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【業界動向】

音楽配信はどうなる!「JASRAC vs. NMRC」
 ~暫定合意はしたけれど…

 11月26日、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)とネットワーク音楽著作権連絡協議会(NMRC)は、インターネット上での音楽利用に関する著作物使用料について暫定的な合意を発表した。本誌ほか新聞などでも報道されたので関連記事を目にした人も多いだろう。今回は、この発表に至るまでの背景、合意の意味合いについて探ってみた。

背景
 JASRACは、約60年の歴史を持つ団体。「仲介業務法」に基づき文化庁の許可を得て音楽著作権の仲介業務を行なっている国内唯一の団体だ。

 その業務「音楽著作権の仲介業務」には、簡単に言うと「その楽曲に支払われるべき著作権使用料をアーティストに代わって徴収する」という仕事がある。

 著作物には、それが創作された時点で「著作権」が生まれる。その著作物を他人が利用しようとする時には、原則として著作者の許諾を得る必要がある。しかし、著作者が自分で、いつ、どこで作品が利用されたかをいちいち調べて許諾するのは大変だ。そこで、JASRACが登場、著作者の代わりに作品を管理、作品が使用されていた場合は使用料を徴収しアーティストに還元するという訳だ。アーティストにとって、自分の作品の権利を守ってくれる強い味方だ。

 様々な時代や局面に適応したルールを作り著作権管理を進めてきたJASRAC。しかし、'90年代、従来にない新しいメディアが凄まじい勢いで普及してきた。それが「インターネット」だ。機能的にインターネットでは、デジタルの音楽データを配信することができる。インターネット上での音楽配信を事業とする企業も登場した。しかし、インターネットの特質でもある「インタラクティブな配信」に対応した規定がJASRACにはなかった。また、それに対するJASRACの対応は、インターネット自体の成長スピードに追いついていない状態であった。

 そこで、'97年、音楽電子事業協会、マルチメディア・タイトル制作者連盟など9団体により発足した「NMRC」が登場する。すぐにでも音楽配信をする用意ができている企業が参加するこの業界団体は、早急に、インタラクティブな配信形態に合う規定の策定を求めた。'97年12月にはJASRACからNMRCへ「インタラクティブ配信にかかる使用料(案)」が提出されるなど双方の協議は続く。しかし、従来の規定を持って管理しようというJASRACと、独自の規定案を要望するNMRCで議論は平行線をたどる。'98年6月には両社による合意も発表される予定であったが延期、協議は続いた。

 そして11月26日、両者の言い分をギリギリに含めた形で規定に関する合意が発表された。ただし、'99年3月31日までの暫定的な合意。規定内容は、主に家庭などでの私的使用を目的にリクエストに応じて著作物を配信する「インタラクティブ配信」のうち有料の配信に関するものについてのもの。ここでは特に、JASRACの希望する「基本使用料」の枠が払われたことが大きな注目を集めている。

各団体の言い分

 この合意について、そこに至るまでの経緯、背景、暫定期間終了後はどうなるのか、JASRACの業務本部牧田昭一氏、NMRC代表世話人佐々木隆一氏からお話を聞いた。
 JASRAC 業務本部 送信部 牧田昭一氏のお話

牧田氏http://www.jasrac.or.jp/ (JASRAC)

編集部(以下編): インターネット上の音楽配信に関する著作権使用料については、当初6月中に合意/発表の予定だったはずですがここまで遅れた原因はなんだったのでしょう?
牧田氏(以下牧): 大きく言って2つあります。一つは協議の運営上の問題。NMRCは9団体による組織なんですが、協議をするにあたって各団体が持ち帰り、団体ごとに検討し、またそれをNMRCとして集約し、JASRACに対応するという形で進められ、次の会議までに時間がかかってしまった。もちろん私どもも同じように検討には時間がかかるのですが。
 もう一つ、一番大きな問題としては、今回のネットワーク上での音楽利用についてJASRACが新たに提案した使用料の体系、基本使用料と利用料を併用するという形について、今現在もそうなんですがNMRCでご理解いただいていないということが、約1年かかっても暫定でしか合意できなかった最も大きな理由です。
編: 暫定使用料規定によると「基本使用料」は設けずに基本使用料相当額を加算するという形になりましたが、JASRACとしては納得できるものなのでしょうか
牧: いいえ、納得はしておりませんけれども、やはり協議でございますから双方ぎりぎりというところで、いたしかたないと思っています。決して満足している訳ではございません。
編: 今回の暫定合意では「基本使用料」という枠がなくなりましたが、JASRACではそのことをどう捉えてますか?
牧: 表現としては「基本使用料相当額」という形になってますが、JASRACとしましては、暫定ではあるけれども規定上に「月額基本使用料」というものが文言上入っているということは、それなりの意義はあるのかなと思っています。それが評価できる部分であるし、このことがなければ逆に暫定であっても合意は難しかったのではないかと思っています。
編: JASRACとしては、NMRC案に飲まれた形なんでしょうか
牧: 今回の規定の組立方、利用率的にも、JASRACとしてはNMRCのほうに譲歩した形になります。
編: 協議において当初JASRAC側が提示した使用料率というのはどれくらいだったのでしょう
牧: 基本使用料は月額で1曲200円。または、大量で利用する場合はブランケット式、一ヶ月何曲まではいくらという形で提案させていただきました。利用単位使用料は、その情報料の10%。ストリームについても同じ。ダウンロード、ストリーム区別なしという形です。200円という額は通信カラオケでの規定からきてます。
編: 当初通信カラオケの規定をネット配信にも当てはめた訳ですが、今回「基本使用料」がなくなったということはサーバーに音源を置くだけで使用料が徴収されるということはなくなったということですか?
牧: いいえ。そういう意味ではJASRACは捉えておりません。NMRCとの協議の場でも「通信カラオケでああいう考え方を採用したからインターネットでも同じ考え方を提案したんでしょう」ということをよく言われたんです。しかし、そうではなく、データ配信の仕方が通信カラオケでもインターネットでも同じだという考え方から、今回の協議の中で同じ考え方を提案したという訳です。データが用意されておりユーザーのアクセスによって送られるという音楽の利用形態はどちらも同じですから。また、ダウンロードでもストリームでも基本的には同じという考えです。
編: NMRC側がJASRAC案に一番反発している部分というのは?
牧: つまり、データを用意するだけでは事業として収入がないと。使用料というのは収入に対するものであるという考えだと理解しています。
編: そういったことは市場においては通常のことであると思いますが。
牧: 確かに売れなければ儲けがないというのはおっしゃる通りなんですが、音楽を利用されるということから考えると、こういった用意をされないと配信事業が成り立たないのではないかというのがJASRACの考え方です。ですから、配信して収入があった部分と、用意されておくという部分に同じ料金を払ってくれとは言っていないんですよ。つまり違う率を適用すると。
 ストレートに言うと「用意しておくだけで、なんで使用料を支払うんだ」という考えがまったく違う訳です。配信事業を考えた場合には、是非JASRACの考え方も理解していただきたい。こういう考え方は、世界に先駆けたものです。国際的な著作権の世界でも確立されていないことですから理解を頂戴できないのかなと思っています。著作権協会国際連合(CISAC)という組織があるんですが、現在そこでも国際的なレベルでの音楽著作権について管理の仕方を討議しています。
編: 「基本使用料」がないことに対して通信カラオケ業界側からの反発はないのでしょうか?
牧: そのこともJASRACとしては協議の中で申し上げました。ここで管理団体として、同じ利用形態について違う扱いをするということはJASRACの管理上できないと。NMRC側はそっちはそっち、こっちはこっちという形でいいじゃないかと言われましたけれども。
編: 暫定的期間が終了する'99年3月以降はどうなるんでしょう
牧: 暫定期間以降は、JASRAC案とNMRC案を基に一から協議しましょうという形になっています。今回の協議のスタートと同じですよ。つまりJASRACは基本使用料1曲200円ですよ、利用単位使用料は10%ですよと。ここからまた始まる訳です。JASRACとしては、方針を変えるつもりはありません。4月以降、当初からのJASRAC案でいければウチとしては何も申し上げることはありませんが。
編: 「JASRACは体制が古い」といった声が聞かれますが、どう思いますか
牧: 正直言いまして、ある部分対応が遅いということは事実としてご指摘の通りです。例えば、規制緩和という世の中の流れに関連して「音楽著作権の管理団体が1つでなくてもいいのではないか」といった意見も出てます。JASRACとしては、謙虚に受けとめなければいけないかなと思ってます。
 ただ、言い訳がましくなりますが、今の規定の作り方は、当事者と事前に協議し、その結果合意したもので管理するという形です。相反するものが協議する訳ですから時間がかかるのは仕方がないものと思います。例えば、通信カラオケの話ではないんですが、これをやっちゃったら今までやっていたことに影響があるから、どうしてもその一線は譲れないんだということもある訳です。そこがJASRACが堅いと言われる部分かなというのも確かにありますが。もっと柔軟に対応できないのかということもあるかも知れません。そういう部分は考えていかなければならないですね。
 著作権管理団体の複数化については、確かに2つあればJASRACの体質改善になるだろうということも考えられるんですが、利用者(事業者)の立場から見た場合、同じ事業をする場合に、手続きを2回しなければならない場合もありますよね。これがはたして利用者にとってどうなのか。そういったことを議論することなく、JASRACは硬直化してどうしようもない、という視点で考えるのは具合が悪いと思いますね。
編: JASRACとしては、管理団体はJASRACだけでよいと
牧: 利用者、権利者のことも含めて考えると、1団体のほうがいいと思っています。結果的に現在ではJASRACになる訳ですが。JASRACだけでいいという意味ではないですよ。どこか1件あればいい、一元化されていたほうが良いという意味です。ただそれはJASRACが言うことではなく、国民が決めることです。あくまでもJASRACは権利者団体ですので。
編: しかし、あまりにも独占すぎるのではないかという声もありますが
牧: 仲介業務法上、音楽の著作権管理団体は1社でなければいけないということは書いてないんですよ。しかし、仲介業務法に関しては、団体の在り方も含めて改正が検討しているところです。
編: 今回の合意は音楽業界全体にとって大きな動きといえるものでしょうか
牧: そうですね。従来なら一つの規定を決めると特定の事業者が対象となるということでしたが、今回は個人の方も含めて対象になっていますから。広がりが大きいということでは今までのものとはまったく違うものかと思います。今回の件に関する取材も大変多いです。
 今後は、音楽を含めた著作権の思想をもっと広く啓蒙しなくてはならないのではないかと考えています。単に規定が決まったからといって、「はい、お金払いなさい、払えない人は違法です。罰金払いなさい」というのが通る話ではないですから。そういう意味で、今までと違う権利者としての対応も必要になるのではないかと思います。
 NMRC代表世話人 佐々木隆一氏のお話

佐々木会長http://www.impress.co.jp/nmrc/ (NMRCホームページ)
編集部(以下編): 当初6月中に合意/発表の予定だったはずですがここまで遅れた原因はなんだったのでしょう?
佐々木(以下佐): いくつか原因があるんですが、1つは、JASRACがインターネットでの配信に対して「業務用通信カラオケ」の規定を基準として計画を立てているということ。非常に特殊な業務用通信カラオケでの基本的な方式をグローバルなインターネットに適用するのはおかしい訳ですね。これが一番大きな点。
 2つ目は、やはり値段(使用料率)が高いと。インターネットの特性とマーケットの在り方を理解していない。もう1つは、ネットワーク社会での創作の在り方をあまり理解していない。ようするに事業者とユーザーしかいないと思っている。インターネットというインフラをアーティストも享受できるし、事業者もユーザーも享受できるという新しい考え方がよく分かっていない。坂本龍一さんが言ってるようにインターネットというのはユーザーとアーティストが直接コミュニケーションできる場であるし、アーティスト自身が創作の発表の場を多彩に活用できる新しい武器ですよね。その辺がよく分かっていない。そこが今回の交渉で一番重要かなと思いますね。
編: 暫定使用料規定によると「基本使用料」は設けないとのことですが
佐: 今度は固定じゃなくしました。ただし、決まった枠は設けないが、基本使用料相当の割り増しがありますよというところです。お互いにとって“玉虫色”の表現になってますけど。ただ、何もしないで毎月お金を取られるということはなくなったから、これなら事業者も納得できると思う。従来の(JASRAC側の)主張では、売り上げがあろうがなかろうが毎月お金がかかるというものでした。そこが無くなったのがNMRCの成果というか、一番権利者団体に理解してもらいたかったところが通ったと言えます。暫定とはいえね。
編: 固定ではなくなったとは言え「基本使用料」いう枠組みは残っています。配信会社は「基本使用料」が将来的に復活するのではと危惧を持っているのではないでしょうか?
佐: それはありますね。ただ、権利者団体を説得できればよいことです。向こうも市場があって初めて成り立つもの。我々の協力なしには彼らは著作権の収入がない訳ですから。割と楽観視してます。
編: 「基本使用料」がないことに対して通信カラオケ業界側からの反発はないのでしょうか?
佐: 通信カラオケ業界側も不況で非常に苦しい。業界としてピークの時決めた料金規定なんで、もうちょっと使用料金について見直しをしてもらいたいという声は業界内にあるようです。
編: 暫定的期間が終了する'99年3月以降はどうなるんでしょう
佐: 3月以降は両者の主張がまた出てくるんです。とは言うものの、暫定が延長されるんじゃないですかね。
編: 今回交渉にあたってJASRACの体質は古いと感じましたか?
佐: 古いですね。独占ですから。サービスという概念がない。管理者としての概念しかない。(体制がかわることも)まだ当分ないと思いますね。やっぱり競争原理が出てこないとね。
編: インターネットを利用した配信が注目を集めるようになる前は、JASRACに対する批判というものはなかったのでしょうか?
佐: それはあったんだけど、圧倒的な独占団体だからもう楯突いたら大変ということでした。独禁法が適応されてないんですよ現状で。日本では曖昧なんですね。
編: 今回のJASRACとの合意で音楽業界全体がゆっくりと動き出したと
佐: もちろんそうです。JASRACと事業者団体だけの話ではなくて、全体のアーティスト、権利者、ユーザーも変わらなければいけないということ。日本の中でいろんな流れの中で起こっていることですからね。昔だったら考えられないことです。事業者団体が団結しても「JASRACがすべて」でしたから。しかし、我々の意見も聞いて、JASRACも「そうか」と言わざるを得ない状況ですね。それは、JASRACにとってもアーティストにとってもいいことですよね。市場の状況を理解するのは大事なことです。
取材を終えて

 今回のインタビューでは、双方に同内容の質問をしているものもあるので、その回答を見比べると両者の主張の違いがはっきりするであろう。「音楽業界全体の大きな一歩」と合意を評価するNMRC、それに対し今回NMRCの要求は飲んだが、暫定期間終了後、当初案を蒸し返すつもりのJASRAC、それぞれの思惑や姿勢が見えてくる。

('98/12/3)

[Reported by okiyama@impress.co.jp]


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