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【連載】

ネットビジネス日本からの挑戦

第1回:携帯電話向けコンテンツ配信サービス
――国内No.1の携帯コンテンツプロバイダー、サイバード

http://www.cybird.co.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


 

代表取締役社長 堀 主知ロバート

 インターネットへの接続端末は、もはやパソコン寡占の時代は過ぎ、現在は多様な利用シーンでさまざまな端末を使ってインターネットへアクセスするのが潮流となっている。中でも「iモード」などのWeb対応携帯電話は、今最もホットな分野だ。来年度には2,000万台に達するといわれるWeb対応携帯電話の市場規模はパソコンのそれを凌駕し、一大ECプラットフォームとして注目を浴びている。これまでインターネットの世界で海外に握られていたイニシアティブを、この分野では日本が取れるのではとの期待も高い。

 2月22日に発表された、米インテルコーポレーションによる株式会社サイバード(東京港区、堀主知ロバート社長)への出資は、それを物語っている。

 携帯電話/PHS向けWebコンテンツの企画・開発・運営を手がける同社は、わずか一年半前、1998年9月に設立されたばかりだが、すでに国内トップクラスのポジションを築き上げている。コンテンツを提供しているサービスは、「iモード」(NTT DoCoMo)、「EZweb、EZaccess」(DDIセルラーグループ/ツーカー/IDO)、「Sky web、J-Sky Web」(J-PHONE)、「PメールDX」(DDIポケット)。つまり、日本の携帯/PHSの全通信キャリアと公式コンテンツ契約を結んでいる。

 いったいサイバードは、どのようにして携帯コンテンツビジネスの最大にして異色の企業として成長してきたのか、気になる同社の今後を取材した。

 

●確実なユーザ課金型ビジネスモデルを模索

 通信キャリアが集金代行を行なうという確実なユーザ課金モデルは定着してきており、携帯ビジネスは飛躍的な市場拡大を遂げつつある。このモデルへ行き着くまでの試行錯誤がそのままサイバード設立の経緯ともいえる。

 堀社長は、「MOSAIC」が出たばかりの頃からインターネットビジネスを立ち上げた。そこで運営した「出会い系サイト」が爆発的な人気を得ていたが、結局パソコン向けでは広告収入を得るビジネスモデルのため、発展しにくいことを実感。ユーザ課金型のビジネスモデルを模索していった。

 また、副社長の真田氏はダイヤルQ2コンテンツビジネスの経験を持つ。ダイヤルQ2はキャリアが課金代行を行なうサービスではあるが、コンテンツに対する規制が緩かったため、ノーマルなコンテンツもアダルト系などの問題コンテンツに食われる形でやがて衰退していった。ここで、真田氏は、「コンテンツのクオリティーが保たれるような仕組みがなければ、優良なユーザを安心させ定着させるのは難しい」という貴重な経験を得た。

 このような経緯から、キャリアがコンテンツのクオリティーをコントロールし、コンテンツ提供者に代わって代金回収できる移動体通信の分野に彼らは着目し、コンテンツの開発とキャリアへの働きかけに乗り出した。すでに4年前、携帯ビジネスの黎明期からキャリアと一緒になってこの業界を育ててきたのがサイバードなのである。

 

●国内No.1の携帯コンテンツプロバイダー

 加入者が400万人を突破し、サービスメニューも随時増えているiモード。そこへ応募してくるサービス提供依頼は、なんと一日に約200件にのぼるといわれている。そんな中、サイバードの提案する企画はほぼ100%採用という驚くべき実績を持つ。これが可能なのは、同社がモバイルコンテンツに特化した企画力と開発力を併せ持っているからだ。

 企画の戦略としては、ニッチ層とメジャー層のそれぞれに訴求するコンテンツを提供している点が特徴。例えば、iモードサービス開始からの人気コンテンツ「波伝説」は、日本全国147ポイント、世界各34ポイントの波情報を1日3回の更新で提供している。母数は限られるが、日常的な利用頻度が見込めるサーファーという層にアピールするコンテンツだ。一方、占いなどの誰でも楽しめるコンテンツは2ヶ月ほどでやめてしまう人が多く、固定ユーザという形で定着しないが、幅広いユーザーへリーチできる。

波伝説 (iモード)
スーパータロット占い(J-Sky Web)

 開発力という点でもサイバードは他の追随を許さない。全キャリアにコンテンツ提供しているということは、C-HTML、MML、HDMLなど多種多様な記述言語のノウハウを蓄積しているということだ。全キャリアに対応している携帯コンテンツプロバイダーの例は、今のところほとんどない。

 そうして展開されているコンテンツは、数、ページビュー共に国内最大級。全てのコンテンツを合計すると一日500万PVを上回る。加えて売上は、1コンテンツ1億円×100を狙っているという。しかし、日々加入者が倍増し、急激なアクセス増加が繰り返される携帯電話コンテンツをどのように運用しているのだろうか?

 「確かに負荷にサーバが追いつかないのは課題の一つです。2カ月前まで日に200万PVだったのが、もう500万ですから。迅速・最適なサービス提供のため、現在はほとんどを同じビル内の自社サーバに置いていますが、今後は新サービスのみ自社サーバで運用し、すでにサービスが安定しているコンテンツはハウジングへアウトソースする予定です」(広報部エヴァンジェリスト、千葉功太郎氏)

 それでも彼らは現在の状況を冷静に捉えている。
現在のサイバードのビジネスはオープンソースと魅力ある企画に支えられているという点で、先行優位型の成功例に過ぎません。トップを走り続けながら携帯ビジネスの業界を牽引し拡大させていくには、次世代の携帯ビジネスの視点でビジネスを発展させていかなければならないのです。現在、サイバードの多くの部分を注力してその研究開発を行なっています」(同、千葉氏)

社長と「エヴァンジェリスト」千葉氏

 

●目指すは携帯コンテンツのハブになるブレーン集団

 2月29日にインテルが発表した「インテル・ワイヤレス・コンピタンス・センター」は、インテルが携帯電話市場向け半導体事業を強化するために進めている世界戦略の一環。携帯に“Intel inside”を貼りたい彼らは、携帯電話のデータ通信で最も先進的な日本を重要視している。そうした彼らの戦略が、携帯ブラウザーの株式会社アクセス、日本語システムの式会社ジャストシステム、動画像伝送ソフト(MPEG4のエンコード/デコード)の米Packet Video Corporation社、そして、携帯向けコンテンツと技術を提供するサイバードをパートナーとして選んだ。

 iモードのC-HTMLなど、Web制作の延長線上でカバーできる現在のWeb携帯電話は、「第2.5世代」と認識されている。第3世代に当たる次世代携帯電話の世界では、技術的にも大きくステップアップする。こうしたIMT2000時代を見据えたサイバードは、JavaやMPEG4などキーとなる研究開発リソースの集約に力を入れている。例えば、携帯対応のJava(KVM)は、既存のJavaとは異なる部分も多く、同社では専門的な技術ノウハウの蓄積を進めている。

 このような次世代携帯電話に対する取り組みの先にあるサイバードの戦略は、さまざまな産業の携帯コンテンツハブ構築にある。これまではオープンな技術を使っていたものの、各キャリアごとのクローズドなネットワークでコンテンツを立ち上げてきた。しかし、IMT2000により標準化されるさまざまな要素技術(MPEG4、Java、位置情報、セキュリティなど)とさまざまな業界におけるコンテンツ企画力を融合しハブを構築することを目指す。そのハブは、「ドリームキャスト」や「プレイステーション2」などのゲーム端末や、コンビニなどに設置されるマルチメディアキオスク端末ともつながり、かつアジアやヨーロッパの海外のキャリアともつながっていくことになる。サイバードは今、ライバルと目されている企業ともこのハブとつなぐことにより共生していけると考えている。サイバードが目指しているものはコンテンツ提供会社ではなく、まさにこのハブ機能そのものである。

 また、ハブを実現させていくにあたり目指している組織体制は、プログラミングや制作、オペレーションをアウトソースし、コアな技術開発や企画は社内で行う体制である。「技術&アイディア」に特化したブレーン集団組織を目指しているのである。

 

●海外戦略「海外というよりは他府県のノリ」

 日本のWeb対応携帯電話ビジネスに対する熱い視線とインテルからの出資を受け、今年中盤から来年にかけて、サイバードはいよいよ海外展開を行なっていく。手始めにアジアから、次いでヨーロッパ、そして米国へと展開していく予定だ。

 まずはコンテンツプロバイダとして、現地のパートナーと組みサービスを提供していく予定で、日本でサービス提供しているコンテンツの中でローカライズしやすいものから導入していくという。

@AJA CHANNEL (DDI)

 具体的には、日本でも人気サービスの「@AJAチャンネル」。メル友や合コン募集などができるこのコミュニティ系サービスは、DDI版を例に取ると一日200万PVを記録している。ユーザー行動に依るサービスのため、問題発言などの管理に対応する必要があるが、サイバードでは24時間体制でコンテンツをチェックすることによりユーザーに安心感を持たせている。こうしたコミュニティ系サービスは、国を越えた普遍的サービスであるため、これまでのノウハウを活かし、先陣を切って海外に投入される予定である。

 その他のコンテンツに関しては、3カ月程度ユーザーのレスポンスを見て、反応が良いもの、戦略的に必要なものをローカライズしていく。海外戦略の方針は、「携帯業界を引っ張っていく」というサイバードの意志を受け継いでくれる現地会社との間で、SIやカスタマーサポート、また、現地の文化ニュアンス移植面においてアライアンスを組むことである。現地のユーザーニーズや文化ニュアンスに合わせてローカライズしていくということは、日本国内にも地域が違えば存在することである。社長の堀氏も「『海外』という気負いはない。海外というよりは他府県のノリ」と語っている。

 

●一人前の企業としての成熟

オフィス風景

 国内携帯コンテンツプロバイダーNo.1であり、次世代や海外への展開の地固めも怠りないというサイバード。自身でも「競合は特になし。あるとすれば時価総額で追い抜きたい株主のインテル」と豪語する。

 しかし、問題がないわけではない。ベンチャー企業が急成長すると直面する経営的な悩みはサイバードも例外ではない。当初5人でスタートした会社が、現在は従業員70人。さらに、これから3カ月で倍の120人に増やす予定だという。規模が拡大するにつれ大人数への管理手法、モチベーション維持・向上を仕組みとして考える必要が出てくる。また、携帯という特化した分野の最先端のため、当然マニュアルはなく、教育が難しい。そのほか、ビジネスのスピードを保つことなど、ベンチャーから成熟した企業として脱皮していくための課題は残されている。

 

●日本発の携帯分野は、世界の中でよりダイナミックに!

 インターネット、そしてパソコン関連のメガ企業であるインテルが初めて出資した日本法人がWeb対応携帯コンテンツのベンチャー企業であったというのは興味深い。日本発の携帯ビジネスについて堀氏は熱く語る。

 「Web対応携帯は、日本が世界に誇れるIT分野。サイバードはキャリアと共にそのモバイルビジネス、業界を引っ張り、育ててきた自負がある。広い受け皿を持った会社なので、共に手を組んで『モバイルビジネス』を日本発で、世界の中で大きくなっていく業種、業界に発展させていこう

 そして次の「日本発」の担い手となるネットビジネス起業家たちへもエールを送る。

 「アメリカのコピーではなく、日本発で世界へ広がるような、日本国内で生み出せるオリジナルなITに着目して起業しよう。最近の株価のバブル傾向に際して、ネットビジネスに対しプラスとマイナス両面の意見が飛び交っているが、投資家にはベンチャーに対しインキュベーターの役割を期待する。逆にベンチャー起業家は、キャピタルゲインが目的化する罠に陥ることなく、その事業を通じて何を実現したいのか、社会の中でどのようなことができるのか、常に振り返られる基準・指針・コンセプト・やりたい気持ちを持ち続けて欲しい。起業するなら小さくまとまらずもっとダイナミックに成長するようなビジネスを目指して欲しい

(2000/3/9)

[Reported by FrontLine.JP/コンサルティングチーム]


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