■URL
http://www.jesa.or.jp/dhaf2002/top/index.html
杉本昌穗氏 |
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4日、社団法人電子情報技術産業協会デジタル家電部会主催によるイベント「デジタル家電フォーラム2002」が、東京商工会議所で開催された。2日目にあたるセッションBでは「デジタルネットワーク時代に向けた家庭用ストレージの進展」と題して、情報家電の方向性や技術動向が発表された。
基調講演には、パイオニア株式会社技術戦略最高顧問の杉本昌穗工学博士が登壇し、「家庭用ストレージの動向と将来展望」と題した講演を行なった。この講演では、家庭で使われるさまざまなストレージ製品だけでなく、CATVネットワーク上にMPEG-4でエンコードした映像コンテンツを配信する「e-Boxアライアンス」の紹介などが行なわれた。
杉本氏はまず、家庭向けのコンテンツ配信方法を俯瞰し、「人間がアナログ、デジタルに関わらずコンテンツに接する時間はあまり変化していないのに対して、コンテンツの伝送路の種類は増加している。ゆえに同じコンテンツを複数の伝送路で配信している」と分析、この結果競合が起こり端末機器の値段は下がる一方になると語る。また、「人間は、生のコンテンツ(スポーツやライブなど)が好きだ。それ以外のコンテンツはニッチなビジネスモデルを構築しなければならない」と述べた。
次に家庭用ストレージ製品に対してユーザーが高性能を要求するようになったと述べる。例えば、デジタル放送が本格化することで、ユーザーはBSデジタルハイビジョンをきれいなまま録画したい、24時間配信される番組の中から見たい番組だけをタイムシフトしたいという要求をする。また、プラズマディスプレイなど高品質モニターの普及によって、ビデオ録画機器やサウンドシステムも高品質なものが求められるようになる。その他、デジタルカメラの普及で家庭のアルバムはストレージに保存されるようになり、ブロードバンド化の進展によってPCにダウンロードするコンテンツやソフトウェアが増大し、大容量ストレージが必要になる。このような状況から杉本氏は、「大容量、高速、小型で、しかも安価な高性能なストレージやメモリーが要求されている」と概論した。
そこで杉本氏は、「ストレージ製品は単独で議論されるものではなく、信号圧縮技術やネットワーク技術などの関連技術との相互関係で見るべき」と語る。圧縮技術との関係では、できる限り圧縮できるほうがストレージにとっては有効だ。しかし、映画会社などからは、著作権料の関係で1枚のディスクに2本以上の映画を入れて欲しくないという要求を出されているという。このように、ストレージの容量と圧縮技術には、それぞれのメディアの間にそれぞれのバランスポイントが存在しているという。
一方、ストレージとネットワークの関係では、ネットワークのローカルキャッシュとしてストレージを利用することで両者は補完関係にあるが、配信手段として考えると、目的に応じて両者は並存関係になるという。また、圧縮技術はネットワーク負荷の軽減に役立つとして、これら3者は三位一体となって調和の中で発展していくと予測する。
家庭用ストレージの今後の課題として杉本氏は、ユーザビリティ、セキュリティ、小型化の3つを挙げた。ユーザビリティでは、ディスク規格の統一を理想としつつも、それができなければプレーヤー側で差異を吸収したり、またメモリーカードの規格が多すぎるとして、用途ごとに規格を統一したいという。セキュリティ面に関しては、コンテンツホルダーや著作権者から“きつい”コピーコントロールの要望が出されているが、だからこそそれに応えなければならないと語った。
最後にCATVを使ってMPEG-4によるコンテンツの狭帯域、多チャンネル化を実現するSTBサービス「e-Boxアライアンス」の紹介を行なった。このアライアンスは、パイオニアのほか、シャープ、National Semiconductor、iVastなど7社で構成されている。400以上のVODコンテンツは暗号化して配信されるほか、STBからHDDやDVDメディアに保存する時にも再度AES(Advanced Encryption Standard)による著作権保護がされるという。
●どのようにデジタルコンテンツの不正コピーを防ぐのか
田中晳男氏 |
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2つ目の基調講演として、株式会社東芝デジタルメディアネットワーク社コアテクノロジーセンター技監の田中晳男氏が「デジタル時代の著作権保護」と題する講演を行なった。
田中氏はまず、デジタルコンテンツの歴史を振り返り、1982年に登場した音楽CDについて「当時はなんら保護技術を使わなくても、そもそもコピーができなかった。現在から見るとこれが不幸だった」と述べた。80年代初頭に640MBのデジタルデータをコピーしようとすれば、320KBのフロッピーディスク(1枚1,000円)が2,000枚必要となり、音楽CD1枚に200万円が必要だという。また、仮にデータ伝送による不正交換を行なうと2400kbpsで600時間必要で、市内通話(3分10円)でも12万円かかるという。
次に、日本レコード協会や日本映像ソフト協会が提出している売上実績を参照しながら、「CDの売上が減少した理由は、本当に不正交換だけなのか」と疑問を呈した。例えば、「我々のコンテンツに対する出費額は一定なままだが、DVDの売上増や携帯電話コンテンツの利用など、CD以外の出費が増えたからかもしれない」と分析する。だが、「いかなる理由があったとしても、コンテンツの著作権保護はやらなくてはならない」とも語る。
著作権を守る手段には、法制度と技術の2つの側面があるという。田中氏は、「昼間は正規のCDプレスをする会社が深夜には海賊版を作るといった、技術もスキルも設備も整ったプロの海賊版業者などには、保護技術では不正を防げないので法で防がなくてはならない」という。一方、技術で防げるのはカジュアルコピー対策だ。同氏は「一番困るのは、その中間にいるクラッカーの存在」と語る。
コンテンツの法的保護は、主に著作権法や不当競争防止法で行なわれる。例えば、著作権を守るために著作物などに施された効果的な技術的措置の迂回・無効化が明確に禁止された(かつては迂回装置の販売のみが禁止されていた)。また、罰則を強化し、法人で不正コピーソフトなどを利用していると1億円以下の罰金(かつては300万円以下)が課せられるようになった。
著作権保護の技術的な側面では、システムが備えるべき性質としてRobustness(頑強さ)、Compliance(機器が守るべき取り決め)、Renewability(違反した機器の排除)の3つを挙げた。Robustnessでは、「迂回装置の実現を許すようなピンや切断可能な配線があってはならない」といった機器製造・管理上守らなければいけないルールを定めており、これに違反した場合は業界内で最大1億ドルの損害賠償が課せられるだけでなく、場合によってはコンテンツホルダーらからも訴えられる可能性がある。また、Complianceでは「インターネットへの暗号を解いたコンテンツの再送信を許してはならない」といった該当保護規則に則った製品が守らなければならないルールを定めている。さらに田中氏は、「著作権保護システムを考える時の前提条件として、機器がスタンドアローンであったとしても必ず保護システムが働くようにしなくてはならい。なぜならば、家庭にある機器は、一つ一つ買い直されたり、全ての機器が相互接続されるわけではない」と語った。
最後に田中氏は、現在存在している著作権保護規格を紹介した。まず、DVD-Videoコンテンツを保護するのがCSS(Content Scramble System)だ。これは、東芝と松下でスクランブル方式が策定され、現在電子透かしの追加に向けて策定作業が続けられている。「CSSはクラッカーによって実質的には破られた規格。だが、犯人を逮捕するなど、法的手段によって依然として効果を発揮している」と語った。
CPPM(Content Protection for Prerecorded Media)とCPRM(Content Protection for Recordable Media)は、IBM、Intel、松下、東芝の4社で策定された規格だ。CPPMは、事前記録して配布するコンテンツを守る規格でDVD-Audioに採用されている。また、CPRMはコンテンツの著作権を保持したまま記録メディアに保存する規格で、DVD-RAM、DVD-RW、DVD-RなどやSDカードに採用されている。
DTCP(Digital Transmission Content Protection)は、IEEE1394やUSBといった伝送路上にあるコンテンツの著作権を保護する規格。日本では、BSデジタル放送の著作権保護にも採用されているという。
音楽コンテンツ配信の保護規格の策定に向けて活動していたのがSDMI(Secure Digital Music Initiative)だ。コンテンツの暗号化と電子透かし技術の適用を中心に、携帯型プレイヤーやPC、携帯電話などにも拡張されていたが、2001年6月に活動を一時中止しており、事実上音楽分野では著作権保護規格が存在しない状態になっている。
この他にも、高品位テレビとマルチチャンネル・オーディオを1つのコネクターとケーブルで統合するインターフェイスであるHDMI(High Difinition Multimedia Interface)と、その上で流れるコンテンツを暗号化する伝送保護規格HDCP(High-bandwidth Digital Content Protection System)の策定も行なわれており、こちらは今年中に動き出す予定だ。
(2002/9/4)
[Reported by okada-d@impress.co.jp]