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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第6回:携帯電話と連動したオンラインコミュニティの提供サービス
――大々的な宣伝活動の後、真価が問われる、ジェイサイド・ドット・コム

http://www.jside.com/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


久保田氏
久保田氏(中央)と社員の方々

 チャット、BBSをはじめとした「オンラインコミュニティ」の提供は、効果的なマーケティングの一手法として認められており、各ポータルサイトやECサイトなどでは、見込み顧客獲得や顧客ロイヤリティーの向上に効果を上げているケースも増えている。しかし、これらは既に相当数の利用者を確保しているポータルや、物販という明確な収益モデルをもったECサイトにおける付加サービス的なコミュニティ活用の事例である。

 株式会社ジェイサイド・ドット・コム(本社:東京都千代田区、齋藤正秀社長)は、コミュニティサイト「Jside.com」の企画・運営を主たる事業として1999年6月に設立された。前述の成功事例とは異なり、コミュニティ自体で収益の上がるビジネスとして成立させることは非常に困難である。さらに総合コミュニティサイトの運営という意味でもジェイサイド・ドット・コムは後発であり、先行他社よりも会員獲得・サービス基盤の確立においてもハンデを負う。  このような状況の中、どんな勝算があってコミュニティサイトの企画運営サービスの市場に乗り出したのか。社名の知名度と比較して、事業内容/戦略がいまひとつわかっていない「ジェイサイド・ドット・コム」の実状と課題、そして将来のビジョンについて、プロデューサーの清水氏、サブマネージャーの久保田氏に話を聞いた。

 

●設立の経緯とサービス

 株式会社光通信の100%出資子会社であるジェイサイド・ドット・コムは、光通信グループのグループシナジーを最大限に発揮しつつ、新たに展開できるネットビジネスを模索した結果、「コミュニケーションの演出」というコンセプトのもと設立された。設立当時のプレスリリースでは、光通信グループ内の携帯電話端末ショップ「HITSHOP」で扱うインターネット接続端末に「Jside.com」を利用できる設定をするなどの戦略を打ち出しており、初年度で300万人の会員獲得を見込んでいた。サービスについては、会員をベースに、フリーマーケットなどのオンラインストア事業、電子商取引事業の展開、企業向けコミュニティ機能の提供などによる収益を計画していたが、現在のところそれらのサービス提供を開始する動きは見られない。現状で、掲示板やチャット、グループで利用できるスケジュールやメッセージングサービスなどの提供がメインである。

 

●マス戦略の効果

 同社では、認知度の向上を狙い、大橋巨泉氏を起用したインパクトの強いテレビCMをはじめとした大々的な広告キャンペーンを展開した。マス媒体への露出度だけを見ても、設立直後のベンチャー企業としては異例とも言える宣伝費を投下しており、一躍「ジェイサイド・ドット・コム」の名前を全国区のものとしたが、サービス内容に関わるメッセージ性が弱かったことは否めない。

 「テレビCMによる反響は大きく、会員獲得にも貢献しています。大橋巨泉氏がCMをしている会社、といった印象しか残っていない方もいたようですが、全く無名であった当社の認知度をあれだけ高めた、という意味では評価できると考えています」(久保田氏)

 「社内でも、広告費の使い方に関しては賛否両論だった。いまだに『ジェイサイドって何をしているんですか?』と質問されることがあるのは、大いに反省すべき。最初のお金(広告費)の使い方が下手だったのはその大きな一因であり、真摯に受け止めている」(清水氏)

 大規模のキャンペーンを打ったものの、唯一の有形経営資源ともいえる「Jside.com」サイトへのユーザー誘導、収入源としてのスポンサー誘致の効果がどの程度あったのかなど、対費用効果という観点では今後の再議論の余地があるようである。

 

●「デバイスフリー」への戦略的取り組み

コンテンツ画面 当初、初年度で300万人を見込んでいた会員の状況は、設立からほぼ1年の2000年5月現在で約40万人と、目標から大きく乖離した結果となっている。 「会員数は2000年12月末で100万人超を見込んでおり、初年度の目標としていた300万人は来年の終わり(2001年12月末)に達成できると考えています」(清水氏)

 若干トーンダウンはしたものの、「@nifty」の会員数に匹敵する300万会員という数字を2年で達成しようという見通しが強気であることに変わりはない。その強気な読みの背景には、携帯電話をはじめとするIPベースの非PC端末マーケット拡大の市場予測と、それに基づいたジェイサイド・ドット・コムの「デバイスフリー」への戦略的取り組み、そして、非PC端末とジェイサイド・ドット・コムが提供するコミュニティサービスとの親和性の高さに対する確信があるという。

 「近い将来、様々な機器にIPが組み込まれるようになり、PCユーザー・ノンPCユーザーという区別の仕方自体が無意味になる。我々はそれを見据えて、現状のサービスを考え得る全てのデバイスに対応させる」(清水氏)

 また、チャットや掲示板といったサービスのコミュニケーションの場としての価値と、そこでなされる発言の情報価値はデバイスに左右されない普遍性を持っているとして、コミュニティと非PC端末との親和性の高さを指摘している。

●個人にフォーカスしたビジネス

 ここまでに紹介した広告戦略、デバイスフリー戦略はいずれも集客のためのアプローチである。無料でサービスを提供するサイトにとって、登録会員数がその価値を表すひとつの大きな指標となるが、当然の事ながら会員を集めただけでは収益はあがらない。

 そこで現在ジェイサイド・ドット・コムでは、既存のデータベースを再構築し「個人にフォーカスしたビジネス」と位置付けた新たな事業展開を考えている。具体的には、会員の趣味・嗜好、行動様式をユーザーが置かれている状況ごとに分析し、個人の持つ複数の面、それぞれのニーズに対するマーケティングを可能にするというものである。分析のためのエンジンは今夏にも完成するとのこと。

 「ユーザーの嗜好、求めるモノはその人が1人でいるか、会社にいるか、友人といるか、といったシーンによって異なってくる。これら個人のもつ複数の『顔』を分析することで、より細かいマーケティングが可能になる」(清水氏)

 個人情報を一歩掘り下げることでより効果的なオプトイン型の広告の配信が可能になる、といった対スポンサー企業へのアピールはもちろん、これらのデータをマイニングする事でユーザー自身が意識していない新しいニーズを発掘し、会員向けの提案型マーケティングという新しい分野の開拓を視野に入れているという。また、個人の潜在ニーズを顕在化させることで、企業に魅力のある新しいカテゴリーのコミュニティを創出し、商品開発などの提案を持ち込み、スポンサー獲得へ繋げるなどの展開も考えているという。

 これらの構想を可能にするためには、分析のためのDB設計、ロジックの確立もさることながら、データ蓄積のためにサイト上でのユーザーの活発なアクションをおこしてもらうことが第一歩となる。

 「現在は、新サービス『ポケットページ』の稼働により、会員数が40万人、PVは一日平均100万PVとなっている。今後、アクティブ率をさらに向上させることが今後の課題になる」(清水氏)

 また、現存のコミュニティを支えている一部のパワーユーザーは、何もしなくても自らアクションをおこしてくれるが、今後は、それ以外のユーザーの参加を促す仕掛けを作り、敷居を低くするサービスの追加に注力していくとのことである。

 

●新サービス「ポケットページ」の展開

ポケペ そのアクティブ率向上施策の一環として、2000年5月8日より開始した新しいモバイルサービスが前述の「ポケットページ(愛称:ぽけぺ)」である。Jside.com上にインターネット対応携帯電話で利用できるオリジナルのホームページが持てるというサービスで、基本属性の入力や、カテゴリキーワード(友達募集、飲み仲間募集など)、現在位置を知らせる「今ここ情報」などの仲間探しの検索キーとなる付加情報に加え、携帯電話の着信履歴にあたる「来た人リスト」などを活用することで、ユーザー間のコミュニケーションを促進する。こうした各々の「ポケットページ」の間を回遊させる仕掛けもあってか、サービス開始1週間で登録者が1万人を越えたという。

 しかし、確かに新しいコンセプトのコミュニティとしては注目に値するものの、ポケットページ単体では入会できず、通常のJside.comの会員とならなくてはならない点には疑問が残る。ポケットページのコンセプトが斬新であればあるほど、従来型のコミュニティである既存のJside.comとの組み合わせに対する違和感は大きなものとなる。全く別の器ともいえる両者を組み合わせるメリットも見えてこず、両サービス間の戦略的位置付け、ポジショニングも非常にわかりづらい。

 「スケジューラーやBBSといった既存のサービスをポケットページから利用することができることはユーザーにとってのメリット」(久保田氏)との弁も、既存のパワーユーザーをターゲットとしたサービスならともかく、アクティブ率の向上と新規会員獲得を目的としたサービスと言うことを考えると説得力に欠ける。一方で、「ポケットページ用に新しいドメインを取得してサービス展開することも考えたが、とりあえず現在の形を取った。今後の状況によっては別サービスとしての展開もありうる」(清水氏)と路線変更の可能性も示唆している。いずれにせよ、ポケットページが市場でどのように受け入れられていくかが、今後のジェイサイド・ドット・コムを占う大きなポイントとなる。

 

●Jside.comの目指すところ〜「マイファーストインターネット」

 300万会員獲得という大きな目標を掲げるジェイサイド・ドット・コムが目指しているのは、ユーザーのはじめてのインターネット体験を提供することである。

 「インターネット未体験者にとって、Jside.comが『マイファーストインターネット』となるような、電話や手紙のようにコミュニケーション手段の一つとして自然に使えるサービスを提供していければと考えています」(清水氏)

 また、清水氏は、「Jside.comでは、人にあたたかい『コミュニケーションの場』を演出したいと思っている。個人が力を持つインターネットの本質はこのような場でこそ発揮され、コミュニケーションの場は、『欲しいモノを作り出す場』にもなりうる」と語っている。このような「場」をユーザーに提供することで、Jside.com内のコミュニティから世の中のトレンドが生み出されることになれば、そこに価値が生まれる。トレンドや個人消費者の代表であるユーザーのニーズを一番最初にキャッチできる立場になれれば、主導的な立場でマーケットを創出する事ができ、ビジネス面から見てもそのメリットは計り知れない。

 

●不真面目なことを真面目にやる

オフィスの様子
オフィスの様子

 設立当初のテレビCMキャンペーンの強烈なイメージもあってか、ジェイサイド・ドット・コムには不真面目な印象がある。ポケットページのキャンペーンでも「純金巨泉」なる重さ1kgの大橋巨泉氏の純金像をプレゼント用に作るなど、実の伴わない単なる受け狙いの集団とも思われかねないことをやってのけた。

 「表面は不真面目なことをやっているけれども、それを実現するための仕組み作りや個人情報の管理など、ユーザーサービス、社会的責任に関わる部分には真剣に取り組んでいる。最初から“不真面目”のレッテルを貼られると、何か問題を起こすと『だからジェイサイドは…』と一度で信頼を失ってしまう。それをポジティブなプレッシャーとして捉えるようにしている」(清水氏)

 個人情報に関しては、社外漏洩防止対策はもとより、社内に対しても二重三重のセキュリティを施したシステムを採用しているという。また、有害発言や有害ページに対しても、基本的にはユーザーモラルによる自然解決に期待しつつも、必要に応じて調整、削除といった管理を地道に行なっている。

 「コミュニティの運営はリアルな世界の接客に近い。パワーをかけるべきところにはきちんとリソースを投下することが大切」(清水氏)

 この意識が社内で完全に共有できているのであれば、サービス面で信頼を失うような事態を招く可能性は低くなるのだろう。

●「世の中に何を残せるか」という高い志を

 清水氏は「これから起業を考えるのであれば、IPOで一攫千金だとか、有名人になりたいとかいう低い次元の動機ではなく、自分が世の中に何を残せるのかという高い志をもって欲しい」と、芸能界的な盛り上がりをみせるネットベンチャーの風潮に苦言を呈する。

 また、すでにプランがあるのであればできる限り早くはじめた方が良いとのエールを送る一方で、「ネットビジネスというと何か特別なモノのように思う人もいるようだが、悪いものは淘汰されると言う市場原理は同じ。ネットビジネスという言葉に踊らされず、当たり前のことを当たり前にやる、ということを常に意識して欲しい」とのアドバイスも付け加えた。

(2000/5/25)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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