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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第9回:カスタマーサポートを専門に提供
――アナログな手法でカスタマーサポートを提供、 キューアンドエー

http://www.q-a.co.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


 EC市場が一足早く立ち上がった米国で、また、本格的なEC市場が立ち上がりつつある日本で、競争のカギとなりつつあるのが、顧客と企業を結ぶ「CRM(Customer Relationship Management)」である。当初、実店舗よりも低価格で提供されることが集客の原動力となっていたオンラインショップも、現在では、顧客とのリレーションシップを築くことで顧客を囲い込む手法が重視されている。特にCRMの中でもカスタマーサポートは、顧客のニーズを吸い上げるチャネルとして各社ともサービスの拡充に怠りない。大規模コールセンターとの提携やメールレスポンスのスピード合戦、24時間対応のサポートサービスなど、さまざまな試みが展開されている。

 しかし、ECがより多くの人に浸透するためには、サポートサービスはまだまだ「これ」という決め手に欠けるというのが現状であろう。そんな中で、従来のインターネットのサポートサービスとは異なる新しい発想をもって日本で展開しているカスタマーサポート事業者が株式会社キューアンドエー(Q&A:渋谷区 須田代表取締役社長)である。

 

●カスタマーサポート専門会社設立のきっかけ

須田代表取締役社長
須田代表取締役社長

 1994年ごろにインターネットプロバイダーに勤務していた須田氏は、広告宣伝やマーケティング部門とサポート事業部部門の責任者を務めていた。そこで気になったのは、バリバリ働いている営業や企画などのセクションに比べ、社内サポート部門は「暗い」というイメージがあったことだった。サポート業務だけに他部門のクレーム処理係になりがちで、一生懸命がんばっているのに、ややもすると「評価されない」「日陰の部署」のような被害者意識が部内を覆っていたという。

 しかし、須田氏は「カスタマーサポートとは顧客にサービスを提供する重要なフロントである。この人たちを主役としてもっとスポットライトを当てたビジネスをするべきだ」と考えていた。一方、そのプロバイダーではカスタマーサポートを外注することも考えられていたが、1994~95年当時はネットワークを理解している技術系のカスタマーサポート専門会社が存在しなかった。そこに着目して須田氏はサポート専門の会社を立ち上げようと発想し、1997年7月に「インターネット時代の新しい接客業」というコンセプトをもってQ&Aを設立した。

 

●カスタマーサポートは接客業

 「インターネット時代の新しい接客業」とのコンセプト通り、Q&Aのカスタマーサポートはデジタルで可能なかぎり効率化しながら生の人間がサービスするという原点のアナログさを大事にしている。彼らの考えでは、カスタマーサポートは「解決」サービスであると同時に、あくまで「接客」サービス。気持ちよく受け止めてもらおうという対応や相手をよく見た適切な対応を重視している。「人に対する優しさを提供するサービスのプロ集団」と須田氏は形容する。

 

●ユニークなカスタマーサポートサービス

 そのようなQ&Aのサービスに支えられているのは、大手ISP、CATV、ソフトウェアベンダー、SI会社、Linux製品などの事業者である。現在は主にこれらの事業者から受注するテクニカルサポート業務がメイン収益となっている。大規模コールセンターなどと異なり、独自のノウハウと少数精鋭で行なっているサービスの内容は興味深い。

 例えば、大手ISP向けに提供しているオンラインのカスタマーサポートでは、女の子キャラクターをインターフェイスとして採用しサービスを提供している。女の子のキャラクターインターフェイスを複数のスタッフで共同で受け持ち、インターネットをナビゲートしている。

 従来のカスタマーサポートの教育理念ならば「お客様に失礼がない」丁寧語表現と情報の正確さが重要視されたが、ここではフレンドリーな会話調でやりとりが進み、不確かな情報でも不確かと伝えられればOKというスタンスが取られている。これは、カスタマーサポートが「解決サービス」であると同時に、「接客サービス」だと考えるQ&Aならではのサポートといえよう。

 須田氏曰く「楽しくなければカスタマーサポートではない」のだ。このサービスは会員をつなぎ止める有効手段として続いている。ISPの場合、最初の3カ月で会員にロイヤリティを植え付けることができれば、その後も長く継続利用されると言われている。「ナビゲーションサービス」効果によってネットの利用度に大きな違いが出たと報告されている。

 また、別のISPで提供している3次元コミュニケーションサービスでは、Q&Aのスタッフが動かすキャラクターが3次元空間内を巡回し、町の噂を拾ったり、初心者をヘルプしたりしてサポートを行なっている。自分専用のキャラクターでコミュニケーションができるこの3次元空間は、「共同体」だけにデマや詐欺、攻撃が発生する場合もあるが、そこをサポートキャラクターが「火消し」的役割で共同体内をパトロールしているのだ。このサポートを行なっているのは20代後半の女性である。彼女たちがこのサポートに向いている訳は、「普通の人と同じ感覚を持ち合わせている」からと須田氏は考える。コミュニケーションがアンバランスになりがちなサイバー空間にあって、リアルのコミュニケーションと同じ常識と思いやりを持って対応できるところが彼女たちの強みなのだ。これは「素人感覚が受ける」という次元とは異なっている。

 その他Q&Aではショッピングモールの総合案内窓口など、「接客」を重視したサービスを提供している。しかし、このように生身の人間が感じられるサービスを行なうと、嫌がらせなどが心配される。

 「ユーザーとのリレーションシップが築かれており、サービスの満足度も高いため、そのような心配は非常に少ないです」(須田氏)

 クレーム率は全体の問い合わせの約0.1%程度に止まり、業界平均の数10分の1の数字だという。また、特徴的なのが、サンキューコールが多い点である。全メール・コールの10%以上を占め、中には感謝の印に米俵を一俵送って来たユーザーがいるそうだ。女の子キャラクターとの「おしゃべり」が高じて、スタッフを突き止めようとする熱心なユーザーも稀にいるが、ほとんどのユーザーは正体よりもそのキャラと楽しむことを重要視している。

 

●サービス品質の維持と向上

サポートスタッフの方々
サポートスタッフの方々

 ここまで「アナログ」を重視すれば、当然サービス品質の維持やノウハウの共有などのマネージメントが難しくなってくる。通常、問い合わせに対する返答は過去のやりとりの履歴やFAQを参照したり、複数のスタッフの意見を参考にしながら対応している。返答のタイミングはメールの場合は基本的に1日数回、まとめて送信している。早さを競うカスタマーサポートがもてはやされる中で、速さよりも対応品質のにまず重点を置いている。

 例えば、顧客企業側の指示や調査待ちのためにリプライに3日なってかかってしまう問い合わせがあった場合、受託企業側としては顧客に途中段階でどのような対応をしておくべきか? その場その場でのプロとして適切で迅速な判断が要求される。「“指示されたことだけをやります”という姿勢では、接客業のプロとは言えない」  また、サポートの対応時間帯は10:00~18:30の日中を中心に設定している。電話対応が含まれる業務の場合には対応時間を幅広く設定しているが、メールで主に対応(全受付件数の7割がメール)することで、少ない人員でサポートを切り盛りしている。

 さらに、この方法でのサービス品質の維持を突き詰めると、最終的には「人」の質の確保に行き着く。人材採用には非常にこだわっており、対面の面接を重視し、自分のPRやクレームに対応できるか見るためのイジワル質問などを面接で行なうという。ペーパーテストや学歴ではなく、面接重視で「我々が目指すサポートに向いている資質の人を探す」そうだ。また、採用に関しては前職は問わない。ツアーコンダクターなど接客業を経験した人を積極的に採用している。また、こなす件数のノルマもあるが、あくまでサービスの質にこだわるコンパクトな少数集団を今後も維持していくことで、組織の求心力を保っている。その成果があってか、3年間で80人を採用したうち、現在は50人が定着している。一般的にサポート業界では3年で人員が入れ替わるというから、Q&Aの定着率は非常に高いといえる。

 だが、属人的なノウハウの蓄積やクオリティチェックには限界があるだろう。それに対しては、「SLA(Service Level Agreement)」の導入が準備されている。SLAとは米国で開発されたサービス品質保証契約で、顧客信頼性・満足度低下など顧客に対するサービスの低下を防ぐための基準を提起するものだ。過去に日本のサポート業界では米国の資格・ノウハウを何度も導入しようとしたが失敗してきた。しかし、ECが普及し始めた今、ネット関連のカスタマーサポートに関してはそろそろ導入されても良い段階にあると須田氏は睨んでいる。

 また、Q&Aのサービス品質は実はカスタマーサポート部門だけで成り立っている訳ではない。Q&A社内はサポート、営業、メディア制作の3部門に分かれている。特にメディア制作部門はサポートメールの履歴のデータベースなど、サポートサービスのためのアプリケーション開発を行なっている。業務の省力化、効率化、ノウハウの蓄積などを、このような「デジタル」のアプリケーションがギリギリまで支援することで、「アナログ」なサポートのクオリティを保つことが初めて可能となるのだ。

 

●CLUB Q&A 「アナログ」なサポートの需要

CLUB Q&A クライアントのサポートサービスでQ&Aが蓄積したノウハウを今度は自社ビジネスとしても活用していく戦略から2000年の4月に「クラブ Q&A」サービスが開始された。クラブ Q&Aとは、メールや電話を使ってインターネット初心者をサポートする有料会員制サービスである。OSやアプリケーションの基本的な操作方法から、プロバイダーへの接続やメールソフト、WWWブラウザーの設定など、「インターネットの壁を越えるきっかけ」を提供している。

 プロバイダーのカスタマーサポートと異なり、有料会員制を採用するかわりに、より細かいサービスを提供する。ここでは、横河電機と丸紅の合弁会社でPCの出張セットアップサービスを行なっている横河マルチメディア社と提携し、出張サービスにクラブQ&Aがバンドルされている。開始2ヶ月の時点で900人の会員を獲得し、ユーザーは2:1の比率で男性と女性が加入しているという。年齢層は、男性は50代をピークとする30代~60代で、女性は若い層が多い。まさに、インターネットの初心者層と重なっており、この層における「アナログ」サービスの需要が高いことが伺える。

 

●今後は販売力も強化

 サポート業務の実績を持ち、固定のクライアントを抱える同社は、さらに自立的なビジネスとしてクラブ Q&Aを開始した。創業2年目には単年度黒字を計上し、ネット系ベンチャー企業としては堅実なビジネスだが、会社としてはまだまだ悩みを抱える。

 現在、最も課題としているのは、販売力の強化である。今までは、案件が来たら企画提案して受注するという営業スタンスだったが、これからは販売戦略を持って営業していく考えだ。戦略上必要と考えられる企業とは積極的に業務提携を行なっていく方針で、すでにクラブ Q&Aで業務提携している横河マルチメディアとは資本を入れる形で資本的な提携も結んでいる。また、大手コールセンターとは顧客企業と人員の提供を受ける形で提携が進められているという。

 

●カスタマーサポートの可能性

 Q&Aのビジネスの良い部分について須田氏はこう語る。

 「技術の発展は日進月歩ですが、その中でおいてけぼりになっている人の人間性を否定せずに、その人々をヘルプする仕事をやりたいと思い、かつそこにビジネスチャンスがあると思っていました。初心者というものはどの時代になっても必ず存在するし、また最新の情報を必要としている訳ではないんです。だからヘルプする側としても最先端を勉強し続けなくてもいいという気楽さがあります。インターネット最前線な人でなくても、ネットの仕事に携われるんです。その中で何が要となるかといえば、システムや情報ではなく、人間対人間の関係です。Q&Aでは、インターネットのデジタルなシステムを最大限に活用しつつ、サービスではアナログさを大切にし顧客満足の行くサービスを提供したいと考えています

 世界でもトップレベルの接客クオリティを有する日本のリアルの接客ノウハウやリソースをどんどんインターネットの世界へ応用すれば、Q&Aだけでなく広く日本のECにおいて面白い展開が望める。従来、カスタマーサポートはオマケ的な立場にあり、予算をかけるという発想は持たれていなかったが、今後ECの競争が激しくなるに従い、質が高いサポートの需要がますます高まる。今後、Q&Aのようにユニークな切り口を持つカスタマーサポート事業者も多数出て来るであろう。

(2000/7/6)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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