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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。

第9回 国民性が妙に理解できるプライバシー・ゼロのTV企画
  「BIG BROTHER」に見る、ドイツ人の実態 (by kajo)

イラスト・Nobuko Ide

■「BIG BROTHER」とは?


 さて、日本の皆さんは、世界中に繁殖しつつあるTV企画「BIG BROTHER」現象をご存知だろうか。個人のプライバシー侵害とも言えるTV企画は、むしろ日本がお家芸(失礼)のような気もするのだが、この「BIG BROTHER」は、日本では同様の条件での実現は難しいかもしれない。簡単に説明すれば、あらゆる場所にテレビ・カメラが設置(計28台)された簡易住宅(コンテナと呼ばれている)で、男女同数の挑戦者が生活する。彼らはいかなる時もマイクを身につけなければならず(コンテナに設置されているマイクは計60個)、その行動は24時間、すべてチェックされることになる(後に1日1時間だけ“カメラ・マイクなしの部屋”に入ることが認められた)。そしてトイレを除くすべての場所で捉えられた映像が公開(放映)される、というものだ。
 コンテナには電話やテレビなど外部と接触できるメディアは一切置かれておらず、そこで「back to basic」をモットーに、自分たちで楽しみを見出しながら生活し、その様子は毎日1時間のダイジェスト版でゴールデン・タイムにTV放映される。ちなみにWebサイトでは、部屋を選んでいつでもライヴ映像をチェックすることができるし(アーカイブで過去の映像も見れる)、TVでもクイズ番組などの関連番組で映像が使われることもある。

 そして、週末毎に試練が訪れる。まずは挑戦者自身が2週に1度、“家を出て行かなければならない人物”を2人、ノミネートする。それは週末生放送時に結果が明かされる。そして次週末までに、選ばれた2~3名の挑戦者は、今度は視聴者の審判(電話による投票)を仰ぐのである。2週毎にそれが繰り返され、その模様は毎週末、生で放映される。そして最後に勝ち残った挑戦者が25万マルク(約1,250万円)を手にすることができるという仕組みだ。
 挑戦者たちは最後まで勝ち抜けた場合、なんと100日以上もプライバシーのない生活をさらさなければならないわけだ。

■完全把握にはWebが不可欠


Big Brotherの公式Webサイト
 さて、第1回目が行なわれることが発表された際、当然ながら多様な物議を醸し出した。人権擁護団体からのクレームや、そういった団体からの圧力を恐れた企業が多く、スポンサーがつかないといった問題が続出したらしい。それでもなんとか押し切ったTV局には敬意を表したい。なぜなら企画は大当たりで、挑戦者の中からにわかスターも登場し、シロウトが歌った曲がヒットチャートの1位を独占するというオマケもついて、番組は社会現象になったほどの過熱ぶりだったからだ。類似の番組も続出した。かくいう私は、「ドイツ人の普段の生活パターンや会話」が見てみたくて、時には死ぬ程つまらない回もあったのだけれど、可能な限り番組をチェックしたり、サイトを閲覧していた「熱心なファン」の1人だった。

 熱心なファンなら、毎日1時間のダイジェストでは飽きたらなかっただろう。編集されたものには何らかの意図が加わってしまうし、偏りが出てくるのは仕方のないことだ。そのため公式サイトでは、24時間いつでも、部屋を選んで生映像を視聴できるようになっている。番組を見忘れた人は毎日更新されるニュース記事を読めば、だいたいのことは掴める。
 また、公式サイトから“先を読む”こともできた。TVで「お前なんか出ていけ~」と思う挑戦者を選ぶのとは逆に、サイトでは「お気に入りの挑戦者」投票が常時行われていた。この結果が、番組への電話投票の結果とキッチリ重なっていたのだ。“TVでの投票結果が心配な場合にはサイトの投票結果を参考に!”と、断言できるほどの信憑性(?)を持っていたわけだ。サイトを見ている人間にとって、TVで伝えられる結果は、「ドイツ人の意見はこうも動きにくく、わかりやすいものなのか? ネットを愛用する人間と、電話で投票する人間のタイプは一緒なのか?」などと妙に感心するほど驚きの少ないものだった。それがひっくり返ったのはたった1度。最後に残った挑戦者3人のうち、余裕で勝利すると思われていた挑戦者が、土壇場で数%の差で破れたどんでん返しの時だけだった(しかし、よりによって最後とは!)。

 というわけで、すっかり味を占めたTV局は、昨年のうちに第2弾「BIG BROTHER」を実施。第2弾を見て最初に驚いたのは、まずスポンサーの豪華さだ。このコーナーでもお馴染みの「T-ONLINE」も加わり、サイトに多大なる貢献をするようになった。TV番組を担当する司会者も改善され、生番組のゲストには世界のスターが(口パクだが)登場するようにもなった。なんたる発展ぶり! そして前回は10名だった挑戦者を12名に、実施日程を100日から106日に変更してパワーアップを図った。挑戦者の家族までたっぷり巻き込んだ番組も増え、なんだかやりすぎの感もあったけれど、大騒ぎのうちに12月30日にフィナーレを迎えた。
 今回も稼ぎを生んだスターは生まれたし、途中までは確かに面白かったのだけれど……。ドイツ人は実際のところ、どう思ったのだろう。自分の周りの声は圧倒的に「今度のはつまらない」の声が多かったのだが。そうはいっても、第3弾は早くも今年1月27日に開始されるらしい。

■なぜ「BIG BROTHER」は人を惹き付けたか?


加熱する人気に、週刊のオフィシャル雑誌も登場した。表紙は勝ち残った3人
 なぜそんなに盛り上がったの? と思われる方も多いだろう。特別な企画はさしてあるわけではないし、シロウトが毎日TVに登場するのだから。“生のメロドラマ”を毎日見るのは一見面白そうだが、死ぬほど退屈になる危険もはらんでいる。ちなみに第1回、第2回ともに“カップル”が誕生し、フトンの中でのセックス・シーンも少々放映された。そういう時は視聴率も上がっているのかもしれない。第2回などは、一時は3組のカップル(ただし恋愛以前の組もあり)が誕生し、ただただ3組がいちゃついているシーンの放映時、いささかうんざり気分になった。これはカップルになれなかった挑戦者のみならず、視聴者も同じ思いだったのではないだろうか?
 そうそう、当然「シャワー・シーン」映像も放映される。ドイツではそれでも良心的なのか、ごく希にしかその姿を放映されることはなかったように思う。セクシー派(?)の挑戦者はそれでも何度か「サービス・ショット」的なカットで登場したが、人によっては全く映像が出なかった場合もあったような……? 「それを承知の上で挑戦しているんだから!」と私が意地悪心を抱いたのは、第2回目に登場した数名の女性が「水着」を着たままシャワーを毎日浴びていたこと。それじゃちゃんと洗えないじゃない。なんなの、潔くないわっ、と。ちなみにドイツには日本のような映像の規制はないので、全身裸体が映し出されることもあった。

 一方、いくつかの“楽しませる工夫”は、番組運営側からも提供されている。「週ごとに課せられる課題」は、シェイクスピアの劇を演じることだったり、大量の「BIG BROTHER」カードにサインをすることだったりと、毎回内容も難易度もさまざま。体力、知力、創造力、そして時間と忍耐力を要する課題が与えられることもある。それをクリアーすると、挑戦者たちにご褒美が与えられる。日課が課せられることもあるし、コンテナ内でレコーディングをすることもある。クリスマス時にオンラインショッピングでプレゼントを贈ったりも! また有名人の「BIG BROTHER ハウス」訪問もたまに実施され、ドイツではトップ・クラスのセクシータレントや、野党トップの政治家が登場したこともあった。

 とはいえ、一番面白く、かつ結果を面白くなくもするポイントは、“挑戦者たちが自分自身で「追い出す人」を選ばなければならない”ことだろう。考えてみれば、非常に残酷で、これが挑戦者たちのストレスの元でもあるのだが。番組中、挑戦者が自分自身に「これはSpiel(ゲーム)なのだから」と言い聞かせるシーンが何度も登場するほどだ。
 挑戦者は1人ずつ生放送で、他の人には聞こえない部屋でカメラに向かってノミネートした人物2人の名を告げなければならない。第2弾からは視聴者から最も多くの票を集めた挑戦者への1票も加わるようにはなった。その生番組中に集計結果が挑戦者たちにも告げられる。そしてその後の1週間は、選ばれた者の運命は視聴者にゆだねられる。その姿もTVでは全部赤裸々に放送されてしまうのだ。このノミネートをめぐって人間関係がこじれることも多々起こっていたし、それを巡る人間の動き、気持ちの揺れを生で見るのは、興味深いことには違いない。「明日はどうなっているのか」が気になるのは、こういう時だ。

 でも、それは結果として面白くない展開を生み出していく。“みんなと仲良くやっていけない目立つヤツ”が、真っ先に除外者として選ばれるわけだし、そういうヤツこそ見ていて面白いからだ。そういうヤツが周りを混乱させ、波風立てる様子で、また新たなドラマも生まれる。しかし、視聴者がそいつを残したくても、そういった挑戦者が2人脱落候補になれば、どちらか1人は選ばれなければならないわけだ。

■ドイツ人が好まない人物像


クリスチャン人気にファンサイトが多数出現。これもそのなかの1つ
 ドイツ人が誰を選ぶのか? これは見ていて、かなり興味深かった。意外だったのは、面白味のない、セクシー路線だけの女性は、真っ先に除外されること。潔く裸のシーンを見せても、ダメな時はダメ。ただし、セクシー派であっても一癖あるタイプなら、それなりの人気は集めることができる。それから、噂や中傷好きの女性もダメらしい。そういった女性がコンテナを離れ、生番組中のスタジオにゲストとして招かれて登場した際の会場の反応は、実に冷たい。それから、可愛いけれど子供っぽい、ストレートに感情的を表す女性も、ドイツ人はうざったいらしい。特に第2回目は、女性陣が不人気だった(でも優勝したのも女性!!)。私なら「どこにでも居そうな真面目で面白味のない、存在感の薄い男性」は、見ていてもつまらないから真っ先に排除だ! と思っていたら、第1回目は優勝してしまったし、第2回目では3位に居座っていた。なんだか感覚が理解できないんだけどなぁ。タレント性のある人をみんな選ぼうよ! と思っても、その前に挑戦者たちから排除されてしまっているので、どうしようもないのだが。
 いずれにしても、最後まで残る人はみんな“いい人”ばかりなので、終わりが近づくにつれ、そこでの生活の様子はすっかり退屈なものになってしまう。仕方のないことかもしれないが、なんとか「ルール」を変えて欲しいと願ってやまない。終盤がつまらなすぎる!

 第2回挑戦者の中で、もっともキワモノで賢かったのはクリスチャンという男性。彼は最初からTVを、カメラを意識しながら行動していた。みんなの和なんか気にせず、番組として面白くなる演出を心得ている“タレント”だった。女性を蔑視したと誤解されかねない問題発言も多発、暴言も多かったため、他の挑戦者たちから一斉に除外者としてノミネートされたが、視聴者の彼の支持は絶大。それを承知した上での行動や発言もクールだった。
 これは面白くなりそうだ! と思っていたら、彼はわずか30日を超えた辺りで「もう自分がやるべきことはやった」と、自らの意志でコンテナを去ってしまった(挑戦者自身でコンテナを離れることは許される。もちろん戻ることは許されず、代わりの挑戦者が新たにコンテナに加わる)。その短い間にもクリスチャン人気を見逃さない番組側は、速攻で彼にピッタリの曲を用意してCDを録音。番組がまだ半ばに差し掛かったあたりで、すでにクリスチャンはチャートNO.1歌手に成り上がっていた。メディア露出度は今でも第2回挑戦者ではNO.1だろう。

■世界に繁殖する「BIG BROTHER」


 というわけで、少しでも「BIG BROTHER」に興味を持った方は、是非サイトにアクセスしてみてほしい。現在あるコンテンツでは、今も更新されているニュース、全日程に関するアーカイブ(全挑戦者の詳細データもある)、チャット&フォーラム、オンライングッズショップ、携帯用ロゴやサウンド、スクリーンセーバー、ゲーム、サイン入りグッズ等のオークション等々、盛り沢山の内容だ。

 最後に、冒頭に書いた“世界中に繁殖しつつあるTV企画「BIG BROTHER」現象”という事実を示すのが、以下に示した各国で行われている「BIG BROTHER」の公式サイトだ。ちなみに、私の記憶が正しければ、「BIG BROTHER」は元々オランダの企画もの。ドイツ第1弾放送の際にそういう説明がなされていたと記憶している(って、去年のことなのにー)。元祖オランダでは、昨年には「BIG BROTHER」バス・ヴァージョンが放送されたらしい(あんな狭いところで…考えただけで息苦しい)。  とにかく、ドイツの「BIG BROTHER INTERNATIONAL」という番組で各国ダイジェストを見た際に感じたのは、「ドイツ人はやっぱり“お利口”過ぎる」ということ。その国に住んでいる身としては安心材料のひとつでもあるけれど、番組としてはさっぱり面白くない。出演者自身の演出力、ハチャメチャ度、セクシー度、過激度、どれをとっても、ドイツはやっぱり“お利口”過ぎる。ぜひ他国の「BIG BROTHER」をじっくり見て、比較してみたいなぁと思ったりするこの頃だ。さて、「BIG BROTHER」が日本で行われるとしたら、あなたはどんな顛末を想像する?

【世界の「Big Brother」リンク集】
アメリカ http://webcenter.bigbrother2000.aol.com/entertainment/NON/
スウェーデン http://www.bigbrother.se/
イギリス http://www.bigbrother.terra.com/
オランダ http://www.big-brother.nl/
ベルギー http://www.bigbrother.be/
スイス http://www.bigbrother.ch/
イタリア http://www.grandefratello.com/
スペイン http://www.granhermano.telecinco.es/
◎著者自己紹介
  ドイツに住んでもうすぐ4年(ええっ)。未だドイツ語上級レベルへ達する努力を怠ったまま、日々をドイツ流(?)にのんびり過ごしている。最近になってオペラやバレエ鑑賞と、今更ながら「別のドイツらしさ」を再認識している、ドイツ・ロック畑で働いていたフリーライター。でも心はすでに、4月に新作がリリースされるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)。炎満載の熱いステージを体験できるのは、まだ先のことだけど…。

(2001/01/12)

[Reported by kajo]

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