【イベントレポート】

「P2Pは、1、2年以内に限界を迎える」~日本MMO代表 松田道人氏

■URL
http://www.p2pconf.com/ (P2P Conference in JAPAN 2002)


日本MMO代表
松田道人氏

 4月11日、P2Pによる技術・ビジネスに焦点を当てたカンファレンス「P2P Conference in JAPAN 2002」が東京・渋谷にて開催された。ここでは各種講演のほか、P2P全般の普及活動を行なうNPO「Jnutella」によるワークショップ「Jnutella Workshop」が実施された。

 このJnutella Workshopには、ファイル交換サービス「ファイルローグ」を運営している有限会社日本エム・エム・オー(日本MMO)の代表・松田道人氏も登場し、「通信と放送が融合したら何が起こるか」と題した発表を行なった。なお、ファイルローグによるサービスは、4月9日、著作権を侵害しているとして東京地方裁判所からサービス停止命令が下されたほか、このカンファレンスが行なわれた11日には、JASRACによるサービス停止を求める申請も認められている。

 ここでは、テーマである「通信と放送の融合」の枠組みを飛び出して、インターネット業界の構造やP2Pの限界論などが繰り広げられた。

 

放送と通信、両業界のスタンスに温度差

 まず最初に松田氏は、ファイルローグ裁判の敗訴について「ファイル交換=悪という環境の中で、実際に裁判にも負けてしまい、P2Pのイメージを悪くしたのではないか」と言及した。同氏によると、この逆風の環境にも関わらずファイル交換サービスに踏み出したのは、「ファイル交換というのが、新しいインフラに見えたからやらねばならないと思った。今は認められていないが、いずれファイル交換というものが認められるだろうと思っていた」からだという。

 「ファイル交換サービス上でやり取りされる情報が、権利処理されたものであったら問題なかったのではないか」と松田氏は続ける。ここでCS放送の例を出し、「CS放送でコンテンツを配信できたのは、運営会社に資金があったからで、既存の権利団体に対して札束でコンテンツを引っ張ってきたから」と分析する。

 ここで、通信と放送の融合の話題に戻る。この枠組みの中で、一番の問題は、放送と通信の権利処理の仕組みが異なることだ。松田氏は、スカイパーフェクTVの中の音楽チャンネル「スターデジオ」の例(2000年5月、レコード会社による「CSデジタル音楽放送の差し止め請求」を東京地方裁判所が棄却)を示しながら、音楽データを配信した場合に、それが“通信”行為だとみなされれば、レコード会社に著作隣接権が認められ、一方“放送”だとみなされれば、レコード会社に著作隣接権が認められず、報酬請求権が与えられるだけだと説明した。

 また、放送と通信の融合にあたって、両業界のスタンスに温度差があることも指摘する。放送業界は「ハードとソフトの分離に反対」など積極的に意見を主張しているが、通信業界はあまり意見を出していないのが現状だ。松田氏は、「法でも仕組みでも、自分達に有利な解釈になるように積極的に意見を出していくべきだ。あいまいなまま、どちらにでも解釈できる状態にある中では、自分達のテリトリーを宣言しなくてはならない」と断言する。そして、今回のファイルローグ裁判を、「インターネット業界に住むものとしてファイル交換分野に対しては、権利者の利益を無視してでも、自分達の利権を取らなければならなかった。権利者との関係は、その後でしかるべき人が議論すればいいことだ」と振り返る。

 同氏は、この温度差にはインターネット業界の体質があると分析する。“Win-Win”という単語に代表されるように、インターネット業界は、共存共栄を目指すやさしいビジネスモデルに基づいていたという。「そもそも『Win-Win』というビジネスモデルは存在しない。世の中に回っている金というものは一定なので、誰かが得をすれば、誰かが損をする世界だ。だから、奪われる側からの反発が予測されるのは致し方ないこと」と松田氏は言う。もし同氏がレコード協会側の人間だったら、今回の裁判は当然の処置だと笑う。

 

●ネットもヴァーリトゥードの時代に

 この後、講演の内容は、同氏の趣味である格闘技の話を引き合いに出しながら、今後のインターネット業界の予見となった。既存のインターネットとは、幻想を追及し、禁じ手のある世界=プロレス的な世界だった。企業(プロレスでいうところの興業)中心に、マス向けに展開するお金を稼ぐモデルだ。松田氏は、プロレスの試合を「出し惜しみをする構成」と分析し、決して“一番おいしいとこ”を出さずに、意図的にストレスを与えることでリピーターを増やしていると分析する。

 一方で、これからのインターネットは、何でもありのヴァーリトゥードになると予見する。真実の追究をし、ネットオークションや「2ちゃんねる」への書き込み、ファイル交換サービスなど、ユーザー(総合格闘技でいうところの選手)中心になる。

 しかし、松田氏は、「何でもあり」の世界には「儲からない」という問題があるという。出し惜しみがないかわりに、飽きられるのも早いのだ。「P2Pとは、ユーザーにとって理想郷だが、既存の企業にとっては違う」とといい、「企業にとっては、理想郷の一歩手前の幻想の世界に収益のタネがある」と分析する。そして松田氏は、「P2Pと騒がれるのは、あと1、2年で終わるのではないかとおもう。金にならないから。今後は、大手企業がP2Pをつぶしにくるのではないか」とコメントした。

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(2002/4/11)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]

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