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【編集部から】
インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。
イラスト・Nobuko Ide
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■「BIG BROTHER」とは?
さて、日本の皆さんは、世界中に繁殖しつつあるTV企画「BIG BROTHER」現象をご存知だろうか。個人のプライバシー侵害とも言えるTV企画は、むしろ日本がお家芸(失礼)のような気もするのだが、この「BIG BROTHER」は、日本では同様の条件での実現は難しいかもしれない。簡単に説明すれば、あらゆる場所にテレビ・カメラが設置(計28台)された簡易住宅(コンテナと呼ばれている)で、男女同数の挑戦者が生活する。彼らはいかなる時もマイクを身につけなければならず(コンテナに設置されているマイクは計60個)、その行動は24時間、すべてチェックされることになる(後に1日1時間だけ“カメラ・マイクなしの部屋”に入ることが認められた)。そしてトイレを除くすべての場所で捉えられた映像が公開(放映)される、というものだ。
コンテナには電話やテレビなど外部と接触できるメディアは一切置かれておらず、そこで「back to basic」をモットーに、自分たちで楽しみを見出しながら生活し、その様子は毎日1時間のダイジェスト版でゴールデン・タイムにTV放映される。ちなみにWebサイトでは、部屋を選んでいつでもライヴ映像をチェックすることができるし(アーカイブで過去の映像も見れる)、TVでもクイズ番組などの関連番組で映像が使われることもある。
そして、週末毎に試練が訪れる。まずは挑戦者自身が2週に1度、“家を出て行かなければならない人物”を2人、ノミネートする。それは週末生放送時に結果が明かされる。そして次週末までに、選ばれた2~3名の挑戦者は、今度は視聴者の審判(電話による投票)を仰ぐのである。2週毎にそれが繰り返され、その模様は毎週末、生で放映される。そして最後に勝ち残った挑戦者が25万マルク(約1,250万円)を手にすることができるという仕組みだ。
挑戦者たちは最後まで勝ち抜けた場合、なんと100日以上もプライバシーのない生活をさらさなければならないわけだ。
■完全把握にはWebが不可欠
Big Brotherの公式Webサイト
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熱心なファンなら、毎日1時間のダイジェストでは飽きたらなかっただろう。編集されたものには何らかの意図が加わってしまうし、偏りが出てくるのは仕方のないことだ。そのため公式サイトでは、24時間いつでも、部屋を選んで生映像を視聴できるようになっている。番組を見忘れた人は毎日更新されるニュース記事を読めば、だいたいのことは掴める。
また、公式サイトから“先を読む”こともできた。TVで「お前なんか出ていけ~」と思う挑戦者を選ぶのとは逆に、サイトでは「お気に入りの挑戦者」投票が常時行われていた。この結果が、番組への電話投票の結果とキッチリ重なっていたのだ。“TVでの投票結果が心配な場合にはサイトの投票結果を参考に!”と、断言できるほどの信憑性(?)を持っていたわけだ。サイトを見ている人間にとって、TVで伝えられる結果は、「ドイツ人の意見はこうも動きにくく、わかりやすいものなのか? ネットを愛用する人間と、電話で投票する人間のタイプは一緒なのか?」などと妙に感心するほど驚きの少ないものだった。それがひっくり返ったのはたった1度。最後に残った挑戦者3人のうち、余裕で勝利すると思われていた挑戦者が、土壇場で数%の差で破れたどんでん返しの時だけだった(しかし、よりによって最後とは!)。
というわけで、すっかり味を占めたTV局は、昨年のうちに第2弾「BIG BROTHER」を実施。第2弾を見て最初に驚いたのは、まずスポンサーの豪華さだ。このコーナーでもお馴染みの「T-ONLINE」も加わり、サイトに多大なる貢献をするようになった。TV番組を担当する司会者も改善され、生番組のゲストには世界のスターが(口パクだが)登場するようにもなった。なんたる発展ぶり! そして前回は10名だった挑戦者を12名に、実施日程を100日から106日に変更してパワーアップを図った。挑戦者の家族までたっぷり巻き込んだ番組も増え、なんだかやりすぎの感もあったけれど、大騒ぎのうちに12月30日にフィナーレを迎えた。
今回も稼ぎを生んだスターは生まれたし、途中までは確かに面白かったのだけれど……。ドイツ人は実際のところ、どう思ったのだろう。自分の周りの声は圧倒的に「今度のはつまらない」の声が多かったのだが。そうはいっても、第3弾は早くも今年1月27日に開始されるらしい。
■なぜ「BIG BROTHER」は人を惹き付けたか?
加熱する人気に、週刊のオフィシャル雑誌も登場した。表紙は勝ち残った3人
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一方、いくつかの“楽しませる工夫”は、番組運営側からも提供されている。「週ごとに課せられる課題」は、シェイクスピアの劇を演じることだったり、大量の「BIG BROTHER」カードにサインをすることだったりと、毎回内容も難易度もさまざま。体力、知力、創造力、そして時間と忍耐力を要する課題が与えられることもある。それをクリアーすると、挑戦者たちにご褒美が与えられる。日課が課せられることもあるし、コンテナ内でレコーディングをすることもある。クリスマス時にオンラインショッピングでプレゼントを贈ったりも! また有名人の「BIG BROTHER ハウス」訪問もたまに実施され、ドイツではトップ・クラスのセクシータレントや、野党トップの政治家が登場したこともあった。
とはいえ、一番面白く、かつ結果を面白くなくもするポイントは、“挑戦者たちが自分自身で「追い出す人」を選ばなければならない”ことだろう。考えてみれば、非常に残酷で、これが挑戦者たちのストレスの元でもあるのだが。番組中、挑戦者が自分自身に「これはSpiel(ゲーム)なのだから」と言い聞かせるシーンが何度も登場するほどだ。
挑戦者は1人ずつ生放送で、他の人には聞こえない部屋でカメラに向かってノミネートした人物2人の名を告げなければならない。第2弾からは視聴者から最も多くの票を集めた挑戦者への1票も加わるようにはなった。その生番組中に集計結果が挑戦者たちにも告げられる。そしてその後の1週間は、選ばれた者の運命は視聴者にゆだねられる。その姿もTVでは全部赤裸々に放送されてしまうのだ。このノミネートをめぐって人間関係がこじれることも多々起こっていたし、それを巡る人間の動き、気持ちの揺れを生で見るのは、興味深いことには違いない。「明日はどうなっているのか」が気になるのは、こういう時だ。
でも、それは結果として面白くない展開を生み出していく。“みんなと仲良くやっていけない目立つヤツ”が、真っ先に除外者として選ばれるわけだし、そういうヤツこそ見ていて面白いからだ。そういうヤツが周りを混乱させ、波風立てる様子で、また新たなドラマも生まれる。しかし、視聴者がそいつを残したくても、そういった挑戦者が2人脱落候補になれば、どちらか1人は選ばれなければならないわけだ。
■ドイツ人が好まない人物像
クリスチャン人気にファンサイトが多数出現。これもそのなかの1つ
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第2回挑戦者の中で、もっともキワモノで賢かったのはクリスチャンという男性。彼は最初からTVを、カメラを意識しながら行動していた。みんなの和なんか気にせず、番組として面白くなる演出を心得ている“タレント”だった。女性を蔑視したと誤解されかねない問題発言も多発、暴言も多かったため、他の挑戦者たちから一斉に除外者としてノミネートされたが、視聴者の彼の支持は絶大。それを承知した上での行動や発言もクールだった。
これは面白くなりそうだ! と思っていたら、彼はわずか30日を超えた辺りで「もう自分がやるべきことはやった」と、自らの意志でコンテナを去ってしまった(挑戦者自身でコンテナを離れることは許される。もちろん戻ることは許されず、代わりの挑戦者が新たにコンテナに加わる)。その短い間にもクリスチャン人気を見逃さない番組側は、速攻で彼にピッタリの曲を用意してCDを録音。番組がまだ半ばに差し掛かったあたりで、すでにクリスチャンはチャートNO.1歌手に成り上がっていた。メディア露出度は今でも第2回挑戦者ではNO.1だろう。
■世界に繁殖する「BIG BROTHER」
というわけで、少しでも「BIG BROTHER」に興味を持った方は、是非サイトにアクセスしてみてほしい。現在あるコンテンツでは、今も更新されているニュース、全日程に関するアーカイブ(全挑戦者の詳細データもある)、チャット&フォーラム、オンライングッズショップ、携帯用ロゴやサウンド、スクリーンセーバー、ゲーム、サイン入りグッズ等のオークション等々、盛り沢山の内容だ。
最後に、冒頭に書いた“世界中に繁殖しつつあるTV企画「BIG BROTHER」現象”という事実を示すのが、以下に示した各国で行われている「BIG BROTHER」の公式サイトだ。ちなみに、私の記憶が正しければ、「BIG BROTHER」は元々オランダの企画もの。ドイツ第1弾放送の際にそういう説明がなされていたと記憶している(って、去年のことなのにー)。元祖オランダでは、昨年には「BIG BROTHER」バス・ヴァージョンが放送されたらしい(あんな狭いところで…考えただけで息苦しい)。 とにかく、ドイツの「BIG BROTHER INTERNATIONAL」という番組で各国ダイジェストを見た際に感じたのは、「ドイツ人はやっぱり“お利口”過ぎる」ということ。その国に住んでいる身としては安心材料のひとつでもあるけれど、番組としてはさっぱり面白くない。出演者自身の演出力、ハチャメチャ度、セクシー度、過激度、どれをとっても、ドイツはやっぱり“お利口”過ぎる。ぜひ他国の「BIG BROTHER」をじっくり見て、比較してみたいなぁと思ったりするこの頃だ。さて、「BIG BROTHER」が日本で行われるとしたら、あなたはどんな顛末を想像する?
アメリカ | http://webcenter.bigbrother2000.aol.com/entertainment/NON/ |
スウェーデン | http://www.bigbrother.se/ |
イギリス | http://www.bigbrother.terra.com/ |
オランダ | http://www.big-brother.nl/ |
ベルギー | http://www.bigbrother.be/ |
スイス | http://www.bigbrother.ch/ |
イタリア | http://www.grandefratello.com/ |
スペイン | http://www.granhermano.telecinco.es/ |
◎著者自己紹介 ドイツに住んでもうすぐ4年(ええっ)。未だドイツ語上級レベルへ達する努力を怠ったまま、日々をドイツ流(?)にのんびり過ごしている。最近になってオペラやバレエ鑑賞と、今更ながら「別のドイツらしさ」を再認識している、ドイツ・ロック畑で働いていたフリーライター。でも心はすでに、4月に新作がリリースされるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)。炎満載の熱いステージを体験できるのは、まだ先のことだけど…。 |
(2001/01/12)
[Reported by kajo]