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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。

第17回 ドイツのテレビ番組事情 Part 1
   ~アイディアの枯渇か安易な選択か? 意外と多い類似番組の使い回し (by kajo)

イラスト・Nobuko Ide

■自宅で見られるチャンネルは、現在29局


 これまでもちらりと触れてきたように、私は1人暮らしである。だから、というわけでもないが、家にいる時はテレビをつけっぱなしにしていることが多い。ドイツ人と暮らしていない分、不足していると思われるドイツ語のヒアリングを、少しでもテレビから習得しようという大義名分もある。
 そうこうしているうちに、初めのころは全くわからなかったドイツの有名人や人気番組を、今ではそれとなく把握できるようになってきた。もちろん、無意識とはいえつけっぱなしにしておく局や番組には自分の好みが反映されているし、意識的に見る番組となればかなりの偏りがあるのも確かであるのだが。

 1980年代前半までは、ドイツのテレビ局は公共放送のARDZDFの2局のみだったそう。しかし今では、全国レベルの主な民間放送局だけでもRTLRTL 2Pro 7SAT 1VOXKabel 1n-tvTM 3といった局がある。また若者に人気のMTVVIVAVH-1といった音楽専門局や、スポーツ専門局のEurosport、それからBR(バイエルン放送局)HH1(ハンブルク・アインツ)のような各地の地方局、そしてCNNBBCNBCといったインターナショナルな放送局も、見ることができる環境にある。CATVの契約が必要なものも、もちろん多いのだが。
 私の場合、アパートであらかじめ契約されていたテレビ局が29局と充実していたため、自分で特に追加契約はせずに、満足なテレビ生活を送っている。余談だが、ドイツのテレビには「1チャンネルは**局、2チャンネルは##局…」といったチャンネル割り当てが存在しないため、テレビに自分でチャンネル設定をする必要がある。私は最初にテレビを買って設置した時にそれを知ったのだが、ドイツ生活が私よりも長い某友人は、ついこの前までそれを知らなかった。テレビ番組の話をしていた時、「それ、×チャンネルのこと?」と聞かれたので、思わず嬉しくなって(!?)事実を教え、「ダンナさんにテレビの調節はお任せなんでしょう?」と突っ込ませてもらった記憶はまだ新しい(笑)。

 参考までに、10代の教え子たちに好きなテレビ局を尋ねたところ、音楽専門局(特にMTV、VIVA)、Pro 7、RTL 2(ポケモン、デジモン、ドラゴンボールなどを含むアニメの放送でも人気)、VOXと答える生徒が多かった。そして案の定、公共放送を挙げる生徒はごくわずかだった。これ、実は私も結構納得できる意見だ。放送局ごとの主だった特徴や全般的なテレビ番組事情については、次回に触れてみることにして、今回は、ドイツにも存在する類似番組の摩訶不思議についてお伝えしようと思う。

■ドイツ版「しあわせ家族計画」に唖然 ~類似番組がまかり通る不思議


 昨年のことだと思うのだが、ある日、華々しく始まったSAT 1のバラエティー番組を見た時に、私は愕然とした。タイトルは「Die Stunde der Wahrheit」(真実の時)。それは3年前、日本に一時帰国した時にたまたま見た「しあわせ家族計画」にそっくりな番組だったのだ。司会者がある一般家庭を訪問し、父親もしくは母親に「ひとつの課題」を提示する。指名された人物はそれから1週間、課題をクリアするために、家族の協力を得ながら奮闘する。その様子を家族の他の者が小型カメラで撮影している。そしてちょうど1週間後、その成果はテレビカメラが回る会場で試され、成功すれば家族それぞれが希望の商品をゲットすることができる。ダメだったらそれで終わり、という内容だった。私はテレビ局関係者ではないから、詳しい権利関係のことは分からない。でもこれ、同じですよね?

これがドイツ版「しあわせ家族計画」
 日本を離れて4年、その間の日本のテレビ番組については全く詳しくないが、それでも偶然見ただけで面白いと思ったこの企画を、よりによってドイツでお目にかかることになったわけだ。1週間の奮闘ぶりを編集した映像はなかなか見応えがあるし、「本番に弱いドイツ人もいる」のがわかって、意外と嬉しい(?)こともある。ただ、何となく心に引っかかるのだ。そういえば以前、日本の番組を韓国でそっくりコピーしたものがあって、日本側のスタッフが韓国のその番組を友好的に訪問するという企画があったけれど、こういう事実にはめくじらを立てないものなのだろうか。

 今年に入って、「BIG BROTHER」の第1回、第2回の出演者が出演するスペシャルということで、たまたま見ることになったRTLの番組、「Familienduell」(家族対抗)。おぉ、これはまさに「クイズ100人に聞きました」ではないか! 番組のサイトをチェックしてみると、番組紹介文に「“私たちは100人に聞きました”--1992年から始まったこの番組は……」と、まさにそのままの説明から始まっている。しかし、日本で「クイズ100人に聞きました」が放送されていたのは、いつ頃からだろう? '92年より前のことだった? さらに、そもそもこの番組のオリジナルが「日本である」とも言い切ることはできないのではないか? オリジナルはアメリカだった、ということもあり得るわけだし。「日本から盗んだでしょ」と言うなら、ちゃんと調べるべきだろうし……。ともあれこんな調子では、ドイツのテレビ番組をくまなくチェックしていったら、もっと類似番組が見つかるのかもしれない。
 (※編集部注・米国の「Family Fued」という番組が元祖の番組だそう)

 ドイツのテレビ番組が「日本で見たあの番組?」と思わせるものばかりだと、強調したいわけではない。しかし、系列局内で、コンセプトに多少のアレンジを加えてタイトルを変えただけ、という類似番組が正々堂々と存在することも珍しくない。クイズショウがまさにそうだ。RTLは民放でも人気はトップクラスだが、その看板番組のひとつである「Wer wird Millionaer」(百万長者になるのは誰)は、イギリス、フランス、スペイン、そしてインドでも同タイトルの番組が放送されている(これはさすがに正式なライセンスを持っているのだろう)。ここで番組そっくりに構成された各国版を、疑似体験で楽しむこともできる。それは問題ない。しかし、この番組のそっくりさんも幾つかの局で見受けられるし、まるで開き直ったかのように、スタジオセットや問題提示画面のレイアウトが似せてあったりする。例えばSAT 1の「Quiz Show」は、比較的新しいクイズ番組だが、雰囲気はまさに「Wer wird Millionaer」を引き継いでいる。サイトのなかの「Trainingscenter」をクリックすれば、これまたWebでクイズ疑似体験が可能なので、ぜひその「違い」を体験してみていただきたい。
 一体全体……、どの局もアイディア不足なのだろうか? 賞金、それを獲得するまでのプロセス、回答条件などの細かな点は異なる。しかし、それだけで容認されてしまうものなのだろうか。

「BIG BROTHER」フォロワー現象は続く


BBフォロワー番組の1つ、「POPSTARS」
 ところで、現在第3弾が放映中の「BIG BROTHER」(以下BBと略)は、正々堂々契約と支払いをした上で制作されているものだが、番組がヒットしてからの素人参加の類似番組は、今でも後を絶たない。まぁ、ここまで文句を言うのもどうかとは思うが、素人参加で低予算で作れる番組なだけに、局側としても魅力的なのだろう。
 例えば第1回BBが終わった直後に放送された、SAT 1の「Inselduell」(島での対決)では、無人島で生活し、挑戦者自身で島を去るものを選別する内容だった。現在も放映中の「GIRLSCAMP」は、太陽の輝く豪邸での10名の女性によるチャレンジで、視聴者も脱落者指名に参加可能。BBより自由度や開放度は高そうだ。またBBと同じRTL系列の「House Of Love」では、1人の主人公に対して複数の異性の挑戦者が一緒に豪勢な家に住み、主人公が1人ずつ脱落者を選んでいき、最後はハッピーエンドになるという企画。さらにちょっと趣向は違うが、明日のスターをオーディションによって探しだしてデビューさせる、ドキュメンタリー風の「POPSTARS」()等々……、さすがに私もすべてを追うことはできなかった。
 「GIRLSCAMP」は意外と健闘しているようだし、「POPSTARS」からデビューしたグループ「NO ANGELS」は、現在チャートのトップ近辺を飛ばしている。フォロワーと言えども、そこから面白く発展させることに成功した企画は、その時点でフォロワーとは言えなくなるのかもしれない。
 ちなみに、第9回の記事で触れたBBのバス編「Der Bus」が、ついにドイツでも制作されることになった。すでに挑戦者の募集は締め切られているが、バスの中での100日だなんて、考えただけでも息苦しそう!? それと、現在BBにはアジア系の男の子が参加しており、彼の動向が同じアジア人として気になり、前ほど熱心ではないものの、つい番組をチェックしてしまう私なのだった。

■「トークショウ」ドイツの場合


ドイツ版ジェイ・レノ、「Die Harald Schmidt Show」
 最後に、これまで何度かこのコーナーで触れている「トークショウ」。日本流に「トークショウ」と言うと、タレント(お笑い系が多い?)が司会をするトークバラエティー番組というように捉えられるのだろうか。
 ドイツの「トークショウ」では、毎回異なるテーマを提示し、それに関して「意見がある・思い切って告白したい」出演者を一般から募る。番組はそうして集まった一般からの出演者による意見・発言に対し、観客である会場との意見のやりとりを含めて、司会者が巧みに議論を操っていくものである。定番のテーマとしては、「ダイエットもの(太っていても美しいvsダイエットに成功した女性)」、「あの人にご対面」、「もう一度よりを戻したい」などが記憶に残っている(そして食傷気味)。多少趣を変えたとしても「愛憎もの」が定番であることには間違いない。
 番組を生かすも殺すも、総ては司会者の力量次第。これは番組のタイトルに司会者の名前が冠せられることが多い点からもわかる。Pro 7の「Arabella」「Andreas Tuerck」などは若者にも人気だ。また、赤裸々な告白をした出演者たちは、公共の場で発言したことによって、セラピー的な効果を得る場合もあるそうだ(出演料も結構良いらしい)。
 こういった企画は、もとは英語圏から来たものだろうが、以前見たアメリカのそれは、出演者が全く素人には見えない名演を見せつけ、真実味が感じられなかった記憶がある。ドイツでも「え~、ドイツ人ってこんなに変な人たちばっかりなの?」と、テーマによっては不信感を抱くような場合もある。よくこんなテーマで告白できるなぁ、と思うのだ。だが、彼らが出演する姿を見れば、それはまさに生々しい真実なのだと納得することもできる。
 それから、日本の「トークショウ」に共通するショウもある。例えば、人気タレント、ハラルド・シュミットによる司会で進められる、Sat 1の「Die Harald Schmidt Show」などがそうだ。この人気番組、司会者によるバラエティー系の話術とギャグに、芸能人や有名人のゲストを招いての巧みなトークが売り。しかし、これまた偶然にある夜、NBCで同じ深夜の時間帯に放送されている「The Tonight Show with Jay Leno」を見て、驚かされた。生バンドを含めたステージセットは、「Die Harald Schmidt Show」とまるっきり同じように構成されているのだ。きっとオリジナルはアメリカの方だろうなぁ。これはたぶん、敬意を表しながらの正々堂々のコピー、いわば確信犯なのだろう。こういったドイツ人の感覚は、私にはどうにも理解できそうもない……(苦笑)。

◎著者自己紹介
  ドイツに住んでもうすぐ4年(ええっ)。未だドイツ語上級レベルへ達する努力を怠ったまま、日々をドイツ流(?)にのんびり過ごしている。最近になってオペラやバレエ鑑賞と、今更ながら「別のドイツらしさ」を再認識している、ドイツ・ロック畑で働いていたフリーライター。でも心はすでに、4月に新作がリリースされるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)。炎満載の熱いステージを体験できるのは、まだ先のことだけど…。

(2001/03/09)

[Reported by kajo]

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