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【連載】

ネットビジネス日本からの挑戦

第2回:ドリームキャスト向けネットワークサービス
――ゲーム機を使ったコミュニケーションサービスを提供、ISAO

http://www.isao.co.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


社員
会社入口で社員と

 従来、インターネットを利用するための端末といえば、パソコンが主流であった。しかし今日では携帯電話や、ゲーム機が注目されている。特に日本のゲーム機は、世界を席捲しており、モデムを標準搭載した「ドリームキャスト」もすでに世界で540万台発売されている。今回取材する株式会社ISAO(本社:東京港区、代表取締役会長兼社長:大川 功)は、ドリームキャストを利用して日本から世界へ向けて、ゲームとインターネットが生み出す新しいオンラインアミューズメントサービスの可能性を模索している会社である。

 モデムを標準搭載し、インターネットを楽しめるゲームマシンとして登場したドリームキャスト。1998月11月27日にこの新世代ゲームマシンを発売したセガは、ネットワークビギナーにはインターネットの手軽さをアピール、ゲームヘビーユーザーには、通信対戦対応ゲームを提供するなど、ネットワーク機能を活かしたサービスを提供することで他のゲームマシンと差別化を進めてきた。

 その結果、2000年2月現在、国内179万人のドリームキャストユーザーの約30%にあたる52万人のユーザーが、ドリームキャスト向けプロバイダーサービス「ドリームキャスト・ネットワーク」の会員となっている。1999年9月、セガは、ネットワーク事業の分社化を発表。CSKとの共同出資により、ISAOを設立した。ISAOとは、I (Interactive)、S (Services for)、A (Amusement)、O (Online)、すなわち、ネット上で人々が能動的に楽しむことのできる娯楽サービスを提供する事業を表した社名だという。

 単なるISP事業にとどまらず、世界でも例のないインターネットにおけるアミューズメントコミュニケーション事業を実現しているISAOを徹底取材した。

 

●ISAO設立にいたるまで

高倉氏
高倉取締役

 1998年、セガがドリームキャストを開発する際に、モデムを標準搭載するか否かの議論があった。当時のパッケージゲームソフトはすでに成熟感があり、一方で、インターネットの普及率は、新しいビジネスを検討するに充分なものであった。そこで、セガはドリームキャスト単体の利益率を引き下げる犠牲を払ってでも、モデム標準搭載を選択したのである。また、同時にプロバイダ事業も起ちあげた。

 プロバイダー事業をセガと別会社にした理由は、3つある。1つ目は、屋台骨を支えている技術者のバックボーンが、ゲーム開発の技術とネットワークのそれとは異なりすぎていること。2つ目は、将来的に機軸のひとつとなるであろう広告収入によるビジネスには中立性が必要であり、セガのブランドがかえって壁となるだろうこと。さらに、3つ目の理由は「日進月歩のネットワーク技術においては株式公開を果たし、潤沢な資金での開発投資が不可欠」(ISAO社、高倉鉄夫取締役)と判断したこと。

 このような経緯で、1999年10月、株式会社ISAOは設立された。

 

●サービスの基調にあるもの

 ISAO社のISPサービス理念を表す、キーワードはいたってシンプルだ。

だれでも、どこでも、だれとでも”というものである。

 同社では、世界中の子供たち同士が、コミュニケーションを図れるサービスの提供を使命と考えている。

ほら、世界中の子供たちが友達になれば、(将来たとえ争いごとがおきても)相手に向かって(銃の)引き金を引けないでしょ(笑) ね、これ世界平和に貢献するでしょ」(高倉取締役)

リンクページ
Dreamcastからリンクしている各サイト

 高倉氏は、ISAOの事業を単なるデータ配信事業として捉えておらず、事業の核心はコミュニケーションだと楽しそうに語る。「既存のメディアはテレビは1対n、片方向のコミュニケーションです。電話は、1対1、双方向ですね。ISAOはn対n(多数対多数)のコミュニケーションを実現する新しいメディアなのです。これを“ライブコミュニティ“と呼びます」(高倉取締役)。ここは、ユーザー一人一人が主役のメディアである。ユーザが楽しいと思うことを徹底して追及する反面、ユーザー利益にならないタイプの広告活動などは掲載しない方針だ。

 また、ライブコミュニティは、あくまで、コミュニケーションを実現するネットワークであるとして、ISAO自らはEC事業を行なわない方針でいる。会員がオークションや、ショッピングなどを利用したい場合は、リンクをたどって、従来のインターネットでショッピングすることを歓迎している。ライブコミュニティはオープンなネットワークなのだ。

 

●ISAOの提供するサービスの特長

 このISAOの提案するキーワード “だれでも、どこでも、だれとでも“を実現するためのシステムは3つ用意されている。

 “いつでも”――「Ch@b talk(ちゃぶトーク)

 「Ch@b talk(ちゃぶトーク)」と名づけられたリアルタイムメッセンジャー。ユーザが接続した際、友達がオンライン上にいるかどうかすぐにわかるシステムと、自分がオンライン上にいることを友達にアピール、コミュニケーションを開始できるシステム。

 “どこでも”――「どこでもチャット

 例えば、映画に関するサイトを同時に閲覧している時、そのサイトのキーワードを基にチャットを開催したり、チャットに参加したりできる。チャットの場を自動生成する機能を有している。

 “だれとでも”――「ネットワークゲーム

 ゲームの中にもコミュニティを持たせる。RPGのように、明確なシナリオを持たない新しい概念のオンラインゲーム、また、プレーヤー以外も観戦できるなど、さまざまなスタイルで参加できる。「ネットにいるだけで楽しいゲームなんですよ」今年度中には、オンラインゲームの「ウルティマ オンライン」に近い多人数参加型ゲームもサービス開始予定だ。

チャット入り口
チャット画面
ゲーム画面
Ch@b チャット参加画面
Ch@b チャット
エンターテイメントゲーム

 

 開発の基調にあるものも、“楽しい”という概念である。この他にも、映像、音声を駆使したコミュニケーションツールも開発されている。

 ユーザーが安心して、コミュニケーションを楽しむための技術開発にも余念がない。例えばチャット使用時に、有害発言を自動的に削除する「コミュニケーション・パトロール・システム」という技術。これは、公序良俗に反する言葉をあらかじめ辞書として保有し、会員の発言の中に現れた場合、自動的に削除するというシステムだ。また、コミュニケーションID管理により、嫌がらせなどを抑止させる機能も併せ持つ。

 このようなリアルタイムのコミュニケーションネットワークを支える回線について、同社では、広帯域のケーブルテレビ回線に大きく注目している。ケーブルテレビ回線を利用すれば、通常の電話回線接続で得られる通信速度の33.6kbpsに較べ、数10倍の速度と広帯域(大容量)が得られる。ISAOは、セガを介して、全国主要ケーブルテレビ会社約30社と共同でドリームキャストの接続実験を行ない、この春から本格的サービスを始める予定だ。

 さらに、光ファイバー接続などにも着目しており、2001年には光ファイバー接続を利用した通信対戦ゲームの全国展開も行なう予定である。

 

●ターゲットは、どの層を想定?

タイトル画面
ドリームパスポート

 ゲーマーといえば、どうしても若年層を想像する。ISAOはどの年齢層をターゲットとしているのか。この問いに対して高倉氏は、19歳から29歳までの「普通の人」としている。この層は、約50%以上がほぼ毎日、ゲーム機に触れている層である。19歳を下限としているのは、それ以下では、家庭にネットワークを引き込む権限がないという判断である。この層は、約1,000万人のボリューム層である。この層をユーザーとして囲い込む方針だ。ちなみに40歳以上はゲーム人口が急減。30歳代は、「スペースインベーダー」の洗礼を受けた層であり、ターゲットとして、まだ視野に捉えてはいる。ISAOは、ユーザーが、通常一日にテレビを見るであろう2時間を、ネット利用時間にしてもらえるようなサービスを提供したいとしている。

 「女性ユーザーを多く引き込みたい」と語る高倉氏。コミュニケーションの成否は男女比率に鍵があるともいう。現在の男女比率は、男性が圧倒的に多い。ユーザ獲得のため、4月から6月にかけて迫力あるプロモーションを展開していくという。その際、女性ユーザ獲得のために、女性誌などにも力をいれて露出していく予定である。

 広告以外にも、女性を意識した工夫は随所に施されている。例えば、4月に提供開始を予定しているインターネット閲覧用ブラウザーソフト「ドリームパスポート3」の開発には、女性陣を投入し、外観、操作性ともに、旧バージョンよりも女性にも受け入れられやすいデザインに仕上ている。

 

●優位性はどこにあるのか?

 ISAOが考える競合は、ISPとテレビ局(放送)である。ISPに関しては、ISAOは、より安価な接続料金、充実したコミュニケーションシステム、そしてドリームキャストを端末とできる点で、優位にたつと捉えている。すでにISAOは、全国にアクセスポイントを200以上有し、保有回線は3万回線。ISPとしても大手の規模となっている。

 ゲーム機のライバルは、従来より放送だと捉えられていた。すなわち、1台のテレビにおいて、放送視聴とゲームプレーは同時に行なえないからである。しかし、ISAOは次のような観点で、この問題を解決しようとしている。

 “テレビ放送との共生。“――もし、「どこでもチャット」のチャットルーム自動生成システムのキーワードが現在放映されているテレビ番組について設定されたら、テレビ番組を楽しみながら、それを話題にリアルタイムでチャットできるのである。まさに発想の転換。従来のバリアもコミュニケーションに取り込んでいく柔軟なシステムであるといえる。

 

●ビジネス上の課題

 高倉氏は「形が見えないサービスだけにわかってもらうのが難しいのですよ」と語る。今までにない新しいシステム、サービスの優位性をいかに理解してもらうかがポイントのようだ。ISAOは、ISAOという企業ブランド、そして「Ch@b(ちゃぶ)」のサービスブランド確立を目論んでいる。したがってこれから展開される広告プロモーションは、先の女性向け広告を含め、大きな話題を呼びものになりそうだ。

 

●ISAOから、起業家たちへのメッセージ

 「インターネット事業をみなさんと水平分業していきたいんですよ」高倉氏は終始にこやかにインタビューに応じてくれた。本当に我々とコミュニュケーションを分かち合うことが楽しくて仕方がないといった風情だ。

 「みんなで“楽しいインターネット”を作っていきたいのです。そのために必要ならば投資も行ないます。私たちはそういった会社をパートナーと位置づけています。決して経営的に支配するような事は考えていません

 実際に、同社はこのような趣旨で数社に出資している。それぞれ、コンテンツパートナー、テクノロジーパートナー、そしてコミュニケーションパートナーと分類しサービスの充実を図ろうとしている。

 最後に高倉氏はこう語った。「さらにパートナーを鋭意募集中です。“楽しいインターネット”を実現しましょう

(2000/3/23)

[Reported by FrontLine.JP /コンサルティングチーム]


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