【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第8回 インターネットを身近なものにしたのは? ~南アフリカ~

イラスト・Nobuko Ide
 本格的な夏に向かう10月になると、ヨハネスブルグのあちこちに、薄紫色のかたまりが出現します。藤色の綿菓子のようにも見えるそれは、アフリカ桜とも呼ばれる“ジャカランダ”が満開を迎えた姿。ヨハネスブルグから車で約1時間の首都プレトリアは街中が薄紫色に染まり、「ジャカランダ・シティ」と呼ばれています。南アの風土にしっかり根付いているジャカランダですが、実は南米原産で、約110年前、ブラジルから持ちこまれたもの。よそ者がこれ以上、増えては…というわけなのでしょうか、新たに植樹することが法律で禁止されてしまいました。

●ヨハネス名物(?)“雷”対策

 ジャカランダの開花は、雨季の始まりに重なります。夏が来るのはうれしいのですが、ちょっとした悩みも生じます。雨が原因で信号機が故障し、交通渋滞が増えることと、“雷”です。海抜1,800メートルの高地にあるせいか、ヨハネスブルグはとにかく雷が多く、稲光、音ともダイナミックで、大人でも身がちぢみます。困ったことに、雷は突然やってきます。午前中は快晴でも、昼過ぎに突然、周囲が暗くなり、激しい雨とともに、雷がとどろき始めるのです。
 雷が鳴り始めたら、やるべきことが2つあります。その1、電話中だったら、すみやかに電話を切る。理由は、雷が電話線に落ち、その衝撃で耳がおかしくなることがあるから。その2、コンセントから電気製品のプラグを抜いて回る。もちろん、各家に避雷針はありますが、電気が壁や床を伝い、電気製品にダメージを与えることもあるらしいのです。
 差込み式のプロテクターも売っていますが、雷でプロテクターが焼き切れ、パソコンがだめになったという話も聞きます。家中を見まわすと、壊れては困る電化製品ばかり。パソコンもそうですが、日本から持参した家電品を使うのに欠かせないトランス(変圧器)が壊れたら生活に支障が生じます。一番辛いのは、おいしい白米が食べられなくなること。南ア用に購入した圧力式の炊飯器なら、オーストラリア米もおいしくいただけます。炊飯器が壊れたら…、パソコンがおかしくなったら…。そんな妄想(?)に駆り立てられたわたしは、雷が始まると脱兎のごとく家の中をかけまわり、片っ端からコンセントを抜いていくのです。

満開のジャカランダの花が街を彩る 雷から電気製品を守るプロテクター。一応2重にしているが…

●急増するインターネット人口

 前置きが長くなりましたが、南アフリカに、どれだけプロバイダーがあると思われますか? 大小合わせて実に50以上。月の利用料も100ランド前後で、時間制限もありません。ちなみにわたしの利用している「ワールドオンライン」(World on line)は、月の利用料115ランド(約1,600円)。プロバイダーによって、メールの受信中に回線が切れるといった不都合も耳にしますが、WOLはきわめて快適です。届いたメールをスキャンし、ウィルスに感染したものは完全にシャットアウトしてくれるので、知らないうちにメールでウィルス感染、という心配もいりません。

 一人あたり国民総生産が約24,000ランド(1999年)の南アでは、パソコンはまだまだ高級品です。電話や電気が通じていない家庭も多く、国民の約90%は、インターネットを楽しむ環境にはないとも言われています。でも一方で、人口の約30%にあたる150万人がインターネットを利用しているというデータもあります(1998年)。自宅にパソコンを持っていない人は、職場や学校のパソコンで、インターネットを利用しているようですが、昨年あたりからインターネット・カフェを見かけるようになりました。
 ヨハネスブルグの大規模ショッピングモール「クレスタショッピングモール」。ここには「インターネット・ギャラリー」というインターネットカフェがあります。昨年6月にオープンした同店にはパソコンが23台あり、使用料は15分で8ランド(約110円)。1日の利用者は平均200人ですが、開店当初は利用者ゼロの日もあったとか。店員が店頭に立って、道行く人にインターネットの説明をしたり、電子メールの使い方を一から教え、少しづつ利用者を増やし、最近では順番待ちが起きるほどに。パソコン台数を増やす計画も進んでいるそうです。
 利用者には十代の若者から七十歳を超えるお年よりまで幅広く、学校に提出するレポートの情報を得るためにネットサーフィン中の学生や、仕事途中に立ち寄ってビジネスメールをチェック中のビジネスマン、海外に住む友人へメールを送っている主婦などのその目的もさまざま。アメリカで同時多発テロが発生した際は、第一報がテレビニュースで流れると、インターネットで最新情報を得ようとする客であふれかえったそうです。
 「国は5年前から、電話料金などを値下げし、IT環境を整えると言っていますが、実現できていません。自分用のネット環境を持てない人のためにも、来年には国内で16店ほどオープンする予定です。インターネットはいろんな情報を得るのにとても役立ちますから」と、店長のネール・ピレーさん。


 プロバイダー契約が月10%の割合で増える(1998年)など、南アフリカではインターネットが急速に広がっています。インターネットカフェのような、誰もが安価に利用できる場所ができただけでなく、お年寄りまでもを惹きつけるような“事情”がその背景にあるようです。それについては、次回お伝えします。

World Onlineのサイト。 ショッピングセンター内にある「インターネットギャラリー」 店内でインターネットを楽しむ人たち

◎執筆者紹介◎
カネコ アヤ 夫の転勤に伴い、ヨハネスブルグに転居して一年半。日本では新聞社の記者を経て、ライターをしていましたが、いまはボビンレース、ステンドグラス、デコパージュなどの趣味に生きてます。目下の楽しみは、ブラックのラブラドールレトリーバ・ンニャマ(ズールー語で黒・生後八ヵ月)の成長。悩みは、運動不足からの体重増加と、上達しない英会話。

 ◎次回は韓国在住の松本さんが担当します。お楽しみに!

◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2001/11/09)

[Reported by 金子 理]


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