【特集】
経済企画庁によると、カラーテレビの普及率は99%。郵政省によると、電話の普及率は93%(加入電話回線)。ほぼ全家庭にこの2つが普及していることになる。あと初期費用として5万円、そして月々数千円ずつ支払えば、誰でもインターネットを利用できる。そう、インターネット・セットトップボックスだ。
本誌を購読しているあなたにとっては別段嬉しい話ではないかもしれない。しかし、あなたがインターネットを利用していることを知って、同じように利用してみたいという家族や友人が一人や二人、きっといるに違いない。そんな人にウン十万円もするパソコンを導入してもらうのは至難のわざ。そういう時こそ、インターネット・セットトップボックスをすすめてみてはいかがだろう。家族や親しい友人のためにピッタリなものをあなたの手で選んであげよう。
iBOX |
インターネットを利用するにはパソコンを持ってないといけない。一昔前まではそれが常識だった。しかし、'96年2月に日本電算機が「iBOX」なる製品を発売、その常識が非常識に変わった。
iBOXは、「テレビと電話回線があれば、誰でもネットサーフィンや電子メールのやり取りを楽しめる」というコンセプトの下に開発された黒い箱。28.8kbpsモデム内蔵で58,800円。これが全国の家電ショップの店頭に並んだ。
赤外線リモコンを使ってテレビ番組を見ている感覚でネットサーフィンできるということ――。正直言って、パソコンを持っている人にはあまり嬉しくない。でも、ネットサーフィンをするために、ディスプレイをあわせて数十万円もするパソコンを購入するのはもったいない。そんな人をターゲットに売りに出されたのがiBOXだった。
その後、'97年11月にはMicrosoft資本の入ったWebTV Networks社が国内でサービスを開始、ソニーが専用のセットトップボックスの販売にあたった。'98年4月にはNECホームエレクトロニクスが着脱式デジタルカメラ搭載の「MULCO」を発売。今年9月末にはドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が、オラクルの子会社Network Computer社(NCI)の作り出した「NCTV」規格を使ったサービスの提供を開始する。さらに、松下電器は今年の年末商戦にWebTV用のセットトップボックスを売りに出す予定になっている。
ここに並んだ豪華な社名が物語るのは、それがおいしいマーケットになる可能性を秘めているからに他ならない。
WebTV |
誰もが一度は使ってみたいと思うインターネット・セットトップボックス。iBOX、WebTV、MULCO、NCTVと、イベントへ出品されるとたちまち人だかりができるのに、その多くは実際に購入するには至っていない。なぜなのか?
その理由として、本誌の読者のように、インターネットに興味を示す人の大部分がすでにパソコンを所有しているということが挙げられる。インターネットの技術自体が未だに発展段階で、最新の技術を使いたければ、拡張性に優れたパソコンを持っていた方がいいに決まっている。
HTMLの仕様やプラグインなどについては、ソフトウェアのアップグレードで対応できるが、限られたメモリの中でそれら全てを動かすには無理がある。加えて、モデムのようにハードウェアそのものの交換を必要とする技術進歩もある。
そんなわけで、常に最新のテクノロジーを追いかける人たちにとっては、それほど魅力的に感じられなくとも致し方ない。
しかし、問題はそれ以外の人たちがなかなか飛びついてくれないところにもある。
米国で売れても、日本ではなかなか売れない。その原因の一つは、電話料金体系の違いにある。オフラインでメールの読み書きができること。たったそれだけのことではあるが、現時点でそれができるのはMULCOだけだ。もちろん文化的相違も影響しているかもしれない。例えば、キーボードの配列をアルファベット順や50音順に並び替えるといった、パソコンやワープロを触ったことのない日本人向けに工夫する必要もあるだろう。
MULCO |
コンシューマー向けに作った製品が、家電ショップの店頭ではなかなか思うように売れない。メーカーにとって、これほど頭の痛い話はない。そこで考え出されたのが、自治体や大学の図書館、ホテル、マンションなどへの一括納入だ。
かの山田村は、村の活性化を願って希望する世帯の全てにパソコンを配布した。しかし、これはかなり例外的な話で、国や県による莫大な補助金があったから実現したケースだ。そこには1世帯につき20数万円という過疎の村にとって非現実的なお金の動きがあった。これに対し、機能は限定されるが1台5万円前後というインターネット・セットトップボックスは、かなり現実的な商品なのかもしれない。
市場が成熟するまでは、こうした一括納入で食いつなぐ。それが現状だ。
そんな中、9月末に投入されようとしているNCTVに関するオラクルのビジネスモデルは、最初から他社のものと異なり、かなり割り切ったものとなっている。
製品の販売 | 規格のライセンス | コンテンツの提供 | |
iBOX | ○ | × | △ |
MULCO | ○ | × | △ |
WebTV | × | ○ | ○ |
NCTV | × | ○ | × |
iBOXとMULCOは、製品の販売そのものから収益を上げるビジネスモデル。コンテンツもある程度は提供するが、基本的にインターネット任せだ。
WebTVは、規格を他社にライセンスし、製品の製造・販売を行なってもらい、そこから得られるライセンス・フィーと、自身によるコンテンツの提供による売上で収益を上げようというビジネスモデル。
これに対しオラクルは、規格を他社にライセンスし、製品の製造・販売を行なってもらう。さらに、コンテンツの作成もプロバイダーに任せてしまう。ただし、運用には管理ソフトおよびNCカード(Custom Connect Server Suite)が必要で、それを販売することで収益を上げられるという寸法だ。このオラクルのビジネスモデルでは、エンドユーザーの獲得に関するリスクがほとんどない。
また、NCTVはインターネットへのアクセスを必ずしも前提としているわけではない。例えば、さくら銀行では、NCTVを利用したオンラインバンキングサービスを予定している。さくら銀行が設けた専用のアクセスポイントへダイヤルアップし、イントラネットのようにセキュリティを保ちつつ、バンキングサービスを提供するというものだ。
ただし、こうしたソリューションでは、プロバイダーや銀行などがかなりの負担を負うことになる。こうしたサービスの場合、エンドユーザーに5万円前後の端末を購入させることは難しく、サービス料に薄く上乗せする形でレンタルすることになる。
はたしてプロバイダーや銀行にとって、そんなビジネスモデルが成立するのか。少なくともDTIとさくら銀行は成功すると見込んでいる。
NCTV |
インターネット・セットトップボックスは今後、間違いなくテレビ放送との融合を果たすことになるだろう。もっとも、そうしなければ売れなくなる。
テレビ局は、番組の中にHTMLや画像データなどの情報を埋め込んで放送する。セットトップボックスがこれを解釈し、通常の放送のスクリーンの上にオーバーレイさせる形で付加情報を表示する。ユーザーは、そこでリモコンのボタンを押すことにより、自動的にセットトップボックスがダイヤルアップ、関連情報をインターネットから引き出せる。
例えば、野球中継の場合、テレビの放送では打率や防御率、アウトカウントや得点、他球場の試合経過など、様々なデータが紹介されるが、こうした情報を見たい時に取り出せるようになる。さらに、今バッターボックスに入っている選手の生涯打率や年俸など、より詳細なデータを自由自在に参照することもできる。
また、コマーシャルや今はやりのテレフォンショッピング番組にこれを利用した場合、放送中にショッピングサイトへのリンクを埋め込んでおけば、ユーザーはその場で商品を購入することができるようになる。衝動買いを誘うにはうってつけのテクノロジーだ。
日本国内ではNCTVがDTIと手を結び、そんなソリューションを他に先駆けて9月末から提供することになる。WebTVも米国ですでに同様のサービスをスタートしており、国内でも年内のサービス提供開始を目指している。iBOXにも将来的に同様の機能が組み込まれる見込みだ。
また米国では、放送業界、家電業界、コンピュータ業界の代表的な企業で構成される標準化団体「ATVEF(Advanced TeleVision Enhancement Forum)」が設立され、電波のすきまを利用した情報提供の基本的な枠組み作りに取り掛かっているところだ(本誌7月30日号参照)。
さて、欲しいと思って、とりあえず気になるのはその値段。いずれも5万円前後に価格設定されている。ただし、インターネットに接続するには、当然プロバイダーとの契約が必要になる。また、WebTVの場合、コンテンツ利用料として月々1,000円(「OPEN ISP」の場合)が別途必要となる。
NCTV以外は全国の家電ショップで販売されている。一方、NCTVは直接購入することは不可能で、プロバイダーやケーブル会社との契約して、そこから提供される。ちょうどケーブルテレビのセットトップボックスやWOWOWのデコーダーのような形態だ。
iBOX | 49,800円 | (iBOX-1の実売価格) |
WebTV | 45,000円 | (ソニー製) |
MULCO | 55,000円 | (デジタルカメラなし、デジタルカメラ付は75,000円) |
NCTV | 50,000円前後 | (店頭購入は不可) |
インターネットを利用するにはプロバイダーと契約する必要がある。
iBOXの場合は、ダイヤルQ2(interQ)を利用することができるほか、条件にあわせてプロバイダーを選択できる「ISPプログラム」が付属している。
WebTVの場合、自前の回線網を持っているので、市外局番を入力することで近くのアクセスポイントを自動的に選んでくれる。すでにプロバイダーと契約しているなら、そのアクセスポイントに設定することも可能。
MULCOにはBIGLOBEの体験アカウントが付属しており、とりあえず利用したい場合はこれを利用するといい。
NCTVの場合、基本的にプロバイダーやケーブル会社との契約が先になる。プロバイダーごとにNCカード(ICカード)が配布されるので、それを本体に差し込むことで利用できる。
iBOX | 33.6kbps | (iBOX-1) |
WebTV | 56kbps | (K56flex) |
MULCO | 33.6kbps | |
NCTV | 33.6kbps |
K56flexをサポートしているWebTV以外は、いずれも33.6kbpsのモデムを内蔵している。ただし、「SUPER iBOX home」はRS232C経由でTAに、「SUPER iBOXc」および「iBOX-1c」は10Base-T経由でLANやダイヤルアップルータ、ケーブルモデムなどに接続することもできる。また、NCTVはオプションで10Base-Tのインターフェイスも用意されている。
iBOX | HTML 3.2、JavaScript、RealAudio/Video 5.0 |
WebTV | HTML 3.2、JavaScript、RealAudio 3.0 |
MULCO | HTML 2.0 |
NCTV | HTML 3.2、JavaScript、RealAudio 3.0 |
画面の見え方は、サポートしているHTMLのバージョンやプラグインに依存する。MULCO以外はHTML 3.2やJavaScript、RealAudioといった標準的な規格をサポートしている。中でもiBOXは、RealVideoやSoftwareVisionなど、ストリーミング放送を他社に先駆けてサポート。また、WebTVとNCTVには、画面からはみ出さないように画像を小さくする機能が搭載されている。WebTVは中継サーバーで、NCTVは各端末でこの処理をしている。このほか、WebTVにはフリッカー(画面のちらつき)を抑えたり、表示をなめらかにしたりする機能が搭載されている。
もちろん全ての製品で電子メールを利用できる。しかし、MULCO以外はサーバー側でメールを管理しているので、読もうとすると電話料金やアクセス料金が発生することになる。また、WebTVとNCTVはメールを書く場合もサーバーに接続する必要がある。ただし、WebTVは書いている途中で回線を切断し、オフラインで書き続けることができる。なお、いずれの製品も音声や画像を添付することができる。入力はビデオ端子で可能。
■iBOX
http://www.jcc.co.jp/ibox/
元祖インターネット・セットトップボックス。'96年の発売以来、約10万台を出荷している。一般家庭向けの「iBOX-1」、TAに繋いでISDN接続も可能な「SUPER
iBOX home」、10Base-Tインターフェイスを持ち、ケーブルモデムやダイヤルアップルータの利用が可能な「iBOX-1c」、さらにキーボードやマウスを繋いでLAN環境で利用することを前提に設計された「SUPER
iBOXc」と豊富なラインナップ。RealVideoやSoftwareVisionを使った独自の番組提供も行なっている。
◎端末販売:日本電算機株式会社
■WebTV
http://webtv.co.jp/
WebTVの特徴は、季節にあわせた情報など、専用コンテンツ提供までを含む木目細かなサービスにある。電子メールやネットサーフィンのほか、ニュースグループの購読やIRCチャットができるのはWebTVだけ。さらに、家族で利用することを前提にしているため、子供向けのフィルタリング機能(SurfWatch)も搭載されている。ただし、月額2,000円(15時間以降5円/分)という利用料金が発生することになる。別途プロバイダーと契約していて、WebTVのアクセスポイントを利用しない場合は、月額固定1,000円で利用可能だ。
◎端末販売:ソニー株式会社
◎サービス提供:ウェブ・ティービー・ネットワークス株式会社
■MULCO
http://www.nehe.nec.co.jp/j_s/ap/mulco/index.htm
MULCOは、ネットサーフィンではなく、コミュニケーションを利用目的の中心に添えている。そのためWebの表示については最低限のものしかサポートしていない。しかし、受信メールを端末側に保存しておくことができるのは、今のところMULCOだけ。日本の通信環境を考慮した設計だ。また、デジタルカメラ付のバージョンもあり、メールによるコミュニケーションも音声と画像で、というのがこの製品の基本的な使い方。キーボードが用意されていないのはそのためだという。
◎端末販売:日本電気ホームエレクトロニクス株式会社
■NCTV
http://www.oracle.co.jp/
(NCTVに関する情報は提供されていない)
いち早くテレビ放送との融合を果たした。小画面でテレビを見ながらネットサーフィンすることができる。電波の隙間を利用したデータ配信の規格「ADAMS」(テレビ朝日)をサポートしており、番組に関連したホームページにワンボタンでアクセスしたりすることも可能だ。ただし、プロバイダーやケーブル会社と契約し、本体とNCカード(ICカード)が配布されるという販売形態で、店頭購入することはできない。提供されるコンテンツやサービスの内容もプロバイダーやケーブル会社ごとに異なる。
◎端末販売:Acer社ほか
◎サービス提供:株式会社ドリーム・トレイン・インターネット、さくら銀行ほか
('98/8/31)
[Reported by yuno@impress.co.jp]