【イベントレポート/研究】

インターネット自動車など…

慶應大学SFC研究所が各種研究プロジェクトの現状や計画を紹介する
「SFCオープンリサーチフォーラム'97」を開催

■URL
http://www.kris.sfc.keio.ac.jp/ORF97/

 慶應大学湘南藤沢キャンパスのSFC研究所は11月21日と22日の2日間、各種研究プロジェクトの現状や計画を紹介する「SFCオープンリサーチフォーラム'97」を開催した。SFC研究所はW3Cのホスト機関でもあり、アジアの拠点として機能している。

 今回のフォーラムのテーマは「ディジタルユニバーシティからディジタル社会への提言」。数多くの研究プロジェクトが紹介されていたが、この中からインターネットに関係のある興味深いプロジェクトを紹介しよう。

◆インターネット自動車
Internet Car  村井純教授が中心となって進められているプロジェクト。自動車メーカーとしては、本田技研いすゞが参加している。

 このプロジェクトのゴールは、ただ単に自動車からインターネット接続ができるというだけのものではなく、Mobile-IPやVIP(Virtual Internet Protocol)などのプロトコルを実装してネットワーク上を移動していくホストとなったり、名前とIPアドレスのペアを自動的に登録する動的DNSの導入、携帯電話やPHSといった低速の通信媒体を利用する際の通信効率の向上、アプリケーション層およびネットワーク層でのセキュリティ機能なども研究対象とされている。また、自動車には各種センサーが取り付けられ、車速、現在位置、ヘッドライトのオン・オフ、ワイパーの状態、外気温などの情報を外部から取得できるようになっている。将来このシステムが多くの自動車に搭載されれば、ワイパーの状態と車の位置を調べることで、降雨地域を特定することもできるようになるわけだ。

 プロジェクトは3つのフェーズに分かれており、現在はその第2フェーズに突入したばかり。第1フェーズ('97年7~9月)では、UNIXなど既存システムを利用した場合の移動体通信の問題点の洗い出しなどが行なわれた。第2フェーズ('97年10月~'98年3月)では、移動体通信支援パッケージなどの開発とともに、実際に国内に15台ほどのインターネット自動車を走らせ、日常のデータの収集が実際に行なわれる。第3フェーズ('98年4月~)では、装置の小型化など実用化を狙ったシステムの構築が目的となる。100台程度の車を使った実験も行なわれる予定。

 フォーラム会場には、各種装置を搭載したホンダオデッセイが展示されていたが、装置部はまだまだ大きく、トランク部を占領していた。

◆Transpublishing
 大岩元教授Ted Nelson教授が中心のプロジェクト。Ted Nelson氏といえば、Xanaduプロジェクトの提唱者で、ハイパーテキストの父と言ってもよい人物である。

 このプロジェクトの目的は、ネットワーク上での情報発信に関する諸問題、特に著作権問題の解決策の提案・実践だ。インターネットの普及により、誰もが簡単に情報発信できるようになったが、著作物の無断複製が横行することにもなってしまっている。この状態を解決するために、すべての原著作物はネットワーク上に唯一しかなく、著作物を再利用したい場合には、複製するのではなく引用したい部分にある種の参照点を設定しておき、情報を閲覧するときに動的にオリジナルを参照するようにするというもの。こういった動的な参照によって引用関係を明確にする概念を「Transclusion」と呼ぶ。現在のHTMLでも画像データについてはこの方法が取れるが、これを拡張してテキストや表などすべてのデータで動的参照を実現させるのが狙いだ。

 また、他の著作物を再利用する場合、再利用者と原著作者がその都度合意を取っていたのでは大きな負担が両者にかかることになる。そこでTransclusionを使って情報を再利用する限りにおいては、原著作者の許諾は自動的に得られるという基本的な合意条件「Transcopyright」が必要になってくるとしている。これに付随して、著作権料などの支払いのための電子決済システムの構築も今後の課題とされている。

 フォーラム会場では小倉百人一首をTranspublishを使って再構築する試みがなされていた。

('97/11/25)

[Reported by nagase@impress.co.jp]


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