については、区分所有法により4分の3以上の同意が必要となるためだ(現在では法務省が、大きな改修をともなわないブロードバンド導入については、過半数の同意で可能との見解を示している)。
ブロードバンド導入の賛否はもちろん、サービスの種類や回線の方式をめぐり、住民の意見をとりまとめるには時間がかかる。あるいはとりまとめることが事実上不可能であり、早期導入の大きなハードルとなっている。これは、サービスを待っている住民の側だけでなく、サービスを提供する事業者側にとっても悩みの種だ。
ところが、実はパティオス18番街にはすでにBフレッツが開通している。1月28日、NTT東日本が千葉県でBフレッツの提供を開始したのと同時であり、マンションタイプとしては千葉県で最初だ。しかも、導入すること自体が決定されたのは昨年秋のこと。同地区にBフレッツが提供されることが判明したのは昨年の夏だったというから、わずか3カ月余りのスピード決断だった。現在では、全115世帯のうち23世帯がBフレッツに加入している。
パティオス18番街の理事長を務める鈴木勝彦さんは、「特にポイントを整理しているわけではないが、既存の集合住宅で早期にブロードバンドを導入するには、いくつか定石がある」と指摘する。「うちの場合は、それがすべてがそろったからこんなに早くできた」という。
鈴木さんらパティオス18番街の理事会がブロードバンド導入を検討しはじめたのは、昨年5月。当時、パティオス18番街では最大512kbpsのCATVインターネットが利用できたが、当然のように、より高速なサービスを求める声もあがるようになった。しかし、幕張ベイタウンは光収容エリアのため、住民はADSLに加入できない。マンションとして光ファイバーによる常時接続サービスの導入を検討すべきだという投書が、住民の一人から寄せられたのがきっかけだった。
とはいっても、鈴木さんはじめ8名いる理事の全員がブロードバンドについて専門的な知識を持っているわけではない。理事会の中でこれを検討するのは無理だということで、理事会の諮問機関として「マルチメディア研究会」を設置することにした。この研究会には、投書を寄せた住民のほか、ブロードバンドに詳しい住民が5名ほど参加。ここで検討した結果を答申として、理事会が承認するという手順をとることにした。
研究会の第1回会合が開かれたのは、7月下旬。それから約3カ月間、集合住宅向けのサービスを展開しているブロードバンド各社の情報が集められ、内容が比較・検討された。その結果、Bフレッツのマンションタイプが適当との結論に達し、理事会は10月13日、この答申を受けてパティオス18番街へのBフレッツ導入を承認した。
パティオス18番街がBフレッツの導入を決定するまでの過程は、ざっとこんな感じである。諮問機関を設けたという点も面白いが、やはり注目されるのは、総会決議を経ていないという点だろう。確かに、最初の投書から理事会決定までは約5カ月かかっている。しかし、多数決ではどうしても意見が分かれてしまう総会決議を経ていては、この期間で導入に漕ぎ着けることができたか疑問だ。
だからといって、もちろんこれは、賛成派だけが勝手に推し進めたものではない。きちんとマンションの規約に乗っ取ったうえでの決定であり、実際、住民の理解も得られている。その証拠に、「なぜ、総会決議を通さなかったのか!」というような苦情は今のところ出ていないという。
それではなぜ、パティオス18番街ではBフレッツを導入するにあたって総会決議を経る必要がなかったのか? また、そのやり方で住民の理解が得られたのか? 鈴木さんの言う“定石”は、どうやらこのあたりの進め方にありそうだ。(以下、中編)
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(2002/3/29)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]