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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。乞うご期待!

第18回 ビールvsワイン (by taoga)

■「ドッ」と注ぐのがドイツのビール


イラスト・Nobuko Ide
 ドイツといえばビール。なにも暑い夏だけではない。寒い冬の間も、ドイツ人はビールをよく飲む。雪がちらつく寒い通りを歩いて酒場のドアを開けると、そこは別世界。活気ある店内の雰囲気と心地よい暖かさで、ビールの味も一段と増すというものだ。
 酒場といってもいろいろな種類がある。ドイツ人が普通に酒場のことを呼ぶ「Lokal」(ロカール)という言葉は、軽食を出すレストランも含む、一般的に飲めるところのすべてを指している。「Kneipe」(クナイペ)というと、ぐっと酒場風になる。薄暗い店の中、カウンターと木製の小さなテーブルと椅子などを思い浮かべるといいかもしれない。そういうところは、カウンターの裏に樽からのビールを注ぐ取っ手があり、たいていは愛想の悪いおばさんが立っている。目の前には泡いっぱいのジョッキを2、3並べて、客の話の相手をしながら、泡が減ってくるグラスにビールをまた「ドッ」と注いでいる。

 この「ドッ」という表現が、わかりにくいかもしれない。これには、日本とドイツでビールを注ぐ時の違いがあるからだ。ドイツでは、友達と飲む時でも、お互いのグラスに注ぎあうことはまずない。日本の「おっとっとっ」という光景は、まず見ることができない。自分のビールは自分のグラスに注ぐのだ。考えてみれば当たり前の話で、食事に行って自分の注文したものを、まず向かいの人に食べさせるという人はいないだろう。ましてや自分で注文し、勘定の時に自分の分を1ペニヒまで計算してキチッと払う、金銭的に細かいのが特徴のドイツ人なのだから。裏を返せば、それ以上は一文たりとも払う気のない人が多いのだから、当然だ。
 また日本でよく見る、グラスを傾けて泡が立たないようにそっと注ぐ光景は、ドイツでは見たことがない。ここでは、テーブルに置いた長めのグラスに、ビールを滝のように上から注ぐのだ。自然と泡がいっぱい出て、ビールがグラスの底に数センチ見える頃には、グラスの縁まで泡がきている。その泡がだんだん減ってくるまで話をしながら辛抱強く待つ。かなり減ったときに、また上から「ドッ」。これを繰り返し、ビールがグラスの八文目まで満たされ、グラスの縁よりはるか上までこんもりと泡が覆ってくれば、さぁ飲みどき。やっと「プロスト」(乾杯?)とお互いの目を見ながら、グラスを目の高さまで持ち上げ乾杯し、渇いたのどを潤すことができる。
ビールを「ドッ」と注いでくれる、酒場のおばさん
 ビールの泡を大事にする理由は、ビールの表面が空気に触れてまずくなるのを防ぐためだそうで、この「ドッ」と注ぐビールに見慣れていると、「チョロチョロ」と注いで泡の立っていないビールを見るとマズソーに見えてくるから不思議なものだ。
 泡の多いことで有名な「ビットブルガー・ピルツ」などは、樽からこのように注いでいると、飲めるようになるまで25分くらいかかると聞く。その間に肝心のビールが温まらないよう、泡が引くのを待つ間、専用の冷蔵庫に入れておくような店もある。ちなみにここ、世界中のビールが揃っており、まるでビール博物館のようだ。

 補足すると、ドイツ人は冷たすぎるビールを嫌う。冷たいと味もわからないし、お腹にも良くないというのが理由だそうだが、「ビール=冷えている」というイメージしか持たない我々には、冷蔵庫で冷やさず、室温のビールを好む人を見ると妙な気がする。
 こんなエピソードがある。晩酌にビールを欠かさない私の父が、遠路はるばる尋ねて来た時のことだ。600種類もあるといわれるドイツのビールを飲んでもらういいチャンス。毎日、違う銘柄を買ってきては飲ませてみた。もちろん、毎回これはどこのビールでどのような種類なのかを説明することも忘れなかった。一通りのお勧め銘柄を飲んでもらった頃、どのビールが一番美味しかったか聞いてみると、「ビールは冷たければ何だって美味しいよ」……。うーん、そんなものか。

■ビールの消費量の謎


 私は大きな単位の数字が苦手だ。どの町の人口がどうの、どこそこの予算が何兆円だのというのは、馬耳東風の世界。その私がビールの消費量に関して書くつもりになった。ドイツのビール消費量は、きっと世界一だろうと思ったからだ。ところが、調べれば調べるほど謎が深まる。
 まず「ビール消費量世界一の『ビール王国!』ドイツ」と書いているWebページがあった。さらに「1人当たりのビール消費量は、やはりドイツが1位」と書かれたページも見つかった。ところが、「ベルギーの1人あたりのビール消費量は、ドイツを抜いて1位」というページが出てきた。ということは、ドイツは第2位か? さらに「97年ビール消費量ランキング 1.米国 2.中国 3.ドイツ」というデータまで登場した。じゃあ、ドイツは第3位?
 さあ困った、インターネットの世界で起こる典型的な光景、つまり情報が多すぎるんだ。しまいには「ドイツは、一人当たりのビール消費量がチェコ、アイルランドについで第3位、国全体の消費量もアメリカ、中国に次いで第3位のビール大国である」が出てきて、これであぁそうか! と納得した。要するに一人当たりの消費量というデータと国全体の消費量というデータが、混ざり合っているらしい。そのうえ、1997年から2000年までのデータも混ざっているのだ。手のつけようがない。
 でも、どうやらドイツは第3位くらいになりそうだ……と思っていたら、ドイツ語のサイトではまた違っていた。「ヨーロッパ内でドイツのビール消費量はチェコに次いで第2位」とある。こうなったらもう、解らない。どうも調査の仕方、あるいはそれを調査する側の都合(!)によっても、順位が入れ替わるということか。
 今挙げたいくつかのサイトを見ていて、ドイツのビールの消費量が年々減る傾向にあると書かれている点が気になった。そういえば、ロカールの中を見渡しても、ビールをがぶ飲みしている人はあまりいなくなった。昔風の古びたドイツ風ロカールよりも、最近はパリ風の粋なビストロの方が若い人には受けているようだし、そこに座っている人たちはワインのグラスを傾けている割合が多い気もする。ビールはカロリーが高くて太りやすいと思われているのも、理由の一つであろうか(連載第14回を参照)。まあこの傾向にしても、日本からの観光客ならたいていは訪れる「ホフブロイハウス」で有名な、ミュンヘンなどの「ビールの町」では、違ってくるのかもしれない。

■ワインの前に、まずビール!


“廃墟レストラン”から見下ろしたブドウ畑。映っている影は廃墟のものだ
 さて、ビールに比べると、ややマイナーなイメージのドイツワイン。日本には片寄った情報しか伝わっていないことが理由だろう。ドイツワインと聞いて「甘い」と考えたら、その落とし穴にしっかりはまっているといっても過言でない。逆に日本人は甘いワインしかワインと思っていないのかと、ドイツのワイン作りには思われているのだ。
 私の住んでいるマンハイムの四方は、ワイン用のブドウ畑ばかり。ライン川を渡り西に車を走らせること20分。あたり一面ワイン畑、いや、ぶどう畑。この地方はライン・プファルツと呼ばれる地方で、見渡す限り続くぶどうの木は圧巻だ。
 畑の合間にある村という村はワイン作りの農家で埋め尽くされ、その家の前にはたいてい、買出しに来た人たちの車が止まっている。中では試飲したり、おしゃべりしたりの楽しそうな声も聞こえる。私個人としては、この地方独特の酸味の強いワインは苦手で、ライン・ブファルツに行っても、りんごや新鮮な野菜を買う程度だけれど……。
 このプファルツ地方には、B級グルメ用のロカールが多い。一杯飲みながら、名物のザウマーゲン(これも連載第14回を参照)を食べるのにうってつけのレストランがたくさん見つかるのだ。暖かくなってくると庭に用意されたテーブルで鳥の声を聞きながら一杯、というのが最高。夏の天気がいい日に、私も好んで行くところがある。バッテンブルクという小高い山の上にある、小さなお城の廃墟をレストランに改造してある店だ。ここにしかない名物の「gehuepfte Kaese」という、にんにく風味のフカフカなチーズをパンに乗せて食べながら、そこの畑で取れたリースリングの白ワインを飲んでいると、景色も最高でちょっとだけリッチな気分に浸れる一時だ。  また、各村で開かれるワイン祭りの時なら、ワインプリンセスたちに逢えるかもしれない。例えば、プファルツ地方のワイン祭りの日程は、ここで調べることができる。

リースリングの原料のぶどう。このまま食べても美味しくないそう
 ドイツ式ワインの飲み方は、ビールとはまた異なる。例えばビールの場合、飲みかけで半分残っているグラスに注ぎ足すのはとんでもないことだが、ワインは構わない。経験からいえることは、冷えていないと美味しくない白ワインの場合、飲むピッチの遅い人はなみなみと注がずに、出来るだけ少しずつ注いだほうが美味しく飲めるようだ。
 それと、特筆すべきは「ワインはのどの渇きを潤さない」ということ。理由は知らないが、確かにそうなのだ。カルキを大量に含む水道水を、そのまま飲むことができないドイツでは、その代役をビールが勤めるようになったようだ。そこで、ワインを飲む前に、まずビールを一杯飲むところから始まる。数十分も泡の消えるのを待っていられない人は、ドイツで通常飲まれているピルツではなく、日本のビールに多いラガーに相当する「エクスポート」という種類のビールを頼むと、泡も早く消えてすぐに飲むことができる。ビールの製造方法別の種類はここで解説している。  ビールでのどの渇きが収まったら、さぁワイン選び。普通はワイン用のメニュー(Weinkarte)が別に用意されている。グラス一杯から注文できる店のお勧めも良し、ぶどうの種類、あるいは地域別に整理された豊富なボトルの種類から選ぶも良しだ。レストランの庭の席を陣取り、目の前に広がる畑から取れたワインを飲むのは一興といえる。

 さて、2月後半のカーニバルが終わると、復活祭(今年は4月15日)前の40日間、Fastenzeit(断食節)と呼ばれる季節がやってくる。断食までする一般の人はいないと思うが、その間アルコールを断つ人たちも多い。……と思ったら、これを実行している人はどうも少ないようで、夜になるとどこのクナイペもビールを飲む人たちで賑わっている。私自身は大のワイン派で、「量より質」がモットー。晩御飯時になると、今日の献立に合ったワインのコルク栓を抜くために、料理の始まった台所をウロウロしている。

◎著者自己紹介
 格別な味のビールやワインに比べ、お世辞にも美味しいとは言えないドイツ飯(めし)。おいしい物を食べることが大好きな私が、よりによってドイツに住みついてから長い年月が過ぎてしまった。時間がある場合は、ときどきライン川を渡り、フランス側で昼食をとる。川を一本渡るだけで、どうしてこんなにも味が違うのかと感心する。しかしデザートの後でコーヒーを飲む段階になると、無性にエスプレッソが欲しい。山(アルプス)を超えないと行かれないイタリアは、残念ながらちょっと遠い。各国のいいところだけを拝借するのは、そんなに難しいことか?と、悩んだりしている。
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(2001/03/16)

[Reported by taoga]

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