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【レポート】

インターネットと音楽のイベント「Plug.in」レポート

デジタル配信で音楽市場のパラダイムが変わる

■URL
http://www.jup.com/events/forums/plugin/ (Plug.in)

 米国のインターネット業界と音楽業界によるコンファレンス/展示会「Plug.in」が、ニューヨークのCrown Plaza Hotelで7月15日から16日まで開催された。主催は、市場調査会社のJupiter Communications社。オンラインCD販売企業やストリーミングメディア企業など多数の関連企業が参加した。
 今年で3回目を迎える同コンファレンスでは、CD販売サイトの「CDnow」や「N2K(MUSIC BOULEVARD)」、また、音楽配信ソフトを開発する「Liquid Audio」など各社がブース展示やパネルディスカッションを行ない、ストリーミングメディアやデジタル配信を含むインターネット技術が、今後いかに消費者市場のパラダイムを変革するかについての展望を示した。


オンライン販売に寄せる期待
Olim氏 初日に行なわれたオンライン販売に関するパネルディスカッションでは、CDnowのJason Olim社長、N2KのLarry Rosen会長兼CEO、Polygram New Business TechnologyのJim McDermott副社長、Tower OnlineのMike Farrace副社長などがパネラーとして登場し、今後のオンライン販売について激しい議論を繰り広げた。

 まず、Amazon.comの音楽事業への参入に関して、CDnowのOlim氏(写真上)は「Amazonは人気製品しか置かないスーパーマーケットのような存在で、CDnowのように大量のニッチ市場向けコンテンツを持っていない」ので、消費者はよりパーソナライズが可能なCDnowを選択するだろうと語った。

 また、活発に発言したN2KのRosen氏(写真下)は「将来的にはどこからCDを販売するかは問題ではない。我々はすでにAOLやNetscapeと提携し、彼らのサイトでCDを販売している。レコード会社にとってはどの流通ルートからでもCDが売れることには変わりないので、Amazonのようなオンライン大型販売サイトがCD市場に参入するのもごく当然の流れだといえる」と語った。

Rosen氏 一方、PolygramのMcDermott氏は、N2KやCDNOWのようなオンライン販売サイトがレーベル的な役割を果たす可能性についての懸念をあらわにしながらも「我々は新たな提携モデルを模索している。オンライン販売に対して批判的に見るのではなく、新たな流通ルートが開拓されたと見る方が自然だ。我々の製品ができるだけ多くのルートから販売されることは喜ばしいことだ」とRosen氏に同意した。最終的に、オンライン販売はコンテンツとコマースが合体した一体型コミュニティを創出し、音楽業界全体を変えることになるという点で全員意見が一致した。




●RealNet会長、ストリーミングの未来を語る
 同日午後に行なわれた基調講演「ストリーミングメディアの将来」では、RealNetworksのRobert Glaser会長兼CEOが、インターネットが音楽業界に与える重要性、またコンテンツ配信モデルの標準策定について語った。
 同氏は、メディアとしてのテレビとインターネットを比較し「インターネットのユニークな点はグローバルでカスタマイズ可能、またチャンネルキャパシティが無限大にあることだ」と語った。また「デジタル配信は必然的な流れであり、これを実現するためには高帯域、暗号化、電子透かし技術、私的利用と権利のバランスの確立が必要だ。ブロードキャストの質と信頼性を高めるコンテンツ配信モデルの新たな標準策定が急務である」と語った。
 さらに、MacromediaのFlashテクノロジーを使用した「Honkworm」など新たな種類の番組は、アーティストに多数の視聴者を作る機会を提供し、リッチメディアコンテンツによるオンライン広告収入、購読費、ダイレクトマーケティングなどの収益モデルを確立するものになるとも語った。


●Liquid Audioのブースに人気集中
 会場ではウェブキャスト企業、カスタムCD企業、またデジタル配信企業やストリーミング技術開発企業などが所狭しとブースを構えていた。特に人気のあったブースは、CDの製造および流通コストを大幅に削減し、ユーザーの選択肢を大幅に広げるデジタル配信技術を開発しているLiquid Audioだった。同社のマスター/エンコーディングツール「Liquifier」は、音楽データを暗号化し認証ユーザーしか音楽を聴くことができないようにし、電子透かし技術により音源をたどることを可能にするシステムである。関係者によると、同社は日本の大手エンタテイメント企業と契約を結び、3カ月以内に日本市場へ進出する準備を進めているという。
 一方、AT&T子会社のa2bも同様な技術を開発しているが、Liquid Audioのようにユーザーが音楽をCD-Rに録音することはできない。同社はユニークなサービスとして、音楽サンプルつき電子メール配信サービス「a2b MAIL」を行なっている。


●業界の流れはデジタル配信へ
 今年のコンファレンスでは、音楽業界の流れがデジタル配信へと進んでいることが確実になったものの、標準策定や帯域幅などの問題により、デジタル配信の一般普及にはまだ時間がかかるものと考えられる。通常の音楽CDは約650Mバイトの情報量を有しており、家庭用モデムを使用した場合、1曲をダウンロードするのに30分以上もかかってしまうのが現状だ。しかし、Jupiterでは120億ドル市場といわれる音楽市場のうち、5年以内に3000万ドルがデジタル配信になると予測しており、技術面や知的所有権の問題が解決されれば同数字はさらに高くなることが見込まれている。音楽業界全体は現在、大幅な流通パラダイムの移行期に差しかかっているといえる。

('98/7/21)

[Reported by HIROKO NAGANO, iMMERS Inc.]

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