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金曜コラム

ベルリンの壁は崩壊した (97/08/08)

 AppleにMicrosoftが資本参加。そして、技術の包括的なクロスライセンス。どちらもなかなか衝撃的だ。昨夜(水曜日の夜)は、久しぶりに編集部全体が興奮した。

 結論から先にいうと、今回の提携はある種の残念さは残るものの、ユーザー指向のよい結果をもたらすものとして歓迎したい。もちろん、この業界は提携しておきながら具体的な結果を挙げぬままポシャッたものも数多い。そればかりか数年後には敵対していたというようなこと(たとえばOS/2のときのMicrosoftとIBMなど)もあるので、成果を見るまでは安心はできない。したがって、以下のコメントは「この提携がうまくいった」と仮定しての話であることをあらかじめ断っておきたい。


Microsoftの見る夢、Appleの見る夢

 Microsoft側から見ると、今回の提携によりMicrosoftの「デファクトスタンダードメーカー」としての地位を完全なものにしたといえる。今後、オフィスアプリケーションの分野でMicrosoftを越えるプロダクツを作るのはかなり難しいだろう。弊社もそうなのだが、社内にMacintoshとWindowsが同居している場合はどうしても共通アプリを採用することになる。とすれば、今はExcelやWordなどを採用するのがもっとも無難である。

 また、Internet Explorerに関してもパソコンだけを見ると、出荷時の標準ブラウザーのシェアを100%にしたも同然である。もちろんAppleは、MacOS 8ではNetscape Navigatorもバンドルすると言っているが、本当の初心者はわざわざデフォルトのブラウザーを置き換えたりはしない(もちろん機能的に十分満足であればだが)。

 一方、Appleからすれば最強のソフトウェアベンダーからの保証を受けたわけで、ユーザーに「明日から最新アプリケーションが使えなくなる」といったことはないと断言できる。現に、最近はWindows用に対してMacintosh用のリリースが遅くなるのはあたりまえといった状況で、アプリケーションばかりかJavaのVMやNetscape Communicatorでさえも最新版はWindowsからというのが常識となっている。

 実はこうした傾向のなか、最初にJDK 1.1対応のJava VMを作ったのは、他ならぬMicrosoftである。Microsoftの最新技術を取り入れる力は他を圧倒しており、一度採用すると決めたら何処よりも早く実装する。その恩恵をMacintoshユーザーも受けられるようになったわけだ。

 もちろん他にもあるとは思うが、リリースをそのまま信じれば少なくともこの程度のことは予想できる。


ハードウェア、ソフトがなければ唯の箱という怖さ

 こう書いてみて感じたのは、Microsoftにとって今回の提携は攻めとなるが、Appleにとってはこれ以上悪くならないというだけの守りにしかなってないということである。

 結局、Appleがハードウェアベンダーであることが最後まで足かせになっているように思う。実際資本が入ったので驚いただけで、今までもMicrosoftはMacintosh用のアプリケーションベンダーの最大手であったわけだし、上記のようにJava VMの最新版もMicrosoftが提供している。力のあるソフトを提供しているソフトウェアメーカーを失うということはハードウェアベンダーにとって最大の恐怖である。ましてや、シェアが少なくなれば少なくなるほど、ソフトを書いてくれるところは手放せないのだ。この段階である意味、力関係は決したといっていい。

 ともかく、これでパソコン界のベルリンの壁は崩壊したといえる。仮想敵はいなくなった。次の対立の構図は、パソコン業界対ワークステーション・業務システム業界となる気がする。シンクライアントとは、結局のところ基幹業務サーバーの高機能フロントエンドでしかない。WindowsもMacintoshもファットクライアントであることには変わりない。そして2社は提携してしまったのだから、彼らの標準はパソコン界の標準である。当然標準をめぐる、シンクライアントとファットクライアントの対立が起こるのは容易に想像できる。


私の見る夢

 しかし、ここまででは単にMicrosoftの影響力が強大になっただけともいえる。言い方は悪いが、Microsoftのお情けで生きながらえているAppleという形では私としては歓迎したくない。私はアンチMicrosoftではないが、現在の独占的な状態には非常に危機感を感じている。

 だから、どうせやるのなら、NTに標準でYellowBoxを搭載させて、Win32 APIでもNeXT Step APIでもどちらでも使えるというところまでやってもらいたい。両方が混在している環境にいると実感するのだが、現在のWindowsとMacintoshの非互換性というのは本当に負担が大きい。せっかく提携したのなら、本当の意味で、テクノロジーの共有を行ない、今まであったMacでできることと、Windowsでできることの境をなくし、どのテクノロジーを使うかという選択の自由をユーザーと開発者の両方にもたらして欲しい。

 NTの上でMacOSインターフェイスを使う。そういった選択さえもできるようになるといいなと夢見ているのである。

[編集長 山下:ken@impress.co.jp]


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