【単発企画】

世界のインターネットの繋ぎ方~中国・東南アジア編

 (編集部から:米国やヨーロッパでのインターネットへの接続方法は比較的よく知られている。では、中国や他のアジア諸国ではどういった状況なのか?今回は各国を旅し、現地でインターネットを利用してまわった山谷剛史氏のレポートをお届けします。)

 

 私は今年の1月末から3月末までの2ヶ月間、中国から東南アジアのあたりを放浪していた。放浪癖のある人間の中でもパソコンを持ち歩くという稀な日本人らしい。用途としては現地で日記を書いたりとか、デジカメのファイルを落としたりとか、メモ書きとか。でも一番の目的は現地でインターネットを使うことだ。通信のインフラやインターネット環境も国々、その街その街によって異なるので、現地の詳しい人に聞いてベストの方法を常に模索している。前置きは長くなったが、そんな経緯であまり報道されていない東南アジアの最新インターネット事情を紹介する。

中国~3ケタの数字でどこからでもインターネット

 「163」「165」という数字。これは中国のインターネットのダイヤルアップ番号であり、ユーザー名であり、パスワードでもある。この数字さえ控えておけばなんとダイヤルアップでどことも契約せずにインターネットに接続できてしまう。つまりは日本でいうダイヤルアップ接続料金はかからないのだ。海外に自前のPCを持っていく場合、ワールドワイドなISPと契約したり、Nokia製などのGSM形式の携帯電話で繋ぐよりも遥かに安上がりだ(ワールドワイドなISPも結局これらの地元のプロバイダと提携しているだけである)。


Chinanet/ChinaTelecom

インターネットカフェに貼ってあるISPの宣伝

 「163」はChinanet/ChinaTelecom。日本でいうところのNTTのようなもので、全国を網羅している。国境の町のような超がつくほどの辺境でも電話線さえあればOK。「165」はChinaUnicom。163に続いて多くの都市をサポートしている。前述の3桁電話番号だけでなく、一部の街をサポートする「167」や「171」、5桁の電話番号の「95963」、もちろん他に一般的なISPも存在するが以前に比べめっきり減っている。アクセスポイントはおおかた56Kの規格になっており、下りの速度は3~4Kbps程度だが、メールのやりとり程度では不満はない。

 PC同士のメールはもちろんのこと、携帯電話からPCへのメールも普及している。PCは家族での所有が多く、PCが家にない若者は主にインターネットカフェを利用する。目的はチャット、メール、Web閲覧のほか、オンラインゲームにも利用する。オンラインゲームは外国産のソフトがほとんどだが、国産のソフトも出ている。チャットでは、ユーザー自身が仮想世界と現実世界をはっきりと分けているようだ。あくまで仮想世界の中だけでチャットを用いて自分を演出し、相談をしたり、鬱憤をぶちまけたりしているが、現実に会う事は少ないようだ。そんなチャットソフトは「MSN Messenger」、「ICQ」とその亜種のほか、「OICQ」や「QQ」といった中国人専用ツールもあるくらいで、その人気を高さを実感できる。

 中国は「省」や「市」に分けられるが、各省にそれぞれその省の人にあったポータルサイトがあるようだ。例えば北京市なら北京市民のための、雲南省なら雲南省の人のためのニュースやエンターテイメントを集めたポータルサイトがある。もちろん中国全体のこの種のポータルサイトもあるが、地方地方でポータルサイトが異なるのは日本にはない感覚。日本では、各新聞社のサイトの地方版は本家より規模が小さくなることが多いが、そうではなく、地方版のサイトもそれ自身が立派なポータルサイトになっている。

 先日、北京において中学生2人による放火事件により25人が犠牲となる惨事となった。またこれにより中国全土でインターネットの一斉検査のため、多くのインターネットカフェが一時閉鎖となっている。外国人も中国人もインターネットカフェでのネット利用はできなくなっていることに注意。多くのインターネットカフェは7月20日まで閉鎖されるらしいので中国に渡航してインターネットカフェを利用してメールを送る可能性のある人はこれを留意しておこう。

放火容疑で少年2人を逮捕 北京カフェ火災 (人民日報・日本語版)
http://j.people.ne.jp/2002/06/20/jp20020620_18277.html

 

ラオス~普及はまだこれから

 山国であるラオスは道も山道ばかりで道はガタガタで整ってはいない。移動も非常に苦労し、たかだか数百キロの移動が丸一日がかり。電話線の質もそれに準じているのか、回線速度は遅い。切断もままある。また、ラオスには国内専用のISPしかなく、ワールドワイドなISPのアクセスポイントがないため、旅行客が繋ぐのは非常に困難。電話線で繋ぐには首都ビエンチャンや観光地ルアンパバンにあるインターネットカフェでオーナーに繋ぎたい旨を話し、電話番号とユーザー名、パスワードを聞いて使うしかない。その他の街ではインターネットカフェがあまり見かけない。


山道はまだガタガタ道が多い

インターネットカフェオーナー夫妻

 

ベトナム~若者の間でチャットが流行

 ベトナムでは、中規模以上の都市において一般市民向けのインターネットカフェが当たり前になっている。現地人にいわせると、1ストリート毎に1,2件はあるという。ベトナムのインターネットユーザーは家にPCを持たず、Hotmailなどフリーのアカウントを取得しインターネットカフェに行きメールをやりとりし、ポータルサイト(例えば http://www.vnn.vn/ )でニュースをみるといったことが多い。また、ネットカフェに毎日通う人も少なくない。そんなベトナムのネットカフェのチャージは1分300ドンから(1ドルは15,000ドン)。自前のPCで繋ぐ場合、テレフォンカードのような「インターネットカード」の購入が必要になる。そこにユーザーとパスワードの情報があり、これを使って決められた時間分だけ使うことができる。郵便局で購入できるが、外国人には度数の多く値段の高いインターネットカードを購入するよう言われるので、インターネットカフェで度数の少ないカードを購入する方がよい。ダイヤルアップ用の電話番号は「1260」が一番多く、次に「1280」。中国と違ってユーザー名、パスワードは公開されていない。ワールドワイドに展開するプロバイダはどちらかをサポートしている。


ベトナムの街中風景

これが「インターネットカード」

 ベトナムではベトナム語キーボードというのがしっかり普及しているようで、これまたどこのインターネットカフェでも見ることができた。ベトナム語の文字は過去フランス統治の関係もあってローマ字がベースだ。ベトナム語はアルファベットに加え、これに「^」(ハット)や声調文字からなり、ベトナムの文字入力システムにおいて追加された独特の文字もサポートされている。

 現地人同士ではチャットが盛んなようだ。特にいわゆる出会い系サイトが人気があるように感じた。例えばインターネットカフェの中ではハートを描いたデザインのWEBページでキーボードで入力している若者を見かけた。彼らはチャットにおいてどうもベトナム文字は使わずにアルファベット26文字だけで意思伝達している。話を聞くと特殊な記号がなくとも単語や前後の文章からなんとなく意味は把握できるのであまり使わないとか。日本語をひらがなだけでチャットするような感覚だろう。


ベトナムのPCショップ

ホテル兼ネットカフェ

 携帯電話によるショートメールは結構な割合で浸透している。比較的入手しやすい価格の携帯電話でサポートしているからだ。ベトナムでの街中の移動手段はもっぱらバイクだが、バイクに乗りながら携帯電話でショートメールは見かける光景だ。

 

カンボジア~Bluetoothでインフラ構築

 まだまだ内戦の傷跡残るカンボジア。道も大穴だらけなら電話線も末端はズタズタ。そんなカンボジアの通信インフラの基本は無線だ。首都プノンペン以外では街中で利用できる公衆電話は携帯電話。使い方は、店の親父にかける電話番号を伝え(つまり市街局番を伝えることで通話料を算出する元とする)、1通話ごとに店が携帯電話を貸して通話時間分のチャージをとる。都市間にも電話線はなく、ある街から空港に一旦集めて衛星経由で首都プノンペンに電波を飛ばすそうだ。ちなみになぜ電話線がないかというと、地元の人たちが「銅線(電話線)は市場で高く売れる」と採掘してしまうからとか。

 そんなカンボジアでは、赤外線による通信規格「IrDA」を使って携帯電話でインターネットに接続する。インターネットカフェでもデスクトップPCが携帯電話経由で繋がっているのを確認できるだろう。自前のノートPCでインターネットに直接接続するにはIrDAのポートが必須だ。とはいえ、最近のPCのトレンドではIrDAはなくなりつつあるのが現実。そこでIrDAの代わりにBluetoothでのインフラ構築を考えているらしい。IrDAやBlueToothを追加するUSBアダプターは、隣国タイ、バンコクのPC市場では多く扱われている。インターネットカフェの代金はこのような特殊なインフラのお蔭で隣国のタイ、ラオス、ベトナムに比べて高い値段設定となっている。もっともこれも外国人料金であって、現地人が利用する料金は月契約で10ドルと、外国人料金の数分の1だったりする。


まだ内戦の生々しい傷跡が残る収容所

街の風景

 カンボジア人でインターネットに触れる人は、全体から見れば非常に少ない。しかし、観光地で観光業を主とする若者、例えばバイクタクシーの運転手や旅行代理店の店員、ホテルの従業員やツアーの添乗員などには良く知られている。ビジネス用途以外にも友人となった外国人と今後もメールをして連絡を続けるのに必要だからだ。現地人同士では携帯でショートメールによるコミュニケーションのやりとりも日常の光景だが、カンボジアもまたベトナムと同じくメールを使える機種が少ないためか、まだまだ普及はこれからのようだ。

(2002/7/19)

■著者紹介■
山谷 剛史

サンクト・ペテルブルグの
絵師による著者近影

1976年生まれ。元SE。今年初めまでVB、UNIXプログラミングに携わる。SEの傍ら開設した自身のWebサイトがとある編集者の目にとまったことから、ライター業に携わるようになる。

主な執筆:
@ぴあ「さすらいの通信芸人」、中国情報局サーチナ、日刊アスキーLinux、月刊ASCII、パソコン批評など

Digital Travel http://plaza11.mbn.or.jp/~digital_travel/

 

[Reported by 山谷 剛史(digital.travel@dream.com)]

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