【事業計画】

KaZaAに寄生する“秘密のP2Pネットワーク”が存在
~年次報告書で明らかに

■URL
http://www.brilliantdigital.com/
http://sec.freeedgar.com/displayText.asp?ID=1817717
http://www.kazaa.com/


SECに提出された年次報告書
 

画像はKaZaAのクライアントソフト「KaZaA Media Desktop v1.5」。右上に表示されるCameron Diazの3D画像がBrilliant Digital Entertainmentの技術によるもの

 P2Pファイル交換ソフト「KaZaA」に組み込まれたソフトウェアによって“秘密のP2Pネットワーク”が動き出そうとしている――米Brilliant Digital Entertainment社が4月1日付で米証券取引委員会(SEC)に提出した年次報告書の中で明らかになった。

 Brilliant Digital Entertainmentは、3Dグラフィック、アニメーション作成ツールなどを開発する企業。2001年の秋以来、3D再生ソフト「Digital Projector」をKaZaAのクライアントソフトに組み込んで配布していたが、その中に「Altnet Secure Install」というまったく新しいP2Pネットワークを構築するためのソフトウェアが組み込まれていた。KaZaAのソフトウェアは現在すでに数百万本がダウンロードされているため、現在は眠っているこのP2Pネットワークが目を覚ますと同時に、世界最大規模のP2Pネットワークが姿を現すことになる。

 Brilliant Digital Entertainmentでは、このP2Pネットワークを「Altnet」と名付け、このネットワークを使ってコンテンツ配信ネットワーク、広告配信、バックアップサービス、分散コンピューティングなどのビジネスを展開するとしている。なお、AltnetネットワークはKaZaAに寄生してはいるものの、KaZaAのP2Pネットワークとは別の空間にある。しかし、KaZaAネットワークとAltnetネットワークはお互いにつながって検索データを交換できる関係となっている。

 Altnetが行おうとしているビジネスのひとつに「コンテンツ配信ビジネス」がある。広告配信では、例えばDoubleClickのような広告配信企業が、帯域幅、サーバーなどのインフラを整備してWebページにバナー広告配信しているが、Altnetはこれを自前のP2Pネットワークを通して配信することで大幅なコスト削減ができるものと考えている。広告は通常サーバーから配信されるが、Altnetの場合、最も近いユーザーから広告を直接配信できるため、エッジサーバーから配信される広告との距離はより縮まることになり、大量の広告を効率よく配信できると考えられる。

 また「分散ストレージ」も構想している。これは、ネットワーク上のハードディスク容量が余っているユーザーにスペースを分けてもらうことによって、非常に安価にストレージサービスを行なうというものだ。さらに同様の仕組みでCPUパワーの余っている利用者に計算を振り分けて「分散コンピューティングサービス」を提供することも年次報告書に記されている。

 こうしたことからAltnetがライバルとなりうる企業の数は多岐に渡る。年次報告書の中でもそうした企業の中にAkamai、Inktomi、IBM、Xdrive、Kontiki、KaZaA、そのほかにもP2P企業が数多く含まれている。


 ただし問題となるのが、利用者の許可なくしてこのような秘密のソフトウェアをインストールしたことだ。もともとファイル交換ソフトの中に広告を表示するための「スパイウェア」がインストールされていることは周知の事実であり、このことは時折プライバシー団体が問題にしてきた。今回の場合、スパイウェアを組み込んだだけでなく、そのことにより大規模なビジネスを開始する可能性があり、利用者のCPUパワーやハードディスクストレージ容量を利用することになるため、はるかに大きな問題が顕在化する可能性がある。ネット上の書き込みなどでは、この件に関連してKaZaAの使用合意書の文面に注目が集まっている。そこでは使用されていないコンピューティングパワーやストレージスペースを、コンテンツ配信、あるいは分散コンピューティングのために使うことを許可する旨が記されており、実質的にKaZaAのソフトウェアをインストールして使用している人はAltnetに同意してしまっているのではないかという懸念だ。こうした問題については今後法律的にさまざまな議論がなされることになるだろう。

 また年次報告書では、このビジネスの複雑な背景にも触れられている。Brilliant Digital Entertainmentは、ソフト「Digital Projector」を2001年秋からKaZaAネットワークを運営するSharman Networks社、「Morpheus」ネットワークを運営するStreamCast Networks社を通じて配布し始めた(Sharmanは、このソフトの配布を続けたが、StreamCastはその後配布を取りやめている)。その後2002年2月にBrilliant Digital Entertainmentは、P2Pネットワークをビジネスにするための子会社「BrilliantP2P」社を設立、さらに「Altnet」と改名した。そして現在Altnet社株式の49%は「Blastoise」という会社が保有している。このBlastoise社は、KaZaA、GroksterなどのP2Pネットワークの基盤となっているFasttrack技術の開発者たちが所有している企業だ。

 なお、KaZaAの資産を買収したSharman Networksに関しては、オーストラリアの会社であることは正式に分かっているが、細かな点に関しては様々な報道が錯綜しており、正確には分かっていないことも多い。Brilliant Digital Entertainmentは今のところこの年次報告書以外何の正式発表もしておらず、また本誌取材に対して回答を得ることはできなかった。

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(2002/4/3)

[Reported by taiga@scientist.com]

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