【調査結果】

地方都市の2.4GHz帯は「現在のところ安定した利用が可能」
東北総合通信局が無線LANへの干渉データを収集

■URL
http://www.ttb.go.jp/24g/index.html

報告書自体はすでに5月21日に発表されていたが、ようやくウェブサイトでも閲覧できるようになった。PDFファイルでダウンロードできる

 東北総合通信局は、「地方都市における2.4GHz帯の電波環境と利用に関する調査研究報告書」をとりまとめ、ウェブサイト上で公開した。宮城県仙台市近郊における2.4GHz帯の電波利用状況が測定されており、この周波数帯を使うISM(Industrial,Science,Medical)機器からの電磁波や無線LANシステム同士の干渉は、現時点では無線LANシステムの運用に大きな影響を及ぼすほどではないことが明らかになった。

 IEEE 802.11/11bなどの無線LANに割り当てられている2.4GHz帯は、ISMバンドとして電子レンジや医療用のマイクロ波治療器、工業用の減圧乾燥機、店舗の万引き防止システムなどにも利用されているという。一方、無線LANはこのところ企業内や家庭内のネットワークのほか、インターネット常時接続のためのラストワンマイルやホットスポットへの活用で利用が拡大している。

 東北総合通信局ではこのような状況をふまえて昨年9月、「地方都市における2.4GHz帯の電波環境と利用に関する調査研究会」を設置し、電波環境の把握や干渉を回避するため方法について調査を進めてきた。こういったデータを収集したのは、全国で初めてだという。

 研究会では、仙台市内のオフィス街やコンビニエンスストア、駅、アーケード街など14所のフィールドで実際に電波環境を測定。その結果、オフィス街や工業団地、駅、空港、アーケード街でIEEE 802.11/11bの無線LANシステムと思われる電磁波が観測された。また、コンビニエンスストアや空港、駅のショッピング街、アーケード街などでは電子レンジや注文入力用のPOS端末からの電磁波が、さらに郊外の書店/CDショップでは万引き防止システムの電磁波が観測された。一方、工業用機器での利用が考えらる工業団地では、工場の敷地が広いこともあり、観測されたのは無線LANのみだった。

 報告書では、仙台市近郊において2.4GHz帯は各無線システムで利用されていることが確認されたものの、「現在のところ混信等が各無線システムの利用に支障をきたすほど込み合っている状況になく、安定した利用が可能である」としている。ただし、「ISM機器をはじめ干渉による影響を考慮しなければならない地域(場所)が存在することや今後2.4GHz帯の無線システムの利用が増大することが予想される中で、それらへの対処が求められる」と指摘している。

 このため報告書では、フィールド調査とともに、ISM機器のスペクトル特性や、ISM機器からの距離による無線LANシステムの伝送速度の劣化状況についてもデータをとりまとめている。ユーザーや事業者が無線LANシステムを設置する際には、設置場所の電波環境や共存するISM機器の特性などを把握し、それぞれ状況に応じた対処が求められる。

 具体的には、電子レンジは機種によってスペクトルが異なるものの、2.4GHz帯の広い範囲にわたって電磁波を漏洩している機種があり、そのレベルも比較的大きいことがわかった。また、マイクロ波治療器からは他のISM機器や無線LANシステムよりも非常に大きなレベルの電磁波が放射されていたという。

 特にマイクロ波治療器については2,450 ~2,462MHz付近のレベルが高く、屋内に共存させた場合、IEEE 802.11bで広く普及している直接拡散スペクトラム拡散(DS-SS)方式の無線LANシステムでは、周波数が重なる7チャンネルで、干渉がない時に比べ約20%から2%程度までスループットが劣化したという。また、IEEE 802.11で規定されている周波数ホッピングスペクトラム拡散(FH-SS)方式の無線LANシステムでは、距離を10メートルに離してもリンクが確立できなかったため、「マイクロ波治療器から放射される電波が存在する環境下においてはFHシステムの使用は不可能であることが明確」だとしている。

 この現象は、マイクロ波治療器ほどひどくはないが、電子レンジでも現われている。IEEE 802.11bの7チャンネルに大きな影響を与えているほか、FH方式では3メートル地点でリンク不可能、リンクできた5~15メートル地点でも25~25%程度にスループットが低下した

 なお、屋外におけるマイクロ波治療器から無線LANへの干渉については、IEEE 802.11bの7チャンネルでほとんど劣化が認められず、FH方式でも80%程度に劣化するに止まった。その理由を報告書では、「マイクロ波治療器を収容する建物が外部に電波を漏洩させない構造となっているため」と推測している。

 ただし、首都圏でFH方式の無線アクセスサービスを提供している通信事業者によると、整骨院付近の加入者でスループットが極端に低下する現象が確認されているとしており、必ずしもマイクロ波治療器が十分にシールドされた建物内で使われているとは限らないようだ。やはり、無線システムを運用しようとする場所の電波環境を実際に把握することは、通信品質の安定のためには不可欠と言えるだろう。

(2002/6/10)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

ほかの記事はこちらから

INTERNET Watch編集部internet-watch-info@impress.co.jp
Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.