■URL
http://www.pref.saitama.jp/ (埼玉県ホームページ)
本誌で今年紹介したいくつかのニュースについて、記事掲載後の動きをレポートするこの企画。4回目は、9月8日掲載の「埼玉県、記者発表資料をインターネットで公開」という記事をとり上げる。
このニュースは、本誌をはじめとするインターネット関連媒体はもちろん、一般紙など多くのメディアでも紹介された。通常は一般の目に触れることがない“ニュースのネタ”が公開されてしまうということで、マスコミにとっては深刻な問題だったのかもしれない。本誌にとっては地味なニュースだったが、中には「発表資料に頼っている取材のあり方を考え直す時期が来た」といったメディア論まで展開する記事もあり、広く波紋を投げかけた。その後、マスコミ側の反対に遭っているという噂も耳にしたが、果たしてこの取り組みはうまくいったのだろうか?
埼玉県にお話をうかがったところ、一部のメディアで伝えられた「インターネットへの全面移行」というのが大きな誤解の元らしい。確かに当初はそうすることを考えていたが、「現時点では必ずしもすべての記者がインターネットにアクセスできる環境を整えているわけではない」などの理由で、従来からの記者発表も継続。記者発表とインターネットでの公開を同時に行なうというスタイルに落ちついたという。1日に7~8件ある発表資料は、プライバシー保護が必要な部分やデータ作成に時間のかかる図版以外はすべてWeb上に掲載している。ただし、公開するのは県が用意した資料のみで、発表時に行なわれる担当者による説明会や質疑応答などの内容は含まれない。テキストデータ作成などに時間がかかるということで、今後も掲載する予定はないという。このあたりは既存のメディアに頼らざるを得ないため、記者にとっては首の皮一枚でなんとか繋がっている状態とも言える。
いずれにせよニュースソースの公開に踏み切ったことでは「マスコミへの挑戦だ」という声もあったそうだ。しかし県としては、インターネットの普及率に照らし合わせてみても、既存のメディアにとって代わるものとは考えていないという。「県政情報を入手するチャンネルが一つ増えた」程度の感覚で、例えば新聞やテレビで見たニュースについて詳しく知りたいときに、インターネットで元の資料にあたるというような使い方を想定しているそうだ。
さて、マスコミのほうが敏感に反応してしまったこのニュースだが、本来重要なのは県民のほうの反応だろう。埼玉県のホームページのアクセス数を見ると、8月は1日平均で395件だったのが、各メディアでとり上げられた9月には554件に、さらに記者発表資料の公開を開始した10月には954件に増加している。増加の理由については時期的に他の要素は考えられないとしており、やはりこの資料公開がアクセス数を増加させたと言っていいようだ。ただし、やはり記者向けというイメージがあるせいか、マスコミや関係者の利用が多く、一般県民からの利用や発表資料に対する問い合わせはまだ少ないという。そのイメージ払拭のためか、今ではコーナー名が「記者発表資料」から「県政ニュース」に改称されている。
埼玉県では、このシステムを'99年3月まで試行・検討した後、4月より本格運用する予定だ。現時点では、データの受け渡しなど作業面での慣れが必要だという以外は特に問題点も挙がっておらず、このままのスタイルで本格運用できるのではないかとしている。また、他の自治体などからの問い合わせや見学もあるということで、記者発表資料公開の取り組みは確実に広まりつつあるようだ。
('98/12/22)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]