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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。

第19回 ドイツのテレビ番組事情 Part 2
   ~聴覚で楽しむ? ドイツのお笑い番組 (by kajo)

イラスト・Nobuko Ide

■吹き替えがドイツ人の英語をダメにしている!?


 ドイツ人は英語が上手だ、と言われている。もちろん、大学を卒業した人、大学入学資格(高校卒業試験に相当する)のアビトゥーアに合格した人なら、たいていは上手に英語を操るものだと思う。でも、ごく一般の人たちはどうだろう。
 ドイツに来た当初、ドイツ語が全く分からなかった私は、最初は英語を駆使してどうにか乗り切っていた。その時の印象は、どうにも英語では不便であること。旅行ならともかく、生活しているんだから、不便を感じるのは当然と言えば当然なのだが。友人を除き、日常生活で接する人たちとの会話は、英語では通用しない場合も少なくない。近所のお買い物は当然、郵便局でも時折、電車の定期券を買う時もたいてい、銀行でもまれに、英語では目的を達成できないことがある。まあ、ドイツ人はお節介焼きも多いから、相手が言っている“ドイツ語混じりの英語”を私が理解できないと決めつけた第三者のドイツ人が、見かねて横から「分かるかい?」と、さらに混迷を深める英語で助けに入ったこともしばしばだが。

 この連載で以前、ドイツの映画事情について書いた回で触れたが、ドイツの映画のほとんどは「ドイツ語吹き替え」である。テレビで放映される映画や、さらにはアメリカやイギリス製作のテレビドラマもドイツ語吹き替えである。だから、CNNやBBCを観ることはできても、映画やドラマで生の英語を聞くチャンスは、ほとんどない。ニュース番組でアメリカのブッシュ大統領がコメントしていても、ドイツの局の場合、すぐさまアナウンサーによるドイツ語が上から覆い被さってしまう。日本だとたまには字幕もあるでしょう?
 ドイツ語の吹き替えが普通になっている状況があるから、「だからドイツ人は英語がそれほど上手くないんだ!」と思うのだ。ちなみに、英語が上手だなぁと思ったのはオランダ人。オランダでは、テレビでも映画はオランダ語字幕付きのオリジナル言語で観られるので、とても嬉しかった記憶がある。さらに歴史的背景か、それともドイツ語と似ている部分もあるからなのか、ドイツ語を理解する人が結構存在するのにも驚かされた。 。

■「聴覚」に長けているドイツ人


 では、何故すべてドイツ語吹き替えにしてしまうのか。どうして字幕が嫌いなんだろう?
 以前、こんな話を聞いたことがある。ドイツ人は「聴覚」、日本人は「視覚」が長けているのだと。
 日本のお笑い番組では、文字の表現が盛んに、そして有効に使われている。テロップが出ることによって笑いを誘えるなんて、日本独自の技なのかもしれない。ここドイツで、そんな手法はお目にかかったことはない。テレビニュースでも、タイトルとして1~2語の単語が写真と共に提示される程度である。以前はそれさえもなかったと聞いたことがある。「聞けばすべて分かる」ということなのだとと思う。まぁ、前回紹介した「トークショウ」では、出演者の主張を1行ほどにしたテロップが出ることもあるので、最近は多少文字を使う傾向が出てきたのかもしれないが。そしてこの1行が、私にはとても有り難い。やはり文字で読めると、確実に理解できるのだ。
 もちろん、日本語で使われる漢字は「表意文字」であり、ドイツ語は「表音文字」である、という違いはある。さらに、ドイツ語は他の言語より多くの文字数を必要とする言語かもしれない。以前、ドイツ語吹き替えの映画の中に中国語の会話部分があって、そこでドイツ語字幕が使われたことがあった。その時は一瞬の間に数行のドイツ語が飛び去っていくので、私は全く追いつけなかった。ドイツ人なら、あの速さでも問題ないのかもしれないが……。それでも結構大変な作業かもしれない。
 ただ、前にヨーロッパの有名な観光地を回った時、展示物にある欧州数カ国語の説明文をチェックした限りでは、ドイツ語は英語のそれよりはたいてい長めではあったが、他の言語を抑えて常に最長というわけでもなかったが。

 導入が長くなってしまったが、今回のメインは、私の好きな「お笑い番組」だ。私は、ドイツでも腹の底から笑わせてくれる番組をこれまで探し求めてきた。しかし、なかなかツボが掴めない。もちろん、言葉の壁もあるし、ドイツ人の常識がわからないと笑えないものも多いだろう。それでも、幾つかのコメディー番組をちらりちらりと観ては、笑いを求めていった。本来、日本人の特性として持っている「視覚」ではなく、言葉が不自由であるが故の「視覚的に楽しめる」コメディーを求めて。果たしてドイツで、そんなコメディーは存在するのかとも思いながら。

■政治家は格好のお笑いのネタ


超人気タレントStefan Raabが司会の「TV-Total」
 最初に私が笑い始めた番組は、テレビ局・Pro 7の「Switch」。この番組、残念ながら現在は放送されていない。ドイツで多く見受けられる短期間限定の企画番組だったのだが、そのうちまた復活するだろう。  なぜこの番組で笑えたか? それは、この番組のメインが、他の番組のパロディーだったからだ。やはり、まずは「視覚から」。パロディーで笑えるからには、元番組も知らなければならない。取り上げられている番組は、それなりに人気があるハズだと、相乗効果でテレビに詳しくなっていった。公共放送の高視聴率ニュース番組「Tagesschau」(きょうの話題)をはじめとして、「Xファイル」のようなドラマ、そしてCMと、幅広いジャンルを取り上げたパロディーが中心だった。しかし日本のそれより誇張が激しく、後から本物を見ても、笑うどころか戸惑うこともしばしば。パロディーとして強調されたキャラクターが独り歩きしている場合もある。
 また、政治家がよくネタに使われるのは、日本ではあまり考えられないことではないだろうか。国会中継のような本物の映像を使い、堂々と吹き替えを敢行する勇気(?)。もちろん、シュレーダー首相は常連だ。メディアを上手く活用する野党政治家の名前と顔が最初に一致したのは、報道番組ではなく、この番組からだった(苦笑)。時にはコミカル、時には非常にシニカルな内容の吹き替えをされたとしても、いずれにせよ知名度を上げる効果があることは間違いなく、政治家もその辺を考えてクレームを出さないのかもしれない。
 この傾向は、テレビ局・Sat 1の「Die Wochenshow」(週刊ニュースショウ)にも見られる。こちらでは、パロディーのみならず、オリジナルのコメディーやニュースコーナーもある。少ないタレントで多くの役割を担う弊害(外見が全く似ていない、そもそも物まねが甘い)という不満はあれど、独自のキャラクターを創りあげて人気を獲得するタレントも出ているし、ドイツ人は「そっくり」であることよりも「独り歩き」するほど強烈なキャラクターを求めているのかもしれない。

 ちなみに、ドイツでトップの人気を誇るバラエティー番組は、超人気タレントStefan Raabが司会を務める「TV-Total」だろう。現在は週4回の放送だが、Stefanは音楽に強く、ウクレレを使った即興コントは得意技のひとつ。またドイツのテレビ番組の中から、生放送でとんでもない失敗をした司会者や、素人の面白芸などの要注意な部分をピックアップし、関係するゲストを呼びつけたトークや、Stefan自身による挑戦ものもある。とにかく、主なネタ元は「テレビ番組全体」。スタッフが連日連夜、事細かにテレビをチェックしていることは明白だ。また、ドイツではよく起こる隣近所のモメゴトのレポートで、当事者であるオバサンの「金網の柵」(Maschendrahtzaun)と発言した部分をサンプリングしてカントリー風の曲を作り出し、Stefanがそれを歌ったら、2000年の大ヒットになってしまった。そのオバサンは時の人となり、一気に有名人。なんと彼女のWebサイトも存在している。何かと話題を提供してくれる番組なのである。

このオバサンが「スター」だなんて……!
 個人的に気に入っている、しかし一部に問題を感じているお笑い番組は、これも期間限定だったSat 1の「Darueber lacht die Welt」。一般人や有名人を巻き込んだ、ドッキリカメラ風の騙し企画がメインで、有名人と同姓同名の一般の人を突然訪問したり、大昔のメダリストを訪ねたり、とんでもないことを実行する体当たり企画など内容もバラエティーに富んでいる。一番感心したのは、男性タレントのHape Kerkelingがオペラのステージに紛れ込み、妖艶で豊満な女性の装束でキメ、それらしく歌い上げて会場を煙に巻いた(後から笑いを取った)シーンだ。もちろんオペラのプロでないことは明らかだが、それ風に歌うそのレベルの高さには脱帽した。さすが、こういう資質はドイツなんだなぁ……と感動。
 ただ、ひとつ気にかかる企画がある。細かい趣向はたびたび変わるものの、基本は「日本人女性通訳が早とちり、誤訳をする」という設定のコントだ。西洋人の女性が黒髪のカツラを着用し、黒縁メガネをかけたら日本人風に見えるの? と感心する余裕もないほど、その内容は日本人女性にとっては辛辣だ。企画のことは何も知らない状態のゲストへインタビュー通訳をする際、相手の言うことをとんでもない内容、大抵はすごくエッチな内容に誤解し、挙げ句の果てには「ゲストからお誘いを受けたと勘違いし、すぐ承諾するような女」というオチになることが多い。この時の言葉は英語で、もちろん日本語のシーンは出てこないが(話せるわけがない!)、日本人通訳として実際に活躍されているであろう女性たちを、ちょっとバカにしてないかしら? それとも、誰か実際にそういう体験をしたことがあり、それをデフォルメしたものなのだろうか。これだけは同じ日本人女性として素直に笑えない企画だ……。

 なお、ドイツでも「どっきりカメラ」系の企画は大人気らしく、「隠しカメラ」(Versteckte Kamera)やら「カメラにご用心!」やらのタイトルで、類似の番組をたびたび見かける。しかし、日本のそれよりあざといネタも多く、倫理的に笑えないこともある。いちばん酷いと印象に残っているのは、とある店に置かれている箱の中に爆弾が仕掛けられており、爆発処理班の指示で何故かその場から離れることを許されない店の人間とターゲットにされた一般人がひたすら我慢して、途中外に出してくれと懇願するにも関わらず、引き延ばされて恐怖を煽られていたものだ。最後に騙しと分かってターゲットは安堵したとはいえ、ちょっと残酷だな、と思ってしまった。
 他にも、日本でも見られるスタンドアップ・コメディものも人気があるが、もちろんトークが売りなので、私は残念ながらあまり見ることはない…。

■ドイツ人には驚異? 日本のお笑い芸人のど根性ぶり


ドイツで「風雲たけし城」と再開するとは!
 日本のお笑い番組で最も特徴的なのは、タレント自らが体を張るチャレンジものかもしれない。そのタレントの気合いは、ドイツ人には信じがたいものらしい。たまたま何かの番組紹介でそれを見た時には、「よくやるねぇ…!」という感想を漏らすようだ。確かに、あそこまで自らを危険にさらしたり、体を痛めつけたりするなんて、こちらではお笑い系タレントと言えども考えられない。そこそこのチャレンジものは見受けられるが、日本人から見たら「甘い」の一言で済まされる程度だ。こちらのバラエティーのタレントは、芸は本格的であっても、自らに鞭を打つようなマゾ的な真似はしないのだろう。
 その日本のお笑いが、ドイツにはない特異なものとして、実は一部でウケているらしい。スポーツ専門局DSFで放映されているのは、なつかしの「風雲たけし城」(Takeshi's Castle)。北野武は「Takeshi」として、こちらでも映画監督として有名だ。それもあいまって、意外な人気を得ているのだろうか? 「タ・ケ・シ~!」とこの番組のことでからかわれたという日本の子供もいることだし(深刻なイジメではないので、念のため)、見ているドイツ人は結構多いらしい。

 視聴者参加の体を張ったチャレンジものは、ドイツでもいくつか放送されている。何度か見ていると、男性より女性がハードなものにトライしている。例えば洋服を着たまま全身水にどっぷり浸かって、息を止めながら相方の男性が質問をクリアーするのを待つものなどがあり、その様子に感心したことと、あまりに必死でかえってしらけてしまったくらいだ。あまり見ていて楽しくはなかった。
 ドイツでは、局によっては充分な制作費を掛けられないことから、特撮の必要なミステリーやSFものなどは、アメリカのテレビ・ドラマを主に買って放送する局(VOX、Pro 7、RTL2など)もある。いずれにせよ、ドイツのテレビドラマはあまり面白くない。病院ものか刑事ものが多く、主人公がオジサンやオバサンであることも多い。公共放送やRTLではソープ・オペラ(連続メロドラマ)の人気も高く、若者向けのそれも一部人気があるようだが、その辺りは一部の「習慣的行動を好む」ドイツ人に任せておけばいい。そこで是非日本のテレビ関係者の皆さまにご提案。今度は是非、日本の体を張ったお笑い番組を、ドイツに売り込んでみてはいかがでしょう? 

◎著者自己紹介
  ドイツに住んでもうすぐ4年(ええっ)。未だドイツ語上級レベルへ達する努力を怠ったまま、日々をドイツ流(?)にのんびり過ごしている。最近になってオペラやバレエ鑑賞と、今更ながら「別のドイツらしさ」を再認識している、ドイツ・ロック畑で働いていたフリーライター。でも心はすでに、4月に新作がリリースされるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)。炎満載の熱いステージを体験できるのは、まだ先のことだけど…。

(2001/03/23)

[Reported by kajo]

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