【業界動向】

大震災に向けてさまざまな団体が結集~「東京いのちのポータルサイト」

■URL
http://www.tokyo-portal.info/

 東京都内でいつか起こるであろう大震災に向けて、対策活動を行なっているさまざまな団体が結集してポータルサイトを作ろうとする「東京いのちのポータルサイト実行委員会」が設立された。具体的な行動はこれからだが、20日には「死なないためのまちづくり」と題したシンポジウムを開催し、NPOや企業、地域の商店街などの震災への取組みが発表された。

安井潤一郎氏

 「東京いのちのポータルサイト」構想では、3つのポイントを掲げている。一つ目は、普段から稼動し利用者が使い慣れたシステムを構築することだ。災害対策専門のポータルサイトを構築しても、災害時以外にアクセスする人も少なく、いざという時に機能しない。そこで、平常時には観光情報や地域商店街の売り出し情報、NPOの取組みといった「楽しい賑わい情報」を発信し、災害発生時には平常時と同様の仕組みや使い勝手を継承した非常時モードとして、安否情報や被害情報を発信する。二つ目のポイントとしては、地域・民間主導で推進することだ。阪神淡路大震災の時には、がれきの下から救出された人の8割以上が、知人・友人・隣人の助力を得ており、行政などが派遣する緊急救済チームでは、初期段階の現場情報把握が難しいという。3つ目には、ITの全面活用を挙げている。2002年4月には、東京都の「電子都市懇談会」でも、都民のIT活用のトップに災害対策が掲げられているという。

 呼びかけ人の代表を務めた安井潤一郎早稲田商店会長は、「阪神淡路大震災では6,000余名の人命が失われた。東京直下型地震が発生したら、その10倍の犠牲者が出ると言われている。本当にそうなってしまったら、阪神淡路大震災で亡くなった人々は犬死になってしまう。彼らを貴い犠牲と呼べるのは、生きている我々であり、死なないための準備をしなくてはならない。そこで、さまざまな活動をしている団体を緩やかに結集するためのポータルサイトを構築する」と語った。

 シンポジウムでは、15団体のプレゼンテーションが行なわれた。空き缶を回収機にいれるとクイズが実施され、正解するとクーポン券が発券されるといったユニークな空き缶リサイクル活動を展開している早稲田商店会では、災害対策でも同様に「毎日、楽しく使えて、しかも得をする」ようなシステムとして「合言葉ショッピング」を提案した。平常時の「合言葉ショッピング」では、事前にサイト上で公開されている合言葉を買い物時に伝えると、おまけや割引などの特典がつくというもの。合言葉をきっかけに無言の買い物から会話のある買い物に商店街が変化するという目論見がある。また、事前に設定しておいた日数以上アクセスがない場合、設定しておいた連絡先に通知が行くなど、一人暮らしの老人対策などにも利用できるという。災害時には、「ご無事ですか?」モードに変化し、「無事です」ボタンを押すことで自分が無事であることをセンターに通知し、センター側で集められた安否情報を閲覧することができるという。平常時、非常時ともに、似たようなページ構成になっており利用方法で戸惑うことがなく、またSTBなどを活用しリモコンで操作できるようにするという。早稲田商店街では、ビジネスモデル特許を取得しており、ほかの商店街へも普及させたい考えだ。

早稲田商店会の取組み 合言葉ショッピング ご無事ですか?

市川啓一氏

 株式会社レスキューナウ・ドット・ネットの市川啓一代表取締役社長も呼びかけ人の一人だ。同社は、災害時に個人向けに危機管理情報をメールで通知する「マイレスキュー」サービスを展開している。市川氏がこのサービスを構想した理由には、「マス向けの災害情報はあくまでもマス向けのもので、個人には充分ではない。大災害時には市民が救援活動の主力となり、個別なメディアがなければデマや無駄な行動が生じる」と考えたからだという。続けて同氏は、「災害が発生しても、心の備えがあれば生き残ることができる。そのためには普段から情報を共有すべき」として、ポータルサイト構築に賛同したという。マイレスキューも、PCや携帯電話を使いこなせないユーザー層を念頭に置き、コンビニ端末や街頭の電光掲示板、Lモードなどの情報家電やカーナビゲーションシステムなどへの展開を図っている。

 また、検索エンジン「goo」を運営する株式会社エヌ・ティ・ティ エックス地域ポータルプロジェクトの三澤淳志氏は、緊急時の情報を発信する仕組みとして、地域ポータル「まちgoo」が活用できないかと提案した。一方、情報を受信する仕組みとしては、検索ツールバー「いのちのスティック」構想を披露した。これは、平常時には通常のツールバーとして機能し、災害時には災害情報や関連ニュース、安否情報の登録や閲覧ができるものだ。一般住民が常に利用するWebブラウザーそのものを「いのちのポータル」にすれば、認知度が上がり非常時に有効活用できるという。

 この他にも、年間5,000円で「震災疎開パッケージ」を購入すると、実際に震災が起こった時には受入先として名乗りをあげた疎開地が一定期間「お客様」として迎えてくれるプロジェクト(震災がなければ、3,000円分の名産品が届く。運営母体:全国商店街震災対策連絡協議会)や、11月16・17日に板橋区で実施される「安全・安心まちづくりワークショップ」(NPOが主催し、板橋区が共催、内閣府などが後援)、2003年5月16~18日にお台場で開催される「江戸開府400年記念事業 史上最大 商店街まつり」(大会名誉会長:石原慎太郎東京都知事)などが紹介された。「東京いのちのポータルサイト」構想そのものはIT構想だが、実際に運営するのは地域に根ざしたコミュニティの力であり、デジタルとアナログの融合で震災を迎え撃つつもりだ。

(2002/8/20)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]

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