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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第15回:総合ウェブコンサルティング
――コミュニケーションをデザイン、ニューロマジック・アクシスデザイン

http://www.neuromagic-axisdesign.com/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


 

 最近の日本のeビジネスでは、単にウェブサイト構築に終止するのではなく、戦略的なインターネット活用が競争力をつける要件と考えられ始めている。米国では既に戦略的インターネット活用をサポートする“web-integrator”と呼ばれるプロフェッショナルプレイヤーが数多く活躍している。

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左から田中氏、宮崎氏

 Web-integratorとは、「ストラテジー」(=戦略立案・ビジネスモデル構築)、 「デザイン」(=インフォメーションデザイン、インターフェイス開発)、「テクノロジー」(=システム設計、技術開発)の3要素をを密接に連携させて、コンセプト作りから、実際の構築・運用、評価までをトータルに支援する総合ウェブコンサルティングである。米国ではRazorfish、iXLなどの企業が、Web-integratorとして確固たる地位を築いている。日本でも、ネットイヤーやメンバーズなどの同業態の企業が「SIPS(Strategic Internet Professional Services)」の総称で呼ばれ始めるほど、企業の戦略的なインターネット活用を支援するプレイヤーが増えてきた。

 そうした流れの中、2000年8月に「ストラテジー」と「テクノロジー」に強みを持 つ株式会社ニューロマジック(中央区 黒井基晴代表取締役社長)と、「デザイン」 におけるリーディングカンパニー、株式会社アクシス(港区 武岡將之代表取締役社 長)が業務提携を発表した。ひとくちにSIPSと総称しても、その発生形態や成長形態がコンサルティング、デザイン、テクノロジーのそれぞれを指向している度合いはさまざまである。両社による共同事業体「ニューロマジック・アクシスデザイン」はどのような狙いで「ストラテジー」「デザイン」「テクノロジー」の3要素を集結させたのか、ニューロマジック社取締役副社長 の田中良直氏とアクシス社アートディレクターの宮崎光弘氏にお話を聞いた。

 

●ニューロマジック、アクシスそれぞれの歩み

・まずはそれぞれの会社の歩みと、お二人の関わり方についてお話いただけますか?

田中良直氏(ニューロマジック社取締役副社長、以下田中)
 ニューロマジックというのは、元々CD-ROM、イベント、音楽の制作からスタートし、コンサルティング会社を目指していたわけではないんです。それを象徴しているのが私の経歴ですね。

 私は7年間マッキンゼーでコンシューマーマーケティングを中心としてコンサル ティングに従事していたんですが、その後会社を辞めて商業施設の開発プロデュースをやりながら音楽専門学校に通い、ミュージシャンとしても活動してました。そんな中、私の友人でコンピューターで音楽を作っていた、黒井(基晴氏:同社社長)がニューロマジックという制作会社を1994年に立ち上げたんです。私は最初、プロジェクト単位で入っていましたが、1996年に正式に合流しました。

 今のニューロマジックはウェブサイトを中心とした企業のマーケティングプロモーション戦略立案とシステム開発の案件がメインです。1996年あたりからウェブ制作がメインの収益になって来て、「戦略的なウェブサイト」をコアに展開してきました。現在は社員も30人に増え、「ストラテジー」「プロダクション」「テクノロジー」の3要素を抱えています。例えばドコモのiモードのリリースプロモーションではトータルにイベントの仕切から映像、音楽まで手がけました。ストラテジーの能力は高めていく考えですが、「クリエイティブ屋」みたいな魂は必ず持ち続けて行きたいですね。

アクシスビル
アクシスビル外観

宮崎光弘氏(アクシス社アートディレクター、以下宮崎):
 アクシスは現在さまざまな媒体やシーンのデザイン開発を行なっていますが、その根底にあるものは六本木のアクシスビルが表わしています。ビルが出来た1981年当時、109やパルコなどのファッションビルはでき始めていましたが、まだ生活一般の中でデザインの位置付けは低かったんです。アクシスビルは「living with design―デザインで生活を豊かにしよう」というコンセプトから、一般の方からデザインのプロまで利用できることを理想に作られました。上の階はプロのためにレンタルフォトスタジオやギャラリーが、下の階は一般向けに家具や雑貨のショップが入っています。なぜ家具か というと、モードがあるアパレルと違ってサイクルが長いですよね。そのように生活に結びつき、「フローではなくストックなデザイン」を目指したいというところから来ているんです。

 もう一つアクシスのベースとなっているのが隔月刊誌の「AXIS」です。15年前から始めたこの雑誌はバイリンガルで編集され、デザインのプロや海外美術館で多く読まれています。デザイナーも編集作業に深く関わっているので、建築、グラフィック、空間デザインなど、カバーしている分野は幅広いです。どうしても1つの分野に特化してしまうデザインというものに、横断的な視野を与える良い力になっています。アクシスがさまざまな媒体、分野のデザインが可能なのも、こういうベースがあるからですね。

 私がアクシスに入ったのも、雑誌の「AXIS」からです。アクシスのクライアント ビジネスもこの頃からなんです。AXISに掲載する広告を雑誌に合わせて社内で制作 してたところ、他の媒体の広告も作って欲しいという要望が来たのが始まりです。 現在はAXISのエディトリアルデザインのメンバーが、ウェブを中心にしたコミュニケーションデザインも行っています。

・二次元の紙媒体でやっていたメンバーにとって、三次元的なウェブのデザインというのはチャレンジングではなかったですか?

宮崎:
 それは紙をどういう立場でやっていたかによりますね。エディトリアルデザインという形で考えると、紙にも重層的な構造というものがあるんです。AXISはそういう部分に気を付けてきた雑誌なので、ウェブの特性も早くから捉えていました。逆にインタラクティブデザイン、情報デザインに早くから興味を持っていたので、それが今のビジネスのコアになってます。会社設立10周年には、ウェブデザインに大きな影響を与えている情報建築家のRichard Saul Wurmanと一緒に展覧会を行ない、「情報をデザインするとはどういうことか?」について盛り上がりました。 「Info Design」という言葉はアクシスが作ったようなものなんですよ。

 

●お互いに対するリスペクトによって築かれた協力関係


ニューロマジックとアクシスが出会ったのはどういう経緯なんですか?

田中:
  98年ごろからプロジェクトベースで共同の仕事をする機会が多かったんです。ニューロマジックがプラニングとシステム、アクシスがインターフェイスデザインという形で協業していました。まずニューロマジックが戦略的にどういう構造にするかプランニングし、システムの設計を行なっていました。

 その後、アクシスがインターフェイスデザインからHTMLのコーディングまで行ない、最後にニューロマジックがシステム構築でまた一緒になるという流れです。よくあるコンサルみたいに最初だけいてバイバイじゃなくて、最初から最後までベタな現場で一緒にやれたのが良かったですね。

・宮崎さんの方はニューロマジックをどう思いましたか?

宮崎:
 なんか分かんないけどすごい人たちがいるって思いました(笑)。というのは、当時アクシスでは、ウェブデザインを行なう中で、デザインだけでなくその裏側のテクノロジーも分からなければいけないという問題意識があったんです。当時から「ユーザーの経験をデザインする」ことに注目をしていて、それは見た目だけの問題ではないとは分かっていたので、そういう部分を一緒に作れる人たちだなぁという風に感じました。

・お互いに対する尊敬があったからうまくいったと。

田中:
  ただこのパーツとこのパーツを持って来て業務提携しましょう、というのは難 しいと思うんです。僕は個人的にも昔からアクシスのファンで、20代のころ良くこのビルに来ていました(笑)。もちろん、ファンであっても実際に仕事をしてみると合わないということもありますが、このケースに関しては非常にスムーズに関係が築けました。

・テクノロジーのスタッフとのコミュニケーションやカルチャーの違いには問題はなかったですか?

宮崎:
 話をするのに問題がある「テクノロジーの人」もいると思いますが、彼らは非 常に分かりやすく説明をしてくれましたね。

田中:
  一つには、僕らの側もテクノロジー、ストラテジーだけでなくデザインに対する視野を志向しているからだと思います。僕はマッキンゼーでストラテジープランニングにずっと携わって来ましたが、ストラテジーが世の中で最も上位だとは思っていないんですね。「デザイナーは黙ってろ」っていうのは絶対ない。そういうスタンスがうまく働いているのではないですか。

・業務提携されて何か変化はありましたか?

田中:
  最近になって大きく変わったということはないですよね。

宮崎:
  '98年ごろからかなりの数のプロジェクトを一緒にこなしてきたので、自然に融合してきたって感じです。

・比較的デザイン的なプロジェクトが多いようですが。

宮崎:表から見えない裏側のシステム部分も結構やってますよ。

田中:
  例えばCITIBANKは、バンキングの部分ではないのですが、ユーザー側、管理者側両方のシステムとインターフェイスを手がけています。こういうところのシステムでは、クライアント側に昔ながらのシステム開発の人々がいて、最初は「フン」って反応なんですが、相手の人が安心するまで技術の話を詰めていくことで、 評価いただいています。

・ウェブ系のシステムとそのような汎用機系のシステムというとかなり違うと思うのですが、技術者の方はかなり経験が長い方が多いのですか?

田中:
  平均年齢は20代ですが、経験が豊富なコアメンバーが何人かいます。ウェブの 世界にたまにありますが、そういうスーパーな人間が一人で集中的にスクラッチから作り上げてしまうというのが現状です。一方で、パッケージやこれまでの資産など利用できるものは使うつもりで、スクラッチにこだわるわけでもありません。ただ、プロデュースをする時に、パッケージに当てはめてものを考えてしまうと、コンテンツがつまらなくなってしまうので、ストラテジーを考えるときとコンテンツを考えるときは切り離すようにはしています。それが可能なのはやはりスクラッチから作れる強みがあるからですね。

 

●デザイン=「サービス」「問題解決」

・デザイン部分での強みというのはどのような部分なんですか?

 

ショップ
アクシスビル1階のショップLIVING MOTIF

宮崎:
  今出てきているウェブプロダクションは最初からウェブを目的にデザインしています。私たちは紙媒体で長くやってきた経験があることから、エディトリアルデザインという観点で、ウェブも紙もデザインできるという強みがあります。スタッフも両方できますね。私は多摩美術大学の上野毛校で講師をしているんですが、そこでエディトリアル・デザイン、インフォメーション・デザイン両方を教えています。スタッフにはその卒業生も多いんですよ。

田中:
  アクシスのデザインというのはスマート(知的)なんです。それは単にかっこ いいということではなくて、よく考えられているんです。

宮崎:
  それはアクシスがエディトリアルデザインを通して世界のデザインに通じているからでしょうね。日本のデザインの根本的な問題点として、デザインとファインアートをはき違えているという点があります。デザインというのは「問題解決」、 ないしは「サービス」なんです。日本のデザイン教育はその点を認識していないため、教えられる側も問題解決の意識が欠けていますね。例えばアメリカで若い少人数のウェブデザイナーが企業に対してプレゼンテーションをするとき、稚拙ではあっても、企業にとっての問題解決をデザイン的なアプローチからするので、何かしら企業が傾聴に値する視点が含まれているのです。日本の若いウェブデザイナーには「自分にとってとりあえずかっこいいものを作りたい」という傾向が強い。アクシスのデザイナーはAXISを通してそういった問題解決としてのデザインの情報に常に触れているということが強みになっていると思います。

 また、ニューロマジック・アクシスデザインになってからの強みとしては、勉強会を定期的に開いていることですね。これは例えば田中さんがアクシスのデザイナーに対して「Amazon.comってなんなの?」という勉強会を3週に渡ってやるといったものです。今まで何となくしか分かっていなかったことが深堀りされ、事業の構造とそれに対するデザインの必然性がデザイナーにも良く見えてくるのです。これが次のデザインに活かされています。

●ニューロマジック・アクシスデザインが見る将来のコミュニケーションデザイン

・今後のビジネスの話を伺いたいんですが、デバイスが多様化していく中で、ニューロマジック・アクシスデザインとしてはこういう部分はやっていこうというのはありますか?

宮崎:
  コミュニケーションをデザインするという部分にコアを置いているので、デバイスの多様化にはこだわっていないです。今でもPCだけをやっているわけではなくて、プロダクトデザインや紙、MMK(マルチメディア端末)、BS画面の設計など幅広くやっています。逆にみんなが死んでいると思っているCD-ROMでやることもあるかもしれない。企業がCRMという形で消費者を捕まえようとしている関係を、複数の端末でどうデザインしていくか、それをどう最適化していくかというのがコミュニケーションデザインをする我々の仕事です。

 例えばBSデジタルで、PCと同じ画面デザインでインタラクションと言っても操作 がリモコンなんで全然違うじゃないですか。それに時間の流れ方にしても、ユーザーが任意に使える時間の中でインタラクションを行なうのと、1時間番組に強引にコンテンツを入れ込むのとでは大きく異なります。さらにBluetoothが絡むと、 非常に有機的につながるコンテンツになり、裏側のシステムでそれにどうやって対応させていくか、やることが非常にたくさんありますね(笑)。

田中:
  あと、ブロードバンド化によって動画が大きく変わって、企業のプロモーショ ンの考え方なども変化すると思います。PCで作って流す動画だけではなくなってきます。VTRで撮影して一気に流すのとコンピューターで作った動画とでは全然印象 が違いますし。

 

●ビジョンは拡大よりもマスターピース

・今はそれぞれ別の事業体となっていますが?

田中:
  将来的に統合は考えています。顧客の要望に対してもっと密にやりたいということと、対外的に強みをアピールして業界の動向に対し競争力を高める狙いです。手続き上難しい部分があるので、まずは一つのブランドとしてニューロマジック・ アクシスをリリースしてます。

・今までクリエイションということにこだわった話を伺って来ましたが、会社が拡大したときにそのこだわりをどのように保つお考えですか?

sitting田中:
  建築市場と同じで、大手ゼネコンになるつもりはないけれど、かといって町中の小さな建築事務所で終わるつもりもない。やっぱり都庁のようなマスターピースを作りたいです。マンション100個作るつもりはない。

宮崎:
  僕は小さい方がいい(笑)。でもそれをやるのに優秀な人がなかなかいないですね。

田中:
  そうですね。今、コンサルティングができる人を探しているんですが、クリエイションの部分で価値観が共有できて、かつ優秀な人って本当に少ないですよね。今の若いコンサルタントっていいポジションとってストックオプションをもらうことばかり狙っている(笑)。

・日本でもアメリカでも、競合と考えられているところはありますか?

田中:
  自分たちがやりたいことをやるというのは、自分たちのやりたいことに自信を持って、クライアントにとっても自分たちにとっても確実に納得のいくクオリティのものを作るというのがベースです。ただ、日本のウェブプロダクションを並べた時にクライアントから見てニューロマジック・アクシスデザインとしての価値観や個性が伝わっているのかというと疑問もあるので、今後は並べられたときどう見えるかという部分には気を付けたいと思っています。

 

●成功のカギは「ストラテジー」「デザイン」「テクノロジー」の3要素

 冒頭で述べた通り、「ストラテジー」「デザイン」「テクノロジー」の3要素を標 榜するSIPSと言っても、それぞれ強みとしている部分や将来のビジョンはさまざまで あることが、ニューロマジック・アクシスデザインからは伺えた。彼らは、クオリティの高い デザインやテクノロジーの力がベースにあるため、自分たちが納得するものを作り上げるという スタンスを持ち続けることができ、それが結果的にカッティングエッジで ありかつ顧客満足度の高いソリューションを実現している。それは単純な業務提携ではなく、数々のプロジェクトで培ってきた協力関係とクリエイションの追求という共通した価値観に支えられているからである。

 カルチャーや方向性はニューロマジック・アクシスデザインと異なれど、拡大路線を目指す SIPSにおいても、クライアント企業のeビジネス成功させるためには「ストラテジー」「デザイン」「テクノロジー」の3要素がお互いに尊敬し合い、同じビジョンを指向することが重要な要素であることには変わりない。

(2000/10/26)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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