【イチオシ】
数年前に幕張メッセで「アメリカンフェスティバル」というイベントが行われ、出展の目玉として、スミソニアン博物館所蔵のアポロ宇宙船を見ることができた。たしかに実物を間近で見ることができて感激したのだが、世界有数の展示品数を誇るスミソニアンにしては、展示品がこじんまりとしていて、少々物足りなかった。
いつの日にか、実際にアメリカにある博物館に行って、所蔵されている数多くの展示品を見たいと思っていた。だが、そうこうしているうちにインターネットを利用するようになり、直接見に行く機会もないまま、その所蔵品の多さをWWW上で知ることとなった。
Yahoo!で「スミソニアン博物館」を検索してみると、想像以上に多くのサイトが候補として表示される。幅広く所蔵品を抱えているだけあって、分野ごとにサイトが分かれていたのだ。こうも多いと、どこを見ればいいのか分からなくなってしまう。そんな時、私は"increase & diffusion"というページを見ることにしている。
この「増加と拡散」というページは、スミソニアン博物館のオンラインマガジンだ。1829年に亡くなったイギリス人のJames Smithsonによる言葉で、「より多くの知識を、より多くの人に伝える」という意味らしい。月ごとにいくつかのテーマを取り上げて紹介されており、読みごたえがある(もちろん英語)。
例えば1996年12月号では、テレビでの公開討論が形成を逆転したといわれる、ケネディとニクソンの討論を中心に、各大統領の討論が取り上げられている。特に、両者の討論のポイントとなる部分が、wav形式の音声ファイルで収められ、誰でも自由に聞くことができるというのは注目だ。無論、テレビ画面上でのしぐさや表情が鍵を握っていたのは確かだが、この音声を聞いてみるだけでも、両者の駆け引きを垣間見ることができる。
そのほか、ギタリストのジミ・ヘンドリクスを扱ったものがあったり、人権問題に対する黒人たちの活動などを重みのある言葉を突きつけながら解説したりと、テーマは本当に幅広い。音声ファイルは巨大で、ダイアルアップユーザーには負担が大きいが、取り寄せるだけの価値はあるだろう。
また、スミソニアン博物館は膨大な所蔵品を展示する施設ということだけでなく、最先端の研究成果を挙げている研究機関としても注目されている。
私の得意な天文の分野では、1989年にScience誌に掲載された「銀河の3次元分布地図」があり、世界中の天文関係者を驚かせた。銀河が数十から数百個集まって銀河団を構成していることは知られていたが、その銀河団がどのように分布しているかについては、詳しいことは全く知られていなかった。Harvard-Smithsonian宇宙物理センターのMargaret J. Geller博士らが、銀河の距離を1つずつ調べて、3次元分布を描いたところ、銀河が非常に集まっているところと、ほとんど存在しないところがあることが分かったという。この地図は、非常に狭い扇形の地域を調査したもので、銀河の個数も2,500個程度だが、それでも注目を集めるには十分すぎるものだった。
スミソニアン博物館は、数多くの所蔵品を展示して人々に知識を与えるだけではなく、最先端の研究成果を発表し、人々に夢を与える機関としての役割を、今後も果たすことだろう。
('97/3/5)
[Reported by tatekawa@planet.club.or.jp]