10月6日号の日経エレクトロニクスに、「インターネットフリーザー」なるものが紹介されていた。冷蔵庫とインターネット端末が一体となったもので、写真を見ると、家庭向けの冷蔵庫の扉部分に、液晶らしいディスプレイがはめ込まれている。ディスプレイには、WWWの画面が映っており、インターネットTVのような家庭用インターネット端末であることがうかがえる。
しかし、冷蔵庫の扉にあるディスプレイの高さからいって、冷蔵庫の前に座ってゆっくりネットサーフィン…というわけにはいかない気がする。レシピ本代わりにインターネットを使ったり、ショッピングをするといったことは想像できるが、実際のところはどういう使い方を想定したものなのだろうか。
気になって調べてみると、これは、岡山県の「地域イントラネット構築実験」の1プロジェクトが研究中のものだと分かった。「インターネットフリーザー」は、回覧板、ゴミの日、学校、病院との連絡等に活用するといった地域イントラネット向けに開発されている端末なのだ。日本シリコングラフィックス・クレイ(日本SGI・Cray社)とシャープ、日本高速通信、ブイシンクテクノロジーなど6社で現在開発中という。
これはぜひとも取材をしなければ!ということで、日本SGI・Cray社、ソリューションサービス本部事業の企画部部長である永島道夫氏、プロジェクト統括部の橋本昌嗣氏にお話を伺った。
IW編:まず、プロジェクトの概要について教えてください。
橋本:昨年から岡山県で「岡山情報ハイウェイ構想」がすすめられています。これ
は、県内のすべての家庭や学校、病院、企業などをCATVと県庁WANで繋ぎ
「県民イントラネット」を実現しようというものです。その一環として、い
くつかのワーキンググループがあるのですが、その中のひとつで、平成10年
までの家庭用インターネット機器開発を行なうプロジェクトです。
IW編:家庭用インターネット機器として、インターネット冷蔵庫を考えているわけ
ですね。プロジェクト内での主な役割分担は?
永島:シャープが冷蔵庫の提供や、液晶部分などを担当。日本高速通信がネットワ
ーク。日本SGI・Crayは、イントラネットのサーバーを担当します。このほか
にも、日本ネットスケープ社など数社が参加しています。
IW編:雑誌で写真を拝見しましたが、試作機などはありますか?
永島:あれは合成で作ったイメージで、試作機は来年の4月頃から作り始める予定で
す。なので、夏頃の完成でしょうか。今年度は設計と開発です。実際に加入者
の方に使っていただくのは、来年度になります。
IW編:インターネットと冷蔵庫という意外な組み合わせに驚いたのですが、なぜ冷
蔵庫と組み合わせようと思ったのですか?
永島:パソコン以外でインターネットに繋がるものを考えると、365日、24時間電源
が入っていて、(画面が見られる)広いスペースがある、冷蔵庫が向いている
のではないかと。よく、レシピやメモをマグネットで冷蔵庫に貼ったりするで
しょう。そのメタファーです。紙とマグネットではなくて、デジタルに置き換
えたわけです。
IW編:ちなみに、ディスプレイがつくと、扉の厚さはどのくらいになるのでしょう
か?
橋本:通常の扉に、3cm~4cm増える程度です。
IW編:操作などはどうするのですか?また、使用しているハードウェアを教えて下
さい。
橋本:すべて、タッチパネルで操作します。プロジェクトにシャープさんがいること
もあり、「コペルニクス」を使ってみようということになりました。Pentiumプ
ロセッサを内蔵した、Windows 95が動作する業務用のモバイルコンピュータ
で、ザウルスのような感じです。もちろん、文字認識などもできます。
IW編:まず、レシピを見るといった使い方が思い浮かびますが、ほかにどういう利
用を想定しているのでしょうか?
橋本:伝言板などを通じて、同じ市内の人や、マンションの人など地域の交流です。
今の時代、共稼ぎの世帯が増えているので、物理的な回覧板は回っていかな
い。また、レシピがインターネットで見られる、といった使い方はもちろん
のこと、カラーカメラも付けますので、玉ねぎを買ったらピッと写すと、タ
イムスタンプが押されて冷蔵庫の在庫管理ができるといったことも考えられ
ます。また、これは賞味期限が××までだから、これを使いましょう、とメ
ニューが出てきてくれるとか。
IW編:夢のような話ですね!料理に足りないものがあれば、即インターネットショ
ッピングもできるとか?
永島:そうです。インフラさえあれば、後はアプリケーションの問題ですね。また、
IrDAもついているので、ノートパソコンやカラーザウルスなどからメモなどの
転送もできます。
IW編:インターネットの接続は、ダイヤルアップですか?
永島:考えているのは、ケーブルTVを使った専用線接続です。主婦が利用するの
に、ダイヤルアップで使うとは思えない。専用線接続的に使えて、ムービー
なども送れるようであれば、何でもいいのですが、岡山県では、県がケーブ
ルTV網に力を入れていることもあって、インフラは整っている。今回のプ
ロジェクトでは、ケーブルTVが一番有力だと思います。端末にはケーブル
モデムを内蔵します。
永島:我々が考えたのは、冷蔵庫にハブがあって、そこに家庭内LANの実にサーバー
ができて、そこからホームエリアLANをひいてパソコンとも繋がると。もしか
すると、ファイアーウォールをくっつけてみるかもしれません(笑)
IW編:冷蔵庫にハブやファイアウォールですか!それはすごい。
IW編:すでに引き合いが来ているそうですね。
永島:そうなんです。でも、タダで冷蔵庫がもらえると思ってる人もいるみたい
で(笑)
IW編:現在は実験ということですが、商用化の予定はありますか?また、価格は?
永島:価格は、現在のところ不明です。冷蔵庫本体の値段もありますし、コペルニク
スはいまのところ40数万という価格ですので、安くはないと思います。しか
し、もし岡山県の全世帯の半分でも入れば、30万台入りますから、価格は変
わってきます。現在の家電は成熟しきった市場ですから、なんとか奪回した
いところだと思います。シャープだけでなく、ほかの家電メーカーさんもプ
ロジェクトに参加する予定です。日本全世帯で6千万世帯ありますし、それの
買い換え需要はあるのではないでしょうか。名前が売れて、新たな需要が喚
起できればと思います。
IW編:ありがとうございました。
・岡山県高度情報実験協議会
http://www.okix.or.jp/
・シャープ「コペルニクス」
http://naragw.sharp.co.jp/cope/index.html
('97/11/14)
[Reported by junko@impress.co.jp]