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火曜コラム

電子メール対応のコスト (97/12/02)

 先日私が参加している「アクセス向上ML」で「URLは企業のイメージ向上に役に立つか」といった話題が上がった、この議論の中で「メールアドレスを書いてあるが、そこにメールしても返事がこないケースが多い。企業としてお客の問い合わせに返事もしないのは、イメージ向上どころかイメージダウンである」という話が出た。

 この指摘は、我々電子メールで商売している者にとっては耳に痛い話である。もちろん、返事が必要なメールには、できるだけ早く返事をするようにスタッフには徹底しているし、実際私自身も返事をしている。しかし、では全部のメールに完全に対応できているか?と問われると残念ながらそうではない。数多くのメールに埋もれてしまったものもあるし、返事の必要はないと思って見過ごして返事をしていないケースもある。現に、読者からの2度目のメールで初めて気づいて返事をしたこともある。

 企業として、お客様からの質問に適切に答えるのは当然のことであり、返事をしなかった方には謝るしかない。だが、「電子メールなんだから返事するぐらい簡単だろう」とか「電話かけて問い合わせて返事をしない企業なんてないよ」といわれると、むくむくと疑問が湧き起こる。お客様の声に対して反論するようで申し訳ないが、質問を受ける企業側からすれば、メールでの対応はそんなに簡単なものではないのである。


重要な「話し中」

 確かに、電話をかけて返事をしてもらえないことはない。たとえ、適切な回答は無かったとしても、「大変申し訳ございません」という返事はもらえる。一方、電子メールに返事がないということは、我々自身もよく経験する。これは、電子メール担当者が怠慢で、電話の担当者が勤勉なのだろうか?

 もちろんそんなことはない。電話での質問ならば、担当者は目の前の電話にだけ対応すればよい。たとえ、お客様からの問い合わせがオペレーターの数を超えたとしても、単に話し中になるだけで「混み合っているな」=「オペレーターの数(正確には回線の数)より多くの質問がきているな」というのは、お客様にもストレートに理解できる状況になるのだ。

 一方、電子メールでの対応は、担当者がパソコンの前に座っていれば全部処理できるというわけではない。どんどんお客様からのメールは到着し、未処理が溜まっていく。その担当者の奮闘ぶりは、お客様には伝わらない。そして、一回溜まり出したメールは悪循環を繰り返し、結局「失礼な対応」を繰り返す事になる。

 さらに、担当者を増やそうにも、複数の担当者が一つの問い合わせに「重ならないように対応する」システムがメールでは確立してない。電話ならどんな交換機にも、複数の担当者の電話を順次鳴らすという機能がある。話し中の回線は飛ばすことができるので、結果的に空いている人が対応できる。

 一方、メールでは「空いている人に順次メールを振り分ける」という機能が実現されたメールサーバーがあると聞いたことはない。そのため、複数人で受け付けたメールを相互に連絡をとって二重にならないようにして分担するか、リーダーが各担当者に振り分ける形にするかのどちらかが取られるのだ。前者の場合、連絡ミスで落ちることがあるし、後者ではリーダーの担当者の能力を超えると人数を足してもだめになる。

 結局、話し中という「処理能力を超えました」というフィードバックがあるかないかで、お客様の満足度が大きく変わるのである。そして、それと同等のことをシステム的に提供する電子メールサーバーは今のところないようなのだ。


「文章を書く」より「言葉を話す」方が低コスト

 また、「文章で書くよりも話す方が低コスト」という問題もある。メールを書く方が、電話に対応するより短いことも多いが、それはもっぱら単純な問題のときだけである。何度もメールをやり取りする必要があったり、複雑な問題に答えたりする場合は、直接話して解決した方が簡単である。しかも、文章でやり取りするとちょっとした行き違いから、お客様を怒らせるようなケースも多い。これが電話であれば、お客様が怒ったことは語気で分かるし、すぐさま訂正も可能で、結果としては納得してもらうケースが多い。

 他にも、電子メールがコストが高くなる要因がある。たとえば、今までもらった最も短いクレームは「ぼけ」や「無能」の2文字のメールである。残念ながらこの2文字からは不快感や怒りは分かっても何に対してかは分からない。そこで私は「ご指摘ありがとうございます。ところで、『ぼけ』だけでは具体的に何に対してか分かりかねます。是非とも我々が『ぼけ』である理由を具体的に教えていただければと思います」という返事を出すことになる。これは、皮肉で返事したのではない、本当に原因が知りたかったから出したのである。

 そもそも、お客様はトラブルなどの必要があって問い合わせしているのであって、5W1Hがきれいに揃った文章を落ち着いて書ける状態ではないのだから、問い合わせには返事だけではなく対話のコストもかかるのである。


定型の情報はWebと組み合わせて、対話的処理は電話と組み合わせて

 ところで、この2年に渡る実際の対応から考えると、電子メールでの問い合わせに対して、ほぼ1、2分で回答できるようなシーンもあった。だが、これらを分析すると、Web上でも同様の回答を用意していたり、お客様に代わって登録や削除などのWebの操作をやるだけのことがほとんどである。つまり、「定型の回答や操作」ならば、電話で受け答えをするより極めて高速に処理可能なのである。となれば、この部分はWebとして公開した方が効率的である。

 もちろん、Webを見ることができないお客様やWebのデザインが悪く操作方法が分かりにく場合もあるだろうから、Webがあるから電子メールは不要とするのは早計だ。そこで、より多くの問い合わせを効率的に処理するためには、Webを補う形で電子メールを利用するのがベストだろう。

 そして、本当に対話的な処理が必要な場合は、電話で直接話すのが良いような気がする。声を通してお客様の感情が伝わる方が、お客様のニーズを理解するのも簡単だし、企業側の真意を理解してもらうのも簡単である。

 もちろん、実際にはお客様の中には「必要以上に長い電話」をされる方などもいるので、電話だけの処理で効率が上がるかどうかは疑問だ。そこで、メールだけという対応ではなく電話も組み合わせた形での処理が結果的には処理効率を上げることになるだろう。実際弊社では、複雑なクレームや技術的なやり取りが必要な場合は、電子メールで受け付けた件について、直接電話で話をするように切り替えるケースも多い。


お客様と企業間での電子メールに対する「コンセンサス」が必要

 電話が話し中であれば、再度電話をするのは当たりまえだ。だが、メールを出した場合には、意外と多くの人が、かなりの時間返事を待つだけで、再度問い合わせをしない。そして返事が来ないことに苛立ちだけを感じるというケースが多い。私自身そうである。

 また、一度メールを書くと用件は十分伝わったものと考えがちだ。しかし実際には、書いた方も慌てているから意味不明なメールになっている場合もある。さらには、返信用のアドレスやFrom:行のアドレスなどすべてのアドレス情報が間違っていて、返事をしようにもできないというケースもある。もちろん宛先の間違いや、文字化けなどで返事をできない場合もある。

 今回、企業側の論理で電子メールでの対応のコストを紹介した。もちろん、コストが掛かるからといって、お客様のメールを無視して良いわけではない。だが、相手のコストを想像できれば、どのような形でメールを送ればスムーズに処理されるか分かるはずである。相互のコンセンサスができれば、電子メールというコミュニケーションをより効率的に利用できると信じている。

[編集長 山下:ken@impress.co.jp]


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