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【イベントレポート】

カード型チケットを利用した「hide with Spread Beaver」ライブレポート

インターネットでコンサート運営が変わる~「e-ticket」の野望

■URL
http://www.e-ticket.net/
http://www.live.co.jp/hide (hide)

ごった返す会場 11月18日、「hide with Spread Beaver」のライブ(横浜アリーナ)では、日本のコンサート初の試みが行なわれた。試みは小規模なものだが「インターネットを使ったチケット販売」の将来像を窺わせるものであった。

 実験は、オンラインでチケットの購入予約/販売を行なっている「e-ticket.net」によるもの。内容は「インターネットでデジタルのチケットを販売」、「チケットに非接触型ICカードを利用する」の二本柱だ。

 同社は、これまでも坂本龍一のコンサートチケットなどをオンラインで販売している。デジタルデータによるチケットが特徴で、フロッピーディスク(FD)に記録したデータを「デジタルチケット」としてコンサート会場に持参する方式などを取っている。

e-ticketカードとは
e-ticketカード 今回のデジタルチケットには、非接触型ICカード方式が採用された。名称は「e-ticketカード」。ホームページ上でチケットを購入し(決済はカード、現金書留、銀行振替)、まずe-ticket.netのデータベースに購入者として登録。すると公演情報などが書き込まれたICカードが郵送されてくる。入場時にICカードのIDをデータベースに照会。認証後はじめて、その公演の電子チケット(および入場済みの印)が書き込まれるというしくみだ。なお、ICカードは、2回目以降IDの照会として機能するので、次回からはホームページ上でチケットを購入したら、カードを会場に持っていくだけでよい。

 従来のFDによる方法では、データの破損によりチケット情報が読み込めず、氏名やパスワードなどを口頭で確認しなければならなかったり、FDの読み込み速度が遅いため、大規模公演での利用が難しいこともネックとなっていた。今回のICカード採用では、データの破損が防げるとともに、入場時のチケット確認が迅速に行なえるというメリットがある。hide with Spread Beaverのコンサートが、このe-ticketカードの利用第一弾となる。カードはhideオリジナルのデザイン(写真)で、ファンにとってプレミア感の高いものになっている。

コンサート会場、入り口ゲートでは
入場ゲート 開演前、会場の前にはすでに数千人単位のファンが列をなしている。入場のため、または、当日券を買うためだ。定刻を少し過ぎ、いよいよ開場。どっと人がなだれ込む。観客達が殺到する入場ゲートの一角に異常に空いているゲートが一つある。それが、今回の「e-ticketカード」のためのゲートだ。

 実際の利用者が少ないこともあり、常時そのゲートは客がスムーズに流れている。通常は、チケットを係員に見せて半券をちぎってもらうチラシをもらうカメラチェック入場となるが、ここでは、チケットを見せる代わりに持参したカードを専用のリーダーにかざすことになる。カードの認証にかかる時間は1~2秒ほどだ。その後は通常通りカメラチェック、入場となる。

係員
となりでは
カードの認証
半券をちぎる係員(大混雑) ICカードですいすい
カードをかざしている データの画面
カードはかざすだけ 認証時もデータ画面

 カードの認証に使用されるのは、カードリーダーとWindowsベースの専用アプリケーション。ゲートシステムは、株式会社SASジャパンが開発したシステムを使用している。システムは、カードを読みとると同時に客の氏名、e-ticketID、メールアドレス、電話番号、購入日時など登録された情報を直ちに表示しデータベースに蓄積する。発行枚数、現在の入場者数などの数値も一目瞭然だ。なお、今回のライブでは、約300人がe-ticketカードの登録をしていた。

指定席はどこだ
mms もう一つの利点が会場での席探しだ。大規模な会場になると自分の席が分かりにくく、係員に聞くことが多い。今回の会場では、専用の情報端末「Multi Media Station(MMS)」が5台設置され、e-ticketカードによる入場者は、端末のリーダーにかざすだけで自分の席を確認できるようになっていた。この端末は、日本IBM株式会社によるもので、「ローソン」「サンクス」などのコンビニに設置しているものと基本的に同じものだという。端末の内部には、ごく普通のパソコンとカラープリンターを設置しており、カバーを開けたところは「液晶ディスプレイのついたラック」といったところだ。会場では、サーバーに蓄積された入場客の情報を、端末側からリアルタイムで参照できるようになっている。Oracle社製のデータベースを使い、ネットワークはWindows NTベースで構築しているとのこと。ただし、会場によってはオールスタンディングの場合もあるので、全てのライブでこのシステムを導入するというものではない。

座席を探す 座席画面
座席を探す人々 座席表示画面

 今回会場でのネットワーク環境を構築した日本IBM、また、ICカードの認証システムを提供しているSASジャパンによると、今後同様のしくみを展示会の事前登録や入場システムなどに応用したいとしている。

e-ticketカードの利点
 観客にとって、e-ticketカードの利点は、入場時のスムーズさだけにあるのではない。チケット購入時にこそその威力を発揮する。「(購入が)楽だった。買う時に席を決められるのがよかった」。これは、茨城県から来たファンのコメントだ。通常多くの場合は、「ぴあ」などのチケット予約センターに電話をし予約する。その後チケットカウンターで席を選び購入するという流れだ。予約の確認には「予約番号」が必要で、忘れないためには紙にメモしておく必要があるかもしれない。e-ticketでは、24時間好きな時間にその場で席を指定してチケットを購入できる。予約番号の必要もない。一般の客にとってはその部分が一番便利な点であろう。席の確認では、実際にその位置からどのようにステージが見えるかシミュレートし3D画面で表示するなど、うれしい工夫もされている。

e-ticketの功労者
 今回のコンサートの主役であるhideは、e-ticketの採用に積極的なアーティストであった。しかし、新聞等で大きく取り上げられており記憶に新しいところだと思うが、hideは'98年5月に他界している。

 生前hideと親しかった関係者によると、hideはe-ticketの販売のみによるコンサートを構想していたという。また、e-ticketでは購入者の氏名、座席位置が事前に分かるため、座席に名札を貼り付けたり、ステージからファンの名前を呼びかけたりといった演出も考えていたとのこと。自身のホームページではページの作成、管理を自ら行なっており、掲示板への書き込みも積極的だったという。

 今回のコンサートでは、会場に設置された3つの大スクリーンにWWWブラウザーNetscape Navigatorの画面を映しだした。ホームページに表示されたメンバーの名前をクリックすると画像が出ると同時に、ステージ脇から本人も登場するというしかけだ。また、開演前には、同スクリーンにhideのホームページにある掲示板コーナーを表示し、ファンの書き込みを会場の観客がリアルタイムで見られるようにしてあった。このようなアイディアも生前からhideが温めていたものとのこと。「(インターネットを取り込んだコンサートの)アイディアが泉のようにどんどん湧きででくる人でした」と関係者は語っている。なお、今回のコンサートでは、残されたボーカルトラックにバンドの生演奏を加える形で行なわれた。

e-ticketの目論見
 ICカード「e-ticketカード」の単価は800円(オーストリアSKI DATA社製品。単価はデザイン料別)。今回はオリジナルデザインのカードで一般客向けの発行枚数は約300枚とコスト的に高くついた。事実e-ticketによると今回は「赤字」であるという。しかしこの事実をもって今後の行く末を判断することはできない。

 e-ticketでは、次世代のコンサート運営システムソリューション「トータルライブ」を構想している。これは、舞台美術、スタッフ、など運営に関わる作業をインターネットを活用して効率的に行なおうというもの。スタッフ間の会議システム、役所に提出する書類の作成ツールなど、実際の現場で行なわれている様々な煩雑な作業をトータルにサポートするという。インターネット経由のデジタルチケットの発行もそのシステムの一環という訳だ。

 また、今回はICカードを利用したが、ICチップ内蔵の腕時計など他のツールの利用も考えているという。従来のコンサート運営に比べ、トータルでかなりのコストダウンが望めるとのこと。将来的にプロモーターなどにシステムの販売を進めていく考えだ。

 なお、e-ticketカード利用のコンサートとしては、12月7日からの坂本龍一「SKMTPBTTBMPD98」がある(すでに売り切れ)。具体的には決まっていないが、e-ticketでは今後もカード利用のコンサートを実施するとのこと。

('98/11/19)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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