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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。乞うご期待!

第20回 ドイツにおける学校教育現場のインターネット利用率 (by taoga)

■突然「インターネットで調べなさい!」


イラスト・Nobuko Ide
 冬のある日、小学校に通う息子が変わったテーマの宿題を持って帰ってきた。それは動物の冬眠に関してだった。どうしていいかわからず、とまどっている子供に「どうしたのか」と問いただしてみると、先生がこう言ったという。
 「きょうの宿題は、まず自分で冬眠する動物を探し、その動物の生態と冬眠の状態について書いてきなさい」
 これだけでもじゅうぶん大変だ。なんせ、まだ小学4年生なのだから(!)。

 ドイツの学校制度では、基礎教育の最初の4年間はGrundschuleという、日本でいえば小学校の1年から4年までにあたる基礎学校で勉強する。その後、大きく分けて三種類の方向に分かれる。小学校の続きのような基幹学校(Hauptschule)、卒業後すぐに職につけるようにいろいろな技術を身につける実科学校(Realschule)、そして日本でいう中・高校にあたる、大学に入学するための資格(Abitur)を取るための教育を受けるギムナジウム(Gymnasium)だ。詳しくはこちらのサイトの説明を御参照いただきたい。
 その基礎学校で最高学年の子供たちとはいえ、4年生の子供であること違いはない。年も8歳から12歳くらいだ。年の開きがあるのが変だと思うかもしれないが、これは、ドイツでは入学する年が6歳とは限らないからだ。就学する子供の様子を見ながら、1年早かったり、遅かったりする。それどころか入学した後でも、能力があれば1年でも2年分でも飛ばして進級できるし、もう1度同じ学年を繰り返すこともできる。したがって「同級生=同い年」という日本の一般的な法則はドイツでは当てはまらない。それが後に、年功序列に支配されないで、能力を有する者がない者を追い抜いていく世界となって現れているのかもしれないが。

 ところで私が驚いたのは、そのテーマが難しいということではなく、そのあとで、先生が生徒たちにあっさりと投げた言葉だった。
 「もしわからなかったら、インターネットで探しなさい」
 ……マル、だそうだ。自分の耳を疑った私は、どうしていいかわからず、目の前できょとんとして立っている我が子に向かって、本当に先生がそれだけしか言わなかったのかを何度も何度も問いただした。「マル」で終わりじゃなくて、その先にもう少しインターネットでの探し方などを説明していたのを、我が子がボケッとしていて聞き損なったと思ったからだ。
 何回目かの同じ質問に、うんざりした顔をしながら「本当だってばー、本当にそれしか言わなかったんだからー」と言う子供の言葉を聞きながら、私の頭の中はいろいろな方向に回転を始めた。とんでもない世の中になったと実感したのだ。いや、ウチはまだいい。子供部屋の勉強机には、ミニタワー型のPCが、わが物顔に陣取っている。AMD製K6-2 400Mhzのプロセッサーに、3dfx/VooDooの3Dグラフィックカードを備えたこのPCは、小学生が(残念ながら大半の時間を)ゲームをしたり、ほんの時たま(笑)お勉強ソフトに使うためには、充分過ぎるくらいだ。ましてや、厚いコンクリートの壁をぶちぬいて、隣りにある私の仕事部屋に置かれたHUBとルーターを経由し、ADSLでインターネットに常時接続された環境を持っているのだから。
 しかしだ、担任の先生がクラスの生徒たちに、そのように指示するということは……。もしかするとどこの家庭でも同程度の環境がそろっていて、子供たちが当たり前のようにインターネットしているということなのか!?

■ドイツの子供たちのインターネット利用状況は?


デパート内にあるインターネットカフェ
 確かに、最近は大手スーパーマーケットのチェーン店であるALDILIDLでも、時折2,000マルク(約10万円)を切るPCを売り出して、大半がその日のうちに完売している。コストパフォーマンスはなかなかのもので、私の同僚や知人の中でも購入した人たちも多い。
 このブームの火付け役となったスーパーマーケットALDIの、1回目の売り出し時のエピソードは笑える。広告を手に開店の数時間前から待ち、われ先に売り場に駆けつけた人たちのなかで、出遅れた人が1人。彼の目前で最後の1つの箱を取られてしまった。怒ったこの人、最後の1つを手に入れ喜んでいる人にピストルを突きつけ、「それは俺の分だ。よこせー!」とやってしまった。不幸にもレジの前だったことからすぐに店員に通報されて、言うまでもなく即座に御用になったという。しかし、なぜピストルを持ってスーパーに買い物に来るのかわからないし、それどころか、なぜ店の外でやらなかったのかが謎だ。店内で「よこせ」とやったわけだから、その後は代金を自分でレジで払おうとしていたことになる。もしかしてこの人、すごくマジメな人だったりして……。

 ここで、今の子供たちがどのくらいコンピュータやインターネットになじみが深いかを知りたくなった。私の力では広範囲のアンケート調査はできないので、息子の通っている学校の4年生を例にとって調査してみた。この話が発端になって、隣人の学校の先生が、彼が受け持っている職業学校のさまざまな種類のクラスでも調べてきてくれ、思わぬ情報も入手できることになった。
 想像していた通り、小学生では家族のコンピューターでときどきインターネットも使わせてもらっているらしい。そして年齢に比例して多くの子供たちが専用のコンピューターを使うようになり、頻繁に、そして自由にインターネットを駆使しているらしい……ということがわかってきた。しかし反面、意外な姿も見えた。PCよりもどうやら携帯電話を使ったSMS(ショートメッセージサービス)のやりとりが盛んらしいことや、チャットを利用している子供が少ないことだ。デパートの売り場や映画館などにインターネットカフェ的なコーナーが増えているが、そこを使っている若者たちがチャットに勤しんでいることも多いのを見ているだけに、この結果は意外だった。もっと広範囲で調査すれば、結果はまた違うのかもしれないが。

 内訳を詳しく見てみると、まず、8歳から10歳の小学4年生では、インターネットの経験があるのは全体の3分の2。これに比べ、ギムナジウムや職業学校の生徒たちは、全員がインターネットに馴染みがある。それどころかギムナジウムの生徒たちは、全員自分のPCを使っていると答えている。高学年の生徒たちの大半が自分専用のメールアドレスを持っているのも、両親のアドレスを借りてというより、両親の監督付きでメールを送受信している小学生とは違うのも当然だろう。これはまあ、時間の問題だろうが……。SMSやチャットが小学生に意外に多いのは、たぶんSMSやチャットという言葉を知らないで、「はい」と答えてしまったためと見られる。ひょっとすると、質問した先生自身が知っていなかったのかもしれない。詳しくは、下の表をご覧いただきたい。

【クラスA】 【クラスB】 【クラスC】 【クラスD】 【クラスE】 【 合計 】
生徒数 29 16 18 27 25 115
年齢層 8~10 15~17 16~18 17~18 17~22 115
●インターネットを使ったことがある 19 16 18 27 25 105
内訳(※複数回答)
  自分専用のPCで 3 10 10 27 10 60
  家族のPCで 15 8 - 14 13 50
  学校のPCで 0 16 18 27 25 86
  その他の場所で
 (インターネットカフェ、図書館等)
8 6 12 18 13 57
●利用頻度
  定期的に(週3回以上) 5 9 5 12 21 52
  ときどき(週1回程度) 6 3 12 4 3 28
  ごくたまに(月1、2回以下) 5 4 1 7 1 18
●自分専用のメールアドレスを所有 4 8 14 16 13 55
●情報交換 コミュケーションに大事な方法は何か(※複数回答)
  携帯電話のSMS 5 13 18 22 12 70
  チャット 4 2 0 1 1 8
  電子メール 2 1 10 4 12 29
※クラスの内訳は【A】基礎学校4年生 【B】職業学校生 (工業関係、主に自動車) 
【C】職業学校生 (商業関係) 【D】ギムナジウム 【E】職業学校生 (商工業関係)

■テスト中にも鳴る携帯電話


このインターネットカフェの料金は30分DM3,00(約150円)。ファイルのダウンロードをする場合は1時間DM15,00(約750円)
 そういえば、今回この調査を手伝ってくれた隣人のリンク氏。この人は英語の先生だが、生徒の携帯電話で悩まされていると言う。日頃から授業中でも当然のようにピロピロピロピロと鳴り響く着信音。そのうえある時、テスト中にも鳴り出した。慌てて切るわけでもないその生徒、悠々と相手と話し始めたからたまらない。怒った先生は「今すぐ電話を切るか、テストを放棄して外に行ってから話をしろ」と言ったら、面白くなさそうな顔をしてしぶしぶと通話を切ったという。後でその生徒、「保険のことで大事な話だったのに……」と一言。うーん強い。

 そういえば、「冬眠」を調べていて、困ったことがある。なかなかいいサイトが見つからない。やっと見つかると、およそ小学生用ではない学術的なものだったり、まったく宿題には役に立たないものだったりするからだ。どうやって小学生に合ったサイトを探して調べたらいいのか、できることなら私も今の時代の小学校に入り直して、もう1度初歩から学んでみたいものだ。

◎著者自己紹介
 格別な味のビールやワインに比べ、お世辞にも美味しいとは言えないドイツ飯(めし)。おいしい物を食べることが大好きな私が、よりによってドイツに住みついてから長い年月が過ぎてしまった。時間がある場合は、ときどきライン川を渡り、フランス側で昼食をとる。川を一本渡るだけで、どうしてこんなにも味が違うのかと感心する。しかしデザートの後でコーヒーを飲む段階になると、無性にエスプレッソが欲しい。山(アルプス)を超えないと行かれないイタリアは、残念ながらちょっと遠い。各国のいいところだけを拝借するのは、そんなに難しいことか?と、悩んだりしている。
taogaさんのホームページはこちら

(2001/03/30)

[Reported by taoga]

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