【行政】

北海道岩見沢市立図書館で岩波文庫の電子書籍を導入
市の光ファイバー網使って市民向けに閲覧サービス

■URL
http://www.city.iwamizawa.hokkaido.jp/ (岩見沢市)
http://www.ebookjapan.co.jp/ (EBI)

14日、東京都内で記者会見が開かれた。向かって左からEBIの鈴木社長、岩波書店の大塚社長、平凡社の斎藤文雄取締役、岩見沢市の日浦参事、ハドソンの村上聡コア・テクノロジー本部長
岩見沢市立図書館(上)。電子書籍閲覧ブース(下)に用意される端末は今のところ7台のみ

 北海道岩見沢市は6月上旬にも、市民向けに電子書籍の閲覧サービスを開始する。当初は岩波文庫の109作品を用意し、同市立図書館内に設置されたパソコンで自由に閲覧できるようにする。順次500作品まで拡充するとともに、平凡社の東洋文庫についても提供を予定している。

 岩波書店、平凡社のほか、イーブックイニシアティブジャパン(EBI)、ハドソンがプロジェクトに参加する。EBIが作品の電子化を担当、ハドソンが書籍サーバーの構築など技術面で協力した。

 EBIではすでにインターネット上で電子書籍の配信事業を展開しているが、今回は岩見沢市専用の書籍データを用意する。輪郭部分の解像度が高いハドソン独自の圧縮方式が採用されているほか、たとえデータをコピーして持ち出されても一般のパソコンでは閲覧できないようプロテクトされているという。

 EBIの鈴木雄介代表取締役社長は、従来の図書館の問題点として書庫スペースや購入冊数の物理的な制限、本の劣化や補修にともなう管理コスト、著作権者にとって利用頻度に応じて著作権料が支払われないという3点を指摘。電子図書館システムは、これらの問題点を解消すると説明する。

 もちろん電子図書館にもデメリットはある。むしろ閲覧手段がパソコンに限定されることのほうが、別の意味で物理的制限が大きいだろう。特に今回のプロジェクトではパソコン台数も限られ、そもそもパソコンで本を読むということ自体が受け入れられるのかという疑問もあるだろう。実際、岩見沢市立図書館でも書籍の岩波文庫は併行して所蔵していくとしており、紙の蔵書を置き換えるためのプロジェクトではないことを示している。

 実はこのプロジェクトの目的は、岩見沢市企画財政部統括情報化担当の日浦正博参事が「将来は図書館以外でも閲覧できるようにすることを想定している」と述べていることからもわかるように、図書の提供手段の多様化と利用機会の拡大にある。

 岩見沢市では5年以上前から、光ファイバーによる自治体ネットワークの構築に取り組んでおり、現在37カ所の公共施設が155MbpsのATM回線や無線LANで結ばれている。今回導入する電子書籍システムでもこのインフラを活用。サーバーは自治体ネットワークセンターという施設に設置し、利用者からのアクセスに応じて光ファイバー網を経由して図書館の各パソコン端末に書籍データがダウンロードされる仕組みとなっている。将来この仕組みが発展すれば、「図書館の利用カードを持っていれば、自宅のパソコンからでも24時間利用できるようにもなる」(EBIの鈴木社長)。

 岩見沢市では、今回の電子書籍閲覧システムの導入にともなうコストを図書館の図書購入予算からまかなう予定だ。具体的な金額は未定だが、作品数や想定閲覧者数をもとに年額料金を算出されるという。これをEBIが市から徴収し、実際に閲覧された回数に応じて各作品の使用料が出版社や著作権者側に配分されるかたちとなる。

 岩波書店の大塚信一代表取締役社長は今回のプロジェクトについて、サービスの公共性に共感した「損得抜き」の参加であるとコメント。一方、EBIでは岩見沢市の導入事例をきっかけに他の自治体からの引き合いがあると見込んでおり、電子図書館システムを事業に発展させたい考えだ。

(2002/5/14)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

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