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【イベントレポート】

教育の未来を探る「インターネットと教育フォーラム」

■URL
http://sagasu.jr.chiba-u.ac.jp/forum.html

 15日、全国の教育関係者が千葉大学に集まり、「インターネットと教育フォーラム」が開催された。

越桐國雄氏  講演のトップバッターは、教育に関連するリンク集「インターネットと教育」を運営している大阪教育大学の越桐國雄氏。インターネットを教育のためのリソースとして使うという観点から自らの取り組みについて説明した。

 同氏によると、11月の時点でホームページを公開している学校は、全国42,000校のうち12%の約5,000校。文部省の計画通り、2003年までに全ての学校がインターネットに繋がり、その時点で4割程度の学校がホームページを公開しているとすれば、今後も毎週50~60校のペースでその数が増えていくことになるという。


芳賀高洋氏  次に、千葉大学教育学部附属中学校の芳賀高洋氏が講演。同氏は、全国の学校のホームページの内容を検索できる「学校検索」や、子供向けの検索サービス「み~つけた」を運営しており、その生い立ちについて述べた。同氏は、「制服」や「ブルマー」のような学習目的で用いられているとは思えない検索要求もあり、あまりに卑猥な言葉を検索できないようにする機能を搭載したが、それでもその基準を判断するのは難しいと語った。


原田昌紀氏  そして、日本で2番目にできたロボット型検索サービス「ODIN」を立ち上げ、同サービスで用いている検索エンジンを「Freya」というフリーソフトウェアとして公開したNTT光ネットワークシステム研究所の原田昌紀氏が特別講師として登場。全文検索の仕組みを説明した後、Webや検索サービスを教育に利用するメリットとデメリットについて語った。

 「社会や世界への扉となったり、主体性を持って情報を調べる能力や情報発信の能力を身につけたりと、教育にインターネットを活用することによって得られるメリットは色々と考えられる。しかし、利用上の問題として、「URL」のような専門用語を子供が理解できるかどうか。あるいは、技術進歩が早く、教科書ができるのを待ってはいられないなど、現実面での問題が沢山ある」という。

 また、様々な有害情報への対応策としてフィルタリングやレイティングなどの手法があるが、それぞれに問題がある。同氏は「例えば『女子高生』という言葉自体は決していかがわしいものではなく、自動フィルタリングにはかなり無理がある。また、レイティングについても、表現の自由との関連で実現がなかなか難しい。かといって、利用者の認証を行なうと、プライバシーの侵害になる可能性もある」と指摘した。

 同氏は「そう考えてみると、学校専用の検索エンジンは、現実的な解決策として魅力的。学校サイトだけが対象となるのでフィルタリングは不要だし、利用者と利用目的を限定できるので認証も不要」と続けた。

 現在、分散検索システムの研究をしている同氏。これは各分野ごとに中小規模の検索エンジンを立ち上げ、それぞれが協調して働く仕組みだが、指数関数的に増加する情報量とアクセスに対応するものとして注目されている。


渡部昌邦氏  続いて、通産省の「100校プロジェクト」に現場で携わった3人がそれぞれの活動をレポートした。

 1人目は福島県教育庁の渡部昌邦氏。同氏が中心となって活動しているボランティア組織「あぶくま地域展開ネットワーク研究会」の活動を紹介。その経験から「ネットデイは単なるスタートで、継続してやることが重要」と語った。


石原一彦氏  2人目は大津市立平野小学校の石原一彦氏。同校で実際に行なっているインターネットを利用した授業内容を紹介。同氏はWebの利用パターンを情報収集、情報発信、情報交流の3つに分類し、これに促して授業を展開しているという。コンピュータやインターネットの利用を通して友達の良いところを見つけたり、わかりやすく文書に表現できるようになったり、さらには、検索サービスの利用を通してインターネットの情報がいつも正しいとは限らないことや、時には危険な情報も含まれていることに気付いたりするなどの観点で授業が進められているという。こうした標準的な情報教育カリキュラムの開発が急務だと指摘した。


高橋邦夫氏  3人目は東金女子高等学校の高橋邦夫氏。2003年には全国各校へのインターネットが導入され、高校では「情報科」が国語科や数学科と同じように必修科目となり、コンピュータの基本操作から、現代社会における情報の意義と役割などを教えていくことになる予定だ。そうした動向を一通り説明した後、同氏は「学校だけではなく、生涯学習という意味でインターネットが有益」と語り、それを視野に入れた教育学習環境を整備することの重要性を訴えた。


土屋俊氏  午後に入り、千葉大学の土屋俊氏が「情報倫理と教育」というテーマで講演。同氏は「誹謗中傷や猥褻表現など、インターネット上の倫理についての様々な議論があるが、これらは特に『情報倫理』と呼ぶべきものではない。インターネットは特別だと考えるのは間違いで、その価値観というのは一般社会におけるそれを同じ」と語った。また、「いわゆるネチケットと呼ばれるものは倫理とは別の話」とも指摘。

 そうした議論よりも、むしろインターネットの普及によりもたらされるプライバシーや著作権といった価値観の変化から来る今までにない利益の対立を、どうやって調整していくかが重要だと述べた。


宮澤賀津雄氏  次に登場した川崎市立総合科学高等学校の宮澤賀津雄氏は、米国における学校でのインターネット活用事例を紹介。同氏によれば、「米国ではインターネットと言ってもWebの利用が中心的で、学校における電子メールの利用については、極端な場合、禁止されているところもある。メールを教育に活用しようとしているのは日本と韓国だけ。実際に生徒のいたずらが訴訟にまで発展したり、サーバーが踏み台にされたりすることがあり、そうなるとそれを許した学校にも責任がある、というのが米国での一般的な考え方。メールについては、各家庭での利用が一般的で、場合によっては学校がプロバイダーに業務委託するというケースもある」という。

 米国では教師に対するトレーニングも充実しており、運用面でのサポート体制も確立されている。日本でも同じように、指導者の育成やカリキュラムの整備、助けを求められるヘルプデスクが必要、というのが同氏の考え方だ。また、日本の場合、教育現場へのインターネットの導入について、目標が明確でないところにも問題があるという。


伊東正明氏  最後に、スマートバレー・ジャパンの伊東正明氏が、シリコンバレーの「スマートスクール」という活動を紹介した。この活動の目的は、教育環境を整えることによって地域の活性化を図ること。現在では、1校あたり25の教室にインターネットに接続された端末が置かれるまでになり、技術者のボランティア活動への積極的な参加が重要な要素となっているという。コミュニティ全体で活動を支えることが成功の秘訣だと語った。

('98/11/16)

[Reported by yuno@impress.co.jp]


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