【連載】
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 ニュースや雑誌に頻繁に登場する国でも、その生活事情やIT事情は案外知られていないものです。あまりなじみのない国だったら、なおさらです。この連載では、世界各地にお住まいの方から、生活者の視点で見たインターネット事情や暮らしについてレポートします。

第9回 PC房は学生だらけ ~韓国~

イラスト・Nobuko Ide
 さぶぅ~。
 韓国に突如寒波が押し寄せてきました。つい数日前まで「今年はやけに暖かいね」なんて、軽口をきいてたのが嘘みたいです。朝方は氷点下まで気温が落ち込み、一気に冬到来というところです。
 いや、それにしても寒いって!!

 さて、今回は韓国のPC房(PCバン)について、リポートしたいと思います。
 日本でも何度も報道され、すでにすっかりおなじみになったPC房。日本じゃ、「インターネットカフェ」なんで洒落た名前で紹介されてますが、実際は、端末がずらりと並べてあるだけの施設です。

●LYCOS直営PC房に潜入!

 私の勤務校は、ソウル郊外の高層団地街にあります。昔は大学しかないただの田舎だったそうですが、現在は、巨大なマンションが林立する空間になっています。韓国を旅行しても、こういう場所は目にする機会が少ないと思いますが(それは日本の八王子も同様ですね)、ソウルとは全然違う、新都市の雰囲気があります。
 しかし急速に開発が進んだだけに、大学の周辺は娯楽施設も少なく、PC房は学生の数少ない遊び場の一つになっています。

 今回は教え子に付き従って、学校の前にあるPC房に侵入(?)してみました。
 訪れたのは、LYCOSが直営するPC房。施設がキレイで、普通のPC房より、ちょっと洒落た雰囲気。端末から食事や飲み物の注文ができるようになっていて、かなりシステムが洗練されています。ってもまあ、言ってしまえば端末ですし詰めの状態。これはどこでも同じですね。
 店に入ったのは、夕方の5時頃。そのせいか、室内は学生服を着た中学生・高校生の山、山、山。ひたすらネットゲームに興じています。といっても、大半は男の子で、女の子の姿はちらほらある程度。
 しかし話を聞いてみると、男女で値段格差がある模様。男は一時間1,500(約140円)ウォンだが、女の子は1,300ウォンだとか。日本円に換算すると20円にもならない違いですが、女の子を呼ぼうとする経営方針がうかがえます。ちなみに、ここは施設がいいのか料金が高めで、普通は一時間1,000ウォンくらいです。
 中に入って、何をしているのかと端末をのぞいて見ると、皆が皆、ゲームに興じています。要するに、通信ゲームで遊んでるんですね。それ以外の目的で利用している人は、ほとんどいませんでした。

 中学生の姿も目に付くので、男の子にインタビューしてみました。

――ここにはよく来るの?
「毎日。授業終わると、さっさとここに来る」
――何をしているの?
「ゲームばっかり。家にもPCはあるけど、友達と遊びに来るのが楽しいんだ」
――勉強しなくていいの?
「7時くらいになったら、帰らなきゃいけない。課外(塾)があるから。親が迎えに来る子もいるよ」

 …と、インタビュー途中も「そのアイテム返して」なんて言いながら、友達とじゃれ合っていました。
 教育熱心な韓国ですから、長時間PC房で遊んでいると、親もよい顔をするわけではないでしょう。ただ、学生の話を聞いている限りでは、そんなにうるさく言うこともないようです。もちろん、なかには強烈な家庭もあって、学校が終わったら即座に塾で、PC房に行ってる時間が全くなかったなんて子もいますが。

画面上のリモコンで食事や飲み物も頼めます 数少ない女の子をキャッチ

●“右に習え”は日韓共通

 韓国は、日本以上に強烈な学歴社会です。受験戦争の熱も、日本なんかの比ではありません。たまたまこの原稿を書いている時に、韓国の修学能力試験(日本のセンター試験に相当するが、こちらは国立私立を問わずに受験する)がありました。受験生のために交通規制が行なわれたり、騒音規制が敷かれるなど、国を挙げての大イベントです。この試験の成否が人生を大きく左右しますから、韓国人は、子供の頃からさまざまな習い事や塾通いで、実際に遊ぶ暇はほとんどないとか。

 ちなみに、韓国では昨年、全ての中学校にPCが配備され、実習が受けられるようになりました。国の政策の一環なんだそうですが、キーボードを叩けるなんてのは、ほとんど当たり前の状況です。
 また、家庭でPCを購入して使っている子供も非常に多いです。親が使えなくても、子供には与えているケースも結構あります。日本もそうですが、韓国にも「右向け右」といった傾向があって、「PCくらい使えなくては」となると、全員が一斉に勉強を始めます。
 私の勤務している学校の先生に聞いても、「小学生でも、端末が使えるくらい当たり前」とのこと。まあ大学の教員の子供ですから、即座に一般化できる話ではないですが、「隣がやるならうちも」という傾向は強いようです。

 ただ、子供の頃からPCを使ってるといっても、プログラムを組んだりとかいうマニアックなことはほとんどしません。
 自宅で何をやってるのかというと、学生に聞いてみたところでは、多いのが「チャット」でした。情報検索というよりは、コミュニケーションツールとして利用しているわけですね。しかもこっちの人は、オフ会も大好き。ネット上で気が合うと、即座にミーティング(合コン)になだれ込みます。この辺のフットワークの軽さは、日本にはないものだと思います。
 一方で、出会い系サイトも大人気。この辺は日本と同じですね。なかには、売春で摘発された高校生も出ています。
 ただし、PC房でチャットというのは、あんまり見ないです。流石に「秘め事」はコッ ソリやっているらしいです(^_^;)。

ビルに“PC”とあったらまずPC房と思って間違いなし 書店のPC雑誌売り場。このあたりのノリは日本と一緒です

◎執筆者紹介◎
マツモト・シンスケ 韓国の慶熙(キョンヒ)大学で、「こんにちは」から「いてまうど、われ」まで、多種多様な日本語を教えています。現在の目標は、タクシーの運転手と言葉を交わしても、日本人とバレないような韓国語の発音を身につけること。

 ◎次回はコスタリカ在住の加瀬さんが担当します。お楽しみに!

◎「アクロスtheインターネット」その他の回はこちらから

(2001/11/16)

[Reported by 松本真輔]


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