第65回レポーター: 長谷川敦士氏
■URL
http://starlogo.www.media.mit.edu/people/starlogo/
ものごとを理解するときには、なにか中心となるものを想定して、そこからそれぞれの細かいものごとを理解していくというやりかたが往々にしてとられると思う。例えば、車の動作なら運転席の人が車をすべて操作しているわけで、直感的には車の動きというのは運転手の意識下にあると理解されるだろう。
しかし、世の中にはそういった方法では理解できないこともある。例えば、アリは眺めていると実によく統制がとられているように見えるのだけれど、1匹1匹のアリは別に誰に指示を受けているわけでもなく、勝手に動いているのだ。
そういう「非中央集権的」なものというのは得てして直感的ではなく、どうしても「中央集権的」な考え方でものごとに接してしまいがちではないだろうか?だから車が渋滞していると、「どこかで事故でもあったのかな?」とすぐに考えてしまう。しかし、本当にそうかといえば、車の渋滞は直接的なところ以外に原因があったりするのだ。でも、普通はそんなふうには考えないものだろう。そういう人の考え方を柔軟にするためにMIT(マサチューセツ工科学大学)のメディアラボで開発されたのが、今回紹介する「StarLogo」である。
この「StarLogo」は「Logo言語」をベースとした、シミュレーションを作るアプリケーションで、先に述べた「非中央集権的」なものごと(のシミュレーション)を自分で作れるいうものだ。タートル(カメ)と呼ばれるStarLogoの中の住人に、簡単な規則の動作を指示すれば、そのタートルは自分で勝手に動き出す。そういうタートルをいっぱい作ってやれば、それぞれは勝手に動くのだけれど、全体としては規則性のようなものが現われてきたりするのだ。タートルというのはオブジェクトで、そのオブジェクトの動きをプログラム言語で規定する、それらのオブジェクトが自主的に個々に動作するということになる。
こんなふうに書いてもよくわからないかもしれないが、たくさんついてくるサンプルを試してみると、交通渋滞は車の加減速のペースの違いによって起きていることが一目瞭然で、1匹1匹はばらばらなアリがコロニーとしてまとまっているのも理解できる。また、物理的な現象、例えば波打つロープの動きの理由なども視覚的に理解できる。
ふだんそんな風に「非中央集権的」になどものごとを捉えたことがなかったとしても、StarLogoで頭をトレーニングすれば、自然のできごとが頭の中によりスッキリ理解できるようになるだろう。なんといっても自然のできごとは、そのほとんどがここで言っているような「非中央集権的」なできごとなのだから。
このStarLogoはフリーのソフトウェアで、現在Macintosh版がリリースされている(PPC、68K用)。なお、Windows
95版も現在開発中とのことだ。プログラムの経験のない人には、一からシミュレーションを作るのはちょっと難しいかもしれない。しかし、多少のプログラム経験のある人ならいろいろと面白いモデルを作れるだろう。また、サンプルのデータの動作の様子を収録したQuickTimeムービーも多数用意されているので、まったくプログラムができない人でも、それらが簡単なタートルのルールによって記述されているのを眺めているだけでも十分楽しめるだろう。
('97/12/09)
[Reported by hase@cyberdude.com]