【イベントレポート】

山間部や離島でも都市部と同等のインターネット環境を提供する
~島根県のIT戦略とは?「しまねITウェーブ2002」開催

■URL
http://www.pref.shimane.jp/section/josys/

 7月14日と15日の2日間、島根県浜田市にてイベント「しまねITウェーブ2002」(以下ITウェーブ)が開催された。ITウェーブは、島根県のIT戦略の一環として開催されたもので、県内企業の展示のほか、基調講演やパネルディスカッションが行なわれた。島根県は、情報ハイウェイのアクセスポイントを全市町村に設置するなど、全国に先駆けた取り組みを行なっている自治体の1つだ。


●「実感できる島根らしさ」を重点にサービスを展開

島根県総務部長・大西秀人氏
 ITウェーブでは、島根県総務部長の大西秀人氏による基調講演「島根県のIT戦略-全国に先駆けた情報通信インフラを実現」が行なわれた。大西氏はまず、島根県の現状として「山間部と離島があり地理的なハンディキャップが大きく、高齢者率は日本一」だと報告した。このような不利な条件で、「どのように島根県を発展させるかを議論して出した答えが島根県のIT戦略だ」という。

 島根県のIT戦略では、「実感できる島根らしさ」を重点にサービスを展開するとしている。例えば、高齢者に対するサービスとして脈拍や血圧の計測などの在宅健康管理、山間部はオンラインショッピング、離島には遠隔医療やテレビ会議システムなどといったものだ。さらに、県内の観光資源のアピールにも利用して、観光客の誘致も積極的に進めるという。ほか自治体が、直接提供するサービスとして、各種届け出をインターネット経由で行なう「電子自治体」や、9月から開始する県議会の中継を挙げた。

 県はこれらのサービスを提供するための基盤として、ADSLやCATVなどのアクセスラインを構築するISPへの補助金制度を進めている。現在は、山間部や離島の条件が不利な地域における採算性の検証や、長距離DSLの実証実験を行なっているという。ReachDSLを用いた実証実験では、11kmの距離でも300kbps程度の通信速度が確保できることを確認したという。

 さらに、「情報サービスの推進とISPへのアクセスライン補助金の取り組みを各キャリアにアピールして、バックボーンへの先行投資を呼びかけた」という。その結果、2002年6月、NTT西日本と電力系の通信会社である中国通信ネットワークによって、島根県に情報ハイウェイ「全県IP網」が完成した。このIP網は、全59市町村に設置されたアクセスポイントを最大10Gbpsで結ぶ国内でも類を見ない規模だ。他県の情報ハイウェイとの違いとして、バックボーンを構築するNTTと中国通信ネットワークに対して補助金や優遇措置などを一切行なっていないことがある。メリットとして「既存の光ファイバーが利用できる」「構築期間が短い」「民業圧迫にならない」「行政ネットワークと民間ネットワークの重複投資がなくなる」などが挙げられた。特に構築期間については、行政が自ら敷設した場合は3年から4年かかるところを、全県IP網では構想の発表からわずか14か月で完成したという。これによりISPは、大都市でしか利用できなかった「ATMメガリンク」や「ATMシェアリンクサービス」などの通信サービスを利用でき、料金を8から10分の1に圧縮できたという。

 収容局からユーザー宅までのアクセスラインに対する補助金は、既に3社が名乗りを上げており、今年度中に25市町村が、来年度には全ての市町村でブロードバンドサービスを提供するとしている。大西氏は「来年度中には、山間部や離島でも都市部と同じ通信環境が整う」と全地域で展開するブロードバンドサービスをアピールした。


●島根県にはコンテンツが満載
 

左からぎんぎんネット代表の早瀬眞知子氏、株式会社ワコムアイティ専務取締役の今岡克己氏、義足の開発・研究者とモニターのコミュニケーションにメールを利用しているという中村ブレイス株式会社代表取締役社長の中村俊郎氏。ちなみに、基調講演などでは手話が付くなど、福祉の充実を掲げる島根県ならではの配慮が見られた。
ITウェーブには、ITの推進によって暮らしや生活がどう変わるのかを、福祉、企業などの立場で活動する団体や企業が参加した。

 まず、島根県大田市を中心に展開するパソコンボランティア団体「ぎんぎんネット」を代表して早瀬眞知子氏が同団体の紹介を行なった。ぎんぎんネットは「大田市を元気にするための手段としてITを活用している」という。メンバーは県内を初めとして、近畿や首都圏にも散らばっており、メーリングリストでの議論が主だ。活動実績としては、IT講習会や公民館へのパソコンの設置などがあるが、これらは「メーリングリストへの投稿からメンバーがいつの間にか始めた活動」だとして、「メーリングリストで自分の場を見つけて活動を拡げていく人が多い」と一定の成果を上げているという。

 次に、株式会社ワコムアイティ専務取締役の今岡克己氏より、県から受託開発を受けている高齢者向けポータルサイト「まめなかねット」について説明があった。まめなかねットは、高齢者が利用することを考慮して、液晶タブレット型の端末も用意しており、「インターフェイスなど技術的な向上だけではなく、高齢者へのパソコンボランティアの促進も進める」と意欲を見せた。さらに、「県内のすばらしい自然をアピールするために、全市町村にWebカメラを設置すると観光客の誘致になるだろう。これも、全県IP網がある島根県だからこそできることだ」とITがもたらす観光産業への波及も期待しているという。

 最後に大西氏が、「ITは、島根県が抱える都市部から離れているなどの地理的デメリットを解消してくれるツールだ。島根県の自然の中で、都市部と同じような経済活動ができるようになる日はもうすぐだ」と着実に県のIT戦略が進んでいることをアピールした。

(2002/7/16)

[Reported by adachi@impress.co.jp]

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