【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第17回 メールよりもオトクさ重視のケータイ事情 ~韓国~

イラスト・Nobuko Ide
●音声メッセージが主体だった韓国版ポケベル“ピッピ”

 今回は、韓国の携帯電話事情についてご紹介したいと思います。
 私が初めて韓国で生活したのは、1998年春。当時、日本では、そろそろ、ポケベルから携帯やPHSにシフトしはじめたころでした。とは言え、まだまだ何人かに一人が持っているという程度で、私も持っていませんでした。
 事情は韓国でも似たようなもので、'98年に渡韓したころは、携帯電話やPCS(日本のPHSに該当)がようやくチラホラ出始めたくらい。所持している学生もほとんどなく、たまに金持ちの子が持ち歩いているという印象でした。正直、日本より普及してなかったと思います。

 そのかわり、学生のほぼ全てが持っていたのが、「ピッピ」と呼ばれていたポケベルでした。日本の場合はポケベルというと、文字メッセージのやりとりが主流だったように思いますが、韓国のポケベルはひと味違いました。文字ではなく、音声のやりとりをするのです。
 利用方法は極めて簡単。相手のピッピ番号に電話をかけて、音声を録音するのです。すると、ピッピに受信のサインが届きます。連絡を受けた方は、自分の番号に電話をかけて暗証番号(ちなみに、韓国では「秘密番号」という)を入力し、メッセージを聞き出すという仕組みです。メッセージは、一週間くらい保管されています。  連絡を受けた方がメッセージを聞きに行かねばならないという手間はありますが、文字のやりとりより遙かに便利でした。私も、ピッピとテレカを常に持ち歩き、公衆電話を利用しまくっていました。機械の大きさも、掌にすっぽり入る程度で、小さな液晶ディスプレイに時計表示がされてたんですが、普段時計を持ち歩かない私は、かなり重宝していました。ピッピを使っていた頃は、「日本でも普及してくれないかなぁ」などと密かに考えていた程です。
 1年間の滞在を終え、愛用のピッピと泣く泣く別れて、翌年春に一旦帰国しました。日本に帰ってみると、浦島太郎という程ではないにしろ、急速度で携帯が普及し、持ってない人の方が珍しい時代になっていました。一気に状況が変化した感じで、私もPHSを持つようになりました。

●韓国人の性格にバッチリはまった携帯電話

 そして、私が再び韓国に戻ってきたのが、2000年春。
 約一年間韓国を離れていたわけですが、訪韓してびっくり。韓国全土を制覇していたと言っても過言ではないピッピが、ほぼ全て消え去っていたのです。そのかわりに、皆が手にしていたのは、携帯電話でした。
 名刺交換をすると、以前ならピッピの番号が入っていた箇所に、全て携帯の番号が記入されていました。学生も、文字通り全員が携帯所持。学生の名簿を見渡しても、携帯以外の番号を探し出せなくなっています。たった一年で、ピッピから携帯にシフトしてしまったわけです。
 日本人に負けず劣らず、流行り物には飛びつきやすい国民性を持っているのが韓国人ですが、それにしても、この爆発的な普及は驚異的。家族や友人との「濃い」付き合いを好む韓国人の一般的な性格に、いつでも連絡ができるという携帯電話の機能が、ばっちりはまったという感じでしょうか。

 また、当時は、非常に安い価格で端末が提供されていました。私も、渡韓してすぐに携帯を購入したのですが、タダみたいな値段で購入したのを覚えています。これは日本と似たような感じでした。余談ながら、外国人が携帯電話を購入するのは意外に難しくて、代理店をいくつか回ったのですが、全て断られました。そこで韓国人の友人に一旦購入してもらい、後日、名義変更をするという手続きをとりました。後で名義変更できるなら、なぜ最初から購入出来ないのか不思議ですが、とりあえず、そうなっています。
 ただ、最近は携帯端末の値段も高くなってきて、日本のように「0円」といったものは見られなくなりました。2ヵ月ほど前に、使っていた端末が壊れたので新しいものに変えようとショップに行ったら、えらく値段が高くなっていていました。安い物もあれこれ探したのですが、店員に「前はタダみたいなもののあったのに」と言ったら「現在のものが正常価格だ」とあっさり言われてしまいました。最新のものでなくても、日本円で2~3万円は払わないと購入できなくなっています。街角では安いものも出回ってるみたいですが、うまく探せませんでした。

学生たちの携帯電話を見せてもらった。二つ折りやフリップ付きが多く、日本のものより一回り小さい ストラップも多彩な種類がある。なんだか邪魔そうな物も多いが…

●大学の近くでかければ割引に! 韓国独自の価格サービス

 次に、携帯の使われ方や機能についてお話ししましょう。
 携帯を使ってて、日本との違いを一番感じるのは、地下鉄の中でも電波が届くことです。そのため、日本の話をすると、「不便ですね」と同情されてしまいます(^_^;)。また車内での通話も、日本のように「マナー違反」といった感じはないので、普通に携帯で会話をしています。韓国でも、一部には「日本を見習え」といった声もありますが、日本の事情を話すと、全体的には「何故?」といった反応が返ってきます。

 こちらの端末を使っていて、いいなと思うのは、時間合わせの楽さです。スイッチを入れると、自分で電波を拾って自動で時間表示される仕組みになっています。したがって、時間は極めて正確。私は時計替わりに大いに活用しています。
 一方、文句を言いたいのが、バッテリーの持続時間の短さ。とにかく、すぐ電池が切れるんです! 基本的に充電なしでの2日連続使用は無理です。頻繁に電話をかけたら、1日でも危ないです。そのため、端末を購入すると、大抵バッテリーが2つ付いてきます。一つは装着し、もう一つは交換用にするのです。充電器も、2つのバッテリーを同時に充電できるようになっています。バッテリーは日本製のもの使っていたりもするので、内部で多くの電力を消費してしまうのでしょう。そのためか、コンビニには、各社ごとの充電器が置いてあります。

 一方、日本の携帯電話の場合、メールのやりとりとかiモードといった、電話本来の機能以外のところで複雑なサービスが発達していますが、韓国では、そういう使われ方は、あまりしていません。機能としてはあるのですが、利用頻度は低いようです。着メロも、色々なサービスがないわけではありませんが、みんな似たような音を鳴らしています。そういう意味で、韓国はシンプルです。
 文字メッセージ機能はよく使われていますが、携帯間のやりとりが大半。こちらの文字メッセージ機能は、韓国内の携帯ならどの機種にも送れます。ただ日本のように、いわゆるメール確認の端末として利用している人は、ほとんど(というか、全く)いません。端末の液晶も、一部でカラーが出ていますが、まだ大半は白黒の液晶。当たり前のことながら、携帯電話は電話をかけるのが目的なわけですから、これで十分なんですけどね。
 そう考えると、日本の携帯は凄い発達の仕方をしていますね。あんな小さい機械にあれこれ詰め込もうとするのは、やはり日本人の発想を端的に示しているのかもしれません。

 ただ、韓国の携帯がサービス悪いかというと、そういうわけではありません。付加機能より、どちらかというと、価格サービスが充実しています。
 代表的なのは、「TTL」と呼ばれるもの。このサービスは学生に限定されているんですが、自分の所属大学から半径1キロ以内の場所で電話をかけると、料金が公衆電話並みになるというものです。しかも遠距離にかければ、通常の電話より圧倒的な割引になります。これが、学生にも携帯を普及させた最も大きな理由だと言われています。それから、携帯からかける国際電話も、相当安いですね。私にとっては、非常に有り難いサービスです。
 また、現在、携帯各社が力を入れているのが、カードの利用です。私はSKテレコムを使っているのですが、ここが発行しているTTLカードに申し込むと、提携している店舗(飲食店など)で、割引サービスが受けられるのです。
 ファストフードなんかもこのサービスに加盟していて、学生たちもよく利用しています。もちろん、それなりの高級店でも利用できるところがあります。個人的な付き合いの範囲では、特に女性がこういった情報をマメに集めていて、食事に行くと、「あそこはサービス使えるから」といった感じで、店を紹介してくれます。「喫茶店に入ろう」と言っても、わざわざ割引店を探し歩くくらいですから、結構重宝されてる感じがします。

街頭の携帯電話売り場 韓国最大の電子街・龍山(ヨンサン)の携帯売り場ストリート 店頭の携帯電話ディスプレイ。なぜかCDの上に陳列…

◎執筆者紹介◎
マツモト・シンスケ 韓国の慶熙(キョンヒ)大学で、「こんにちは」から「いてまうど、われ」まで、多種多様な日本語を教えています。現在の目標は、タクシーの運転手と言葉を交わしても、日本人とバレないような韓国語の発音を身につけること。

 ◎次回はコスタリカ在住の加瀬さんが担当します。お楽しみに!

◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2002/01/25)

[Reported by 松本真輔]


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