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火曜コラム

神戸の事件があらわにしたこと(その3) (97/09/16)

 前回、神戸小学生殺人事件に関わる問題として、発信側の問題に言及した。今回は、もう一つの問題点である、プロバイダーの問題を取り上げたい。

 最初のコラムで取り上げた通り、今回この事件を通していくつかのプロバイダーが、ユーザーのホームページを閉鎖、もしくは改変を強制した。この件は、一部では表現の自由への弾圧ということで強い反発があった。これはどのように考えるべきだろうか?


いろんなプロバイダーがあっていい

 前回述べたとおり、世の中には様々な価値観がある。あるユーザーが「OKだ」と思っていたとしても、プロバイダーは問題と考えるかもしれない。そういう意味において、上記のような反発というのは常に発生するだろう。

 だから逆に、プロバイダーにも「様々な価値観」がある状態になれば良いと思う。今回の件に関して言うと、同じ内容であっても閉鎖するプロバイダーもあっても良いし、一方でそのまま運用させるプロバイダーもあってもよいのだ。

 言い換えれば、コンテンツの内容に関して厳しくチェックするプロバイダーがあっても良いし、一方で非常に寛容なプロバイダーがあってもよい。もちろん、事前にユーザーに対してそうしたキャラクターをきちんと伝えておく必要はあるだろう。極端に言えば、他のプロバイダーで断れたコンテンツを勧誘するプロバイダーがあってもよい。もちろん、そうしたプロバイダーは、コンテンツを勧誘したことにより責任を追及されるリスクはきちんと請け負う必要がある。

 一方で、プロバイダーは、ユーザーの発信する内容に関して干渉してはいけないという考え方もあるが、これは無理があると思う。プロバイダーとて商売である。今回の件で悪評が立てば、ユーザーが逃げ経営が成り立たないかもしれない。そのとき、じっと耐えてユーザーのやっていることを黙認すべきだろうか?もしそうだとすれば、意図的に悪評が立つようなコンテンツを流し込んで、プロバイダーつぶしをやることもできてしまう。

 結局は、プロバイダーは自分の運営方針を明確にする必要があるのだ。抽象的な言葉で漠然と契約書の中に盛り込むのではなく、もう少し具体的な言葉で自己の方針をユーザーに示せば、ユーザーは納得してプロバイダーを選ぶことができる。料金やアクセスポイントだけではなく、運営方針という新たな選択の基準が必要なのである。


誰が判断するのか

 こうしたプロバイダーの運営について、いくつかの団体ならびに政府の中で「ガイドライン」を作ろうという動きがある。私は、本当に「ガイドライン」なら問題無いと思うが、それが強制力をもつものを目指している場合は警戒する必要があると考える。確かに、プロバイダーの運営にはノウハウがあり、運営ポリシーについても複数社が集まって考えればより効率的かもしれない。が、それはあくまでも目安であり、絶対であってはいけない。プロバイダーの運営方針は、あくまでも自主的な判断に基づくものであるべきだ。どこかに共通のルールがあるのなら、それは自主的な判断ではない。

 最近のこうしたコンテンツの中身の規制、ルール作りの中で面白いと思っているのはいわゆるレイティングと呼ばれる手法である。これは、コンテンツに12才以下でもOKとか18才以上のみ等の属性をつけ、見る方のフィルターソフトで適切なものを選ぶのである。これらのレイティングが、発信するユーザー自身によって行なわれるのであれば、まさに自分の内容に責任を持つ制度であり、面白いと思う。裸があっても、12才以下が見てもよいと考えるなら、そうした属性を付与する。一方で、大人だけが見えれば良いと思うなら18才以上という属性を付与するのだ。

 もちろん、発信者側が意図的に誤ってレイティング情報を付与することもできるのだが、それはまさに発信者の責任である。ただし、これらのレイティングを第三者が行なうとしたら、それはやはり「共通のルール」による判断であり、自主的な判断ではないので私は支持しない。


自主規制を誇れるようになろう

 神戸の小学生殺害事件について「当面報道しない」という方針を提示したとき、何人かの方から「これは自主規制ではないか。そういうことは止めてもらいたい」とのご意見を頂いた。しかし、私はこの自主規制(個人的には自主的な判断であり規制とは思っていないが)を恥じるどころか誇りに思っている。私は、別にどこかの業界の方針に従ったのでもなければ、誰かを恐れたのでもない。あの時書いたとおり、私たちが不適切と思った情報を拡散したくなかったという自分の気持ちに従っただけなのである。

 だが、自主規制には悪いイメージがあるもの事実である。それは、上記で述べたような「業界共通のルール」に基づく判断が「自主規制」と呼ばれてきたからである。自主規制とは、まさに自分の判断に基づく規制であり、不適切な規制をすれば当然反発も予想されるものである。

 プロバイダーも、ホームページを閉鎖すれば当然反発が予想される。しかしだからといって、プロバイダー標準のルールを作ってそれに則って運営して逃げるのは本末転倒である。そういう反発が予想されるシビアな問題だからこそ、各プロバイダーの個性が試されるのである。「今回の閉鎖は我々の自主的な判断であり、こうした判断ができたことを誇りに思う」と言い切れるようでなければ、他人の表現の自由を制限すべきではないと思う。


先週のコラムのおまけ

 先週のIISサーバーの堅牢性について言及した際に、コラムということで技術的なスペックを省いたところ、いろいろな憶測が流れてしまったようだ。大変申し訳ない。弊社のwww.watch.impress.co.jpサーバーは、メモリ256Mbytes、ハードディスク4GBytes×2、CPUはPentium Pro200MHz×2を装備している。ただし、アクセス数は一日200万アクセス(GIFファイル等も含む総ファイルアクセス数)、HTMLページだけで50万ページを超えるアクセス数である。

 私は、どのサーバーが堅牢だとかよく落ちるという議論をしたわけではない。Webサーバー間の堅牢性を比較したいときはアクセス数などの条件を同等にして比較する必要があるので、先週のコラムだけを見てIISが劣っているという短絡的な結論を出さないようにしてもらいたい(ちなみにウォッチと窓の杜のサーバーはほぼ同じアクセス負荷である)。

 実際、社内でテストで起動するときは、だいたいどのWebサーバーでもまったく落ちないのだ。私たちは、NT上のいろいろなWebサーバーソフトを比較して今のところIISを採用しているのである。

 ちなみに、Microsoftから圧力があるだろうといった憶測も同時に目にしたが、さらに憶測が流れないように念を入れて書いておくと、今回の断り書きはMicrosoftから圧力があったから書いたわけではない(今のところコンタクトはない)。Microsoftの商品に欠点がないとは言わないが、同時にMicrosoftだけが欠点のある商品を出しているわけでもない。使っているからIISを引き合いに出したが、こうした堅牢性よりも新商品優先の姿はどのソフトウェア会社にも言えることである(これが前回のコラムの趣旨である)。

 もし、堅牢性の比較をしたいのなら、先ほど言ったように、アクセス数から利用環境まですべてを同じにして実験する必要がある。そうした技術的な裏付け無しに議論することはないようにしてもらいたい。なお、本当に同一条件で堅牢性の比較実験をしている人がいれば一報を頂きたい。ぜひ記事として掲載させて頂きたいと思う。

[編集長 山下:ken@impress.co.jp]


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