【訃報】

アルゴリズム「Dijkstra法」で有名なDijkstra教授が72歳で死去

■URL
http://www.cs.utexas.edu/users/UTCS/notices/dijkstra/ewdobit.html
http://www.cs.utexas.edu/users/EWD

 コンピューターサイエンスの分野で著しい業績をあげた著名な研究者であるEdsger Wybe Dijkstra教授が8月6日、オランダの自宅で死去していたことが明らかになった。テキサス大学の発表によると長い間癌と闘っていたという。享年72歳。

 Dijkstra教授は1930年、オランダのロッテルダムで生まれ。ライデン大学で数学と理論物理学で学位を取得した後、アムステルダム大学でコンピューターサイエンスの博士号を取得。1972年にはコンピューターサイエンスのノーベル賞とも言われるACMチューリング賞を受賞した。その後1984年から1999年までテキサス大学Schlumberger百年記念教授を務めた後、現在まで同校の名誉教授となっていた。

 Dijkstra教授は、まだ未発達だったコンピューターサイエンスに数学的な論法を持ち込み、今でも頻繁に使われるアルゴリズムの研究を発展させたことで広く知られている。特に最短経路を発見するための「Dijkstra法」は有名なアルゴリズムで、インターネットの発展に不可欠なルーティングのアルゴリズムとして現在も使用されているだけでなく、道路建設や航空会社の経路選択などさまざまなアプリケーションで使われている。またコンピューターのプロセスを制御するためのアイデアである「セマフォ」と排他制御の概念、プログラムのデッドロックとそれを考えるきっかけとなった「哲学者の食事問題」など広く知られる概念を考え出した。アルゴリズムの分野では彼が使い始めた語法がしばしば使われるが、権威あるオックスフォード英語辞典では彼の発案による「ベクトル」と「スタック」という言葉がコンピュータサイエンスの文脈で引用されているという。

 また70年代までほとんど注意が向けられてなかったソフトウェアの品質の問題に注意を向け、スパゲッティプログラムの原因となる「GOTO文」をプログラムから徹底的に排除すべきだとの考え方を推し進めた。Dijkstra教授の回想によれば、70年代にはコンピューターのバグをとることがプログラマーの「楽しみ」だったためにこの考え方は長く受け入れられなかったという。さらに彼はPascalの祖先となったAlgol60言語の最初のコンパイラを設計、実装し、構造化プログラミングに大きく貢献した。

 彼の著作は1,300にも及び、現在これらすべてがスキャンされテキサス大学コンピューターサイエンス学部のホームページで閲覧することができる。

(2002/8/9)

[Reported by 青木 大我 (taiga@scientist.com)]

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