【イベントレポート】

デジタル放送はどこへ向かうのか?~デジタル家電フォーラム2002

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http://www.jesa.or.jp/dhaf2002/top/index.html

 3日、社団法人電子情報技術産業協会デジタル家電部会主催によるイベント「デジタル家電フォーラム2002」が、東京商工会議所で開催された。初日にあたるセッションAでは「放送メディアの革新とデジタル放送への期待」と題し、デジタル放送の国家政策や民間業者の取組みなどが報告された。

大坪文雄氏

 開会講演にはデジタル家電部会長の大坪文雄松下電器産業株式会社常務取締役が登壇し、「IT時代におけるデジタル家電の将来像」と題した講演を行なった。現在のデジタル家電を取り巻く環境は、2002年からサービスを開始した110度CS放送や、2003年から東名阪エリアで放送が開始される地上波デジタル放送など放送のデジタル化が推進されている。また、通信分野のブロードバンド化やディスプレイ分野の多様化などさまざまな方面から放送・通信の融合が進んでおり、ユビキタスネットワーク社会の実現が近づいてきている。

 大坪氏によると、デジタル家電の国内市場規模は2000年には4兆5,355億円だったが、2007年には8兆円を超えるという。特にディスプレイ機器やコミュニケーション機器などユビキタス社会を構成するのは「日本の技術力が発揮される分野」と期待を寄せた。地上波デジタル放送の本格始動にともないテレビがデジタル化するほか、プラズマディスプレイや液晶モニターが普及価格帯に入ってきたこともあり、「テレビはさまざまな情報が得られるIT端末へと変化する」と語った。さらに、メモリーカード分野も大容量化、相互接続性やセキュリティの向上などが進むとして「メモリーカードによるネットワーキングはユビキタス社会のベースの一つになる」という。これらを踏まえて大坪氏は、「デジタル家電の方向性は、“より楽しく”“より便利に”“より安全で”“より豊かな”ものを目指し、ユビキタス社会の備えになる必要がある」と結論した。

デジタル家電を取り巻く環境変化 メモリーカードによるネットワーキング

●放送のデジタル化は後戻りなし!~総務省・田中栄一氏


田中栄一氏

 基調講演には、総務省情報通信政策局放送政策課長の田中栄一氏が登場し、「デジタル放送化への国の政策」と題した講演を行なった。放送のデジタル化は、IT戦略本部が6月に発表した「e-Japan重点計画2002」にも謳われているように国家戦略の一つだ。重点計画によると「デジタル放送はインターネットときわめて親和性が高く、IPv6を備えたインターネットと組み合わせることにより、デジタルコンテンツを放送以外の多様なメディアに流通させることが一層容易になる」としている。そこで総務省では、「新しいデジタル社会の基盤を作り情報国家となるために二つの柱として、通信のブロードバンド化と放送のデジタル化の両方を進め、ユーザーにインフラの違いを感じさせないことを目標にしている」という。

 田中氏は、「地上波デジタル放送が開始されていないこともあって、いまだに『なぜデジタル化が必要なのか』と取材されることがある」という。同氏によると、地上波のデジタル化の意義は、「全国4,700万世帯に広く普及しているテレビ、つまりすみずみまで行き渡ったインフラを身近で簡便なIT基盤として置き換えること」だ。この結果、セリフの速度が調整可能になったり、字幕表示されるようになるなど高齢者や障害者に優しいサービスを提供できたり、自動車などの移動体への安定した映像の配信などが可能になるという。また、アナログ放送に比べて使用周波数を大幅に削減できることから、「移動体通信の充実など新しい周波数ニーズに対応できる」という。

 総務省では、「ブロードバンド時代における放送の将来像に関する懇談会」を開催し、「デジタル放送推進のための行動計画」を取りまとめている。それによると、地上テレビ放送事業者は、地上波デジタル放送のサービス開始当初から「50%以上の時間で、高精細度放送をするもの」とし、BSテレビ放送事業者は「2003年末までに、22スロット以上の伝送容量を用いるBSデジタル放送の番組において、プライムタイムのうち、デジタル放送のメリットを十二分に活かした番組(高精細度番組を中心に、双方向番組、番組連動型データ放送などを含む)を75%以上放送することを目標」と定められた。また、地方公共団体とは「電子自治体の推進における地上波デジタル放送の積極的な活用を進める」として、今月中に協議会を開催し、最適な基礎アプリケーションの選定などを行なうという。さらに、マスメディア集中排除原則(複数局の所有・経営の禁止など)の見直しを行ない、資金調達が可能な規制緩和や業界の再編などを妨げない形を目指すという。

 最後に田中氏は、「1億台のアナログテレビを全部デジタルテレビに置き換えるのは一大事業であり、それを達成するだけでも『すごい国家』だと感心されるだろう。『できっこない』と反対する人もいるが、困難だから乗り越えなくてはならない」と宣言した。

●地上波テレビは何でも揃う情報の百貨店


北川信氏

 もう一つの基調講演として、全国地上デジタル放送推進協議会会長の北川信氏が「地上デジタル放送への期待」と題した講演を行なった。同氏はデジタル放送の特色の一つに「多チャンネル」を挙げる。

 まず、「何のための多チャンネルか?」という問いに対して「無限大の情報の森から選び抜いた一本の木を見出すため」と答えた。続けて北川氏は「現在、300チャンネル程度のデジタル放送が存在しているが、『こんなにたくさんなくてもいいんじゃないか』『どうしても見たいという番組は少ない』という声が聞かれる。こういう人達は、選択の面白さがわかっていないだけで、必ず見たいチャンネルが見つかるはずだ」という。

 次に、地上波デジタル放送が成功するためには、「どれだけのサービスが提供できるかが重要。利益が減っても売上を上げるビジネスモデルがあればいい」と語る。「家族一人一人が個室でテレビを見、個別の携帯電話を持ち、個別のアドレスでインターネットをする今日のキーワードはパーソナル化だ」として、地上波デジタルでは携帯端末を意識した「簡易動画放送」が始まると予測する。その例として、昼休みのOLを狙った旅行、グルメ、美容と健康などのインフォテイメント番組や、夕方4時頃に放送される主婦向けの特売、買い物裏技情報などを挙げた。また、地上波デジタル放送を伝送量で表すと126Mbpsとなり、「地上波は実は随分とブロードバンドだ。インターネットのブロードバンド環境が発展することは間違いないが、それが放送に取って替わることはないだろう」と語った。

 さらに、高度化CAS(コンディショナルアクセスシステム:限定受信システム)を活用することで、受信機ごとに個別のメッセージを配信する新規事業の可能性を語った。例えば、局側に登録された名簿とデータにより、誕生日や記念日などに個人名が入った音声グリーティングサービスなどのお客様サービスは当たり前になるという。「このようなサービスはインターネットでは始まっているというが、果たして本当に始まっているのか。本当に便利なのか。公序良俗やコンテンツに対する責任を考えると放送局抜きでは考えられないだろう」という。

 最後に北川氏は、「もともとテレビは何でも揃う情報の百貨店。デジタル化とは、さらに新しい商品が増える楽しさだ」と述べ、また「テレビはアナログ6チャンネル程度で十分だと思っている人が大半だが、必ずテレビを買い換える時期が来る。その時、地上波デジタル、BSデジタル、CSと『3放送集めて300チャンネル』を一つの受信機で楽しめるのに、古くからの6チャンネルをもう一度買う勇気があるだろうか」と語った。

(2002/9/3)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]

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