【イベントレポート】

Webサービスは夢の技術なのか~Webサービス標準化に向けたアプローチ

■URL
http://www.idg.co.jp/expo/wsc/

 マイクロソフトの「.NET」やサン・マイクロシステムズの「Sun ONE」など、Webサービスが注目を浴びている。東京・青山で11~12日に開催されたWebサービスに焦点を当てたイベント「Web Services Conference」では、2日間で目標数を上回る1,013名の来場者を記録した。

 このイベントにおいて、Webサービスの標準化を進めるW3Cと、製品への実装を進めるベンダーが集まり、Webサービスの今後を占う意味で興味深いパネルディスカッションが行なわれた。進行役としてW3C Device Independenceアクティビティーリードの北川和裕慶應義塾大学助教授、パネリストとして日本アイオナテクノロジーズ株式会社主席コンサルタントの小野沢博文氏、日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所SV&SW.インターネット・テクノロジーの小坂一也氏、日本オラクル株式会社製品本部システム製品部インテグレーション技術推進グループディレクターの鈴木俊宏氏、および分散オブジェクト推進協議会(DOPG)トランザクション/コンポーネント分科会主査の成田雅彦氏が出席した。

モデレーターの北川氏 パネリストの皆さん

●Webサービスの現状と問題点


 まず小野沢氏が、「現在、Webサービスは過大評価されているのではないか。それにともない、既存の技術が不当な評価をされている」と指摘した。Webサービスの現状については、「基本機能における相互接続性の確認は進んでいる。ただし、SOAP1.1レベルでの話なので、今後W3Cが勧告化するSOAP1.2に移行する場合には非互換が発生する」と語った。問題点としては、「Javaや.NET以外の言語での開発実績が少ない」「製品間でのロング・トランザクションの仕組みが提供されていない」などを指摘した。さらに、「分散オブジェクト技術などに比べると、10倍近く性能が劣る。こういった現状の中で、どのような利用が最適かということを考えなければいけない」と提言した。

 次に小坂氏がセキュリティ面について言及した。現在、HTTPSなどを利用したトランスポートレベルでのセキュリティはほとんどの製品がサポートしているというが、「HTTPSでは不十分ではないか」と疑問を呈した。HTTPSでは、内容がわからなくても全てを暗号化して通信を行なう。これに対して、XML暗号化やXML署名などを用いたメッセージレベルでのセキュリティを使えば、「内容が不明のままでも構造がわかるので、例えばクレジットカード番号だけを暗号化するなどという部分的な暗号化が可能(小坂氏)」になるという。しかし、XMLでは多くのパラメーターを設定できるため、これが逆にセキュリティホールの要因になる可能性もある。小坂氏はこの解決策として、SOAPに特化しパラメーターをあらかじめ縮減した「WS-Security」を紹介した。これは、2002年4月にIBM、マイクロソフト、およびVeriSignの3社が共同で発表したものだ。同氏は、「セキュリティ面が充実しなければ、B2Bは広まらない」とコメントした。

●標準がないとWebサービスは使えないのか?


 日本オラクルの鈴木氏は、「標準がないとWebサービスは使えないのか?」という疑問を呈示した。同氏は、「日本オラクルのスタンスは、標準化には果敢に参画するが、製品化には慎重に対応するというもの」と続ける。これは、ワーキングドラフトレベルの新技術を製品に実装すると、勧告ではまったく別の仕様に変更されている可能性があるからだという。

 W3Cの北川氏は、「Webサービスは決して新しい技術ではない」と強調し、「既存の技術を成熟させていくと、各社の仕様がばらばらになる。そのために標準化とコンフォーマンステストは必要だ」と語る。これに対して鈴木氏は、「製品とは継続して出していくもの」と前置きし、「テストには、暗黙の了解が存在している。それは、ある特定の仕様に揃えたテストだということ。例えば、XMLスキーマのテストに利用されているバージョンと実際に製品として出ているバージョンが違う。相互接続性の確認などでは、異なるバージョン間の確認もされない限り、すでに出荷している製品に対応できない」という。

 続けて小野沢氏も「現在策定中のSOAPにしても、W3Cの方針ではSOAP1.1と1.2に互換性がない。やはり、SOAP1.2には下位互換性の義務化を要望したい」と語った。これに対し北川氏は、「W3Cでは、下位互換性を持たせたい企業は独自に実装すればいいというスタンスだ。実装面でコストがかかるので義務化に関しては言及していない」と回答した。だが、鈴木氏が実装コストよりも、バージョン格差による混乱で生じる顧客対応のほうがコストがかかると指摘すると、「W3Cでは、いつでも要望を受け付けている。下位互換性の義務化要望が多ければ勧告では変わるかもしれない」とトーンダウンした。

 W3Cの標準化過程では、勧告が出される以前でも技術を実装し製品化することが可能だ。これに対して、パネリストからは「どこかで歯止めが必要ではないか」「最近のW3Cの勧告が出されるタイミングは遅くなってきている」という指摘があった。このような状況を踏まえて成田氏は、「現在必要とされているのは『絶対につながらなくてはならない』という相互接続性の保証だ。このような状況は今までに起きたことがない。Webサービスではインターネットを経由して、先方のいかなる機器とも接続可能でなければならず、今までの手法が通用しない」と分析した。

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(2002/7/15)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]

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