【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第22回 熱いぜ!コスタリカの大統領選

●選挙戦に新風!? 二枚目候補の波紋

イラスト・Nobuko Ide
 こんにちは、コスタリカ在住の加瀬です。
 先日、大統領選挙がありました。今回は例年より盛り上がった気がします。
 大統領選は国民投票です。いかにコスタリカ国民に「俺に任せろ!」ということをアピールするかが重要です。今後の政策についても難しいことは言いません。「教育を国民に!」とか「貧乏な人へ家を!」とか、非常に理解しやすいものをTVのコマーシャルで訴えます。

候補者がカメラ目線で情熱をもって話す
BGMには優しい音楽……
放送される映像はコスタリカ国民同士が抱き合い笑顔が飛び交う……
大統領が、普段なら絶対に接することのないだろう階層の人々(←この表現ちょっと難しいかな?)と抱き合い、彼らの生活を皆で助けよう!と訴え……
大勢の人が笑って手を振り……
 そして最後は、政党の旗とロゴを最大限にアピールした映像と候補者の名前をアピールします。

 ここまでは、いつもの大統領戦と同じ。今回の大統領戦が例年より盛り上がったのには、理由が1つありました。
 コスタリカには沢山の政党がありますが、強いのは政党Sと政党Lの2大政党です。今まで大統領は、その2つの政党から選ばれていました。他の政党から強力な立候補者が現われなかったのです。大統領任期は4年ですが、同政党が続いたということはなく、いつも交代しています。その最大の理由は、国民の多くが「あ~あ、現政党は結局何もしなかったなぁ、もう政党Sは駄目だ!今度は政党Lに投票しようっと!」と言っているのかどうかは私が知るところではありませんが、とにかく毎回変わります。
 しかし!そこに政党Pの候補が出現したのです!この人はもともと政党Lにいた人で、そこから飛び出して立候補したので、それなりに知名度があります。
 そして、なんといっても、政党Pの候補者は顔が良いんです。なかなか人相が良く、「あっ、この人ならコスタリカをもっと良くしてくれるかも!」って思ってしまうような優しい顔をしているんですよ。例えるなら故・逸見正孝さん(アナウンサー)のような感じです。かたや他の2人は、素晴らしい政策を打ち出しているかもしれませんが、顔が胡散臭いんだよなぁ~。
 私は今まで、政治家は顔が胡散臭くてもやることやってくれれば良い、顔の善悪など関係ない!と考えていましたが(というか私自身が、どちらかというと美男子というよりはその対極にいるような顔をしていますので、自分自身を納得させるという意味で「顔の良し悪しは関係ないぜ!」と考えていたという説もあります)、今回の選挙で「やっぱり顔も重要かな?」などと考えされられました。

 とまあ、私個人の意見はどうでもいいのですが、政党Pの出現により新しい風が入ってきたのです。
 国民の大統領への熱意は凄いものがあります、なんせ政権が変わると、局長から秘書まで全員交代!なんてことがあるものですから、国民は真剣です。自分の生活がダイレクトに関わってきますからね。
 「ああ!政党Sが負けたら、とうちゃん仕事なくなっちゃう!」
 とか、
 「げへへ!これでオイラも職に復活できるぜ!」
 あるいは
 「政党Lが政権を握れば、あの嫌な上司は飛ばされるぜ!あー、政党Lが勝たないかなぁ♪」
 ……と思っていた人たちがいたかどうかは知りませんが、国民の大統領戦にかける情熱は凄く、我々日本人が実感できないものでもあり、ある意味羨ましくも感じました。  そう感動しながら、「前々日までにビールを買い込まねば!」と考える私。コスタリカは投票日の前日からアルコール飲料の販売が禁止されます。各スーパーマーケットには役所の人が出向き、「このシールは私たちがくるまで取っちゃだめよ♪」というロゴがはいったテープで全てを封印していきます。そうなる前にビールを買い込む行為も、 コスタリカの選挙の恒例になっています。

●パパ・ママ・娘で支持政党はバラバラ

 さて、投票会場には歩いて行きましたが、会場に着くまでに私を楽しませてくれたことが沢山あったので、それをいくつか紹介したいと思います。

 まず、自宅前で支持する政党の旗をなびかせながら応援している子供たち。
 政党の旗をなびかせて走る自動車、バイク、自転車。
 ピックアップなどのトラックの荷台にのり叫びまくる人たち。
 そして、彼らがすれ違うと子供が政党の旗や候補者のポスターを掲げ、同じ政党の旗をもった自動車等が通り過ぎると「いえぇーい!わああああ!」と奇声を発して士気を高め合い(気分を盛り上げ合い、とも言う)、自動車の運転手は「ビビビッビー」とクラクションを鳴らして応える。もし敵政党旗を掲げた自動車が通るものなら「ばかー!死ねぇー、オカマ野郎!ブタ!」と罵り、それに対して自動車の運転手は中指を立てて応戦する……という、見ていて笑ってしまう図でした。
 トラックは箱乗り状態で、それを見ても警察が何も言わないところを見ると、「選挙当日は箱乗りOKなのかな?いや、まさか!でもコスタリカだし、そういう可能性もゼロとは言えないようなぁ……」と、アホな想像をするのでした。
 どう見ても“へい!おいらは不良のアウトローさ!”という4人組が、政党の旗を掲げた自動車でアピールしていたんですが、こいつらのライバル政党支持者に対する罵倒が凄いのよ。汚い言葉で威圧してさ、相手を黙らせちゃう。見ている人も誰も反論しない。反論しないというよりは関わり合いになりたくないって感じですが。そういう彼らなんだけれど、支持している政党が同じと思われる普通の女性は「頑張りなさいよ!」と声をかけるから、コスタリカは面白い。

 また、家の庭先でバーベキューをしながら小さいパーティーをしている家庭も多々ありました。
 私の興味をひいたのは、3つ政党の旗を揚げた裕福そうな家庭でした。広い庭のガーデンで、品の良さそうな夫婦と可愛い娘が楽しげにお茶を飲んでいました。
 私は「どうして同じ家庭なのに3つの政党を支持しているのだろう?」という「お前、それは余計なお世話ってもんだよ」的な好奇心を満たすべく、彼らにその疑問をぶつけてみました。すると奥さんと思われる女性が素敵な笑顔で、「私は政党Lなのですが夫が政党Sを支持しているのですよ」と、目の前の男性を見つめ、目の前の男性はそれを笑顔で見つめ返すのでした。本当に“ラブラブ♪”って感じです。見ていてくすぐったくなりました(笑)。さらに男性は「政党Pは娘が支持しているのだ」と、8歳の娘を紹介してくれました。「8歳だから何も解らないのは私だって知っている。重要なのは小さいうちから選挙に興味を持たせることなんだ」と説明してくれました。なかなか良いことを言うお父さんです。
 8歳の娘さんに、どうして政党Pを支持するのか、理由を尋ねると、「だって他の2人より優しそうな顔をしているんだもの」との答え。やっぱり人相は重要だと再確認されられました。

旗を付けたクルマがそこかしこを走っています 家族で箱乗りして支持政党を応援! コイツらが中指立ててた悪ガキたち

●政党の帽子でビール飲み放題!?

 そうこうしているうちに投票会場につきました。
 元気なお母さんが「私たちの勝利よぉ!」と叫び踊る、選挙会場。
 通常外国人は選挙権を持っていませんので、投票会場で見かけることはありません。そんななか、カメラをもった東洋系の顔の私がチョコチョコ写真を撮っているのですから、目立たないわけがありません。
 陽気なオバさんが「へぃ!何してるんだ!」と声をかけてきました。コスタリカの選挙が興味深いからと答えると、彼女は彼女が支持する政党の帽子をくれました。これが後々、大きな事件に発展するとは、この時点では想像すらできませんでした。

 帽子を持ってきたビニール袋に入れ、デジカメで選挙の様子を撮影していると「それがデジタルカメラってやつか、へぇー、凄いなぁ」と声をかけられました。「流石最先端技術国の日本だ!」とか「すげぇー、モニターしながら写真取れるんだって!」あるいは「インターネットに使えるんだぞ!」なんて言われると、ついつい気持ちよくなってしまうアホな私。まあコスタリカの一般人の多くはインターネットやITの世界をそういう感じでとらえています(←やっとInternet Wathさんチックなことを文章に入れられたぞ!いつもITに全く関係ない内容ばかり書いて申し訳ありません!)。
 当然、「なぜ写真を撮っているの?」という質問をされないわけがない。「いやぁー、今回の様子を面白おかしく日本に伝えて笑いを取ろうと思ってね!」と答える事はできず、かといって上手な言い訳も出てこなかったので、ついつい
「私は日本から来た新聞記者で、今回の様子を日本に伝えたいと思ってね」  と、口からデタラメがポロっと出てしまったのでした。
 「おい!こいつ日本の新聞記者だってさ!」
 「本当?じゃあ私たちの写真が載るの?」
 「おい!皆集まれ!写真を撮るぞ!」
 はい、ニッコリ記念撮影。その後延々と、彼ら政党を支持する理由を聞かされたのでした。彼らは普通の高校生。ボランティアで働いているそうです。

 さて、投票会場内部は、表のようは騒ぎはなく淡々としており、無駄話や談笑もほとんど行われていません。横を見ると凄い不良青年がいましたが、彼も真面目な顔で投票を待っていました。真面目な場所では真面目になれる、コスタリカの不良青年が印象的でした。

 さて、投票会場の帰り道、先ほど家先でパーティーをしていた家庭の前を通りました。私は先ほど投票会場で陽気なオバちゃんから頂いた帽子を被っていたのです。入れていたビニール袋が破けてしまい、帽子を手で持つのも面倒くさかったので頭に被っていました。
 すると、そのパーティー会場から、
 「おい!あの外人(私のことね)は俺たちの政党帽子かぶってるぜ!」
 「おい!こっち来なさいよ!一緒に騒ぎましょう!」
 そのような面白いイベントには喜んで参加してしまうアホな私、彼らの中に入って行きました。するとそこのご主人のような方が
 「何?日本人?なんでその帽子を被っているんだ?まあいいや、お前は仲間だ!おーい!ビールと焼肉もってこーい!」
 後から分かったことですが、その帽子は一生懸命選挙活動をしている人だけが持っている物だったらしい。
 「で?なんでお前は、その帽子を持っているんだ?」
 どうやら私が、その帽子を持っていたことが非常に気になるらしい。正直に「会場でオバさんに貰ったんだよ。別にこの政党を支持しているわけでもなんでもないんだ」と言えば良いのに、持ち前のサービス精神がムクムク頭をもたげてまして、ついつい、
妻の父が熱心な政党L支持者でして、私も政党Lが現時点では一番良いと思っています」
 なんて心にも思っていないことを言い出すから、益々ビールが出てくる羽目になったのでした。

 ビールとバーベキューでいっぱいのお腹を支えながら、私は「コスタリカ人の選挙に対する情熱は凄いな、もう少し日本も国民の選挙や政治に対する関心度が上がればよいな。」という私らしくない事を考えながら帰路につくのでした。決して「うへへへ!4年後もこの手を使ってビールとバーベキューを食べまくってやるぜ!」なんて下品なことは考えませんでした。

選挙会場の様子 写真撮るぞー!と集まった高校生ボランティアたち 彼女たちもボランティアです ビールをご馳走してくれた集団
【UPDATE!】選挙戦の結末は意外な結果に…!詳しくはこちらからどうぞ!

 そういうわけで、コスタリカの大統領選挙の様子をお伝えしました。
 次回は何時になるかわかりませんが、またいつか皆さんにお会いしたいです。それではまた会う日までごきげんよう!

◎執筆者紹介◎
カセ・カズキ  1973年生まれのO型、牡羊座。初めてのコスタリカ訪問は1995年、某電気会社の海外出張でした。その時からこの国に魅入られ、その後何度も旅行した後、1997年に退職してコスタリカに住みついてしまいました。大学生や某機関の事務員などを経て、現在は寿司を売りながら農場を経営している変わり者。妻と超可愛い男の子2人の4人家族です。
◎加瀬さんのホームページはこちら

 ◎次回はタイ在住の森田さんが登場します。お楽しみに!

◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2002/03/01)

[Reported by 加瀬和城]


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