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【連載】

 アウトバーン通信 ~独国的電網生活 

【編集部から】
 インターネットといえば、かつてはアメリカ独走の感がありましたが、最近ではヨーロッパやアジアなど、世界各国でインターネットが盛んに利用されています。この連載では、ドイツで暮らしているkajoさん・taogaさんのお二人が、現地の最新インターネット生活をレポートします。乞うご期待!

第8回 メールをPocket PCで  (by taoga)

■街に氾濫するURLをさばくには?


イラスト・Nobuko Ide
 この11月に、Pocket PC(カシオのCASSIOPEIA E-700)を手に入れた。これには今までになく興奮した。新しいおもちゃをもらった子供の喜びようそのままで、何をしていいのか分からないまま、届いた包みを夢中で開けるところもまったく同じだった。ここでは、この新しい「おもちゃ」の、私なりの活用術を紹介してみよう。

 さて。最近、巷にURLがあふれている。ここドイツでも、いたる所で目につくURLの量は相当なものだ。街頭に貼ってあるポスターには当然書かれているし、テレビのコマーシャルでも、隅のほうにURLが表示されていることが多い。お菓子や食料品の袋でも、たいていどこかしらにURLが書かれている。たまに見つからないと「遅れてるー」と思ってしまうくらいだ。
 ただ、信号待ちの私の目の前を通り過ぎるトラックの荷台に、仰々しく“http://www.なんだらかんだら”と書かれているのが町の電気屋さんや道路工事の業者だったりすると、「ここまでやるかーっ」と思ってしまう。いったい誰がこんなホームページをわざわざ見たりするのだろう……私だ(笑)。
 私のもはや日課のようになっている行動で、外出先で珍しいURLを見つけた時、雑誌や新聞なら、その部分を破いてポケットに突っこむ。デジカメを持っている時は、その汚れた工事用トラックだったりのURL入りの荷台を撮ってみる。カメラを持っていない場合は手帳に書き留めたり、ポケットの中に眠っているレシートの裏にでも書き記したりしておく。それすらない非常(?)の時には、最後の手段。そう、頭の片隅に書き付けるのだ。

路面電車にもしっかり、URLが書かれている
 実は、PocketPCが欲しかった第一の理由はここにある。
 今までだと、家に戻ってPCの前に座り「え~っと、さっき見つけたURLは……」(沈黙)。破いてポケットに突っこんであるはずのURLはない。書き付けておいたメモはもちろん(自慢することはないが)見つからないし。最後の手段で、暗記したはずのURLを記憶した頭の中はというと、ほぼ初期化状態。「あーぁ、ダメだ、何とかしなくては」というのが、いつものパターンだった。
 このサビかかって記憶力の薄れている私の頭を、もしかしてPocket PCが助けてくれるのではないか? という、一抹の期待があった。しかも、デジカメに撮ろうがメモに書き付けようが、家でもう一度入力し直さなくてはいけなかったものが、Pocket PCをシンクロさせれば、外出先で入力したURLをクリックするだけでそのホームページに飛べる。こんなに一石二鳥のことはない!
 ……“新しい物好き”の私が、この解決策、というより“買うための口実”を思いつくまで、それほど時間を要するはずがなかった。

■購入、そして"同期"の感動


 最近、ドイツでは異常なほどのPalm人気。売り場は常に人だかりだ。思うに、PCはすでにどこの家にもあって、次に欲しくなるのが持ち運び可能な小型のコンピュータ。でもノートPCはちょっと高いと思っている人たちの、最高の選択肢になるからだろう。
 私も以前からPalmを狙ってはいたものの、Windows畑育ちの私にとって、たとえPalmであろうと新しいOSは敷居が高い。というより、新しく何かを始めるのが面倒(あぁ!)。それで、Windows Eの新しいバージョン、すなわちPocket PCが出るまで、待ちに待ったのだ。

書店の店先には特大のURLが登場
 いよいよPocket PCが登場したので、何はともあれ注文。この無邪気な喜びに、どこからともなく冷気が押し寄せてくる。オョッ、私の“高いオモチャ”に対する、家族の視線が冷たい。「イ、イヤ、これは仕事に使う道具なんだヨ。すごく役に立つんだから……」。ここから先は声が薄れる。「すごく役に立つハズなんだから……」。さらに、声は心の中だけになる。「少しは役に立つカモしれないんだから……」。 うーん、だんだん語尾が弱くなる。「とにかくやってみなくちゃ解らないしー」と最後は居直った。
 結局、特に反対されることはなく、無事に購入(へへっ) 。はやる気持ちを抑えて、まずは充電。新しいものを購入したときにいつも起こるジレンマ、「おあずけモード」。これって何とかならないの? 待つこと数時間。さぁ、いよいよだ!
 スイッチをいれる。ン、何も起こらない。いや、オーガナイザーなんだから、自分でせっせとデータを入れていかなくては。オーナー情報などを入力していて、ハタと気が付いた。シンクロナイズすれば、PCの中の情報を移せるんじゃないか。
 まずはPC本体に、「Outlook」をインストールした。そしてUSB経由で同期させるソフト、「ActiveSync」もインストール。まずはPCの中で未読のままになっているメールを読み込ませる。アドレス帳も便利そうだから同期させよう。スケジュールは、まだ使ったことがないので、とりあえず空のままにした。
 使い始めてみると、これがなかなか楽しい。PCで受信したE-Mailが自動的に同期されるようになったので、いつでもどこでもメールが読める。外出先で読めるのはもちろん、家にいる時も寝転がってメールが読めるなんて、なんと便利で、なんと失礼(!)なことか。でも、長い時間PCの前に座らざるを得なかった自分にとっては、夢物語みたいなものなのだ。
 キーボード代わりの小さな「あいうえおの表」をペン先でつつくことにさえ慣れれば、返信もその場で書ける。次にPCと同期したときに、自動的に送信されるから手間はかからない。

■果敢にモバイル! のはずが……


 さて、家に戻ってPCと同期させなくてはならないのでは、モバイルの役目は、まだ半分しか果たしていない。ここでやめては、私の"試行錯誤の大家"の名が恥じる(^^ゞ。
 そう、携帯電話を使って、Pocket PCでメールを直接受信するのだ。そのために赤外線ポートがついているんじゃないか。……ちょっと待て。私の携帯電話には、赤外線ポートがない。つい最近買い換えたときにケチッて、赤外線ポートのない「Siemens」のC35iを買ったんだった。悔やまれるけど、また買い直すのは……。
 ちょうどその時、ある広告が舞い込んできた。そこには「Cellway」という業者が、C35iの上位機種であるS35iを49マルクで提供するとあった。私の契約しているドイツテレコムの「D1」にも、その業者を通じて契約できる。
 そこで、赤外線ポート以外はほとんど同じである今の機種を家内にプレゼントして、私はSIMカードを新しい機種に差し替えればいい。家内に提案したら、意外と風当たりは強くない。それはそうだ。今までプリペイトカードを自分で買って補充していた妻の電話代が、今度から私の口座から直接引かれるようになるのだから。
Pocket PCと携帯電話、こんな具合でモバイル中
 「Cellway」のチラシは……と、よく見ると、なぜか「BMW」の特約店で販売を行なっていた。私の三菱の車では、店の前の駐車場に止めるのもちょっと気が引けて、近くの路上に止める(いえいえ、私は三菱が気に入っているのです)。大きなショーウィンドーに、私ではとても手が出ない素晴らしい車が並んでいる間を、辟易しながら奥へ。もしかしてネジ一つ買うんでも高いのかなーとか考えながら、49マルクの電話一つを買いに行く。この気持ちを解ってくださいますか? でも、係のお兄さんは、とても親切でした。

 さて、無事に契約できた。とにかく試してみよう。あぁ、まず充電の「お預けモード」。次はいよいよ、接続の設定だ。意外とうまくできた。いざ!
 ……ン? 赤外線ポートが、Pocket PCも携帯電話も左側にある。机の上で試していた私は考え込んだ。これだと、どちらかを逆さまにするか、裏返しにしなければならない。そんなかっこ悪いことできるか! と言いながら、結局あきらめて電話を逆さまにする。非常に気分は悪いが受信は無事成功した。こんなに簡単に行くと、かえって気味が悪い。そこでこれからの課題は、いかにして逆さまにしなくていいかを考えることにする。鏡でも使ってみようか。

 さて、携帯電話での受信に成功したことだし、実際にモバイルでどのくらい活躍できるかを試そうと思いたった。折りしも、仕事でフランス、スペイン、オランダと三カ国を旅行する予定が入っていたので、ここぞとばかり、せっせと準備に励む。この三カ国なら、ドイツのプロバイダーにダイアルアップすることになるので簡単にできる。国やホテルが変わるごとに変化する接続方法。モデムを繋ぐ場所を探し、それに合うアダプターを探している同僚たちを尻目に、携帯から簡単に接続して自慢する、はずだった。
 ところがなんと、自宅で出発直前までいじって遊んでいたその「おもちゃ」を、玄関の脇に忘れてきてしまったのだ。気が付いたのはパリで電車を乗り換えた後、南にまっしぐらに走るTGV(フランスの特急電車)の中。雑誌を読むのにも飽きて、飛び切りのお楽しみを始めようとして、「えっ、ない、ない、なーーーーーい!」。かばんの隅から隅まで探しまくり、だんだん青くなってきた。どこかに落としてしまったのだろうか、それとも……。ホテルに着くなり、家に電話を入れる。「あら、ここにあるわョ」と、冷めた声で答えが返ってきた時、少なくとも落としたのではないという安堵感で全身の力が抜けた。
 しかし、おかげで皆にひどく笑われる羽目になってしまった。挙句の果てに、二軒目、三軒目のホテルでもモデムがうまく動かず、メールが受信できなくて困っている連中にまで、「お前はいいよナ。こういう問題もなくいつでもメールを送受信できるのだからナ」と言われる始末。もちろんその後に、たっぷり厭味のこもった目で「家に忘れないで持ってきてればナ」という、短い文を付け足す事を忘れる奴はいなかった……。

◎著者自己紹介
 日本には戻らないと言い捨てて羽田を飛び立ち、南回りの飛行機で24時間。ひとり北国の土地を踏みしめたのは、もう25年も前。その言葉どおり、ドイツに根を生やしてしまった私。でも、こんなに遠い地球の裏側にいても、以前より日本が近く感じるのは、インターネットのお陰。「遠近」という感覚が今まで通りに計れなくなる時代はそこまで来ている。それが夢の世界でないことを「素晴らしい」と心から思えるのも幸せなことか……。

(2000/12/22)

[Reported by taoga]

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